勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年03月

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    韓国では、経済も政治もすべて「思い込み」で行なわれている。その思い込みは、学生時代の「浅薄」な知識に基づいている。その後、進歩していないところが深刻だ。学生時代、軍事政権に対抗すべく火炎瓶を投げて闘った。それは、若者特有の「正義」のしからしめるもので、誰も非難はできない。

     

    問題は、その時の闘争仲間を大統領府秘書官に取り立てて政治を行なっていることだ。まるで、学生時代のサークル活動の延長のようなものである。学生運動家の思想と言えば、「反資本主義」が通り相場だ。社会へ出て揉まれれば、市場経済が統制経済よりもはるかに公正・効率であることが分かるはずである。文在寅氏と学生運動仲間は、北朝鮮の「チュチェ思想」に凝り固まった集団である。「親中朝・反日米」が根本にあるから、市場経済の仕組みを勉強する意欲も機会もなかったであろう。

     

    その結末が、現在の韓国経済の惨憺たる状況を招いても、それすら正確に認識できない悲劇的な事態だ。医師に喩えれば「ヤブ医者」だが、医師として国家試験に合格するはずもない人たちである。それが、医師のような格好し白衣をまとい、聴診器を持っている。韓国の悲劇は、まさに学生運動家上がりが大統領府を占領したことにある。あるいは、「無能力者革命」と言ってもいい。

     


    『朝鮮日報』(3月30日付け)は、「文大統領『経済堅調』発言の10日後に発覚したトリプルマイナス」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「今年2月の経済3大軸(生産・投資・消費)が一斉にダウンする「トリプルマイナス」を記録した。現在の景気の流れを示す一致指数循環変動値はアジア通貨危機以降、二十数年ぶりに11カ月連続でダウンを続けている。36カ月後の景気を占う景気先行指数も9カ月連続でダウンしており、見通しはさらに暗い。どれ一つとっても良い所がない。「半導体の錯覚」がなくなり、不振にあえぐ経済のありのままの姿があらわになった」

     

    文大統領は、執務室に30種類程度の経済統計パネルを持ち込んでいる。就任時に、記者団に公開したほど。そのパネルを毎日見ているのだろうか。経済統計の仕組みを知らない文氏である。「猫に小判」だ。秘書にも、それを説明できる基本知識を持っている人間がいないに違いない。今さら、恥ずかしくて「経済知識がない」とは言えないのだろう。この経済に対する無知識・無教養が、韓国経済を混乱に陥れている。朝鮮李朝の「バカ殿」と同じ振る舞いだ。

     

    景気動向指数は、森羅万象と言われる経済現象を30前後の指標にまとめたものだ。航空機のコックピットに並ぶ「計器」そのものが、景気動向指数である。この指数の見方が分らないのだ。パイロットが、コックピットの計器の読み方を知らないで「盲飛行」すると同じで、韓国経済は墜落の危険性に遭遇している。40%の国民が、こういう大統領を事情も知らないで支持している。「盲飛行」の乗客なのだ。

     

    (2)「それにもかかわらず、経済を総括する企画財政部(省に相当)は半月前、「今年に入って産業活動および経済心理の関連指標は改善している様子で、肯定的なモメンタム(勢い)がある」と診断した。これでは国の経済総括省庁ではなく、まるで与党・共に民主党の経済研究所のようだ。このデタラメな報告をもとに文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「経済は堅調な流れ」にあり、「改善する様子が見られる」というとんでもない発言をする状況に至った。今年1月の生産・消費が増えたのは「旧正月連休特需」のためだとかなりの人が分かっていた。官僚たちはこれを伝えず、大統領の耳に心地いい報告しかしなかった。そうして文在寅大統領はまた、とんでもない発言で国民をあ然とさせた。こうしたことはこれで一体何回目だろうか」

     

    下線を引いた部分を整理しておく。

        経済を総括する企画財政部(省に相当)は半月前、「今年に入って産業活動および経済心理の関連指標は改善している。肯定的なモメンタム(勢い)がある」と診断した。

     

        このデタラメな報告をもとに文在寅大統領は「経済は堅調な流れ」にあり、「改善する様子が見られる」というとんでもない発言をした。

     

        今年1月の生産・消費が増えたのは、「旧正月連休特需」のためだとかなりの人が分かっていた。官僚たちはこれを伝えず、大統領の耳に心地いい報告をした。

     

    景気動向指数の一致指数はアジア通貨危機以降、二十数年ぶりに11カ月連続のダウンを続けている。36カ月後の景気を占う景気先行指数も9カ月連続でダウンしている。こういう事態を深刻に受け止めなかった企画財政部は、「無能力」と言うよりも「職務放棄」に値する。

     

    先行・一致の両指数が揃って落込む事態は普通、起らないものだ。先ず、先行指数が低下した後、一致指数の低下になる。それが逆転して、一致指数の低下が先に起ったのは、「最低賃金の大幅引上げ」という人為的なブレーキが突然かかった結果である。その意味で、今回の不況は「大統領不況」と命名すべきだ。


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    文大統領は、南北交流さえ上手く行けば国内経済不振も吹き飛ぶと信じ切っている。だが、米国政府はいたって不機嫌である。米国務省は韓国外交部官僚に対して、「開城工場や金剛山観光開発問題で訪ねてくるならお断り」と申し渡しているほど。

     

    韓国にとっては、南北交流事業に国内経済の浮沈を賭けているが、実際はそれほどの効果を期待できるものではない。仮に、収益が上がってもすべては北朝鮮の取り分になる。韓国は支援のための財政支出が嵩むだけの話なのだ。それを、文政権が誇大宣伝している。

     

    それどころか、韓国経済は日一日と危険ゾーンに落込んでいる。政府自体が、国内経済よりも南北交流に関心を向けているため、「経済が危険」という認識に欠けるのだ。世にも不思議な政権である。国内問題よりも北朝鮮重視という本末転倒なことが起っている。

     

    『中央日報』(3月29日付け)は、「韓国、2月生産・消費・投資トリプル減少、先行・同行指数9カ月連続同時下落」と題する記事を掲載した。

     

    2月の鉱工業生産、個人消費、設備投資の主要3項目が、すべて1月よりも落ち込んだ。これは、韓国経済の屋台骨がひっくり返るほど重大な事態である。本来なら、政府は主要閣僚を集めて対策を議論すべきだが、それはなかったようだ。無頓着というか、無関心というか、言葉がない。国民生活が、大きく影響を受けるという認識がないのだ。

     

    以下、項目を整理しておく。


    ①2月全産業生産指数(季節調整系列)は前月より1.9%下落した。1月は3ケ月ぶりに増加した後、1カ月で再び減少傾向に転じた。これは2013年3月(-2.1%)以来5年11カ月ぶりの最大減少幅だ。

    ②2月の設備投資は前月より10.4%減少した。2013年11月に11.0%減少して以来5年3カ月ぶりに最大幅の減少を記録した。

     

    ③2月の小売り販売額も前月より0.5%減少した。食料品など非耐久財販売が減り、乗用車販売が振るわなかった。2つの指標は共に1カ月で下落に転じた。

    前記3項目のうち、設備投資が10.4%も減少した。5年3カ月ぶりに最大幅の減少を記録した。輸出が停滞し始めたことを反映し、設備投資が落込んだものと見られる。とりわけ、輸出の20%を占める半導体の低迷を先取りして、設備投資抑制に動いたもの。

     

    韓国経済は、輸出依存度が高い。世界経済停滞がこれから起れば、輸出停滞→生産停滞→設備投資停滞→個人消費停滞という形で韓国経済を襲ってくることは確実である。韓国政府は、これに対する備えはゼロだ。すでに内需を台無しにしている最低賃金の大幅引き上げが、内需全体の足を引っ張っている。その上に、輸出停滞が起れば、八方塞がりになる。文大統領は、こうした事態への備えはあるだろうか。全くそうした動きは感じられない。

     


    (2)「現在の景気状況を示す指標である一致指数循環変動値は前月より0.4ポイント下落し、11カ月連続で下降傾向を継続した。2017年12月の0.5ポイント下落以来14カ月ぶりに最も大きく落ちた。今後の景気を予測する指標である先行指数循環変動値も0.3ポイント下落した。この指数も9カ月連続で下降している。一致指数と先行指数が共に9カ月連続で下落したのは史上初めてのことだ」

     

    文政権の経済官僚は、こうした景気循環上で重要な指標である、先行指数と一致指数が同時に9ヶ月連続で低下している事実に対して無反応であることが驚きである。こういう政府が世界に存在するのか。正直に言ってそういう感想を持つほどだ。私は昔、経済企画庁(現、内閣府)の景気判定委員を数年、務めた経験がある。韓国の景気動向指数が、ここまで落込んでいるのは、「不況」局面に入っている証拠だ。知らぬが仏というが、ただただ、驚くほかない。


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    米中通商協議の舞台裏は、欧米メディアの記事でしか実態を掴めない。米国側は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』、『ロイター』、『ブルームバーグ』など多彩だ。中国側の動きは、中国国営メディアの宣伝色が強すぎ信用できない欠陥を持つ。その中で唯一、『フィナンシャル・タイムズ(FT)』が、中国の舞台裏を報じている。ただ、かなり中国寄り記事が目立つ。それは、それで興味深いので、FTの報じる中国の動きも紹介したい。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月29日付け)は、「米中貿易協議、再開後も険しい合意への道」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米中両政府の当局者が貿易戦争の収束に向けた合意を目指す中、両国の交渉パターンがここ数週間で定着してきた。内情に詳しい関係者によると、米当局者は中国が18年前に世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、最も重要と思われる貿易協定案を送った。中国側は受け取った文書に削除を示す棒線や条項の代替案を赤ペンで書き込み、米国に突き返した。劉鶴副首相率いる中国の代表団が送り返した「赤線だらけ」の協定案は、中国政府による国家主導の経済発展に対して広範な構造改革を求める米国をここまで中国がうまく退けてきたことを物語っている。米国産品の購入拡大や外資への中国市場開放など異論が少ない分野でさえ、合意にこぎつけるのは難しくなっている」

     

    下線を引いた部分は、今回初めて公になったことだ。中国が赤線を引いて米国に突き返したのは初期のころであろう。まだ、米中貿易戦争の影響が顕著に出ていないから、習氏も意気軒昂であった。「米国に殴られたら殴り返す」と豪語していたほど。

     

    現在は全く異なる。論より証拠、「中国製造2025」の言葉は完全に棚上げされている。この記事の取材源は、FT記者に対して「強気の中国」の片鱗を書かせてメンツを保とうとしていると思われる。私の記者経験から言えば、先方がある意図を持って取材に応じる場合、それに沿った材料を揃えるものである。ベテラン記者になると、相手の言い分を取捨選択し、あるいは、疑問点を突っ込んでその「虚実」を明らかにしなければならない。私の30年間の記者生活では、そういう記者としての奥義の一端を学んだように思う。

     


    (2)「トランプ大統領は両国が31日までに合意できない場合、中国からの輸入品の約半分に課している制裁関税の税率を2倍以上に引き上げるとしていた交渉期限を延長した。その後、両国は3月末までに首脳会談を開き、最終合意を目指す意向を示していた。しかしその期限もまた守られなかった。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とムニューシン米財務長官は3月28日、協議のために北京を再び訪問。その翌週には劉氏がワシントン再訪を予定している。米中首脳による『調印式』は早くても4月末になる見込みだ」

     

    米国が3月1日の期限を延長したのは、中国に時間的な余裕を与えることであった。3月6日から全人代が開催される中で2000億ドルに25%関税を掛けたら、習氏のメンツは丸潰れになる。それを回避して、妥協への道をつくらせたはずだ。これが、トランプ流の「ディール」と見なければならない。それでは、米中通商協議の真実はどこにあるか。次の記事を見ていただきたい。

     


    『ブルームバーグ』(3月29日付け)は、「米中が合意文言すり合わせ、英語・中国語の食い違い回避へ-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「米中通商交渉では合意文書の文言を1行ごとにすり合わせる作業が行われている。事情に詳しい関係者が明らかにした。北京を訪れているムニューシン米財務長官とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は中国側と29日開いた会合で、英語と中国語で作成される合意文書の内容に食い違いがないことを確実にする取り組みをしているほか、交渉のための相手国への訪問回数のバランスを取ることにも腐心していると、交渉の非公開を理由に関係者が匿名を条件に語った」

     

    FTの記事とは、全く異なる米中の交渉プロセスが明らかにされている。英語と中国語で一行一行付合わせた、「逐条解説」である。ここまで、厳密に行って後で解釈の違いから発生する紛議を予防する所まで進んでいる。

     

    (4)「中国の劉鶴副首相率いる代表団は4月3日にワシントンを訪れる。関係者によれば、合意文書の中国語版で、交渉担当者が示したコミットメントの内容が後退していたり除外されていると米国側が抗議した後、文言のすりあわせが作業の焦点となっている。双方の理解の食い違いが非常に大きい文言もあると関係者の1人が述べた」

     

    現在、北京を訪問中の米代表団が帰国後、4月に中国代表団がワシントンを訪問する。これは、米中が対等であることを示すための儀式である。米中通商協議は、大詰めに入っていることは確かであろう。FT記事が示唆している点は、中国当局者が米国の要求に屈服したのでない、ということをアッピールしていることだ。FTは、その片棒を担がされたのである。

     


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    中国経済最大のガンは、「流動性のワナ」にはまり込んだことである。流動性を増やして金利が下がっても設備投資に点火しないのだ。この1月、預金準備率を下げたが、その資金はどこへ流れたか。株式投機に回っただけで終わった。株式の信用取引ではろくな調査もされずに融資された。それが、上海や深圳の株式取引を活発化させたものの、外人投資家に巨額の利益を与えただけで終わりそうである。

     

    中国政府は、難破船の船長よろしく見張っているが、ただ狼狽して歩き回っているだけだ。過剰債務問題をどうするかという展望もないままに、一日一日慌ただしく過ぎていくだけで、解決策はすべて見送りである。ただ、船が沈まないようにするのが精一杯。前進することなど頭の片隅にもない。これが、習近平政権の現実である。

     

    『日本経済新聞』(3月29日付け)は、「中国4大銀、当局号令で融資拡大、将来のリスクに」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の大手銀行が貸し出しを増やしている。中国工商銀行など4大国有銀の2018年末の貸出残高は525千億元(約860兆円)と17年末に比べ9%増えた。中国当局が中小企業への積極融資を促しているためだ。景気刺激を優先した貸し出しは将来的に不良債権を増やすリスクがある。4大銀の1812月期の純利益は前の期より45%増えた。貸出金増加に伴う金利や手数料の収入が拡大。18年末の不良債権比率は4行平均1.5%17年末比0.08ポイント改善した。不良債権の予備軍とされる関注(要注意)債権の比率も3%台から2.84%になった

     

     下線を引いた部分は、誰も信用していない数字である。つまり、「ウソ」であるからだ。「流動性のワナ」という最悪事態のなかで、不良債権比率は4行平均1.%などで済むはずがない。実態は、公表されている数倍はあるとみられている。

     

    国有銀行は、不良債権で資本勘定が棄捐しているので新規融資を伸ばせられないという基本的な問題を抱えている。だから、昨年末で前年比9%の貸出増加が精一杯であろう。中国の名目経済成長率は10%以下である。新規融資の伸びが、9%増であるのは深刻な事態である。中国経済が、縮小化過程にあることを示すものだ。銀行の生命線である信用創造機能が、大きく傷つけられたことに外ならない。

     


    こういう状態になった以上、不良債権処理を急がなければならないが、そうなると経済成長率が低下して社会問題に発展する。独裁政権の泣き所は、まさにここである。どっちつかずのまま、中国経済は衰退を余儀なくされるであろう。習氏は、一帯一路を振りかざして歩いているが、自分の身を滅ぼすことも弁えない浅慮に見える。自らの大言壮語が、自分の首を締めているに等しい。

     

    マネーサプライ(M2)は、ほぼ8%台の伸びに止まっている。本来であれば、「M2+3~4%」の増加率が当然のラインである。この線に届かないのは「流動性にワナ」に落込んでいる証拠と言うべきであろう。昨年初めからこの事態に追い込まれている。習近平氏が、この事実に気付かないだけ。すでに、危機的事態に突入しているのだ。

     


    中国政府は、昨年11月から民間企業の資金調達難解消へ異例の対策に乗り出している。監督当局トップが銀行に対し、民間向け貸し出しを3年以内に2倍超増やして新規融資全体の5割とするよう要請したのだ。この民営企業が不振状態にある。

     

    習氏は、「紅二代」という革命戦争の功労者の二代目で、党幹部になれば、いろいろの便益を受けているはずだ。これを広く「紅二代」全体に与えるべく、国有企業優遇策へ戻してしまった。これが、中国経済の命取りになっている。民営企業を冷遇しているからだ。習氏は自分の立身出世だけを考え、中国経済全体の利益をないがしろにしたのである。

     

    民営企業は、中国経済の核である。すなわち、「民営企業は税収の5割、GDP6割、都市雇用の8割」を占める幹である。この幹を細らせてしまった政策的な失敗は、取り返しができないほどのミスである。国有企業は、政府の命令で損得にかかわらず設備投資を始めるが、GDPの6割を占める民営企業の損得は自分の身に降りかかってくる。流動性のワナが起っているのは、民営企業がGDPの6割を占める不可避的な結果である。民営企業を粗略に扱った「報い」を受けているのだ。

     

     



     


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    米国経済と双子の関係にあるカナダにおいて、債券市場で長短金利が逆転する「逆イールド」現象が起った。先週、米国で「逆イールド」が発生して、株式市場は緊張させられた。今週は、米国経済と密接な関係にあるカナダでも、同じ現象が起った以上、米国景気減速への警戒が必要になったと言える。

     

    『ロイター』(3月29日付け)は、「カナダも逆イールド、米国より鮮明な景気後退シグナルか」と題する記事を掲載した。

     

    米国債市場で長短金利が逆転して「逆イールド」化し、これがリセッション(景気後退)の前兆かどうか投資家は頭を悩ませている。そこで参考になるのが、中央銀行による国債買い入れによって市場が歪んでいない隣国カナダの債券市場だが、こちらも逆イールドとなっている。

     

    (1)「米国債市場では先週、10年物利回りが3カ月物政府短期証券の利回りを下回り、10年強ぶりに逆イールドとなった。過去50年間の米国のリセッションでは、常にその前にカナダで逆イールドが出現していたが、今回は指標性が小さいと一部の市場参加者は主張している。米連邦準備理事会(FRB)による数兆ドル規模の国債買い入れより長期金利が低下し、市場が歪んでいるから、というのがその理由だ」

     

    過去50年間、米国のリセッション入りの前に、カナダで「長短金利の逆イールド」が起っている。先週米国で起こり、今週カナダで起ったことは、50年間のパターン通りの現象と言えよう。襟を正して見ることは必要だ。

     



    (2)「カナダ市場も先週、逆イールドとなった。経済規模は米国の10分の1程度だが、景気の先行きを予想する上で同国は代替的な指標となるかもしれない。カナダは州による債券発行が多く、長期国債の発行は米国に比べて少ない。国債市場は中央銀行による直接的な影響が小さい一方、経済は米国と密接に結びついており、米国がマイナス成長に陥っていないのにリセッション入りした前例はほとんどない。リフィニティブ・アイコンのデータによると、カナダと米国の債券市場は相関が強く、相関度は90%超に達する。米国債市場の歪みが大き過ぎて景気指標としての力を失っているのであれば、この相関は崩れるだろう」

     

    カナダと米国の債券市場の関係はきわめて強い。その相関度は、何と90%超に達する点から判断すれば、事実上、米加の債券市場は「連結」しているようなものだ。これから言えば、米国の長短金利逆転は動かしがたい事実として受入れる必要があろう。

     

    (3)「CIBCアセット・マネジメントのグローバル債券担当バイスプレジデント、パトリック・オトゥール氏は、『両方が逆イールド化したことは、債券市場が数四半期以内のリセッション入りを予想していることを示す真の警告だ』と指摘。『カナダが発する信号の方が米国より明確だ』と続けた。カナダは過去50年間で5回リセッションを経験しており、主要輸出品である原油の価格が急落した2015年を除き、常に米国のマイナス成長と歩調を合わせていた。また、15年のリセッション前には逆イールドが起こらなかったが、世界金融危機前には起こっていた」

     

    米加両方が逆イールド化したことは、米国景気が数四半期以内にリセッション入りを予想していることになる。逆イールドは本来、短期金利よりも高くて当然の長期金利が、短期金利を下回ることだ。市場参加者が、設備投資の低迷で長期金利の下落予想を強めている結果である。中国の上海株式市場で、外国人投資家が一斉に大量の売り注文を出した背景には、米国が主導する世界経済の停滞予想に基づくものだろう。米国景気が低迷すれば、中国の輸出は大打撃を受ける。



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