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韓国が、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄に出た裏には、民族主義という視野狭窄症の他に、米国に対して日本の「ホワイト国除外」を撤回させる圧力を掛けさせようという狙いが込められていた。この破壊的な戦術が、成功する可能性はゼロである。民族派の考える、突拍子もない戦術に唖然とする。

 

文政権支持メディアの『ハンギョレ新聞』は、政権と一体化している点で得がたい情報源である。ハンギョレが何を報道するかで文政権の狙いが透けて見えるのだ。

 

『ハンギョレ新聞』(9月11日付)は、「GSOMIA終了の政治学」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ビョンス論説委員である。

 

(1)「安倍政権は、韓国の戦略的価値を継続的に下げてきた。日本の外交青書で、韓国は数年前までは「基本的価値を共有する隣国」だったが、今や韓日関係は「厳しい状況に直面」したとし、防衛白書では韓国の優先順位がオーストラリア、インド、ASEANに続く4番手に格下げされた。また、安倍首相の外交ブレーンに選ばれる細谷雄一・慶応大学教授は、先日マスコミへの寄稿で「日本にとって地政学的に重要なのは米国と中国であり、韓国の重要度は高くない」として、事実上韓国を無視してもかまわない国として取り扱った」

 

下線を引いた部分は事実である。日本は明治維新以来、朝鮮半島を安全保障の重要拠点として位置づけてきた。その151年に及ぶ朝鮮半島の役割は終わったと見るべきだ。新しい防衛拠点は、南シナ海における中国進出への防御である。この公海が、中国によって封鎖されたら、日本経済は大打撃を受ける。こういう地政学上の重心移動を、このコラムは気付いていない。日米が主導する「インド太平洋戦略」時代になっている。

 

(2)「日本がこのように戦略的に格別の価値もない国との安保協力をそれほど重視するというのはつじつまの合わない話だ。そのうえ、日本は輸出規制の理由として安保上の憂慮を挙げたではないか。ことによると、日本が「協定維持を望む」と繰り返し言ったのは、破綻の責任を韓国に押し付けるための名分作りではないだろうか。韓日情報協定の実際の終了は、終了通知の90日後に発効する。まだ二カ月以上残っている。日本にとって本当に協定が重要なのであれば、まだ遅くないと言いたい

 

このパラグラフは、朝鮮半島が日米防衛戦略の基軸という完全な誤解である。すでに、「インド太平洋戦略」に基軸は移っている。日本が上げた「ホワイト国除外」に関する安保上の理由は、韓国に輸出する戦略物資が、北朝鮮やイランなどへ流出する危険性の除去である。韓国が、日本の安全保障にとって不可欠という意味ではない。誤解も甚だしい。日本がGSOMIAの維持を要請したのは、日米韓三ヶ国の安保ラインの象徴という意味だ。韓国に多大なメリットのある話で、日本に恩着せがましいことを言うべきでない。

 

日本がGSOMIA維持論なのは、米国の立場を慮っているものだ。日本にGSOMIAが、絶対に必要というわけでない。日本の軍事衛星7基が、24時間体制で北朝鮮を監視している。韓国よりもはるかに軍事情報収集で上を行く。日本が、「ホワイト国除外」を放棄して、韓国のGSOMIA復帰とバーターにするはずがない。誤解も甚だしい。

 


(3)「実際、文在寅(ムン・ジェイン)政府が米国に対して「言うべきことは言う」という態度で対抗したのは前例のないことだった。政権発足以降、THAAD(高高度ミサイル防衛システム)配備反対の立場を撤回し、対北朝鮮政策も朝米関係に従属させるなど、米国との関係で一貫して慎重な態度を見せたこととは大きく異なるので、意外であった。今後の韓米関係をどのように解いていくかは、韓国政府が担わなければならない課題となった

 

下線を引いた部分は、韓国が対米外交で大博打を打った後の修復について論じている。米国の韓国に向けた怒りと不信感は大きい。

 

(4)「一部では韓米同盟が危機と主張しているが、そのように見るのは間違いだろう。同盟危機論は何度も出てきたが、顧みれば常に時期遅れのレパートリーに過ぎなかった。私たちの戦略的価値を自ら卑下する必要はない。朝鮮半島は地政学的に米国にも中国にも重要な戦略拠点にならざるをえない。同盟という理由で、意見の相違があっても「良いことは良い」として済ますばかりが能ではない」

 

このパラグラフは、大甘な認識である。韓国の地政学上の重要性を信じ、それを米国に高く売りつけようとする狡猾な戦略である。米国は、韓国に最低限の軍事力を残すとしても、韓国防衛の第一義務は、韓国軍が負うべきである。韓国の経済力でそれが可能だろうか。