勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年11月


    中国100都市の中古住宅相場が下落している。この影響は、新築住宅相場に反映されているはず。当局は、価格コントロールの成果と強調しているが、投機が減っている結果であろう。米中貿易戦争というこれまでにない経済的な重圧がかかっているので、投機好きの中国市民も慎重になってきたのだ。

     

    『人民網』(11月28日付)は、「中国の重点都市6割で中古住宅価格低下、一線都市は三四線都市の5倍」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国不動産市場は調整コントロール政策が引き続き実施される中、住宅価格の低下傾向がますます明らかになっている。諸葛找房データ研究センターがこのほど発表した『百都市中古住宅平均価格報告』によると、11月19〜25日の1週間には、全国100都市の中古住宅表示価格の平均価格が1平方メートルあたり1万5341元(1元は約16.4円)となり、前週比0.18%低下した。価格が低下した都市は57都市あり、平均低下幅は0.55%だった」

     

    中古住宅相場は、新築住宅相場と同じ動きをするはずだ。その意味で、中古住宅相場の低下は注目すべきである。

     

    (2)「中国社会科学院財経戦略研究院の住宅ビッグデータプロジェクトチーム、住宅ビッグデータ共同実験室はこのほど、「中国住宅市場発展月間分析報告(201811月)」を発表した。それによると、10月には全国の不動産市場の「体温」が全体として低下し、一線都市、二線都市、三線都市、四線都市のいずれも安定の中で低下したという。同分析報告は、「中国共産党中央政治局が会議で不動産価格の上昇を断固として抑制する調整を行うと決定した後、不動産価格上昇への期待感に目立った変化が現れた。市場では様子見のムードが強まり、投資・投機への意欲が低下した。中央政府の不動産価格の上昇抑制の決意には変化がなく、『住宅の投機を抑制する』方針も各方面でより着実に実施されている」との見方を示した」

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    月には全国の不動産市場の「体温」が全体として低下し、一線都市、二線都市、三線都市、四線都市のいずれも安定の中で低下したという。市場では様子見のムードが強まり、投資・投機への意欲が低下した。これまで、政府の対策が功を奏さなかったのは、需要が強かった結果だ。金融の超緩和が続いているなかで、政府の政策を信ずる者はいるはずがない。現在は、様相が一変している。「信用収縮」が起こっており、中古住宅でも値上がり期待で購入する層が減ったのだ。ようやく、「脱バブル化」現象が始ったと見られる。


    文在寅政権を支える大企業労組は、「労働貴族」と呼ばれている。生産性を上回る高賃金を要求して強烈なストを打つからだ。企業が根負けして、最後は折れるという結果が、大企業賃金が先進国一という異常事態を招いている。

     

    これでは、大企業従業員が定年後、自分の家族を入社させる「雇用世襲制」の廃止に抵抗するはずである。この身勝手さは、大企業労組だけの現象でない。ありとあらゆる場所に見られるのだ。私はこれを「氏族制の名残」と呼んでいる。自分の身内だけが幸せになれば良い。そのために、他の集団に対しては、徹底的な差別化行動をとる。

     

    現政府も同じである。革新派の身内には超法規的な振る舞いを許す。北朝鮮は、文政権にとって金日成の「チュチェ思想」でつながり身内である。だが、国内の保守派は敵である。だから「積弊一掃」の名の下に、大統領経験者でも獄窓へつなぐことを平気で行なう。バランス感覚が著しく欠けた国家である。

     

    『朝鮮日報』(11月28日付)は、「韓国大企業労組、雇用世襲是正要求を拒否」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「労働組合員の子女に働き口を引き継ぐいわゆる『雇用世襲』を規定した大企業の団体協約を巡り、韓国政府は是正を求めたが、多くの大企業労組がそれを拒否していることが分かった。韓国雇用労働部(省に相当)などによると、国会の国政監査では先月、大企業の労使が定年退職者の子女を優先採用する内容の団体協約を維持している点が論議を呼んだ」

     

    日本でも、過去には存在した。従業員の会社への忠誠心と、会社の従業員への恩顧という持ちつ持たれつの関係が成り立っていた。韓国の場合、会社への忠誠心はゼロどころか、敵対意識で臨んでいる。「チュチェ思想」に毒されており、企業は敵という認識である。それでも、労組が「雇用世襲制」を守りたいのは、自分たちの利益だけ守れば良い。そういう「氏族制の名残」であろう。

     

    (2)「これに対し、一部企業は直ちに問題の団体協約を破棄するか、地方自治体が是正措置を下したが、現代自動車、ロッテ精密化学、錦湖タイヤ、ST重工業、斗山メカテック、現代ロテムの6社はいかなる措置も取っておらず、政府は11月中旬まで団体協約を改正するよう求めていた。しかし、期限内に団体協約を修正したか、政府に修正すると通知した労組は皆無だった。現代自はこのほど、臨時代議員大会を開き、来年の団体協約交渉で組合員子女の優先採用条項を削除する方針を決めたとされるが、政府には通告されていない状態だ」

     

    「労働貴族」の象徴的な存在は、現代自動車労組である。会社側は、この「労働貴族」によって食い物にされているが、「雇用世襲制」を破棄しないでいる。労組の報復を恐れているのであろう。これで、現代自動車が立ち直れるであろうか。多くの疑問点を残している。


    中国の崔天凱・駐米大使は27日、ロイターとのインタビューで、米国内の強硬派が両国経済の分断を試みれば、悲惨な結果を招くと警告。中国は現在の難局を交渉で解決することを望み、模索してきたと説明した。

     

    崔天凱氏といえば、「一言居士」の大使である。およそ外交官に似つかわしくない発言をしてきた。米中貿易戦争の当初は、勇ましく「徹底抗戦」を打ち上げ、「米国債売却」も口にしてきた人物である。それがどうであろう、ここまで大人しくなって、交渉妥結を熱望する発言をするにいたった。中国経済の苦悩ぶりを浮き彫りにしている。

     

    『ロイター』(11月28日付)は、「米強硬派が米中経済の分断試みれば悲惨な結果にー中国大使」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「大使は、『双方の懸念に対し均衡の取れた姿勢で臨むことが、交渉による貿易問題解決の鍵だと確信している。率直に言って、これまでのところ米側はわれわれの懸念に対する十分な反応を示していない』と指摘。『一方が複数の要求を示し、他方がすべてを満たすだけという状況は受け入れられない』。一方、米国との貿易摩擦において、中国政府が保有する米国債を武器として使うことを真剣に検討しているとは思わない、と語った」

     

    ここでの大使発言は、米中貿易戦争の「本質」を棚上げして単なる「交渉」に歪曲している。本質は、不正貿易慣行の是正である。その意思が中国にあるのかないのか。それが問われている。過去のケースでは、「本質」を解決せず「交渉」レベルにして、米国が中国に騙された経緯がある。米国が二度も騙されるはずがない。中国は、「本質」について真面目に対応することだ。

     

    (2)「中国は米中貿易摩擦が悪化した場合、保有する米国債の売却や購入削減を検討するかとの質問に対して大使は『われわれは世界の市場で金融不安定を引き起こしたくない。これは非常に危険で、火遊びのようなものだ』と説明した。『中国政府でこれを真剣に検討している人はいないと思う。そんなことは逆効果になる可能性がある』。大使は、中国の米国債保有状況は両国の経済的な相互依存を示しており、その関係を解くことはほぼ不可能で危険だと指摘した」

     

    中国の対抗手段として、米国債の売却が話題に上がってきた。崔天凱大使が、その先頭を切って発言したもの。彼は、かなり直情径行的な性格のようにお見受けする。経済問題に疎いから、あのような不用意な発言をしたのだろう。私は、この発言の非現実性をすぐに論じてきた。9月末時点の中国の米国債保有は、1兆1500億ドル相当で減少している。人民元安を食い止めるべく、介入資金を得るために米国債を売却せざるを得なかったはずだ。外貨準備高の貴重な柱が米国債である。「宝物」を感情にまかせて売れるはずがない。



    中国外務省は、今週の20カ国・地域(G20)首脳会合に際して計画されているトランプ米大統領と習近平中国国家主席との会談で、前向きな結果を出せるよう取り組むことを米国に呼び掛けた。

     

    ドナルド・トランプ米大統領は、2000億ドル相当の中国輸入品に対する関税率を予定通り25%に引き上げるとの考えを示した。今週末に中国の習近平国家主席との首脳会談を控えているが、税率引き上げの凍結を求める中国側の要求に応じる可能性は「極めて低い」と見ている結果だ。

     

    中国が追いすがり、米国がこれを振り払う構図になっている。米国は、中国の不公正貿易慣行の是正が第一であると迫っている。だが、中国はこれにまともに答えず「時間稼ぎ」をしようという意図がはっきり。

     

    1992年にも、現在と同じような米中貿易摩擦が起っていた。当時の事情は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)が、次のように報じている。

     

    「米国は、関税の引上げの対抗措置を取ろうとした。だが、中国の泣きつく姿に免じて、関税引上げを見送った。92年の合意当時の楽観論は、すぐに失望に変わった。米会計検査院(GAO)の報告によれば、その後3年も経ずに米産業界は『深刻かつ、とどまる所を知らない』中国からの知的財産の侵害に直面した。会計検査院は、『米産業界、特に著作権業界の代表らは、作品の著作権に関する広範な侵害が起きており、それに対処する手段は不十分だと訴えている』と報告した」。つまり、米国は中国に一杯食わされたのだ。

     

    こういう、中国のだまし討ちにあっている米国が、再び中国の口車に乗る可能性は低いようだ。

     

    『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「中国、米に首脳会議で結果出すよう呼び掛けー電話会談の合意に立脚し」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国外務省は、今週の20カ国・地域(G20)首脳会合に際して計画されているトランプ米大統領と習近平中国国家主席との会談で前向きな結果を出せるよう取り組むことを米国に呼び掛けた。米中のチームは、両首脳が「相互に受け入れられる案」に達することで一致した11月1日の電話会談に立脚し成果を積み上げるよう作業していると、中国外務省の耿爽報道官が記者会見で述べた。耿報道官は詳細には触れなかった。耿報道官は「首脳会談は目前に迫っている」とし、「米国が両首脳の電話会談内容の精神を順守かつ実践し、首脳会談が前向きな結果を確実に生み出すよう取り組んでくれることを望む」と述べた」

     

    米国は、この中国の呼びかけをどのような気持ちで聞いただろうか。「信ずるにたる証拠を出せ」ということだろうか。



    日産自動車会長だったカルロス・ゴーン氏の逮捕劇は、フランスと日本の感触において随分と異なるようだ。日本では、重大な犯罪行為と見るのに対して、フランスは微罪という印象だという。むしろ、日本側がゴーン氏を追放するべく、日産と司法がグルになっているというのだ。

     

    フランス側が、ゴーン氏を擁護しようという背景には次のような点が見られる。

     

    第一は、捜査資料が開示されていないことや、被疑者に対する捜査手法の日仏の違いである。日本は、弁護士の同席を認めずに取り調べるが、フランスでは弁護士同席で取り調べる。勾留期間は日本が20日間、フランスが4日間など大きな違いがある。どちらが正しく、どちらが悪いという問題でなく、日仏には相違点があることを知らせる必要がある。

     

    第二は、ゴーン氏が日産の経費で自分の支出すべき費用を賄った、特別背任問題である。フランス側は、これを微罪と見ている裏に、倫理感=コーポレートガバナンスの欠如を感じる。この問題を遡ると、カソリックと武士道という倫理感に辿り着く。中世カソリックには、免罪符という形が存在した。罪を金銭で贖(あがな)うことだ。これがプロテスタントから重大視され、宗教改革が起ったことはよく知られている。

     

    日本は武士道である。武士は田畑の所有を禁じられていたように、「清廉潔白」が求められている。その点では、プロテスタントに似通った面がある。武士道では、質素、清廉、神仏への帰依などが奨励された。このように、現代の日本人にもカソリックとは異なる倫理感が脈々と息づいていると言えそうだ。日本人が、ゴーン氏の振る舞いに眉をひそめる裏には、この倫理感の違いがあろう。

     

    第三は、産業政策の違いである。ルノー株の15%はフランス政府の出資である。日本では、政府の企業出資は官営企業の民営化以外に、存在しなくなった。このように、日仏の産業政策には隔たりがある。フランス政府は、ルノーに日産を吸収合併させ、日産をフランス企業に衣替えさせる「野望」を持っている。日本の資産(技術と資本)が、フランスに持ち去れるような話だ。これは、日産という枠を超えて、日本経済の損失問題になる。

     

    日産の経営が立派に立ち直り、ルノーグループの中核になっている。この状態で、ルノーが出資比率45%を盾にして、乗っ取るようなことは阻止しなければならない。


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