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(この記事は、「勝又壽良の経済時評」6月25日の要約版です)

 

米中の貿易摩擦がエスカレートしている。米国が7月6日からハイテク製品について、500億ドル相当を対象に25%の関税を掛けると発表した。これに対して、中国も同額の米国産品(主として農畜産物)に関税を掛けると報復策を発表。米国トランプ大統領を激怒させた。今回のハイテク製品への関税引き上げ目的は、米国の知財権侵害に対するペナルティである。これに関する反省もない。中国の報復は、自らの立場を正当化するもので言語道断、というのだ。

 

中国の戦略は、米国へ報復して世界貿易を混乱させる目的だ。その結果、各国が米中に対して関税引き上げ合戦という無意味なことを止めろ。そういう声が大きくなるのを待っている節が見られる。自らの技術窃取という事実を隠す意図である。

 

米国は、中国との貿易摩擦で不退転の決意を固めている。知財権侵害が理由である以上、米国が泣き寝入りをしたり、穏便に済ませるという問題でないからだ。中国は、技術窃取という泥棒行為が咎められているゆえ、何とも始末の悪い問題になっている。この知財権侵害問題について言及することなく、ただ「米国の不当な関税引き上げ策に対抗する」として、その理由に口をつぐんでいる。

 

この中国の態度から、知財権侵害問題の解決に相当の時間がかかるであろう。つまり、米国が長期にわたり中国へ圧力を掛け続けるという意味だ。これは、中国経済に致命的損害を与える公算がある。中国は、習氏の独裁体制を築いており、簡単に米国へ妥協しないであろう。これが、中国経済をより衰弱させる要因となる。米国は、自らの経済的な優位性を固く信じており、ここを先途(せんど)として中国経済の基盤を突き崩す決意だ。単なる、中国への「脅し」ではない。

 

中国は、米国の要求する知財権侵害是正に関する回答をしていない。これは、是正拒否を意味する。米国が、中国の態度について不誠実であると見なすのは当然であろう。その上、米国に対抗すべく「米国と同規模」の報復をするという厚かましさである。対外的に、自らの弱味を見せないという「暴力団的な発想」である。南シナ海や尖閣諸島での紛争と同じスタイルを貫いている。御しがたい国家と言うほかない。

 

米国は、先に500億ドル相当のハイテク製品へ、25%の関税を科すことにした。中国がこれについて報復してきた。そこで、米国はさらに2000億ドル相当のハイテク製品に10%関税を付加する意向を示している。こうなると、報復の連鎖となるが、原因をつくっているのは、あくまでも中国の技術窃取にあることを忘れてはいけない。

 

トランプ氏の追加2000億ドルの関税引き上げ案は、最初に500億ドル相当の関税引き上げ案を発表した際に、言及していた1000億ドルの追加的は関税引き上げ案に代わって、今回は2000億ドルに引上げられたものだ。米国は、中国が500億ドル相当の関税引き上げを飲み、米国への報復をしなかった場合、追加的な関税引き上げ案を見送る意向であったと見られる。それが、中国の報復策に遭遇したので一挙に、2000億ドルへと制裁を強化したもの。

 

中国の技術窃取問題は、日本やEU(欧州連合)も同一認識である。そこで、米国と連携して3極がWTO(世界貿易機関)へ共同で提訴する意志を固めている。こうなると、米国は日欧の支援を受けて中国制裁を行なう形だ。

 

中国は、習氏のメンツもからみ米国と「長期貿易戦争」を繰り広げる危険性がある。その場合、中国へ進出している米国企業への差別や嫌がらせを始める懸念が生じるだろう。こうなると、収拾がつかなくなる。そこで、最終的な解決策として米国は、TPPへ復帰し中国経済を米国市場から遮断することだ。米国が復帰するTPPでは、新規加盟希望国が数カ国も予想されている。中国は、世界のGDPの40%を占めるTPP市場から排除されるのだ。中国に目を覚まさせる必要がある。

 

もう一つの解決法は、「中国が政策(報復)を撤回するのは、米国の措置が大規模で長期に及び、(中国への)資本流入に悪影響が及ぶ事態が起こるときである。これは、意外と簡単だ。米国のFRBが政策金利を年内に2回、来年3回引上げると予告している。合計5回による利上げ分は、1.25%にも達する。

 

こうなると、中国経済には壊滅的な打撃を与えるはずだ。中国は、現在ですら米国への追随利上げを見送っている。中国企業が、大きな負担を受けるためだ。中国企業が、現在より1%以上の利上げに耐えられるはずがない。こうなると、米中の金利差拡大によって中国への資本流入が抑制される。それどころか、顕著な外貨流出が起こるはずである。人民元相場は急落しよう。まさに、中国経済の「阿鼻叫喚」(あびきょうかん)が起こる。この時、中国は米国に対して「白旗」を掲げざるを得まい。中国には、こういう先が読めずに、目先の意地で凝り固まっているに違いない。