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韓国政府は、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄に対する内外からの批判にさらされている。既に米国務省は3回にわたり、GSOMIA破棄がいかに無謀であるかを指摘し暗に撤回を求めている。国内からは、元外交官66人が厳しく政府の決定を批判する時局宣言を発表した。

 

『朝鮮日報』(8月28日付)は、「外交官経験者66人、『GSOMIA破棄の即時撤回を』『5200万の国民がハイジャックされた』」と題する記事を掲載した。

 

(1)「かつて、韓国統一部(省に相当)次官を務めた金錫友(キム・ソクウ)氏、ロシア駐在大使などを歴任した李在春(イ・ジェチュン)氏ら外交官経験者66人が参加する「国を愛する元外交官の集まり」はこの日、韓国政府による韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の決定について「直ちに撤回すべきだ」と主張した」

 

元外交官の目から見た文政権の「暴走」は、余りにも党利党略が激しく、国家の安全保障をないがしろにする危険な策に映っているのであろう。韓国が、北朝鮮から侵略された手痛い経験を忘れて、安全保障の輪を広げるどころか、その輪を壊すという「逆走」に陥っている。来春の総選挙に勝てる道だと錯覚した「素人判断」に囚われているのだ。

 

(2)「彼らは時局宣言を発表し、その中で「韓米日安保協力体制は形骸化し、韓米同盟の円滑な運営にも深刻な問題が避けられなくなった」「大韓民国の外交は友邦国の間で完全に孤立し、中国やロシア、これに迎合する北朝鮮にまで包囲された状態になっている」などと指摘し、現政権を「航空機ハイジャック犯人」などと批判した」

 

下線を引いた部分は深刻である。日米韓三ヶ国の安全保障の輪を、自らの「欲得」でぶち壊して「孤立」の道を選んで5200万国民を道連れにしようとしている。文政権の最終的な願望は、北朝鮮との統合である。その準備が、「GSOMIA破棄」であろう。まさに航空機ハイジャック犯人と言える行動だ。

 

『中央日報』(8月28日付)は、「GSOMIA破棄の後遺症、これ以上の状況悪化は防がなくては」と題する社説を掲げた。

 

韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄宣言の後遺症が尋常でない。韓国政府がはたしてGSOMIA破棄後の波紋を予想して対策でも立てて決定を下したのか疑わしいほどだ。「文在寅(ムン・ジェイン)政権」という表現を使って強い語調で懸念と失望を表明した米国務省が、今回は在韓米軍の安全問題まで取り上げてきた。米国務省のオータガス報道官は「GSOMIA終了は韓国防衛をさらに複雑にし米軍に対する危険を増加させかねない」との立場を示した。在韓米国大使館はこれを韓国語翻訳文とともにリツイートした。

(3)「より強力に表出された米国の不満は韓国政府が日本との対立を理由に韓日米三角協力の枠組みを揺さぶりかねないというメッセージを与えたのに伴う結果だ。高位級チャンネルを通した複数回の慰留にもかかわらず、米国が重視する協定を1日で蹴飛ばしてしまったことに対し不快感と韓国政府を同盟のパートナーとして信頼できるかに対する根本的な懐疑感が背景にあるとみなければならないだろう

 

米国がアジアの防衛拠点に、「GSOMIA」を足がかりにしていた。韓国は、その努力を足蹴にしたという怒りが米国で沸騰していることに注意すべきだ。

 

(4)「こうした懐疑が手の施しようもなく拡大すれば在韓米軍撤収を含む、北東アジア安保戦略の大幅な修正を米国が検討しないという保障はない。そうでなくても韓国自ら「アチソンライン」(注:1950年1月、米国務長官アチソンが引いた共産主義防衛ライン)の外に出て行こうとしているという声が米国の朝野から出ているところだ。このため米国が韓国に対し同盟側に確実に立てとして防衛費分担交渉とホルムズ海峡、南シナ海などの懸案に請求書を突き付ける可能性まで懸念される」

下線部分は、韓国にとって歴史的に苦い経験を思い出させる部分である。「アチソンライン」が、朝鮮戦争を誘発したと見られているからだ。アチソンラインは、日本・沖縄・フィリピン・アリューシャン列島に対する軍事侵略に米国は断固として反撃するとした「不後退防衛線(アチソンライン)」演説を示したもの。韓国は、このアチソンラインの外に位置づけられ、北朝鮮の侵略を許す糸口になったと解釈されている。その後、韓国を含めるようになった。

 

米国の度重なる韓国への警告は、暗に「アチソンライン」を持出していると思われ始めたことだ。この認識が、韓国全土に浸透した場合、文政権は「売国奴」扱いされるリスクを抱える。韓国が、北朝鮮の「餌食」にされる危険性が高まるからだ。文政権は、それを待っているのかもしれないが、「GSOMIA破棄」はそういう国家的な危険性を孕んでいる。「GSOMIA破棄」は、日本への嫌がらせの域を超えて、韓国自らの安全保障問題に跳ね返る危険性を持ち始めた。