中国の全人代で、今年のGDP伸び率目標は6.0~6.5%に引下げられた。一方、国防費は7.5%増が見込まれる。中国の国防費予算は、公表以外の「隠れ国防費」が同額程度あることが、国際的に知られている。国防費増加率がGDPの伸びを上回る事態は、中国が軍事国家へ一段と傾斜していることを示している。
過去、日本の防衛費が対GDP比で1%を少しでも上回ると、中国から猛烈な抗議がきたものである。その中国が、GDPを上回る国防予算を付けて平然としている。この「落差」に驚くのだ。自国の国防費拡大では沈黙し、日本の防衛費については目くじら立ててきた中に、中国という国家の身勝手さがはっきりと見られる。
中国が、習近平時代になって突然、海洋国家へ転換した背景には警戒すべきものがある。かつてのドイツが、大陸国家から海洋国家を目指して、海軍力の大増強に転じた。それは、領土拡大のシグナルであり、侵略戦争を始める基礎作りであった。現実に、二度の世界大戦の引き金を引いたのはドイツである。
中国は、典型的な大陸国家である。その中国が、南シナ海の9割は中国領海であると言い出した。根拠はゼロである。一説によると、旧中国軍将校が酒に酔って、南シナ海の地図を持出し、そこに円を描き「中国領海」(九段線)と書いたのが始りとされる。それほど、荒唐無稽な話である。その後、常設仲裁裁判所から、「100%根拠がない」という判決が出されている。
それでも一度、南シナ海に進出して島嶼を埋め立て軍事基地をつくると、「帝国主義」の味が忘れられなくなるものだ。国威発揚という国民の素朴な民族主義に火がついて、政権浮揚への足がかりになる。習氏が、「2期10年」という国家主席の任期制を外して、「永久政権」に道を開かせた裏に、国威発揚=軍事国家という方程式が組み込まれている。
中国国民には、習政権の「軍事国家」邁進が、いかなる意味を持つか批判を許されない立場である。だが、軍事予算拡大は国民を幸せにする手段でなく、不幸にする凶器であることを認識すべきだろう。年金も社会福祉予算も、すべて軍事予算に振り向けられる時期がそこまで来ている。不動産バブル崩壊後遺症の第一期が始った現在、中国の経済成長率はこれから下がることはあっても上がることはない。日本経済のバブル崩壊後の動きが、すべてを証明している。この段階での「軍事国家」への転換である。二重の意味で、中国は危機に向かうのだろう。
『ロイター』(3月5日付け)は、「中国国防費、19年は7.5%増に、GDP目標上回る伸び」と題する記事を掲載した。
(1)「中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は5日の開幕に合わせて予算報告を発表し、2019年の国防費は7.5%増の1兆1900億元(1774億9000万米ドル)を計上すると明らかにした。同国の李克強首相は、19年の国内総生産(GDP)伸び率の目標を6.0―6.5%とした。国防費の増加率はこれを上回る。国防費の増加率は、18年が8.1%、17年が7%、16年が7.6%だった」
国防費の伸び率
16年7.6%
17年7%
18年8.1%
19年7.5%
公表されているもので、これだけの伸び率である。非公表を含めれば、この2倍はある。この予算的なしわ寄せがどこへ行っているか。国民生活に結びついた民生関連費が食われている。環境関連が最も被害を被っている。「環境破壊」を超えて「環境崩壊」の域へ突き進んでいるのだ。無駄な軍備に予算を振り当て、国民生活関連は切り詰められている。
(2)「中国はステルス戦闘機や空母、対衛星ミサイルなど新型軍事力の開発を進めており、国防費は世界から注目を集めている。南シナ海での領有主張や台湾を巡る争いなど、中国の軍事力拡大は近隣諸国にとって脅威となっている。中国政府の広報官は、安全保障や軍事改革を実現するため、国防費の「合理的で適切な」増額を継続すると述べた。中国は国防費の内訳を明らかにしておらず、近隣諸国や軍事大国からは透明性を欠くと批判されている」
台湾を軍事攻撃すれば、中国は長期の経済封鎖に直面して瓦解する。輸出も輸入も止められたらどうなるか。ロシアへの経済封鎖よりも大規模な封鎖が続くはずだ。習近平氏の間違った采配は、自らの権力基盤を突き崩すに違いない。