勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年07月

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    国会で揉めに揉めた「働き方改革法案」は、ようやく成立の運びとなった。反対の向きも多かった。ただ、「残業時間規制」「同一労働同一賃金」の実現で、多様な働き方が実現する。問題発生の都度、是正に取り組むこと。まずは実施することが必要だろう。

     

    「働き方改革」が法律の精神通りに行なわれれば、日本に大変革が起こる。それは、女性役員の登用が増える可能性を持つからだ。昔、私が記者をしていた頃、当時では全く珍しかった女性社長にインタビューする機会があった。その時、伺った話を思い出したので記しておきたい。「女性社長は、男性に比べて忍耐力がある。会社を潰すのは男性社長に多いが、女性社長は耐えながら成果を上げる」と言われたのだ。となると、女性役員が増える条件整備が必要になる。

     

    女性役員が増えるのは、女性が働きやすい環境であることを示している。長時間残業が規制される。出産・育児にあたって離職しなくても済むような柔軟な働き方を確保する。こういう理想的な職場環境が維持できれば、女性が長く勤務しやがて役員として能力を発揮できるはずだ。

     

    日本の大学進学率では女性が男性を上回っている。勉学心が旺盛なのだろう。この燃えるような向上心が、職場で踏み潰されることは、本人はもちろん企業にとってもマイナスである。今回の働き方改革で、これを防ぎ女性社員の能力発揮の場を確保できれば、日本にとって画期的な法律になろう。ぜひ、そうあって欲しいものである。

     

    この働き方改革法が議決される前に、東証が企業統治(「コーポレートガバナンス」)指針を改定した。その一つに、「女性や外国人などを役員に積極登用する」ことを促している。女性役員の目で働き方改革を進めることは極めて有益である。男性だけの目線でなく、女性の視点で職場を変えることが求められる時代なのだ。人手不足が深刻化している現在、経営のソフト化は不可避となっている。

     

    東京商工リサーチによると、17年3月時点で日本の主な上場企業の女性役員の比率は3%台にとどまり、2~4割程度の欧米に比べて著しく低いという。この面で、日本は大変な後進国である。霞ヶ関の官庁街では、女性局長の昇格が増えている。かつては、「刺身のツマ」程度に扱われたが、今後は「刺身」そのものにならなければならない環境へと変わっている。

     

    ここで、女性役員が増えると「企業評価」(株価)が上がるというシンガポールの最新研究を紹介したい。

     

    『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「女性役員増えれば企業評価の向上招くーシンガポール国立大学の調査」という記事を掲載した。

     

       「企業における男女平等を提唱する人々は、女性役員の数と企業評価が連動していると結論付けたシンガポール国立大学(NUS)の調査を、もっとよく知りたいと思うだろう。NUSビジネススクールのローレンス・ロー准教授が主導した調査によれば、企業の取締役会に女性1人が加わるだけで、その会社の評価が向上し得ることを少なくとも1つの指標が示した。同准教授が着目したのは、企業の資産価値と時価総額を比較した『トービンのQレシオ』である」

     

    トービンの「Qレシオ」とは、次のような内容だ。

    株価を1株当たりの実質純資産(時価評価)で割って、その値(q)が1より小さければ投資を縮小する。逆に、1よりも大きければ投資を拡大するという投資理論だ。この「Qレシオ」を利用して、女性役員数との関係を調査したものがこの記事である。

     

    ② 「シンガポール上場の500社について過去5年間のデータを調べたロー准教授は、取締役会において女性の独立取締役の平均人数が1人増えるとQレシオが11.8%上昇するということを突き止めた。『企業がこうした恩恵を評価し、取締役会にもっと女性を増やすよう行動することを望んでいる』と同准教授は話している」

     

    取締役会で女性の独立取締役(兼務でない)の平均人数が1人増えると、Qレシオが11.8%上昇(株価上昇)するという結果を得た。これは、興味深い話である。その企業の株価が上昇するならば、株主は女性役員の増加を求めるに違いない。冒頭、私が女性社長に聞いた話を紹介したが、この「Qレシオ」によってもその信憑性を裏付けるようである。

     

    古来、女性は「太陽」に喩えられる。企業役員として株価上昇へ貢献するデータが出ている以上、やっぱり現代企業でも太陽と言えるのだろう。

     

     

     

     

     


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    人類未到と思われていた「人生100年時代」が目前に来た。今の10代の日本人は100歳が普通になると報じられている。日本政府は、定年を70歳に伸す検討を始めた。「65歳以上を一律に高齢者と見るのは、もはや現実的ではない」という認識に変わったのだ。平均寿命伸張による年金財政逼迫を考えれば、「70歳定年もありか」という感じがする。

     

    焦点は、AI(人工知能)の研究が進んでいることである。すでに、定型作業のかなりの部分が、AIに代替できる時代になった。長生きは結構だし幸福の原点であるが、肝心の職業をAIに脅かされるのは本末転倒。これでは、幸福な生活がAIに奪われかねない。AIを追放するわけにはいかない。人間の側が対応して、AIを使いこなす側に回るしか方法はなさそうだ。つまり、転職できる能力を身につけることである。

     

    こうなると、これまでの年功序列賃金制と終身雇用制は骨抜きになる。一度、就職すれば定年まで同じ会社、というケースは激減するに違いない。社会の変化に合わせて仕事のニーズも変わってくる。会社へ行っても仕事がない。そんな例が増えるであろう。

     

    そこで、この問題を解決するヒントを取り上げたい。

     

    『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「人工知能は津波のように経済を襲う」と題する記事を掲載した。

     

        「米損保大手のオールステートのトム・ウィルソン最高経営責任者(CEO)は、人工知能(AI)がサービス経済を奪いに来ると指摘する。ウィルソン氏は、『AIが津波のように米国経済を襲うだろう』と述べた。自動化の波はトレーダーやタクシー運転手など幅広い業種に影響しそうだ。マッキンゼーの試算によると、テクノロジーに仕事を奪われ職探しをする人は2030年までに世界中で4億人以上に上る可能性がある」

     

       「こうした変化はすでに自動車保険事業にも及んでいる。ウィルソンCEOによると、オールステートは技術の進歩で業務が不要になった自動車アジャスター550人を削減。削減対象者は全て他で職を見つけたという。同社は経済の変化に対応し従業員教育に4000万ドル(約44億円)を投資している。『会計士であれ自動車アジャスターであれ、コンピュータープログラマーであれ、テクノロジーに取って代わられるだろう。コンピューターができない新しい仕事を彼らに教育していく方法を見いだす必要がある』と同CEOは語った」

     

    米国損保会社の最大手であるオールステートのCEOが、厳しい予測をしている。会計士であれ、コンピュータープログラマーであれ、AIのテクノロジーに取って代わられる。こう言い切っているのは、なんとも不気味に映る。だが、その対策として社員の再教育に約44億円を投じるという。これによって、社員の知的再武装を行い新しい職務に当らせる、としている。

     

    次は、日本の提言である。

     

    『日本経済新聞』(6月27日付「経済教室」欄で元富士通総研会長 伊東千秋氏がAI時代に即した働き方とは」と題する投稿をしている。

        米国で富士通子会社の経営を任されていた頃、社員をすぐ辞めさせないためにどうするかを考えた。一番効果があったのは留学などの研修制度だった。転職のためのキャリアが磨けるというわけだが、それが逆に定着率を高めることになった。経営者も社員も1カ所に閉じこもっていたのでは互いに不幸になると実感した。フラットな組織、多様性に富んだ社員、アイデアを頭から否定しない寛容な風土。企業自体が丸ごと変わらなくてはならない」

     

    ここでは、米国の例を引き合いにしている。社員に留学などの研修制度を行なったところ、社員の定着率が高まったという。AI時代の到来は、社会全体が高度知的社会に移行していることの反映である。この事実の認識が極めて重要であろう。AIだけが突然、飛び出してきたのではなく、それを生み出す社会的基盤が備わってきたことだ。そうなると、この動きに遅れないことが肝心であろう。

     

    北欧のスウェーデンでは、大学教育の無料化が実現している。社会人が、いつでも大学で学べる(リカレント教育)制度があるのだ。日本もAIの普及と同時に、大学は若者と社会人が机を並べる時代になろう。政府は、その予算的な準備を始めている。時代は、大きく変わろうとしていることに気づくことだ。


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