勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年03月

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    中国の全人代で、今年のGDP伸び率目標は6.0~6.5%に引下げられた。一方、国防費は7.5%増が見込まれる。中国の国防費予算は、公表以外の「隠れ国防費」が同額程度あることが、国際的に知られている。国防費増加率がGDPの伸びを上回る事態は、中国が軍事国家へ一段と傾斜していることを示している。

     

    過去、日本の防衛費が対GDP比で1%を少しでも上回ると、中国から猛烈な抗議がきたものである。その中国が、GDPを上回る国防予算を付けて平然としている。この「落差」に驚くのだ。自国の国防費拡大では沈黙し、日本の防衛費については目くじら立ててきた中に、中国という国家の身勝手さがはっきりと見られる。

     

    中国が、習近平時代になって突然、海洋国家へ転換した背景には警戒すべきものがある。かつてのドイツが、大陸国家から海洋国家を目指して、海軍力の大増強に転じた。それは、領土拡大のシグナルであり、侵略戦争を始める基礎作りであった。現実に、二度の世界大戦の引き金を引いたのはドイツである。

     

    中国は、典型的な大陸国家である。その中国が、南シナ海の9割は中国領海であると言い出した。根拠はゼロである。一説によると、旧中国軍将校が酒に酔って、南シナ海の地図を持出し、そこに円を描き「中国領海」(九段線)と書いたのが始りとされる。それほど、荒唐無稽な話である。その後、常設仲裁裁判所から、「100%根拠がない」という判決が出されている。

     

    それでも一度、南シナ海に進出して島嶼を埋め立て軍事基地をつくると、「帝国主義」の味が忘れられなくなるものだ。国威発揚という国民の素朴な民族主義に火がついて、政権浮揚への足がかりになる。習氏が、「2期10年」という国家主席の任期制を外して、「永久政権」に道を開かせた裏に、国威発揚=軍事国家という方程式が組み込まれている。

     

    中国国民には、習政権の「軍事国家」邁進が、いかなる意味を持つか批判を許されない立場である。だが、軍事予算拡大は国民を幸せにする手段でなく、不幸にする凶器であることを認識すべきだろう。年金も社会福祉予算も、すべて軍事予算に振り向けられる時期がそこまで来ている。不動産バブル崩壊後遺症の第一期が始った現在、中国の経済成長率はこれから下がることはあっても上がることはない。日本経済のバブル崩壊後の動きが、すべてを証明している。この段階での「軍事国家」への転換である。二重の意味で、中国は危機に向かうのだろう。

     

    『ロイター』(3月5日付け)は、「中国国防費、19年は7.5%増に、GDP目標上回る伸び」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は5日の開幕に合わせて予算報告を発表し、2019年の国防費は7.5%増の1兆1900億元(1774億9000万米ドル)を計上すると明らかにした。同国の李克強首相は、19年の国内総生産(GDP)伸び率の目標を6.06.5%とした。国防費の増加率はこれを上回る。国防費の増加率は、18年が8.1%、17年が7%、16年が7.6%だった」

     

    国防費の伸び率

    16年7.6%

    17年7%

    18年8.1%

    19年7.5%

     

    公表されているもので、これだけの伸び率である。非公表を含めれば、この2倍はある。この予算的なしわ寄せがどこへ行っているか。国民生活に結びついた民生関連費が食われている。環境関連が最も被害を被っている。「環境破壊」を超えて「環境崩壊」の域へ突き進んでいるのだ。無駄な軍備に予算を振り当て、国民生活関連は切り詰められている。

     

    (2)「中国はステルス戦闘機や空母、対衛星ミサイルなど新型軍事力の開発を進めており、国防費は世界から注目を集めている。南シナ海での領有主張や台湾を巡る争いなど、中国の軍事力拡大は近隣諸国にとって脅威となっている。中国政府の広報官は、安全保障や軍事改革を実現するため、国防費の「合理的で適切な」増額を継続すると述べた。中国は国防費の内訳を明らかにしておらず、近隣諸国や軍事大国からは透明性を欠くと批判されている」

     

    台湾を軍事攻撃すれば、中国は長期の経済封鎖に直面して瓦解する。輸出も輸入も止められたらどうなるか。ロシアへの経済封鎖よりも大規模な封鎖が続くはずだ。習近平氏の間違った采配は、自らの権力基盤を突き崩すに違いない。

     

     


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    政治の実情を知らない人間が、あれこれ政治批判することを床屋政談という。韓国では歴とした政治関係者が、この類いの話をして「反日」をやっているのだ。先の米朝首脳会談が決裂した理由は、トランプ大統領が安倍首相の反対論にひきづられた、というもの。「安倍はけしからん」というのが韓国政界の噂話になっているというから驚く。

     

    世界の覇権国は米国である。その米国が、安倍首相の意見に影響されて米朝首脳会談を決裂させたという見方は飛躍し過ぎである。トランプ氏が、アジア問題で安倍氏の意見を参考にすることはよく聞かれる話だ。だが、ホワイトハウスには、その道の専門家が控えている。彼らが最終決定権を持っているのだ。こういう外交の意思決定構造を無視した話は笑い話にもならない。

     

    『中央日報』は、「『米朝会談の失敗は日本のせい』?外交専門家『現実を知っていたら言えない言葉』」と題する記事を掲載した。

     

    「ハノイ会談決裂の裏に日本の影が見え隠れする」〔鄭東泳(チョン・ドンヨン)民主平和党代表〕

    「ハノイ会談が合意に至ることができない結果が出て、世界で一番喜んだのが日本安倍晋三首相だった」〔柳時敏(ユ・シミン)盧武鉉(ノ・ムヒョン)財団理事長〕

    2月27~28日、ベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談が失敗に終わると、汎与党要人の日本糾弾が続いている。

       

    (1)「民主平和党の鄭東泳代表は2日、自身のフェイスブックに米朝首脳会談の失敗原因を分析しながら日本を取り上げた。鄭代表は『ハノイ会談決裂の裏に日本の影が見え隠れする』とし、『日本はワシントンでのロビーに注ぐ人的・物的資源総量が韓国の60倍に達する。ハノイでの外交惨事が安倍政権の快哉につながる北東アジアの現実こそ冷厳な国際政治の隠れた実状だ』と述べた。続いて『世界の指導者のうちハノイ会談の失敗に歓呼した人は安倍首相1人だ』と主張した」

    野党の民主平和党の代表が、「世界の指導者のうちハノイ会談の失敗に歓呼した人は安倍首相1人だ」と言って怒っている。これは、事実誤認である。米議会でも破談になって良かったという意見が多数だ。核施設すら正直に申告しない段階で、経済制裁を一部でも解除することは危険千万である。米朝首脳会談では、トランプ氏が隠れ施設を指摘して北朝鮮を驚かせたという。こういう隠し立てをしている北朝鮮と、協定を結べるはずがない。

     

    (2)「『御用知識人』を自任する柳時敏理事長も2日、盧武鉉財団YouTubeチャネルに公開された『柳時敏アリレオ』第9話特集放送で、『ハノイ会談が合意に至ることができない結果が出て、世界で一番喜んだのが日本安倍晋三首相ではなかったか』と声を高めた。柳理事長は『その(自民党)閣僚も喜色満面でうまくいったと話し、三一節(独立運動記念日)にその場面を見ると非常に腹が立った』と話した」

     


    北朝鮮が核保有国になる場合、日本が最初の標的にされかねない。そういうリスクを抱える日本が、完全非核化を願うのは当然の話だ。韓国から非難される筋合いでない。悪いディールでなく良かったと喜ぶのは普通の感情だ。日本が、この要求を米国に伝えてどこが悪いのか。日米は同盟国である。そのような意見を言うのは当然の権利である。

     

    (3)「高麗(コリョ)大学北朝鮮学科の柳浩烈(ユ・ホヨル)教授は、『トランプ大統領の北朝鮮政策はあくまでも本人の判断と米国の利益に沿って動く』とし『今回はボルトンら強硬派の資料と主張がトランプに影響を及ぼした』と話した。柳教授は『さらに進んで、ボルトンやポンペオのような人もトランプ大統領に及ぼす影響力が制限的なのに、安倍首相が米朝首脳会談に影響を及ぼす空間はほぼないと考える』と話した」


     

    トランプ氏は、「米国ファースト」であり、「トランプ・ファースト」である。自分の意見が絶対であり、他人の意見は参考程度である。具申した意見が通ったとしても、それはトランプ氏とたまたま同じ意見であった可能性が大きい。大統領とはそういう最高意志決定権を握っている。文大統領もそうであろう。文氏は、最低賃金の大幅引上げがいかに悪法で、野党が修正せよと迫っても変更しない。トランプ氏も文氏も同じ権力構造に乗っているのだ。


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    北朝鮮の核放棄問題は一歩進んだが、米国は「まだまだ隠し施設がある」と主張して、物別れに終わった。ここで、米朝両国の動きがどうであったかを見ておきたい。米国は、すべての核関連情報の提示を求めている。北朝鮮は、まだ十分に米朝間の信頼関係が醸成されていないから情報を出せないという前置きをした。ところが、北の経済制裁解除は大幅であり、米国は話が違うと言って席を立った、という経緯である。

     

    北朝鮮側の説明は、深夜(2月28日)行なわれた。この情報は、韓国紙『ハンギョレ新聞 

    電子版』(3月4日)に掲載されたので、これに基づき交渉場面を説明したい。

     

    北朝鮮の言い分では、従来と異なり思い切った提案をした。その提案とは、寧辺(ヨンビョン)の核団地全体、その中にあるすべてのプルトニウム施設やすべてのウラン施設を含むすべての核施設を、丸ごと米国専門家の立ち会いのもと、永久かつ不可逆的に廃棄することに対する(提案)ものだ。また、今回の会談で、米国の懸念を減らすため、核実験と長距離ロケット発射を永久に中止するという確約も文書の形で提供する意向も明らかにした。

     

    北朝鮮は、信頼構築の段階を経れば、今後、非核化過程はさらに早く前進できるだろうと説明した。しかし、会談途中で米国側は寧辺の核施設の廃棄措置のほかにもう一つを追加すべきだと主張した。米国が北朝鮮の提案を受け入れる準備ができていないことが明白になったと主張した。

     

    ここでは、米朝が「隠れ施設」の存在をめぐって論争した形跡が見られる。率直に言えば、北朝鮮は米国が「隠れ施設」の存在を知っていたことに驚いたのが真相だろう。それにも関わらず、大幅は制裁解除要求を出してしまった。これは、北朝鮮の勇み足であろう。ここで制裁解除問題を出さず、「隠れ施設」について、次回の協議で議論したい、程度に止めておけば、「決裂」でなく「継続」になったと見られる。正恩氏が、ショックで体調を崩したと報じられたのには理由がある。

     

    米国側にも疑問がある。その「隠れ施設」について、事前に米朝間の実務レベル協議で話題にならなかったのか。北朝鮮は、実務レベルでも情報を提供しなかったというので、米国もあえて出さなかったのだろう。正恩氏は、何もかも「トップ会談」に持ち込んで、トランプ氏と勝負しようとしたのだろう。若武者が、敵方総大将に一騎打ちを願い出た構図だ。

     

    米朝首脳会談は、若武者が老練な総大将にいなされた恰好である。正恩氏が、再会談を申入れれば、話が継続する雰囲気である。互いに非難し合っているわけでない。文字通り、「建設的な話し合い」であったからだ。


    ここで、問題の「隠れ施設」とはなにかが気になる。

     

    『ロイター』(3月5日付け)は、「北朝鮮寧辺の原子炉、昨年12月から停止か」と題する記事を掲載した。

     

    国際原子力機関(IAEA)は4日、北朝鮮の寧辺の核施設にある原子炉が過去3カ月間、停止しているもようだと指摘した。理由は示していない。

     

    (1)「寧辺にある5メガワットの原子炉は、核兵器用のプルトニウムの大半を供給しているとみられる。寧辺の核施設は、前週の米朝首脳会談でも非核化問題で焦点となっていた。北朝鮮は2009年にIAEA査察団を国外退去させた。以来、IAEAは主に衛星画像を使って北朝鮮の核活動を監視している」

     

    (2)「衛星画像を分析している一部民間アナリストは、老朽化している原子炉に技術的な問題が起こっていると指摘している。IAEAの天野之弥事務局長は理事会で、『5メガワットの原子炉について、2018年12月初旬以降、稼動している兆候がみられない』と述べ、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出する施設では再処理作業が行われている兆候がないと付け加えた。ただ、ウラン濃縮施設は稼動しているもようで、実験用軽水炉の建設作業も続いていると指摘。報告を受けている、ウラン濃縮施設の遠心分離機の稼動の兆候についても監視を続けるとした」

     

    5メガワットの原子炉は、2018年12月初旬以降、稼動している兆候がみられない。ただ、ウラン濃縮施設は稼動しているもようで、実験用軽水炉の建設作業も続いていると指摘している。「隠れ施設」とは、このウラン濃縮施設を指しているようだ。北朝鮮が、本当に核放棄の意思があれば、この施設の稼働を取り止めるはず。北朝鮮は、そこまで決断できなかったことが、「信頼構築」不十分という意味かも知れない。ウラン濃縮施設が稼働しているとなれば、この扱いが次の焦点になる。

     

     


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    米国は、これまで中国による人民元相場の操作に強い警戒観を持ってきた。過去、常習犯であったからだ。対韓国の自由貿易協定改定の際、「為替条項」を強引に入れさせた。日本に対しても時々、「円相場は安すぎる」と批判を漏らす。日本では、マクロ経済政策による為替相場への影響ゆえに、為替操作でないと説明し納得させている。米国の指す「為替操作」とは直接、為替相場を安くするために市場介入することである。

     

    『ロイター』(3月4日付け)は、「米中協議、人民元巡る条項なしなら『画竜点睛を欠く』」と題するコラムを掲載した。

     

    (1)「そろそろ人民元に関する取り決めを導入すべきときだ。米国は、中国政府による過去の為替操作で損害を被っており、今後結ぶ通商合意に通貨政策を盛り込むことは名案だろう。世界第2位の中国経済は、押し下げられた人民元相場から受ける恩恵が以前より減ったとはいえ、再び元安誘導に乗り出す可能性も考えられなくはない」

     

    中国の為替政策は、一貫して「発展途上国スタイル」である。資本規制は行なう。為替相場も自由変動相場制でなく、管理型変動相場制である。これは、明らかに当局の管理意識を表明したものだ。考えてみれば、GDP世界2位の大国が、為替相場すら市場メカニズムに任せられない。こういう「臆病国家」なのだ。それが、「世界覇権を狙う」などと季節外れの発言をするから、米国を怒らせるのであろう。大言壮語が身に付いてしまっているのだ。

     

    (2)「ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、米交渉団は、中国による通貨切り下げを防止しようと取り組んでいると述べた。中国人民銀行(中央銀行)は最近では、本格的な元安誘導は行っていない。米連邦準備理事会による利上げを受けて資本が国外に流出しないよう、時には元高誘導を行ったほどだ。しかし2014年ごろまでは、中国政府は人民元相場を押し下げる操作を大規模に行っていた。相場を低く抑えて輸出を促進するため、営業日ごとに10~20億ドル分もの外貨を買い入れていた」

     

    中国には、輸出が苦しくなると人民元相場を操作する「悪い癖」がある。イカサマをやるのだ。こういう操作を禁じるには、現在の管理型変動相場制でなく、他国並みの自由変動相場制に移行させるべきである。IMFのSDRに昇格する際、自由変動相場制に移行することを約束していた経緯がある。米国の腕力で、自由変動相場制へ強引に持ち込めば、人民元相場操作の機会は減るに違いない。これは、私の年来の主張でもある。

     

    (3)「これにより、2008年の経常黒字は国内総生産(GDP)の9%という驚くべき数字に達し、2014年の外貨準備高も4兆ドル(約448兆円)に接近した。中国がけん引した世界規模の為替操作により、2008年に金融危機が起きて以降、100万を超える雇用が米国でわれたと、ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン氏とジョセフ・ガニオン氏は推計している」

     

    このパラグラフの経常黒字と外貨準備高のデーターが不確かであったので、私が訂正しておいた。原文と数字が異なるのはそのためだ。筆者が思い違いしている。ただ、内容自体に間違いない。中国が、大規模な為替介入して外貨準備高を増やした理由は、「見栄」にあったと思われる。これを武器に、中国の経済外交を行って発展途上国を引き込む道具に使った。これが、「一帯一路」計画の舞台装置の役割を果たした。だが、こうした化粧した外貨準備高は、現在3兆ドル強にまで減っている。今年は、経常赤字に転落必至の状況で、国際競争力は著しく低下している。

     

    今回、米国による中国経済の構造改革要求は、長い目で見れば中国の利益になるし、世界経済の順当な発展に寄与するところ大である。日本もそうだったが、中国も米国のテコがなければ構造改革ができないのは残念である。米国は、世界最大の市場であり、他国の輸出市場として開放している。米国の言い分は、自国市場へアクセスする以上、WTOルールを厳守せよと要求しているものだ。これは、米国の主張が正しい。中国のように「汚い手」を使った輸出はお断り。これが、米国の本音である。誰もこの点で、米国は横暴と非難できないであろう。



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    近平氏は、自らの経済政策失敗を棚上げして、党員に忠誠を誓わせるナチス張りの締め付けを行なっている。中国でも心ある人々は、自由を求めて他国への移住に積極的である。先に本欄で取り上げた民営経営者は、中国地方政府の官僚が常時、企業をATM代わりに搾取しその上、重税を掛ける実情を告発した。

     

    習近平政権になって、中国は極端な左旋回を始めている。「80後」(80年代生まれ)や「90後」(90年代生まれ)の層は、今の習政権が「永久化」した場合の恐怖を感じているという。米国は、1930年代ナチス旋風が吹き荒れたころ、優秀な人材が米国へ渡った。これと同様に、中国の自由へ憧れる人材を受入れよ、という主張が登場した。

     

    『ブルームバーグ』(3月4日付け)は、「習政権嫌気して中国去る人材、米国は迎え入れよ」と題するコラムを掲載した。

     

    1990年代から2010年代初めまで、中国の方向に間違いはなかったようにみえる。製造業の広範な分野で中国企業がシェアを伸ばし、経済は飛躍的に成長。政治体制も強権的ではあるが、政権は鄧小平の時代からスムーズに順次移行し、安定性を増しているようだった。母国でリッチになるチャンスが広がると、米国の大学を卒業後に帰国する中国人留学生も増えた。

     

    (1)「今は止めることができないように思える巨大な力が、厳しい環境を生んでいる。10年代に入りすでに鈍化していた経済は一段と減速。習近平国家主席は最高指導者の地位に終身とどまれるよう、自らルールを変えた。ウイグル族弾圧など少数民族に対してのみならず、国民全般にも一段と抑圧的になっている。今では政府の経済政策について語ることさえ不可とされることもしばしばだ。中国が経済の基盤を再び強化し、開放をあらためて推進する可能性はあるが、あらゆるトレンドが悪くなっているように見えるのが現状だ」

     

    習近平氏による永久政権の基盤は、AI(人工知能)を駆使した国民弾圧によって、不平不満を抑圧する「ナチス型」統治を目指している。社会派弁護士を理由もなく拘束しているのは、永久政権化を狙う習氏の犠牲者である。

     


    (2)「経済の鈍化と政権の締め付け強化で、国から逃げ出す中国人も増えるだろう。すでに現実の話だ。米紙ニューヨーク・タイムズは特集記事で、中国の経済展望に強い自信を持つ中国人富裕層の割合が2年前の3分の2から今では3分の1に減ったとの調査結果を紹介。子どもを海外に留学させる親も増えている。その理由が、視点を広げる教育を受けさせるためか、国内の不安や圧力を回避するためかは分からない。海外での住宅購入は単に賢い投資戦略かもしれないが、国外に居場所を確保する手段にもなり得る」

     

    中国人は、4000年の歴史を持ちながら民主政治を持てなかった。個人が貧しくて、その日暮らしであったためだ。物を恵む人をただ尊敬していたに過ぎない。毛沢東もその分類であろう。だが、個人が豊かになり始めると、過去の手法は無効になる。習近平氏が毛沢東の真似をしても成功しない理由は、個人がすでに経済的独立をするようになったからだ。習近平氏の政治的な限界はここにある。「自由への逃亡」が始るのだ。

     

    (3)「非常に多くの中国人エリート層が、自国の安定と展望に自信がないという事実は、習政権にとって警告になるはずだ。一方で、米国には予期せぬ恵みになるかもしれない。こうした中国人を歓迎し、米国民とすることができれば、起業家精神にあふれた人材を多数受け入れることになる。米国が、中国から実業家や創意工夫に富む人々を受け入れることは特に重要だ。中国人受け入れを妨げる最大の障害は、米国側の態度にあるかもしれない。米中貿易戦争が激化し、中国のスパイ行為を容認しないという意識が高まっているためだ。

     

    中国のように、官僚と軍隊が最高権力を握る世界は、後進国家の典型例である。経済的に自立可能な人間には、自由への桎梏を忌避するもの。中国でも4000年の歴史を経て、ようやく「自由への憧れ」を持つ人々が登場したのだ。胃袋の人生から脱して、頭を自由に使う人生への憧れである。

     

    (4)「確かに、学んだり働くために米国にやって来る中国人のごく一部は、スパイになるかもしれない。だが、大半はそうではない。なぜなら、中国を捨て米国を選ぼうとする人々は、中国の体制に不満を持っている傾向があるからだ。中国政府に反発する人々と、そうした人材が持つ米国の力の構築に寄与する素晴らしい才能を活用すれば、米国のスパイ防止活動を支える逸材確保につながる」

     

    中国社会は、人縁社会である。これは、欧米の開かれた社会と根本的に異なる。それ故、中国政府はあらゆるルートを使って米国へ移住した人々をスパイに誘い込むことを忘れてはならない。この点が、ナチスから逃れて米国へ移住した人々と全く異なるのだ。


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