勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年01月

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    米中通商交渉は、ワシントンで行なわれているがどういう結果になるか。中国は、すでに製造業PMI(購買担当者景気指数)が、昨年12月に好不況の分岐ライン50を下回っており、一刻も早く合意にこぎ着けたいところ。1月の製造業PMIも、50を下回ったことが判明した。米国は、中国の足下を見透かしており、ファーウェイを23の罪で起訴するなど中国包囲に向けて万全の体制だ。

     

    『ロイター』(1月31日付)は、「中国製造業PMI、1月は2カ月連続で50割れ、非製造業は加速」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国家統計局が発表した1月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.5と、業況改善・悪化の分かれ目となる50を2カ月連続で下回った。前月の49.4から小幅上昇したものの、節目の50は引き続き割り込んだ。ロイターがまとめたアナリスト予想は49.3だった。政府による経済活動の支援策にもかかわらず、米国との貿易戦争がさらに長引けば、中国は想定を超える大幅な成長鈍化に見舞われる危険があるとの懸念は強まっている

     

    中国政府は、本格的な景気テコ入れを行なう見通しだが、信用機構の収縮という大きな障害が発生している。預金準備率は、リーマンショック時を下回る線まで引下げている。だが、末端まで金融緩和効果が届かない状況だ。信用機構という経済の「心臓」に疾病現象が起っている以上、どうにもならない。

     

    米中貿易戦争にメドがつかない限り、銀行は安心して融資できない事態に陥っている。不良債権発生で、資本の棄捐が大量発生しているからだ。ここまで事態を悪化させながら、米中貿易戦争に突入した習氏の判断ミスである。信用機構が立ち直るまでにはかなりの時間を必要とする。バブル経済崩壊は、こういう事態に耐えることを強制するのだ。日本の例が、それを示している。

     


    (2)「製造業PMIの内訳を見ると、指数の悪化は、今後の動向を示唆する新規受注の減少が要因であることが分かる。政府は支援策強化を検討する中、製造業者が雇用削減を継続している点を注視している。新規受注指数は49.6と、昨年12月の49.7から低下。国内外の需要が引き続き弱い中、50を2カ月連続で下回った。新規輸出受注指数は46.9と、8カ月連続で50を下回ったが、12月の46.6は上回った。受注の減少にもかかわらず、生産指数は50.9で、12月の50.8から上昇した。一方、産出指数は12月の50.8から50.9に小幅上昇した

     

    新規受注がなぜ低迷しているのか。発注する側が、過剰在庫を抱えている結果だ。その在庫資金手当てが大きいので金融が逼迫している。在庫をさばくにはどうするか。自転車操業を止めれば良いものの、資金繰り上、それが不可能である。ペダルは、踏み続けなければ自転車が倒れるのと同じ理屈である。

     

    「受注の減少にもかかわらず、生産指数は50.9で、12月の50.8から上昇した。一方、産出指数は12月の50.8から50.9に小幅上昇した」と記事は指摘している。問題は、まさにここにあるのだ。自転車操業の哀しさが、ここに余すところなく描き出されている。中国経済は、倒産を避けるべく最後の「あがき」をしていると見るべきだろう。

     

    (3)「欧州を中心に需要が世界的に低迷していることを踏まえると、米中間の通商協定は中国の輸出のための解決策にはならないと多くのアナリストは指摘している。国際通貨基金(IMF)は先週、世界の経済成長率予想を下方修正し、保護主義の問題を解決できなければ、既に減速している世界経済を一段と不安定にするとの見方を示した。IMFは中国の2019年成長率予想を6.2%に据え置いたが、通商摩擦が長引けば予想を下回る可能性があるとした。中国の成長率は2018年第4・四半期に6.4%を記録したが、19年上期には6%を割り込み、その後年末にかけて安定すると一部のアナリストは指摘する」

     

    IMFによれば、中国の今年の成長率予想は6.2%である。だが、米中貿易戦争が永引けば、さらに悪化すると見ている。中国政府は、6.0%を「マジノ線」にしている。そうしないと、失業率が高まり、社会不安に結びつくからだ。中国政府も追い込まれている。習氏が、「世界覇権」などと余計なことを言わなければ、こういう苦労をすることもなかったであろう。口は、災いの元である、

     

     


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    常に理想を高く掲げて、清廉潔白を売り物にする文在寅大統領に大きな汚点が付いた。文氏が当選した大統領選で不正な情報操作が行なわれ、文候補の支持率を押上げるべくインターネット上での世論操作を支援したという事件だ。

     

    文大統領の腹心とされる金慶洙(キム・ギョンス)慶尚南道知事は、文大統領が当選した2017年の大統領選挙に関する世論操作事件で2年の実刑判決を受けた。金被告が国会議員だった2016年から、不正プログラムを使ったインターネット上の世論工作を元党員に指示し、17年5月の大統領選で文氏に有利になる操作を行ったなどとして、昨年8月に在宅起訴された。地裁は、元党員らの世論工作を金被告が認識し、さらには継続的に承認していたと判断したもの。

     

    この事件は、発覚後の警察の捜査がずさんであったことも問題になっていた。大統領側の圧力か、警察の忖度かは不明だが、この事件をうやむやのうちに葬り去る動きが鮮明であった。韓国司法が、時の権力に対していかに迎合しているかを示す典型例である。昭和初期の日本の警察に見られたような事件である。およそ司法における政治への厳正中立という立場を逸脱したものだった。

     

    さらに驚くべきことは、この事件の裁判官批判をしていることだ。日本であれば、「真摯に受け止め、国民に謝罪する」というコメントが出るのだが、全くそういう気配がない。

     

    与党「共に民主党」は30日、金慶洙氏の一審判決後に次のような批判を発表した。それは、裁判を担当したソン・チャンホ部長判事が、先に逮捕された梁承泰(ヤン・スンテ)元大法院長(最高裁長官に相当)の側近であり、今回の判決がその報復であると言い放ったことだ。

    梁承泰氏は、朴槿惠政権時に元徴用工裁判の判決を遅らせた疑いで、文政権が告発し逮捕させた異例の事件だ。日本で言えば、最高裁長官が政府の要望を受入れて判決時期を遅らせたと疑いで、次期政権が逮捕させたという類いの話だ。

     

    今回の事件の裁判官は元大法院長の側近だから、その報復で金知事へ有罪判決を下したと非難している。こういう理屈は、司法の独立性を著しく損ねるもので、それこそ名誉毀損で訴えるべきものであろう。この事件の裁判官は、朴槿惠氏に有罪判決を下した裁判官でもあった。与党の「共に民主党」は、当時の判決について「名裁判」と賞賛した。今回の判決については、掌返しの非難をしている。自らが不利益を被ったからだ。

    『朝鮮日報』(1月31日付)は、「ドルイドキング、文大統領側近知事の実刑判決に韓国与党『裁判官弾劾推進』」と題する記事を掲載した。

     

    「共に民主党の洪翼杓 (ホン・イクピョ)首席報道官は同日の緊急最高委員会後、記者会見を開き、「司法介入勢力の報復裁判に対して非常に遺憾に思う。我が党は『司法介入勢力・積弊清算対策委員会』を構成するだろう」と語った。さらに、「梁承泰元大法院長の司法介入にかかわっている判事の人的清算が行われなければ司法改革は難しい。法的手続きである(裁判官)弾劾を含むさまざまな方策を考えたい」と述べた」

     

    こういう言い方は良くないが、韓国で起っている問題は、すべて「我田引水」的な論調である。自分は正しい。間違っているのは相手だ。この論法は、儒教の朱子学による「道徳主義」に基づく。これでは、永遠に紛争は続く。自己反省のない道徳主義ほど始末が悪いものはないのだ。日韓関係のもつれも、この身勝手な「道徳主義」に基づく。

     

     


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    アリババの10~12月期の売上高予想は、前年比44%増であった。実際は41%増にとどまり未達である。消費の減速を裏付けて、16年以来の低い伸び率に終わった。

     

    例年11月11日の「独身の日」の豪華セールスは、昨年の売上高が27%増と17年の39%増から減速していた。このことから、10~12月期の売上高減速は予想されていた。それでも44%の予測であったが、それすら下回って中国経済の減速状況を示すことになった。

     

    『ロイター』(1月30日付)は、「アリババ、10~12月売上高が3年ぶりの低い伸び、中国経済減速が打撃」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の電子商取引大手アリババ・グループの第3・四半期(2018年1012月)決算は、中国経済の減速や米中貿易戦争が影を落とし、売上高が2016年以来の低い伸びにとどまった。 41.2%増である。18年1012月の売上高は1172億8000万元(174億7000万ドル)。前年同期の830億元から増えたものの、リフィニティブがまとめたアナリスト予想の1189億元には届かなかった。一方、純利益は33%増の309億6000万元でアナリスト予想を上回った」

     

    10~12月期の売上高が、前年比41%増に止まったことは、過去の伸び率を比較して、やはり「違和感」を持たざるを得ない。一見、4割増は驚異的な増加率であるが、アリババの過去の業績推移では「何か起っている」感じを否めない。個人の所得増加率が伸び悩んでいることと、家計債務の増加が足かせになっているのであろう。

     

    (2)「例年、11月の「独身の日」を含む1012月期は、売上高がもっとも膨らむ時期である。18年の「独身の日」では過去最高の300億ドルを売り上げたものの、前年同期と比較した伸び率は、「独身の日」イベントが始まって以来、最低となった。アップルをはじめ、世界の企業が中国経済減速の打撃を受けている。アリババは、中国都市部の市場飽和の兆しを受け、電子商取引以外に新規顧客を求めており、10~12月期もクラウド・コンピューティングやAI(人工知能)、オンライン・エンターテインメントに積極投資を続けた。クラウド部門の売上高は84%増の66億元。デジタル・エンターテインメントとメディア事業の売上高は20%増の65億元となった」

     

    中国経済は、不動産バブル崩壊後に起こる信用機構問題が、重苦しくのしかかってきた。ただ、中国政府による情報管理で多くの国民は、その実態を知らされずに過ごしているだけであろう。独裁国家というものは、こうやって国民の目を欺いている。この先、アリババの売上がどこまで減速していくか、その推移を見守りたい。国民が、それをいつ知るのか。その点が興味深い。

     

     

     

     


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    華為は米と取引禁止

    金融崩壊と二重衝撃

    中韓経済は双子関係

    韓国GDPは急落へ

     

    米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は1月28日、中国のファーウェイ(華為技術)が23の罪状で起訴されたことに対して、「米国の経済や安全保障に二重の脅威となっている」と指摘しました。米国が、ファーウェイを「敵対視」したことを内外に表明しました。この認識によって、ファーウェイは米国の貿易管理法や国防権限法により排除されます。同時に、米国の同盟国にも同調を呼びかけることは不可避です。

     

    この事件が、目先の中国経済に影響を与えるのは当然で、今後の産業高度化計画に大きな障害になることは明らかです。韓国は、この中国への輸出依存度が高い経済です。中国経済の停滞によって、韓国が相当な影響を受ける関係にあるのです。韓国にとって、ファーウェイ事件が引き起こす中国経済の混乱は、韓国自身の問題に転嫁されるリスクを抱えています。韓国は、こういう認識でファーウェイ問題を捉えるべきだと思います。

     

    華為は米と取引禁止

    先ず、ファーウェイ事件の概要と米国の怒りを見ていきましょう。

     

    今回の事件のポイントは、ファーウェイのイラン制裁違反と企業秘密の窃盗を巡る2つの事件に関したものです。ファーウェイの企業幹部など個人だけでなく、ファーウェイ本社や関連企業の組織ぐるみで犯罪に関与した点にあります。イラン制裁違反では13、企業秘密の窃盗では10に上る罪状で起訴されました。米当局が、ファーウェイを「米国の経済や安全保障に二重の脅威」として位置づけ、新たな包囲網づくりに着手したと言えます。

     

    ファーウェイのイラン制裁違反では、ファーウェイ副会長孟氏の身柄をカナダから米国へ移送しなければなりません。カナダの裁判所が、米国の提示した証拠物件が正当なものか。それが犯罪を立証するものかを判断することになります。実は、FBI(米連邦捜査局)の海外捜査能力は抜群であると指摘されています。

     

    英誌『エコノミスト』(1月19日号)は、「ファーウェイにみる米捜査の威力」と題する記事で次のように指摘しています。

     

    シンガポールからフランスまで各国の汚職担当調査官らは、米汚職担当者らと協力するようになった。その見返りに、企業から取り立てた罰金の一部を受け取っている」と指摘しているのです。各国捜査当局との連携プレーによって、ファーウェイ事件はあぶり出されたものです。綿密な捜査だけに、ファーウェイが逃げ切れ可能性はきわめて低くいようです。

     

    米国では、カナダからファーウェイ副会長の身柄引き渡しを受けて、裁判所が始ります。一方ファーウェイ本社は、すぐにも米輸出管理法と国防権限法に基づき制裁を科されます。イランとの違法取引に関わった中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)と同様の制裁が予想されています。ZTEは、184月に米国企業との取引を禁じられ、経営危機に陥った経緯があります。中国の習近平国家主席が、米国トランプ大統領へ行なった「嘆願」により、米国企業との取引を復活させる代わりに、総額15億ドル(うち4億ドルは供託金)の罰金を科されました。

     

    ファーウェイの場合は、ZTEに比べて悪質過ぎます。社員に技術泥棒を奨励し、特別ボーナスを支給していた、と報道されました。

     

    「ファーウェイの中国本社では、競合他社の機密情報を盗んだ従業員にボーナスを支給する方針を提示するなど全社的に窃盗を奨励していた。特に機密度の高い情報の場合には、暗号化したメールを特別のメールボックスに送付。提出状況を審査し、毎月のボーナス支給を管理していた。年2回のボーナスは最も価値の高い情報を提供した上位3地域に支給された」(『日本経済新聞』1月29日付)

     

    こういう証拠が挙げられた以上、米国がファーウェイに断固たる処罰を加えることは不可避でしょう。つまり、米国企業によるファーウェイとの取引を全面禁止することです。半導体やソフトなどすべての輸出が禁じられます。ファーウェイの次世代通信機「5G」は、米国の半導体とソフトがなければ成り立たないと指摘されています。米国が、ファーウェイとの取引を禁じれば、重大な事態に陥って、中国は「暗黒状態」へ追い込まれます。(続く)

     

     


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    米国は、日韓軍部の対立でいよいよ仲介の労に立つ気配である。韓国国防長官の超強気をなだめるために、韓国外交部の北米局長を在日国連軍司令部が招待するからだ。

     

    韓国外交部のキム・テジン北米局長が30~31日、国連軍司令部の招請で日本を訪問するという。韓国外交部によると、国連軍司令部が招請したのは約1カ月前で、日韓間でのレーダー問題および哨戒機葛藤が浮上してからである。これは、米国の積極的な介入の意図と見られているという。キム局長の訪日には、在韓国の国連軍司令部マーク・ジレット参謀長も同行する。

     

    今回のキム局長の訪日を契機に、日米韓3ヶ国接触の可能性も提起されているという。キム局長は、ハリー・ハリス駐韓米国大使が28日、非公開で康京和(カン・ギョンファ)外交部長官に会った時も同席した。キム局長は、訪日期間中に日本外務省のカウンターパートである鈴木量博北米局長に会う計画であることが分かった。 以上は、『中央日報』(1月29日付)が、伝えたもの。

     

    韓国外交部の北米局長が訪日する裏では、ハリー・ハリス駐韓米国大使が28日突然、外交部長官と国防部長官と極秘会見し、慌ただしい動きを見せている。会見内容は一切、発表されていないが、日韓の軍部対立解消であることは明らかだ。米国としても、日韓の対立が尾を引くことは好ましくなく、幕引きに動いていると見られる。

     

    『中央日報』(1月30日付)は、「韓国外交部北米局長、国連軍司令部の招待で訪日、哨戒機葛藤めぐり協議も?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「魯圭悳(ノ・ギュドク)外交部報道官は29日の定例記者会見で「金泰珍北米局長は国連軍司令部側の招待を受けて30~31日に在日国連軍司令部後方基地を訪問して基地視察と国連軍司令部駐日米軍関係者との面談などを実施する予定」と明らかにした。金局長は横田空軍基地(東京都)と横須賀海軍基地(神奈川県)を訪問する。日程には国連軍司令部のマーク・ジレット参謀長が同行する。また、日本側北米局長との会談も準備しているという」

    在日国連軍司令部が、なぜ韓国外交部北米局長を招待して、横田空軍基地(東京都)と横須賀海軍基地(神奈川県)を訪問させるのか。在日米軍基地が、韓国防衛のために24時間体制で朝鮮半島を監視している実態を知らせることにある。在日米軍は、韓国メディアにも積極的に前記の両基地を取材させている。日本が、韓国防衛にどれだけ協力しているか、その実態について基地を見せて理解させる目的である。

     

    百聞は一見にしかずである。朝鮮日報の記事でもそれが窺える。日本の優秀なエンジンアが、米軍艦船の完璧なまでの補修を行なっている、と米軍関係者が韓国メディアに説明した。


    (2)「これに先立ち、ハリー・ハリス駐韓米国大使が鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官と康京和(カン・ギョンファ)外交部長官と会って韓日間の哨戒機問題について議論したことが分かった。このため、今回の金局長の在日国連軍司令部後方基地の訪問を契機に、米国の仲裁で韓日米が哨戒機問題について意見交換をするのではないかとの見方もある。一方、韓国国防部の崔賢洙(チェ・ヒョンス)報道官は28日の定例記者会見で、韓日哨戒機葛藤問題に関連して、『米国が関心を寄せる部分があれば一緒に考慮するのもよい事案』と述べた」

     

    韓国の北米局長は、駐韓米国大使を仲介役にした韓国内の意見を持って日本訪問をしていると見られる。日本の関係者とも会見することは確実で、何らかの意見の摺り合わせが始っていると見られる。

     


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