勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年09月

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    次世代自動車の主流になると見られる電気自動車(EV)は、最大の難点がバッテリー充電時間の長さとされている。先に、日中が充電器の共同開発で提携し、事実上の国際標準化を狙う動きを見せている。一方、ゼネラル・モーターズ(GM)が開発する電気自動車(EV)は、180マイル(約290キロ)を走行するのに必要な充電を10分以内に済ませられる可能性がある。テスラの急速充電スタンド「スーパーチャージャー」での充電より速い計算というニュースが入ってきた。

     

    『ブルームバーグ』(8月31日付)は、「GM、急速EV充電の時間短縮に挑む-テスラしのぐ可能性」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「GMと研究パートナー企業のデルタ・アメリカズは、3年をかけたプロジェクトの一環で急速充電システムの開発に取り組んでいる。GMは2023年までに急速充電が可能なEVを20車種投入するため準備を進めていると、これまで明らかにしている。

     

    GMは、2023年までに10分以内で充電可能にするという。その際、EV20車種を投入可能としている。「充電時間革命」が、EVの売れ行きを左右するのであろう。

     

    (2)「走行中に電池切れを起こす懸念を和らげるため、自動車メーカーの間ではEV充電時間の短縮を目指した競争が繰り広げられている。デルタ・アメリカズ製システムの搭載により、GMのEVは1分で約18マイル走行分を充電できる。これに対し、テスラのスーパーチャージャーの充電スピードは1分あたり約6マイル、ポルシェはE『タイカン』について1分あたり約12.4マイルのスピードを約束していると、ナビガント・リサーチのアナリスト、サム・アビュエルサミド氏は指摘した」

     

    このパラグラフでは、充電時間1分当たりの走行マイル(1マイル=約1.6キロ)が上げられている。

     

    GMは、約18マイル(28.8キロ)

    テスラは、約6マイル(9.6キロ)

    ポルシェは、約12.4マイル(19.84キロ)

     

     

    (3)「テスラはウェブサイトで、スーパーチャージャーでは約30分でフル充電が可能だと宣伝している。一方、GMのEV『シボレー・ボルト』の場合、約90マイル走行分を公共充電スタンドで充電するにはおよそ30分を要する」

     

    現在のテスラとGMは、それぞれ30分の充電時間でどれだけ走行可能かを競っている。目下、開発中の技術によれば10分が勝負の分かれ目とされる。これが現実化すれば、EVも普及に向けて、大きく動き出す可能性が高まろう。


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    今年5月、中国人民銀行(中央銀行)総裁が直接、日本銀行総裁を訪問し依頼した日中通貨スワップ協定が、日中財務相会談で正式に合意された。具体的な内容は、3兆円規模で、正式発表は安倍首相の10月訪中の際行なわれる見通しだ。

     

    日本は現在、米国、EU(欧州連合)、英国、カナダ、スイスの五ヶ国と通貨スワップ協定を結んでいる。中国は、この中に入れないだけに日本と通貨スワップ協定を結ぶ意義は極めて大きい。韓国も、秘かに日本との通貨スワップ協定を希望している。メンツゆえか、自らは言い出せないというジレンマを抱えている。

     

    『ロイター』(8月31日付)は、「日中が多国間貿易維持で合意、金融協力、速やかにと麻生財務相」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「日中両政府は31日の財務対話で、多国間貿易体制を維持することで合意した。日本円と人民元の通貨スワップを柱とする金融協力についても議論し、麻生太郎財務相は会合後、記者団に「(合意に向けた)作業を速やかに進める」と表明した。日中財務対話を開催したのは昨年5月以来1年3カ月ぶりである」

     

    人民元相場は、いつ売り込まれてもおかしくない状況にある。それだけに、日中通貨スワップ協定が結ばれれば、中国にとってこれ以上ない援軍となる。中国は、米国との通貨スワップ協定は不可能ゆえに、日本へ依頼せざるを得ない事情にある。この日本に対して、再び「悪口雑言」を言えない立場に追い込まれた。それでも、不条理な日本批判をすれば、通貨スワップ協定の期限延長を断るだけである。

     

    (2)「会談では、マクロ経済政策など幅広い分野で意見を交換。自由で開かれたルールに基づく多国間の貿易体制を維持、推進することで合意した。麻生財務相は会談後、『保護主義的な措置による内向きな政策は、どの国の利益にもならない』との認識をあらためて示した。麻生氏はまた『最近の日中関係の改善の流れの中で、きわめて良い雰囲気の中で対話が行われた』と述べた。スワップ協定では3兆円規模での再開で調整を続け、安倍晋三首相の訪中時にも最終合意にこぎ着けたい考え。麻生財務相は『スワップなどいろいろな話が出た。きちんと発表できるようなものにしていきたい」』と記者団に語った」

     

    麻生氏が、「最近の日中関係の改善の流れの中で、きわめて良い雰囲気の中で対話が行われた」と発言するように、中国は低姿勢であったのだろう。日本に通貨スワップ協定を依頼する立場だから当然のこと。頭の高い中国が、日本に対しては今後、傲慢な態度をとれなくなるはずだ。

     


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    日本政府が尖閣諸島を国有化した2012年、中国首相は国連総会で日本を「泥棒」と二度も呼んで侮辱した。日本人が尖閣諸島を所有していたこと自体、日本の所有を証明するもの。その中国が、長いこと日本を外交的に無視する態度を取り続けてきたが、今年に入ってから急旋回している。国営メディアは、一斉に日本批判を抑制して「別人」のような振る舞いだ。

     

    こうした中国による対日外交の変化は、米中関係の悪化が原因である。日米同盟を結んでいる日本との関係を復活させて、対米斡旋の一助になって欲しいという狙いもあるのだろう。この「困った時の日本頼み」という便宜的な姿勢は、実に不愉快な話である。自国の都合次第で外交姿勢を変える中国に対して、日本は一定の距離を置くことが必要だ。いつまた、裏切るか分らないのが、中国の本質と見られるからだ。

     

    ただ、後述のように中国が日本との通貨スワップ協定を依頼しており、その話合いが妥結した。中国は、日本に対して大変な「恩義」を感じなければならない立場になった。日本に向かって、「大言壮語」を慎まざるを得まい。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(8月31日付)は、「トランプ関税がもたらす日中融和」と題する社説を掲載した。

     

    この社説は、極めて日本への理解を示した内容である。中国外交をさまざまに批判しているからだ。現在、中国は大慌てで日本の門を叩いている状況にある。これを冷ややかに眺める論調が展開されている。

     

    (1)「トランプ米大統領の保護貿易政策は、世界中で経済関係の再編につながっている。最たるものが世界2位と3位の経済大国、中国と日本の関係だ。8月31日に北京で行われる両国の財務対話は、積年の緊張関係の後の雪解けを示す最新の兆しだ。和解は歓迎される。だが、それは限界を伴わざるを得ない」

     

    日中財務相の会談結果については、後で取り上げたい。日中通貨スワップ協定がまとまった。中国が通貨スワップ協定を日本に持出している理由は、人民元が大きく売り込まれた際の準備である。円が、世界的に「避難通貨」とされるように、国際情勢に変化が起こると、円が必ず買われる「信頼通貨」になっている。中国も、その強い円と繋がっていたい、と言い出してきたのだ、

     

    (2)「両国間の2017年の貿易は3000億ドル(約33兆円)超、空の往来は毎週1000便を超える。だが、11年に最大の対中投資国だった日本は16年までに5位に転落した。無人島ながら領有権を争う尖閣諸島(中国名・釣魚島)の3つの島を日本政府が購入したことを受けて、中国は12年から対日関係を悪化させ、自業自得の結果に行き着いた。この問題は、戦後の中国と日本の関係に最も深刻な亀裂の一つをもたらした」

     

    ここで、社説は「自業自得」という言葉を使って中国を非難している。歴史的に日本領土である尖閣諸島を、周辺海域に原油が埋蔵されていることが分かって以来、中国領と言い出したその無節操さを批判したのであろう。日本領土を横取りしようと策略を練ったが失敗。日本と疎遠になったが、やはり日本との関係が重要で「ニーハオ」と言わざるを得なくなった。こう言って、中国をあてこすっているのだ。

     

    (3)「中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は5月、13年の首相就任後初めて日本を訪問した。中国首相の訪日は10年以降、途絶えていた。両国の『ハイレベル経済対話』が10年ぶりに開かれた1カ月後のことだ。日本の北京駐在大使は7月、両国の『平和友好』条約締結40周年について人民日報に意見記事の寄稿を求められた。この10年間、前例のないことだった。8月31日の協議の議題は13年に失効した通貨スワップ協定の再開だが、実質よりも象徴的な価値のほうが大きい。まだ確定していない18年内の安倍首相訪中のお膳立てにつながるはずだ」

     

    日本のメディアは、安倍首相の政治姿勢を「右寄り」と批判している。習近平氏は、領土拡張主義であるので、国粋主義者の域に達している。この思想的に偏向した国家と外交関係を維持することは、日本として大きなリスクを伴う。深入りせずに中庸を保つ程度の浅い外交関係が必要であろう。濃密な関係樹立は、中国から技術窃取されるなど利用されるだけに終わる。

     

    (3)「日本は、中国とのどのような関係改善であれ最大限に生かすのが賢明だ。それはアジア全体の安全保障の向上につながりうる。また、これが都合次第で翻される中国の冷笑的な方向転換でないことも望まれる。中国、そしてさらに広くアジアにとって最善の道筋は、政治的な都合で方向を切り替えていくのではなく、一貫して日本と関わり合うことだ。中国の当局者がこの5年間、後者の道筋を取っていれば、今になって関係修復をこれほど急ぐことにはならなかったはずだ」

     

    ここでは、中国外交の基本が一貫して日本と関わり合うことだとしている。過去5年間、対日外交を疎かにしてきた空白を埋めようと必死である。対日外交軽視は、中国外務省に「日本課」をなくしたことに現れている。米中関係は、もはや従来のような関係に戻ることはない。中国が、米国覇権に挑戦すると啖呵を切った以上、米国は中国を「仮想敵」と位置づけている。このことから言えば、中国外交は日本との関係を抜きに存在し得ないほどの重要性を持ったことに気付くべきだろう。その中国は、日本が一定の距離を置かないと危険な相手に変わりない。

     

     

     


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    米中貿易戦争は、中国経済に大きな影響を与える。不振を続ける個人消費を刺激すべく、所得税減税をするという。税金と聞くと日本のサリーマンは源泉徴収だから、計算法を知っている人は少ない。会社の経理部の担当者ぐらいだろう。計算は至って簡単だ。

     

    中国が、所得税の基礎控除を引上げて、課税対象者を減らす措置に踏み切る。日本と比べてどの程度の減税になるのか。ちょっと電卓を叩いてみた。

     

    日本も中国も同じだが、毎月の給料が基礎控除以下であれば、無税である。中国は、これまで基礎控除額が月額3500元(約5万6000円)であった。それが、18年10月1日から12月31日までに月額5000元(約8万円)に引上げられる。つまり、月給5000元以下の人は無税になる。

     

    年収に直すと、6万元(約96万)の人は税金を払わなくて良い。日本では、年収65万999円以下の人は無税。中国と比べて基礎控除額が低い感じだが、実際の所得税額を調べて見ると、次のような結果になる。

     

    中国人が、日本で96万円の年収があれば、実際に払う所得税は次のような計算になる。結論を先に言えば、無税である。

     

    日本の税法では、年収96万円に対して先ず、65万円が差し引かれて残り31万円の5%が課税されるベースの所得金額になる。1万5500円が所得金額だが、これが全部、支払う税金とはならない。この所得から差し引かれる諸々の控除がある。一番大きい金額は、誰でも該当する基礎控除が38万円あるので、年収96万円でも無税だ。

     

    やや面倒な話をしてきた目的は、中国の基礎控除額が引上げられても、現実には大きな不満が残っていることを伝えたいからだ。

     

    『レコードチャイナ』(8月31日付)は、「中国の個人所得税法が改正、月収5000元から課税」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国のネットユーザーから『ネット上では明らかに70001万元(約112000円~16万円)とすべきとの声が多かったのに、5000元にしたんだな』『1万元にすべきだな』などの意見が多く寄せられた。また、『5000元では都市部で生活するのは難しい。それなのに税金をとるのか』『税収は先進国並みにし、福祉の話になると発展途上国になる』などのコメントもあり、多くのネットユーザーが不満のようである」

     

    基礎控除額は1万元にしなければ、生活できないと訴えている。

     

    (2)「他には、『別に上げなくてもいいよ。不動産価格を2分の1にしてくれれば、1000元(約16000円)から徴収しても文句はない』という意見や、『5000元に満たない月収の人には手当を出してくれるのだろうか』『税金を払いたいが私は払えないようだ。税金が払えるようになる日が来るのを期待したい』というユーザーもいて、低収入の人もまだまだ少なくないようである」

     

    所得に比べて不動産価格が高すぎる。今の半分の水準であれば、基礎控除額は1000元でも文句を言わない、と訴えている。不動バブルで、最も利益を得たのは中国政府であることは間違いない。これで、軍備の拡張をやってきたのだ。


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