勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年08月

    a0001_018105_m

    中国の泣き所は、本格的な市場経済の経験がないことだ。毛沢東の著書では、このことが記されている。市場経済を経験した後で社会主義経済へ移行するとしている。鄧小平が、市場経済化を推し進めた背景はこれだ。彼は、決して体制移行を図ったものではない。江沢民、胡錦濤はこの鄧小平路線に沿って経済運営をしてきた。

     

    習近平時代になって、この市場化を否定する動きを強めて、国有企業を産業構造の根幹に据える大きな方向転換をはかった。中国政府が経済を直接、管理しなければコントロールできないほど、過剰債務が累積したことも背景にある。習氏は、「毒を食らわば皿まで」ということで、中国経済に死を与えるほどの危険な段階まで追い込んでしまった。

     

    不動産バブルは、麻薬と同じ効果をもたらす。初期は、経済に活力をもたらす。それが、バブルの効果であることに気付かず、さらに強い刺激を求めるようになった。住宅投資やインフラ投資依存の経済運営がそれだ。この結果、インフラ投資が国有企業や地方政府に過剰債務をもたらした。家計では高騰する住宅購入で多額の債務を負う結果となった。インフラ投資に伴う過剰負債は、政府が財政面でカバーできるが、家計の過剰負債は、軽減方法がないのだ。

     

    不動産バブルの「毒」が、家計を襲っている。この毒を消すワクチンは存在しないから、家計は逃げ場がなく、消費を切り詰める以外に生き延びるすべはないのだ。中国は現在、この状態に追い詰められている。

     

    『ロイター』(8月29日付)は、「中国、安定的で健全な経済発展の達成で困難に直面―発改委主任」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国家発展改革委員会(NDRC)の何立峰主任は28日、安定的で健全な経済発展の達成で外的困難さが増しているとの認識を示し、下期は消費や社会発展の目標達成に向けて取り組みを強化する必要があると強調した。NDRCが29日、ウェブサイトで明らかにした。主任は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の常務委員会で、『経済成長、雇用、インフレ、輸出入の目標は努力によって達成が可能』としつつ、『ただ消費、社会融資総量、可処分所得の伸びの目標達成に向けて一段の努力が必要だ』と述べた」

     

    この記事では、消費、社会融資総量、可処分所得の伸びが停滞していると警告している。この事態は、不動産バブル崩壊による「信用収縮」が、広範囲に起こっていることを示すものだ。社会融資総量とは、中国独特の金融概念である。マネーサプライ以外に、債券発行、影の銀行など非金融機関の融資も含めている。この社会融資総量低迷は、中国末端の経済活動が窮地に立たされている証明である。

     

    家計逼迫化は、個人消費を切り詰めるので、経済成長の足を引っ張る。習氏にとって、2015~2020年までに6.5%以上の成長率を目標にしてきた。この目標が、不動産バブル依存の経済運営を強いたことは疑いない。こうして、過大な成長率目標が、家計債務急増をもたらして、「家計が入院」する騒ぎを起こしている。これに懲りず、さらに地方の三線、四線の都市で、住宅バブルを狙っている。どこまでも「不埒」な政府である。

     

    中国政府は、ここで重大な事実を見落としている。2050年頃には、米国覇権に挑戦すると宣言した。現在、米中貿易戦争を招いているが、住宅バブルによって出生率を引下げていることを見落としている。住宅バブルで経済成長率を押上げたが、長期的にそれが出生率を引下げ、米国の後塵を拝している現実を知らないのだ。なんとも愚かな話であり、中国には知恵者がいなかったのか訝るほど。国粋主義者はゴロゴロいても、合理的な経済計算ができる人間に恵まれなかったのだろう。

     

    米国は、中国の人口動態に大きな関心を寄せてきた。中国経済の潜在成長力を計る尺度であるからだ。その際、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する数)は、有力は国勢判断材料になる。また生産年齢人口も注目の指標である。中国の場合、健康的な理由で満65歳まで働けず、平均退職年齢は55歳だ。世界標準は65歳だから、中国の労働人口はぐっと減る。こう見てくると、中国は世界最大の人口を擁するものの、実際の働ける人数は大幅な割引を迫れられる。

     

    中国の合計特殊出生率は、住宅バブルの影響を受けて低下している。多額の住宅ローンを抱えて、出産・育児の経済的な余裕を失うことが理由である。中国政府は、この重大な事実に気付かずに、住宅バブルがGDPを押上げる絶好の材料と見てきた。習氏は、国家主席になって以来、一段と住宅建設に依存する経済運営へシフトした。まさに、知らぬが仏であったのだ。

     

    中国の合計特殊出生率は、人口横ばいを維持する(人口置換率)2.08を割ったのは、1992年である。それ以来、一貫して米国を下回っている。よく、中国のGDPは2026年以降に米国を抜くと、まことしやかに言われるが、合計特殊出生率の動向から言えば、「ノー」なのだ。しかも、ここ5年ほどの住宅バブル爛熟期が、さらに合計特殊出生率を引下げる方向に影響しているはずだ。

     


    a0027_000650_m

    中国が、台湾と外交関係を結んでいる国へ執拗に断交を働きかけている。このことから、中国の出方が注目されている。米国防総省は16日、中国の軍事力や安全保障政策をまとめた年次報告書を発表した。それによると、人民解放軍が「武力による台湾統一」に向け、軍事的な準備を進めている可能性があると指摘した。

     

    米国防総省の年次報告だけに、根も葉もないことを書くはずもない。それなりの証拠を掴んでいるにちがいない。

     

    (1)「米国防総省の報告書では、『中国の台湾侵攻について、『(中国の福建省に近い)金門、馬祖への侵入は、中国にとって難しいことでないが、台湾の独立機運を高めかねない』とその政治的リスクを指摘。一方、台湾有事に米国が介入した場合、中国は短期間で強度の高い限定戦争に勝つため、米国の行動を遅らせるだろうとの考えを示した』(台湾・中央社「中国が台湾侵攻準備か 平和を大切にしてー総統府」(8月18日付)

     

    いささか、きな臭い話だが、日本の防衛省も『防衛白書』を発表した。台湾関連についての既述は、次のようになっている。

     

    (2)「中国当局による台湾への軍事行使に関して、防衛省は、中国軍が海・空において、台湾軍より圧倒的な優勢を持つとしながら、陸軍力に関して台湾本島への着上陸侵攻能力は『現在限定的だ』との見方を示した。このため、中国側が台湾での陸上戦力を高めるため、近年大型揚陸艦の製造を急いでいるという。米『ボイス・オフ・アメリカ』(8月28日付)の報道によると、海上自衛隊潜水艦部隊で艦長を務めた山内敏秀氏は、中国当局が将来、世界範囲に軍事力を拡大させた後に台湾への武力行使を実行すると推測した。同氏は、中国が現在、台湾を侵攻すれば、即座に米国からの軍事攻撃を受けると分析した」(『大紀元』8月29日付「防衛白書、中国の急速な軍事力強化に強い警戒感」)

     

    以上の、情報をまとめると、次のような暫定的な結論が得られるであろう。

     

       中国軍は、台湾開放が究極の目的であるから、絶えずその軍事的な準備をする。

       金門・馬祖などへの侵入は、台湾本島の独立心を煽るので自制するであろう。

       台湾本島への攻撃は、現状では米中の軍事力の差から不利であるので控える。

       将来、中国軍が世界的範囲に軍事力を拡大させた後、台湾への武力行使を実行する。

     

    以上の4点に要約すると、米国防総省の年次報告で指摘している警戒論は、米国が台湾へ本格的な武器売却の道を開く、という予告とも見られる。トランプ政権は、台湾との関係を強化しており、中国の反発など眼中にない姿勢を貫いている。今や、米国にとっての中国は、「仮想敵」に成り下がった。「一つの中国論」は過去の話になっている。中国が、米国の覇権へ挑戦すると広言して以来、米中関係は急速に悪化している。習氏の国粋主義が表面化した結果である。


    a0960_008662_m

    韓国の大学は、日本企業への就職ブームだという。韓国政府がバックアップしている。韓国での就職は氷河期だが、玄界灘を越えると「就職天国の日本」である。韓国では、出身大学や資格がやかましい社会である。日本では、本人の潜在的な能力を重視することから、「日本で人生のリセット」という捲土重来(けんどちょうらい)の意気込みの学生もいるという。

     

    『中央日報』(8月29日付)は、「人生のリセット狙う、学閥・資格ではなく可能性重視の日本就職が韓国でブーム」と題する記事を掲載した。

     

    日本では求人難、韓国は求職難ということで、長短、相補う形だ。地理的な条件も近く、いつでも往来可能である。

     

    (1)「韓国では国内就職市場が冷え込む中、海外就職ブームが熱い。中でも日本への就職が脚光を浴びている。人口絶壁で史上最高の求人難に直面している日本企業が海外から人手を探しているためだ。実際、昨年韓国産業人材公団があっ旋した海外就業者5118人のうち、日本で職場を探す人が1427人で最も多く、米国(1079人)・シンガポール(505人)・オーストラリア(385人)を抜いた。日本就職の最大の長所は、学閥や資格などのいわゆる『スペック』ではなく潜在力が重視されるため、『人生のリセット』が可能だということだ」

     

    日本企業へ就職した韓国人の評判はよく、6割が満足しているという結果が出ている。

     

    (2)「日本国内の韓国人就業者の特徴といえば、単純労務職ではなくIT、観光・サービス、事務職種に従事しているという点だ。最近、日本ではITに関連した大型投資が次々と行われ、専門労働力難が深刻だ。日本経済産業省によると、2030年までに78万人余りのIT人材が不足するものと予想されている。これに伴い、IT資格証さえあれば日本で簡単に職を見つけることができる』

     

    IT関連の需要が大きいという。日本で、IT技術を学んで日本企業へ就職する人もいるようだ。

    (3)「日本企業の長所は次の点がある。就業者の大部分が『外国人に対する差別は感じられなかった』と答えるほど日本人と同じ待遇を受けるという。特に、大学を卒業したばかりの韓国人新入社員に対しても終身雇用という希望を持たせてくれるよう配慮するということだ。また、大企業ではない中小企業も報酬がかなりあるほうだ。昨年の日本就業者の平均年俸は2786万ウォン(現レートで約280万円)。韓国正規職の大卒初任給(3325万ウォン)よりは少ないが、中小企業(2523万ウォン)よりは多かった」

    韓国の大企業の初任給のほうが、日本よりも高いという。これは、韓国の労働組合が「労働貴族」と揶揄されるほど強い結果と見られる。現代自の給与は、トヨタより上だ。ただ、現代自は高賃金が災いして、利益率が急速に落ちている。

     

    日本の給与体系は年功序列である。二、三年も経てば、日本の賃金が韓国を上回るはずだ。日本企業では、頻りと長期勤務を勧めているという。腰掛け的入社を嫌うからだ。


    a0960_005455_m

    米民間調査機関コンファレンス・ボードが発表した8月の米消費者信頼感指数は、2000年10月以来の高水準になった。米中貿易戦争による悪影響について、なんら懸念していないことが分った。消費は絶好調である。一方、中国当局は消費の停滞に警戒感を滲ませている。米中貿易戦争は戦わずして決着がついた形だ。中国が、早く争いの舞台から降りる決意をすべきだろう。

     

    『ブルームバーグ』(8月29日付)は、「米消費者信頼感指数、8月は予想外に上昇、17年ぶり高水準」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「消費者信頼感指数は133.4。ブルームバーグがまとめたエコノミスト全員の予想を上回った。現況指数は172.2と、2000年12月以来の高水準。前月は166.1。コンファレンス・ボードの景気指数担当ディレクター、リン・フランコ氏は発表文で、『こうした歴史的な高水準の信頼感は引き続き、短期的に健全な消費支出を支えるだろう』と述べた」

     

    コンファレンス・ボードは、米国の消費者動向を調査する最も権威ある民間調査機関として知られた存在である。この機関による調査結果であるだけに注目すべきだ。このような予想外なデータが出た背景には、家計貯蓄率を高めながら消費するという、これまでにないパターンができあがっていることがある。これまでの「資産効果説」では、株価上昇が家計貯蓄率を低下させて、個人消費を増加させると考えられてきた。現在の米国では、株価上昇にもかかわらず、貯蓄率を高めながら消費する、これまでにない「安定タイプ」に変わっている。この点を深く認識すべきだろう。

     

    中国では、悲観的な見通しが出てきた。

     

    『ロイター』(8月29日付)は、「中国、安定的で健全な経済発展の達成で困難に直面―発改委主任」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「中国国家発展改革委員会(NDRC)の何立峰主任は28日、安定的で健全な経済発展の達成で外的困難さが増しているとの認識を示し、下期は消費や社会発展の目標達成に向けて取り組みを強化する必要があると強調した。NDRCが29日、ウェブサイトで明らかにした。主任は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の常務委員会で、『経済成長、雇用、インフレ、輸出入の目標は努力によって達成が可能』としつつ、『ただ消費、社会融資総量、可処分所得の伸びの目標達成に向けて一段の努力が必要だ』と述べた」

     

    この記事では、消費、社会融資総量、可処分所得の伸びが停滞していると警告している。この事態は、不動産バブル崩壊による「信用収縮」が、広範囲に起こっていることを示すものだ。社会融資総量とは、中国独特の金融概念である。マネーサプライ以外に、債券発行、影の銀行など非金融機関の融資も含めている。この社会融資総量低迷は、中国末端の経済活動が窮地に立たされている証明である。習近平氏はこの事態を認識せずに、国粋主義者特有のパターンで「突撃命令」を出している。

     


    a1380_001493_m

    ポンペオ米国務長官が、訪朝を直前に中止した理由が明らかになってきた。北朝鮮から送られた書簡内容が、平和協定の要求であったからだ。核リストの提出もなく、一方的な北朝鮮の要求に対して、米国は毅然として「訪朝中止」で応えた。

     

    『中央日報』(8月29日付)は、この間の事情を次のように伝えた。

     

    (1)「北朝鮮は非核化交渉をめぐり『再び危機に置かれており台無しになりかねない』という手紙で米国を威嚇した。北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)中央委員会副委員長がポンペオ米国務長官に送った手紙だ。CNNはその上で、初期交渉が失敗に終われば『北朝鮮が核とミサイル活動を再開しかねない』という米国内の懸念まで伝えた。北朝鮮が実際に核・ミサイル活動を再開する兆しを見せる場合、ホワイトハウスを刺激し北爆論主張が再び登場しかねない状況だ」

     

    米国政府の「訪朝中止」に連動して、マティス国防長官が米韓合同演習再開を発言した。

     

    『朝鮮日報』(8月29日付)は、次のように報じた。

     

    (2)「マティス国防長官は28日、国防総省で記者会見を開き『われわれは(北朝鮮に対する)信頼の措置として大規模な軍事演習を数件中止する段階を踏んできた。しかし今では、これ以上演習を中止する計画はない』と語った。ロイター通信など外信が伝えた。ただし、来年度の韓米合同演習再開の時期を尋ねる質問に対し、マティス長官は『まだ決まっていない』と答えた。マティス長官の発言は、今後の非核化交渉の進展いかんにより韓米合同演習を再開することもあり得る、という意味だと解釈されている」

     
    米朝交渉が順調に進みかけた途端に、北朝鮮が要求をエスカレートさせてきた。いつもの瀬戸際作戦である。もはやこれに驚かない米国政府は、米朝の話合いを棚上げしてしまい、北の要求を無視する形を取っている。それだけでなく、北が最も恐れている米韓合同演習再開という強硬策で畳みかけている。

     

    北朝鮮にとっては、予期せざる逆風を招いている。米国非難の矢が放たれることは必至。それだけ、痛手であるという意味だ。米国は、中朝に対して同時に強硬策を見せて妥協を迫るものと見られる。

     


    このページのトップヘ