米国トランプ大統領が、FRB(連邦準備制度理事会)へ利下げと量的緩和を要求し始めた。制度的には、FRBが政治からの独立性を保証されているので困った事態になった。FRBが、トランプ氏の要求を受け入れた形で、利下げや量的緩和はできるはずがないからだ。
ただ、トランプ氏の経済的な勘が優れていることも事実である。昨年後半から特に、トランプ氏は利上げに反対する声を強めてきた。結果的には、「逆イールドカーブ」をもたらして、不況入りのサインを示すことになった。現行の政策金利2.5%は、実質GDP成長率予想(1~3月期)2%弱から見ると、割高という印象も拭えない。
『ロイター』(4月6日付け)は、「トランプ米大統領『FRBは利下げすべき』、量的緩和再開も要求」と題する記事を掲載した。
(1)「トランプ米大統領は5日、連邦準備理事会(FRB)は利下げすべきと強調するとともに、経済の下支えに向け非伝統的政策である「量的緩和」の再開が必要との認識を示した。トランプ氏は記者団に対し、朝方発表された3月の雇用統計で経済は良好に推移していることが示されたものの、FRBによる措置で景気は減速したと指摘。『FRBは本当に景気の足を引っ張った。インフレはまったくない』とし『FRBは利下げすべきだと考える』と語った」
FRBが、段階的に利上げに踏み切ってきた裏には、引き下げるべき時に引下げられるような余地をつくる、という大義名分もあった。この主旨からいえば、利下げに転じても大義は成り立つ。ただ、トランプ氏が利下げを要求したから利下げしたとなると、FRBの独立性が侵害される別問題が起ってくる。FRBの信頼性が揺らぐことは、長い目で見て避けなければならない。となれば、トランプ氏は発言を公にせず、「裏でする」という政治性が必要であろう。
(2)「さらに、利下げに加え量的緩和の再開も要求。『金融政策は足元、量的緩和であるべきだ』と主張した。ただ、こうした金融政策の組み合わせは本来、経済が急激に落ち込んだ場合の緊急手段として用いるもので、足元の経済状況への対応にはそぐわないとの見方がある」
トランプ氏は、次期大統領選が始まろうという時点で、景気が下降局面にあることは是が非でも避けたいところだ。これまでの例では、大統領選前の景気は良くて終われば悪くなるという景気の「選挙サイクル」が、鮮明に浮かび上がっている。この点から言えば、トランプ氏が、景気テコ入れで何かを始めることは十分、想像できるのだ。
(3)「トランプ氏は4日、FRB理事にピザチェーン元幹部で2012年の大統領選で共和党候補者指名争いに出馬したハーマン・ケイン氏(73)を指名する意向を明らかにした。トランプ氏は2年前にパウエルFRB議長を指名したが、同議長の下での利上げを強く批判。トランプ氏が指名した他のFRB当局者もパウエル議長の利上げを支持してきた経緯がある」
トランプ氏は、パウエルFRB議長を指名した責任がある。それだけに、パウエル批判は筋違いという批判を浴びかねないのだ。米中通商協議は大詰めを迎えている。米国有利の下に決着がつく可能性が強まっているだけに、決着後のムードが大きく変るはずだ。トランプ氏はここ1~2ヶ月、様子を見るべくFRB批判を封印しておくべきだろう。