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けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

 

米中貿易戦争の歴史意義

中国の脆弱金融システム

米アキレス腱は物価上昇

 

「トゥキュディデスの罠」という言葉があります。歴史的に見て、覇権国と新興国が衝突する事例が戦争に至ったという研究結果があります。それほど覇権争いは、世界を揺るがす大事件へ発展する危険性を秘めています。現在の米中貿易戦争は、この前哨戦であります。

 

ハーバード大学のベルファー・センターは、過去500年にわたる新興国とその挑戦を受ける覇権国との関係を示す16の事例において、12件が戦争に至ったと分析しています。戦争の起こる確率は75%ときわめて高くなります。戦争を回避できた事例でも、覇権国が国際システムやルールの改変などの大きな代償を強いられたとされます。

 

前記のベルファー・センターの研究によると、20世紀に日本が台頭した際の日露戦争や太平洋戦争もこれにあたるとしています。となると、日本は過去の歴史で二度も覇権戦争をした経験国となります。こういう表現は許されませんが、「一勝一敗」です。それだけに戦争の虚しさを痛感していると言えるでしょう。

 

米中貿易戦争の歴史意義

現在の覇権戦争は米国と中国の間で争われています。

 

中国は、建国から100年にあたる2049年までに米国を完全に追い抜く超大国となるという「マラソン」を続けています。中国は、南シナ海の他国領土を侵略して軍事基地を建設しています。明らかな軍事行動の拡大であり、米国との軍事的な覇権争いを前面に出しています。前記のような戦争になる確率75%から言えば、危険な兆候と言うべきでしょう。

 

トゥキュディデスの罠」をひもとけば、戦争を引き起こす主要な要因は「戦争が不可避である」という確信そのものとされています。米中の対立は不可避との意識が、予言の自己実現性がもたらすリスクを抱えるのです。これは、軍備の拡張がもたらす危機です。「安全保障の罠」にはまって、軍拡競争する危険性がもたらしたものです。

 

こうした米中の熱い覇権争いを、未然に防ぐ方法はあるでしょうか。それは、米国トランプ政権による対中国への「公正な貿易慣行」樹立でしょう。市場経済ルールに則った経済競争による優勝劣敗であれば、敗れた側が自国の経済ルール見直しや資源配分の変更という穏やかな手法を採用すれば良いのです。

 

ところが、中国はそういう市場経済ルールを無視して、技術窃取を平気でやる。また、補助金政策による保護主義を前面に出しています。この違法ルールで、世界覇権を2049年に握ると公然と表明し、米国との対立を深めています。こうなると、米国は黙ってやり過ごすわけにはいきません。

 

トゥキュディデスの罠」で戦争を回避できた事例でも、覇権国が国際システムやルールの改変などの大きな代償を強いられたとされています。これを、米中に当てはめるとどうなるでしょうか。米国に対して、中国流の独裁主義と計画経済を採用せよという、逆立ちしたことを求めることになり、それは不可能です。中国が、独裁主義と計画経済を捨てて民主化する以外に、米中が和解する方法はないでしょう。

 

この原則論に立ちますと、残念ながら米中和解は不可能です。次善の策は、中国が覇権への挑戦を諦めて、世界共通の倫理観に立ち戻る以外に方法はなさそうです。米国が、中国製品に高関税を掛けて、中国の経済ルール変更を迫るのは、やむを得ない措置と見るほかないのです。

 

ここで、米中対立を止めて互いに握手すべきという「常識論」は、真の危機である「2049年」の世界騒乱(戦争)まで事態を先延ばしさせるだけ。根本的な解決策にはならないでしょう。世界の自由主義と民主主義を守るためには、米国の中国に掛ける「関税戦争」が必要悪という位置づけになると思います。

(つづく)