勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年10月

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    中国メディアが、40年間も続けられた日本のODA(政府開発援助)に、謝辞を述べようという記事を掲載した。この裏に、中国政府の「指示」があったことは分かっている。それでも、「ありがとう」の一言を聞くとうれしい。不思議なものだ。

     

    中国メディア『今日頭条』(10月23日付)は、安倍首相の訪中を好意的に報じつつ、「まずは謝謝(ありがとう)と言うべき」と伝えた。『サーチナ』(10月28日付)が、転載した。

    日本の対中ODAは、中国が改革開放政策を打ち出した翌年の1979年から、有償資金協力の円借款や無償の資金協力、技術協力など合わせて計3兆6500億円を供与し、中国の経済成長を支えてきた。安倍首相はこのたび、「中国が世界第2位の経済大国へと発展し、その歴史的使命を終えた」として、今年度の新規案件をもって終了する意向を表明した。

    (1)「記事は、これに対する中国人の反応について、「打ち切られたことに腹を立てるどころか、感謝する」大人の対応を見せていると紹介。このODAが中国にもたらした経済効果を認め、日本国内で反対の声があったものの日中関係を重視した日本政府を評価した。1980年代にはインフラ整備を中心に、90年代以降は環境対策や人材育成など幅広い分野で活用されてきたと紹介している」

     

    2012年、日本が尖閣諸島の国有化を決めた際の対日批判では、このODAもヤリ玉に上がっていた。「日本企業は対中ODAで儲けていたのだから感謝する必要はない」と高飛車だった。それが、ここまで「ありがとう」を言ってきた。日本が中国と「融和姿勢」を見せたことがうれしいのであろう。


    (2)「また同時に、今回の安倍首相のあいさつからは日中関係を重視していることがうかがえると伝えた。明治維新150年の節目の年であるにもかかわらず、明治維新の特色である「富国強兵」にも「脱亜入欧」にも言及しなかったことは、一種の誠意の表れだと高く評価している。米中関係が緊張している今、あえて米国の肩を持つような言い回しを避け、軍事拡張にも言及しないことで、中国人の感情に配慮したということのようだ」

    明治維新150年の現在、NHK大河ドラマ「西郷どん」でみるように日本開国は、薄氷を踏むものであった。日本が独立を維持できたのは外国勢力(英・仏)と手を結ばなかったからだ。当時の英仏は、欧州で覇権争いの真っ最中。その争いの舞台が、日本へ移っていたもの。徳川慶喜の大政奉還は、日本が「第二の中国」という列強支配を免れた英断であろう。こういう歴史秘話を知れば、日本が明治維新を自慢するどころか、危ない橋を渡っていた。


    (3)「記事は結びに、改めて今回の安倍首相の訪中を評価し、「この訪中が日中関係の新たな転換点になることを望む」と結んだ。日本が長年にわたって中国に対してODA援助をしてきたことは、これまで中国人にはあまり知られていなかった。今回打ち切られることを受けてODAを高く評価し、感謝すべきとの声が出るのはこれまでにない傾向である」

     

    日中はこのように、いつまでも譲り合える関係であればベストである。だが、この「互譲精神」はいつまで続くか。中国は、米中貿易戦争がつづく限り日本へ低姿勢でも、その後は分らない。これが、正直なところであろう。ただ、経済的に衰退過程が明らかになれば話は別だ。日本を頼るようになると見る。中国は、不動産バブル崩壊後の過剰債務処理で、国力を使い果たす。日本が、辿った道と同じだ。


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    米中貿易戦争は、互いに「関税弾」を撃ち合ったままで没交渉である。11月末のG20首脳会議に合わせて予定されているトランプ米大統領と習国家主席の首脳会談は、ただ顔合わせする実りないものになるという。

     

    米国の要求は、不公正貿易慣行の是正である。貿易赤字を改善せよと言うレベルの話を超えて、根幹的な問題になっている。中国は、技術窃取戦略が基本であるから、「もう技術泥棒はしません」とも答えられないであろう。解決に時間がかかるはずだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月26日付)は、「米中貿易交渉、手詰まり状態の裏側」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米中交渉は9月半ばから中断されたままになっている。この時は、米国が中国からの輸入品に対する追加関税を発表したことを受け、中国側の交渉団が訪米をキャンセルした。それ以降、中国政府はデービッド・マルパス米財務次官に交渉再開を働きかけるなど、足掛かりを見つけようとしてきた。しかし、米当局者らによると、マルパス氏はホワイトハウス通商チームの意向を受け、中国側が正式な提案を示すまで交渉は再開できないと突き返した。米政府高官は「もし中国が(G20での会合を)意味あるものにしたいと望むなら、下準備が必要だ」と指摘。「彼らが何の情報も提供しないなら、会合が実りあるものになるとは思えない」と述べた」

     

    米国は、11月末のG20での米中首脳会談を成功させたいならば、リストを出せと要求。それがなければ、「会談で実りはない」と言っている。だが、具体案を出せない事情は、次のパラグラフで指摘されている。

     

    (2)「中国側から説明を受けた関係者によると、中国政府にとっては、正式な提案を行うことは多くのリスクをはらんでいる。まず第1に、交渉の手の内を明かしてしまうことになる。そして中国が懸念する第2のリスクは、トランプ氏が中国側のあらゆる譲歩を確定させようとして、どんな内容でもツイートなど通じて明らかにしてしまうことだ。中国側の懸念には歴史的背景がある。中国の世界貿易機関(WTO)加盟交渉が進んでいた1999年、当時のクリントン大統領は朱鎔基首相の提案を拒否した。この提案には、大幅な譲歩と中国経済の再編が盛り込まれていた。クリントン政権は中国側が後戻りするのを防ごうと、この提案内容を公表した。しかし、代わりに起きたことは、中国国内の強硬派による朱鎔基氏のつるし上げだった。そして、最初の提案と似た内容の合意を中国に受け入れさせることができたのは、それから何カ月も後のことだった」

     

    中国が、具体案を出せない理由として二つあげている。

       交渉の手の内を明かしてしまうことになる。

       トランプ氏が、どんな内容でもツイートで明らかにしてしまう。

     

    トランプ氏の「ツイッター魔」が、ここでは交渉の障害に上げられている。確かに、トランプ氏のツイッターは強烈である。交渉上で障害になっているとは初めて聞く。

     

    中国が、いろいろと理由を挙げ具体案提示を保留している。まだ、厳しい局面にまで達していないことの反映であろう。背に腹はかえられない事態になれば、黙って動き出す。来年に入らなければ、具体的な行動に出ないのであろうか。


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    あの強面の習近平国家主席が、安倍首相との晩餐会で本音をポロリ。人間の距離を縮めるには、やっぱり一緒に食事をすることが最も大切という常識を証明した。

     

    26日夜、北京の釣魚台迎賓館。首脳会談を終えた安倍首相と習氏は初めての夕食会に臨んだ。「自民党総裁の3選、おめでとうございます」。習氏はまず安倍首相の勝利に祝意を示した。「中国の共産党員は約9000万人いるんです」。習氏が自民党総裁選に絡み、共産党の話題を持ち出した。安倍首相は「そうなんですか。自民党は約100万人ですよ」と返答。夕食会は、両首脳が互いの政党事情を話し合う異例の融和ムードで始まった。日本経済新聞(10月28日付)が伝えた。

     

    この記事には、続きがある。

     

    「米中の貿易戦争に話題が移ると習氏の表情はとたんに険しさを帯びた。「米国一極の体制には反対だ」。習氏は米国が各国と貿易交渉し、関税を含めた米の要求をのませる現状に強い不満を示した。習氏は自由貿易体制を尊重すべきだとの考えを安倍首相に重ねて訴えた。習氏の念頭には日米首脳の蜜月関係があった。「トランプ大統領は習主席のことを信頼していますよ」。安倍首相はこう切り返した。トランプ氏は貿易問題を巡って中国に圧力を強めるものの、習氏への批判は控えめだ。安倍首相は「米中でもっと対話をしてもらわないと世界経済にとってよくない」とも指摘した」

     

    習氏が、「米国一極の体制には反対だ」と不満を述べたという。中国にとっては、米国からの矢継ぎ早な「攻撃」に音を上げていることが伝わってくる。習氏は、米国への対抗策として、毛沢東張りに「自力更生」を訴えており、米中貿易戦争を「国難」と受け取っているようだ。中国が、覇権国・米国の圧倒的な圧力に翻弄されている姿を見ると、やはり中国の「覇権国宣言」は早すぎたというほかない、鄧小平の言った「韜光養晦」(とうこうようかいという言葉の重みをひしひしと感じているだろう。「大言壮語」が早すぎた。


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    10月30日、韓国大法院(最高裁判所)から戦時中に日本で働いた韓国人徴用工の個人賠償問題の判決が下される。仮に、個人賠償を認める判決が出れば、日韓請求権協定(1965年)で、「個人に賠償金を支払うよりも国が一括で受けるのがよい」という解釈に反する。日本としては、絶対に受入れられぬとして強い対応を取るものと見られる。国際司法裁判所(ICJ)への提訴が検討されている。この場で、「韓国が国家間の協定を守らない」として国際的なキャンペーンを行なうとみられる。

     

    韓国の文在寅大統領は昨年8月、韓国人徴用工の個人請求権が日韓請求権協定でも消えていないとの認識を示して以来、日本では韓国大法院の判決を注目している。韓国では、大統領の意向が司法に影響を与えるからだ。盧武鉉政権は、日韓請求権協定に徴用工問題も含まれているとの政府見解をまとめている。文氏はそれにかかわった。文大統領の前記発言が、日本側には「二重」の意味での合意破りに映っている。昨年8月、文在寅大統領発言に対しては、次のように報じられていた。

     

    『日本経済新聞』(2017年8月18日付)で、「韓国不信、徴用工問題、増幅する懸念」と題する記事を掲載していた。

     

    (1)「日本政府は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が徴用工を巡る個人の請求権は消えていないとの認識を示したことについて、『請求権問題は完全かつ最終的に解決済みだ』(政府高官)との立場を崩していない。日韓合意を踏まえた従軍慰安婦像の移転にメドがたたない中での新たな問題提起に、日本政府内では『またか』との不快感が広がる。徴用工は従軍慰安婦よりはるかに数が多く、『巨額の賠償請求が発生しかねず日韓関係を根本から揺さぶりかねない』(日本政府関係者)と警戒する。首相周辺は「北朝鮮情勢で連携せざるを得ないのをいいことに、韓国側は日本側の足元をみているのではないか」との不快感を示した」

     

    文大統領が、韓国で係争中の問題である徴用工の個人賠償問題に言及したことは、司法への「政治不介入」という原則を逸脱している。その意味で、日本の不信を買っている。対象者が多いだけに、日本企業に巨額賠償が発生する恐れも大きい。本来なら、韓国政府が個人賠償で支払わなければならない金銭を、自らがインフラ投資に使っており、日本としては「二重払い」という不当な事態になりかねない。日本政府が、その違法性を国際司法裁判所へ訴えるのは当然である。

     

    『中央日報』(10月20日付)は、「韓日関係『雷管』の強制徴用、30日に大法院判決」と題する記事を掲載した。問題の経緯は、この記事で分る。

     

    (2)「韓日関係の「雷管」と見なされてきた、日帝強制徴用をめぐる損害賠償請求訴訟の最終審の判決が30日に下される。(原告の)ヨさんら4人は1941~43年に旧日本製鉄側の懐柔で日本に渡ったが、大阪などで自由を剥奪されたままきつい労役に苦しめられ、賃金までまともに受けることができなかったとして、1997年に日本の裁判所に損害賠償訴訟を起こして敗訴した。この判決は2003年に日本の最高裁判所で確定した。その後、韓国国内でも提起された訴訟は1、2審の棄却(2007-09年)→大法院の破棄・差し戻し(2012年)→控訴審の賠償判決(2013年)を経て今年、大法院全員合議体に回付された。この過程で韓国外交部は「1965年の韓日請求権協定締結以降、個人請求権問題は解決した」という立場を堅持した」

     

    原告は、1997年に日本の裁判所に損害賠償訴訟を起こして敗訴した。この判決は2003年に日本の最高裁判所で確定したもの。韓国外交部も、「1965年の韓日請求権協定締結以降、個人請求権問題は解決した」という立場を堅持している。つまり、日韓協定の韓国側当事者(外交部)が、個人請求権問題は解決済みとしている問題だ。もし、韓国大法院が、個人請求権を認める判決を下さすとすれば、その賠償金をすでに受領した韓国政府が、原告に支払うべきもの。韓国の国内問題の請求権を、日本に再請求するのは不当な判決となろう。

     

    (3)「2013年に賠償判決が出ると、日本政府と経済団体が強く反発した。ほぼ同じ時期、朴槿恵(パク・クネ)政権が梁承泰(ヤン・スンテ)司法府と訴訟動向について議論したことをめぐり、検察が最近「司法取引疑惑」として捜査している。日本の菅義偉官房長官は19日、「訴訟中の事案なので政府レベルのコメントを避けたい」としながらも「日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済み」と述べた。大法院で賠償判決が確定する場合、日本が国際司法裁判所に提訴するなど強く反発するのは確実で、両国関係が急速に冷え込むと予想される」

     

    韓国メディアは、韓国大法院の判決しだいで、日本が国際司法裁判所に提訴するのは確実と見ている。慰安婦問題に続き再び徴用工の賠償問題が、日韓関係のトゲになる。これからも日韓の不幸な時代が続くのだろう。韓国経済が大きく傾いている現在、日本はただ傍観して「沈没」を見るほかない。韓国にとっての文政権は、吉となるのか凶になるのか。その分水嶺に来ている。

     


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    笛や太鼓の賑わいであった日中首脳会談が終わった。中国は、日本から沢山の「土産」を貰って満ち足りた気持ちに違いない。「してやったり」とニンマリしているかも知れないが、そう簡単に日本を「料理」できるはずがない。

     

    中国は今後、日本に見せるべき誠意は二つある。一つは、「反日教育」と「反日ドラマ」の扱いをどうするのか。中国政府が、「競争から協調へ」という安倍首相の呼びかけに応じた。この手前、「反日教育」や「反日ドラマ」は中止せざるを得ない立場のはず。これまでと同様に、「軍国主義日本」、「帝国主義日本」の旗を揚げ続けるのか。

     

    もう一つは、尖閣諸島周辺に中国公船を浮遊させて、日本をけん制するのか。中国は、この問題で日本側に中止という「確約」しなかったようである。もしそうだとすれば、今回の日中首脳会談は、日本から経済的な土産が欲しくて行なった「演出」と非難されても仕方あるまい。

     

    中国の「反日教育」で育ってきた「愛国青年」は、訪日中国人観光客から聞く日本情報で、心が揺らいでいるという。

     

    『サーチナー』(10月27日付)は、「訪日経験がないが、耳に入ってくる噂で日本と中国の差は大きいと知った」と題する記事を掲載した。

     

    中国メディアの『今日頭条』(10月22日付)は、「自分の身近な知人が見て来た日本と中国との差は、決してほんのわずかではなかった」と主張する記事を掲載した。

    「歴史的な背景と反日教育ゆえに、中国人の大半は日本に対して良い感情は抱いていないと言われる。しかし、自分は日本に行こうと思わなくても、身近な人が日本に行き、日本で経験したことを耳にする機会が増えているようで、「習慣の違いを知ると面白おかしくもあるが、やはり日本と中国の差は大きい」とも感じるようだ」

    「たとえば、道路を渡ろうとする時「中国では歩行者が車に道を譲るのが普通だが、日本では車が歩行者に道を譲るのが普通」と指摘した。中国人が日本で道を渡る時に、中国と同じように車が通りすぎるのを待っていたところ、ドライバーはかなり手前で停車してくれたが、「とっさに意味が分からず、数秒見つめ合ってから、我に返り急いで道を渡った」という。他にも、日本の高速道路のサービスエリアを使用して「中国のトイレは汚くて臭いが、日本のトイレはまるでホテルのように清潔だった」と驚くと伝えた」

     

    「また、「中国人は手厚い見送りをされても何も答えないが、日本人は皆お礼を言う」と指摘した。これは、中国の高級な店で従業員に手厚く見送られても、それは「客として当然受けるものとして、その形式的な挨拶に答える馬鹿はいない」と考えられているためという。それで、日本でバス移動する際、旅館のスタッフに見送りを受けても、下車の際にバスの運転手から「お気をつけて」と声を掛けられても、「中国人はどのように応じて良いか分からない」のだという」

     

    「さらに、「中国の地下鉄は市場のような賑やかさで、皆は気にせず飲食や会話をするが、日本の地下鉄は病院の待合室のように静かで、秩序があった」と感じるそうだ。中国でラッシュ時の電車に乗ると、乗客が食べる肉まんや薄焼きのネギやニラの臭いがするのとは大きな違いだと述べた。このように、日本へ行った中国人が絶えず日本の様子を語るのを聞いて、日本を訪れたことのない中国人ですら、「日本の文化や習慣には学ぶ価値のあるものもある」と思うようだ。メディアではなく、口コミを通じて見る日本は中国人にとって面白くもあり、恐ろしくもあったようだ」

     

    以上のような、日本情報があらゆるメディアで日常的に流れてくると、中国政府の「反日教育」は、ウソであることがばれるであろう。それでも「日本悪玉論」を流し続けるのか。日本政府は、実態を監視して違反していれば、「約束違反」を追求すべきだろう。


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