a0960_006639_m
   


チョ・グク法務部長官の任命後も、韓国社会の論議は沸騰したままだ。何よりもチョ長官の娘の入試をめぐる疑惑に火がついた若者世代の憤り、そして剥奪感は大きく深い。文政権支持を鮮明にしてきた『ハンギョレ新聞』(9月12日付)の社説は、こういう書き出しである。

 

文大統領が、チョ氏を法務部長官に指名したものの、若者たちが抱く娘の入試不正への疑惑はなんら解明されないままだ。若者の正義観から言えば、法を守り正義を増進させなければならない法務部長官が、「真っ黒な疑惑」を背負っていることに対して耐えられない苦痛であろう。

 

チョ長官は、9月11日の就任後初の対外活動で、10人あまりの若者に会ったという。いわゆる「土のスプーン」(低所得家庭)出身と言える若者たちが参加した。この若者たちの多くが大学を卒業していない人たちのようだ。それ故に、親の七光りで名門大学へ入学するなど想像もできない異次元の話に聞えたという。チョ長官は、こういう若者たちと話をして胸が潰れる思いであったにちがいない。自分が、娘に対して行ったことが百罰に値することを認識しただろうか。

 

韓国では、「86世代」が最も「得をした世代」と言われている。1960年代に生まれ、1980年代に学生生活を送った人たちだ。1965年の日韓基本条約によって日本から得た無償・有償合わせて11億ドル以上の資金が、韓国経済を高度成長路線に乗せたのだ。86世代はまさに、「日本マネー」で潤った韓国では最大の受益者になった。

 

1997年の経済危機で大量の解雇者が出たものの、86世代は入社間もないという理由で解雇の対象にならなかった。その後の10年間、企業は人を採用せずにいたので86世代は、社会的な昇進が早かったとされている。こうした背景で現在、86世代は韓国社会の政治・経済の中枢になっている。韓国社会で、厳しい目が注がれている理由だ。今回の、「チョ・グク騒ぎ」は、86世代という恵まれた世代が起こした問題である。

 

『中央日報』(1月21日付)は、「文在寅政権になって喜んでいる人たちは誰か」と題する記事を掲載した。韓国の現政権が、いかに特別の分野の人たちの利益に貢献しているかを指摘している。

 

 (1)「全国民主労働組合総連盟(民主労総)はいわゆる「労働組合共和国」で絶対的な「スーパー甲」威勢がすごい。税金で作った「大きな政府」で仕事よりも恩恵が膨らんだ公務員も「この政府は最高」と言いながら裏で笑っている。税金で公務員を増やして後遺症がなかった国はない」。

 

労組と公務員は、我が世の春である。労組は、最低賃金が2年間で29%もアップした恩恵に浴した。公務員は、人員増が実現した。韓国国鉄は、慢性赤字でありながら18年の粉飾決算によって昇給とボーナスが支給された。19年も継続見通し。その尻は、国家財政の負担になる。

 


(2)「この政府で恩恵を受けた部類は数え上げるときりがない。時代錯誤的な脱原発路線で反射利益を得る太陽光会社、不法と道徳性の欠陥にもかかわらず要職をつかんだ最高裁判事と憲法裁判所裁判官、金命洙(キム・ミョンス)大法院長を慕う国際人権法研究会出身の判事、娘を偽装転入させても初の女性副首相になった兪銀恵(ユ・ウンヘ)教育部長官、法務法人「釜山」出身の金外淑(キム・ウェスク)法制処長らがこの政権が恩恵を受けている。参与連帯と民主弁護士会出身で権力側に入った人たち、選挙に寄与したという理由で億ウォン台の年俸を受けている公企業の天下り役員も「最近は本当にうまくいっている」と言うだろう」

 

文政権は、大統領選で活躍した人たちに論功行賞が行われた。政府系公共企業体の経営トップで、前政権に任命された役員が、任期途中で嫌がらせにより退職させるなど、数々の問題が表面化した。強制退職者リストまで作られており、大統領府が関与した。


(3)「最低賃金引き上げ、週52時間勤務制導入による政策の副作用のために苦痛を受ける自営業者と企業関係者は「今が歴代最悪」と訴えている。外交部の米国・日本側外交官、陸軍士官学校出身将校、環境部傘下の公企業の役員など、この政府のブラックリストに含まれた人たちは人事上の不利益を受け、携帯電話まで調べられている。青瓦台特別監察班の民間人査察など職権乱用疑惑を提起した金泰宇(キム・テウ)元検察捜査官、青瓦台が民営化した企業の社長交代など圧力を行使したと暴露したシン・ジェミン元企画財政部事務官は権力の恥部を国民の前に公開した元公職者だ」

 

文政権は、自らの陣営に役得を分配するという極端な人事を行っている。何しろ、約10年振りの政権奪還であったから、恥も外聞もない「椅子取りゲーム」に興じてきた。その弊害は大きく、韓国財政は赤字を急速に増やしている。

 

(4)「脱原発政策の直撃弾を受けた原子力発電所の従事者と専門家、そして就職の道がふさがれた学生は「この政府の政策はあまりにも不当だ」と訴えている。慶尚北道蔚珍(ウルチン)の韓国原子力マイスター高の生徒は170通もの手紙を書き、毎日5通ずつ青瓦台に送っている。多くの国民は今、異口同音に問うている。これが公正で正しい大韓民国なのかと」

 

文政権は,身びいきの政治を行っている。原子力発電所の廃止は、国民的な討議もせずに強行した。原子力学科の学生は突然、就職先を失う混乱状態に陥った。一方では、海外へ原子力発電所の売り込みを行い、「世界で最も安全」というキャッチフレーズである。矛楯した行動なのだ。