勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2018年11月


    中国経済は、不動産価格と一蓮托生の運命である。土地は国有である。地方財政のカギは、不動産価格が握るという異常構造である。孫文は『三民主義』で土地の民有制度を守り、地価値上がり分を税金で吸い上げる方法を提案した。毛沢東は、いきなり土地の国有化を断行した。

     

    中国の長い歴史では、土地の私有と公有の両制度が繰り返し行なわれてきた、私有にするとそれが行き過ぎて所有の集中化をもたらす。公有化にするとこれも行き過ぎて耕作の荒廃をもたらす。この繰り返しであった。今は、国有制で官製の不動産バブルを引き起こしている。土地が、「打ちでの小槌」になっているのだ。孫文の政策が、私有と公有の折衷案で最も優れていた。

     

    『レコードチャイナ』(11月25日付)は、「中国各省の経済、不動産への依存率ランキング」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国メディア『中新経緯』(11月24日付)は、2018年19月の中国全31省(含、中央直轄市、民族自治区)GDPに対する『不動産業投資依存度ランキング』を発表した。海南省が34%と圧倒的に高く、上海市・北京市・広東省など経済先進地では15%台前半と、相対的に高くないことが分かった。以下に、そのランキングを示す。
    海南省34%

    安徽省22%

    重慶市21%

    雲南省19%

    浙江省19%。
    広東省15%

    上海市12%

    北京市12%」

     

    地域GDPに占める不動産投資額の大きさに愕然とする。31省のうち21省で不動産依存率が10%~19%と極めて高いのだ。不動産業の資金繰りが悪化している現在、デフォルトを起こせば、地方経済は大きな影響を受ける。こういう歪な経済構造をつくり上げてしまい、ここからの脱却には大きなコストを払うことになろう。

     

    (2)「31省のうち21省で不動産依存率が10%~19%の範囲だった。北京市と上海市の不動産依存率については、北京市では今後5年内に賃貸住宅50万戸を建設し、上海市には2020年までに賃貸住宅70万戸を建設するなどで、市の状況に合致する住宅事情を実現する計画がある。中原地産で首席アナリストを務める張大偉氏は、北京市と上海市のGDPにおける不動産投資額の割合は、住宅建設などで短期的にはやや上昇するが、長期的には下降するはずだとの見方を示した」

    北京や上海では、賃貸住宅を建設してGDPを押上げる計画である。あくまでも不動産依存経済を続ける意向だ。不動産に取り憑かれた産業構造だが、家計債務の視点から言えば、もはや限界を超えている。そこで、賃貸住宅建設に切り替えるのだろう。そうなれば、不動産開発会社の採算は悪化する。いずれにしても、悪あがきから目を覚ますべきである。

     



    月末の米中首脳会談の行方が注目されている。貿易戦争は「一時休戦」して交渉を続けるのかどうか。政府系シンクタンクの中国社会科学院のニュースサービスが24日、人民大学がまとめた経済報告書を公表した。それによると、仮に米国との貿易摩擦が解消されたとしても、中国は依然として世界的な貿易環境の悪化や輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面すると警鐘を鳴らした。

     中国社会科学院という権威ある機関が、中国人民大学エコノミストの経済報告書を公表した意味を考える必要がある。中国社会科学院に代わって、中国人民大学が間接的に発表したとも受け取れるのだ。そういう前提で、これを読むといくつかの謎が解ける。 

    『ロイター』(11月25日付)は、「中国成長率、19年は6.3%に減速ー人民大学エコノミスト」と題する記事を掲載した。

    (1)「中国人民大学のエコノミストは、2018年の中国の経済成長率が6.6%となり、19年は6.3%に減速するとの見通しを示した。貿易や構造改革に絡む課題が重石となる。ただ、人民大学のエコノミストは、仮に米国との貿易摩擦が解消されたとしても、中国は依然として世界的な貿易環境の悪化や輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面すると警鐘を鳴らした」

    今年の経済成長率は6.6%、来年は6.3%と予測しているが、貿易戦争の影響は計算に入っていないようだ。米中対立を除いても、かなり悲観的に見ている点が特色である。「輸出の伸びの鈍化、人民元の下落などの課題に直面する」としている。貿易収支の悪化による人民元下落を想定していることに注目すべきである。実は、来年の経常収支赤字転落は決定的である。多くの人は、これに気付いていないが要注意である。


    (2)「現在、中国で高まっている景気の下押し圧力を短期的な措置で軽減することは難しいと指摘し、当局が最近発表した政策によって来年の深刻な成長鈍化は回避されるものの、供給サイドの新たな構造改革が必要だとの見方を示した。報告書では、中国経済の再編や、より緩やかで質の高い成長に向けた長期的な転換にとって、2019年が重要な年になると指摘。19年には貿易の不均衡も是正される見通しで、輸入の伸びは18年の6.1%に対し、19年は16.1%に加速するとの見方を示した。執筆者の1人は、今後は投資よりも国民の貯蓄率低下と国内消費の促進が経済発展の重要な要素になると指摘した」 

    「景気の下押し圧力を短期的な措置で軽減することは難しい」とも指摘している。これは、不動産バブル崩壊の後遺症を指している。現在の市中金利の高騰は、信用崩壊の結果である。「輸入の伸びは18年の6.1%に対し、19年は16.1%に加速する」としている。輸入が3倍近い伸び率になることは、前のパラグラフで輸出延び悩みという指摘と合わせれば、来年は大幅な貿易赤字になると予告するもの。「2019年が重要な年になる」と言うのは、中国経済の転機を意味する。要するに、人民元相場が1ドル=7元を大きく割り込むという想定が隠されている。中国経済の輝きが、完全に消えるのだ。そのシグナルを発しているように思える。



    韓国の国立外交院とは、韓国外交部(外務省)の直轄である。その元トップが、朝鮮日報に安倍首相礼賛論文を書いたことは驚きである。

     

    韓国経済危機の理由が、安倍首相と真逆の政策を行っている文政権の執権姿勢にあると分析している。韓国で日本を褒めることはタブーである。その危険を冒してまでも書かざるを得ないほど、韓国経済の危機が迫っているということであろう。

     

    『朝鮮日報』(11月25日付)は、「文在寅政権は安倍首相の成功に学べ」と題する寄稿を掲載した。筆者は、尹徳敏(ユン・ドクミン)韓国外国語大学客員教授・元国立外交院長である。

     

    (1)「安倍首相が再び登場した。07年に政権を執ってから1年で存在感もなく退いたため、誰もが再び政権を執るとは予想していなかったし、期待もしていなかった。だが、12年末に再び政権を執った安倍首相は別人になったかのように強力なリーダーシップで危機を克服した。低迷していた経済は息を吹き返し、株価は2.4倍に上がり、企業実績はバブル期に匹敵するほど大幅に改善した。有効求人倍率1.43倍というほど失業率は下がり、空前の求人難となっている。11年に韓国より少ない622万人だった訪日外国人観光客は、6年で3倍以上増えて昨年2600万人に達した。韓国の方が進んでいた幹細胞分野でも、数多くの韓国人が幹細胞治療のため日本に行くようになるほど規制がなくなった。バイオ・人工知能・自動運転車といった第4次産業革命で、日本企業は韓国の先を進んでいる。今では東京でタクシーをつかまえることも、ホテルを予約することも難しい」

     

    安倍首相が、最初の政権を離れて5年間、再起を期して行なうべき政策をノートに書き記していたという。普通、政権復帰は不可能だ。それを可能にさせたのは、安倍首相の「人柄」と言われている。世論調査では、不支持の理由として「人柄が信用できない」がトップだが、それはTVのつくり出したイメージ。「生の安倍晋三」は、信義に厚い人物という。それが、彼を再度、政権に押上げた最大の理由と見られる。

     

    (2)「韓国メディアでは、『極右性向の安倍首相は憲法改正により軍国主義復活を推進している』という報道が主流をなしている。修正主義的歴史観を持つ安倍首相は時折、韓国と摩擦を起こすが、政権を執ってからの6年間、憲法改正はなかった。日本の軍事費は中国の5分の1程度で、このまま行けば数年以内に韓国の軍事費の方が日本を追い越す見通しだ。我々は安倍首相のことを客観視しなければならない」

     

    保守党が、革新政党と根本的に異なる点は憲法改正論であろう。すべての政策が同じ主張であれば、政党は一つで足りるはずだ。それは、中国のような専制国家の話で、民主国家であれば複数政党が存在して政策が異なるのは当然だ。自民党が、共産党と政策が異なるのは自然な話である。安倍首相を「極右性向」と呼ぶならば、安倍首相支持で投票した国民は、すべて極右性向になる。こういうレッテル貼りの虚しさを知るべきだ。

     

    (3)「(在野の)5年間にわたり切歯扼腕(やくわん)した末『「問題は経済にある」という点に気付いた。再び首相になった時、全国民が共感できる不況脱出のための具体的な政策を掲げた。そして、「金融の大胆な量的緩和」「積極的な財政拡大」「成長戦略」という3本の矢に焦点当てた経済政策「アベノミクス」を推進した。専門家はアベノミクスに否定的だったが、安倍首相は確信を持って一貫してこれを貫き通し、凍りついていた市場はついに動き出した」

     

    ここからが、韓国の文政権を念頭にした主張が展開される。政治の基本は、安定的な経済発展にあることを、安倍首相が在野時代の5年間に学んだことである。前述の「ノート」は夫人にも見せないというが、経済問題の解決策が上げられていたはずだ。アベノミクス批判論が絶えない。あの政策の根本は、ノーベル経済学賞に輝いたミルトン・フリードマンの学説にある。それを実行したものだ。極めてオーソドックスな政策である。フリードマンは、通貨政策を最も重視し、規制を緩和して自由に競争させることを理論化して経済学者である。

     

    (4)「国政で中核である経済と外交の司令塔役を一時、自身の政治的ライバルに任せた。総裁選挙時のライバルだった麻生太郎元首相を副総理兼財務大臣に、相手派閥のトップである岸田文雄氏を外務大臣に、それぞれ起用したのだ」

     

    自民党は、右から左まで様々な主張が存在する。だが、根底は自由と民主主義の発展であろう。「政敵」でも握手は可能だ。ただ、感情的なもつれがあれば、それは不可能である。

     

    (5)「安倍首相はエリート官僚を重用した。アベノミクスの重要な軸である量的緩和を担った日本銀行総裁に金融官僚出身の黒田東彦氏を、国家安全保障会議(NSC)の事務局である国家安全保障局の局長には元外務次官の谷内正太郎氏を起用した。韓国で言えば、前政権に加担した「積弊」たちだ。うらやましいことに、首相官邸に各省庁の最も有能なエースたちを集め、「アベンジャーズ軍団」を持っているというわけだ」

     

    日本の官僚は、政策マシーンである。政権が右でも左でも適応可能な集団だ。政権に合わせた政策実行メニューを提示する。この政策の立案・実行集団を疎外して失敗したのは小沢一郎の指揮した民主党政権である。いまの文政権と同じことをやって失敗したのは当然。文氏は、意外と小沢一郎氏に似ているように思える。

     

     



    米中首脳会談は、あと1週間以内に迫ってきた。トランプ大統領は例によって、中国を揺さぶっている。翻弄され続けている中国が、いかなる対案を出してくるのか。大勝負がかかった一番となってきた。

     

    米国は、中国を袋小路に追い込むように、これまで打てる手はすべて打った感じだ。①副大統領による「新冷戦宣言」、②14種類のハイテク技術の輸出規制案、③通商法301条に照らした改善行為はゼロで実行する意思もない、④ハッカー実態調査で精華大学が関与など、詳細に取り上げている。

     

    米国は、ここまで中国を追い込みながら、中国の反応を見ている。中国はどのように対応するのか。メンツにこだわって徹底抗戦の道を選べば、中国経済はその時点で異次元の世界へ飛び込むにちがいない。米国の財務長官経験者は、その場合、米国にも類が及ぶから、その一歩手前でブレーキをかけるように働きかけている。その窓口が、財務長官のムニューシン氏である。この動きに、トランプ大統領はご立腹と報じられた。

     

    『共同』(11月24日付)は、「米財務長官に不満か、トランプ氏、株安と対中国」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル電子版』は23日、トランプ米大統領がムニューシン財務長官に不満を抱いていると報じた。最近の株安と中国に対する通商政策で融和的な姿勢なのが原因という。トランプ氏は中間選挙後の記者会見で閣僚の一部交代を検討する考えを示し、セッションズ司法長官を解任した。ただ、同紙は『不満はムニューシン氏の解任を必ずしも意味しない』と分析している」

     

    トランプ大統領は、ムニューシン氏が対中政策において融和的であるとして批判的だという。このことは、米中首脳会談が物別れに終わることを意味している。中国は、妥協せずに突っ込むのであろうか。

     

    (2)「トランプ氏は米連邦準備理事会(FRB)の利上げが株価下落の要因とみて、FRB批判を繰り返している。パウエル氏をFRB議長に指名した人事ではムニューシン氏の推薦があった。関係者によると、トランプ氏は『彼(パウエル氏)がそんなに良いのならば、なぜこんなこと(株価下落)が起こるのだ』とムニューシン氏を批判した。ムニューシン氏は対中貿易協議で米側代表として交渉にあたってきたが、政権内では中国に融和的だとして知られる。同氏が会議で『われわれの(強硬な)対中戦略は非常にうまくいっている』と語ったところ、トランプ氏は『“われわれ”とはどういう意味だ』と問い返したという」

     

    トランプ発言は、当意即妙であるから聞く方は面白いが、相手をする者にとっては気が抜けないであろう。安倍首相は、このトランプ氏と気が合うというのだ。トランプ氏との会話では、絶対にトランプ氏の発言を否定せずに先ず賛成すること。その後で、こういう考えはどうでしょうと言えば、聞いて貰えるという。米中首脳会談で、習氏はどのように渡り合うのか。

     



    日産自動車のカルロス・ゴーン会長の不祥事は、日仏政府を巻き込む大きな問題に発展しそうな要因を秘めている。ゴーン氏は、類い希な経営手腕の持ち主であるが、金銭欲と名誉欲が極めて強い、特異の人物とお見受けした。あれだけの所得を得ながら、住宅購入費・改装費はすべて日産負担。家族旅行の費用も日産持ち。『ウォール・ストリート・ジャーナル』によれば、代表取締役のグレッグ・ケリー氏は、米国フロリダに住んでおり毎日、魚釣りに時間を使っている。日産に常駐しなかったという。

     

    聞けば聞くほど驚く話だが、ゴーン氏やケリー氏にとって、日産自動車はどういう位置づけであったのだろうか。単なる、私服を肥やす場所という認識であったとすれば、経営者失格の烙印を押される。ここまで、放置してきた日産自動車の責任も免れない。ゴーン氏には日産を危機から救ってくれたという「恩義」がある。それは、経済的な報酬で十分に報われているはず。合理的に処理すべきだろう。

     

    ゴーン氏の行動について、フランス側は寛容であるようだ。日産側がゴーン氏に報復したとか、ルノーとの提携を解消したために仕組んだとか、いろいろと取り沙汰している。だが、フランス側から企業統治という視点の議論が聞えて来ないのが不思議である。

     

    実は、フランスもゴーン氏の生まれたブラジルもキリスト教であるが、プロテスタントでなくカソリックであることに注目して見た。資本主義経済は、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で、禁欲・節約・質素・信仰という文字が表わすように、資本家=経営者は厳しい自己への問いかけが求められている。

     

    ゴーン氏は、プロテスタントでないのであろう。放縦な生活面も報じられている。経営者としての精神的な則から著しく外れていたことについて、フランス側は何らの反応も見せていない点が気懸りである。ルノー出身の二人の日産取締役は、ゴーン氏の会長解任について合意した。内情が詳細に説明された結果であろう。とすれば、ルノー本社は、この二人の取締役から説明を受ければ、ゴーン氏の行為が、いかに企業統治から外れていたかが分るであろう。

     

    ルノーは、ゴーン氏の行為が企業統治から外れていたことに対していかなる感想をもたらすのか。仮に、日産を非難するような言動があれば、ルノー・日産の提携は一瞬に崩れるような雰囲気が漂っているように感じる。過去20年近く、言いたいことも我慢してきた日産側が、ルノーの無神経な発言をきっかけにバラバラになるように思う。日産は三菱と組めば、技術的には生きられるからだ。

     

    ルノーの利益の半分は、日産が貢献しているという。ルノーにとっては、これが最大の弱点である。言葉は悪いが、日産に食わせて貰いながら、日産を召し使いのような扱いをすれば、提携関係は空中分解するであろう。従来通の関係を維持するには、出資比率の見直しが不可欠だ。経営主体は、日産が握るという再編成にまで話が進むように思われる。


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