韓国メディアでは、日本の「令和」を批判的に捉える向きもいる。それは、書き手の自由だが、批判の場合は自らの名前を名乗るべきだろう。無署名の批判記事は、夜陰に乗じて鉄砲を撃つようなものだ。
『韓国経済新聞』(4月24日付け)は、「幕上がる日本の令和時代」と題する無署名のコラムを掲載した。これに対する私の反論は、4月24日のブログに、「韓国、『令和』 歴史を理解せずに日本批判 『メディアの自殺』」と題して掲載した。
前記のコラムと同一筆者と思われる人物が、再び下記のような「令和」を喜ぶ日本人に痛烈な批判を浴びせるコラムを掲載した。その主旨は、日本人の低経済成長下の不安心理を新天皇誕生で癒やしている病気(症候群)と捉えている。この見当違いの批判に対して、再度の批判を加えたい。
『韓国経済新聞』(5月3日付け)は、「日本『令和シンドローム』の正体」と題するコラムを掲載した。筆者名は不明のコラムだ。
私の推測では、日本のある公立大学の経済学教授と見る。私が彼のコラムを批判した後、コラムの執筆を止めた人物がいる。ほとぼりが冷めたと見て、無署名で日本批判をやろうという狙いならば、フェアでない。自分の名前を堂々と書いて日本批判をするべきだ。日本では、夜陰に乗じて鉄砲を撃つ真似は恥ずかしい行為である。日本では、最も嫌われるタイプだ。
(1)「 新天皇の即位式があった1日、日本全国の神社と神宮に多くの人々が集まった。東京の明治神宮や三重の伊勢神宮などには大勢の参拝客が訪れて祈願し、令和初日の朱印を求める人々の行列が10時間以上も見られたという。新天皇が即位して年号が変わったことを祝うため日本人が列を作って神社を訪れたのだ。 日本人は年号が平成から令和に変わったことにいろいろな意味づけをしながら盛り上がる姿だ。令和が持つ文字的な意味に執着して過剰解釈しようとしている。文字を通じて希望を渇望するのが年号文化の特徴だと自賛する人たちもいる」
元号が「令和」に変わって喜ぶ姿は、元日に新年を祝う姿と同じだ。そこに、格別の意味もない。ただ、素直に新しい時代を祝うだけである。1億2000万人の国民がいるのだから、1億2000万通りの解釈があって当然。その一つ一つに反応する必要はない。
(2)「神社に集まって新しい年号に歓呼することを日本人は祭りだと言っても、単なる祭りとは見なしにくい側面があまりにも多い。むしろ今の日本人の不安心理を表す行動パターンと見ることもできるというのが心理学者の分析だ。 日本メディアは平成時代を停滞の時代、不作為の時代と批判する。社会の成熟化が進まず『未完の成熟期』と評価するメディアもある。そして令和時代を新しい時代と呼ぶ。それだけ平成と令和の時代を区別して希望を吹き込もうとしている」
心理学者は、それらしく時代の特徴を切って取るのが職業上の職務である。だが、根拠も示さず漠然とした分析にいかなる意味があるのか。不安心理の現れと指摘するには、その根拠を具体的に示すことだ。
日本の完全失業率は、4月で2.5%。多分、世界最低であろう。働く意欲と能力のある者は、ほぼ100%就職できる「天国」である。
平均寿命は、最近調査(2016年時点)でも世界一の84.2歳である。2位以下は、スイス(83.3歳)、スペイン(83.1歳)、フランス(82.9歳)などのヨーロッパ先進国を抜いている。米国経済通信社『ブルームバーグ』の「健康な国」指数では、最近時で日本が4位にランクされている。ちなみに、上位国は、スペイン、イタリア、アイスランドである。健康面で日本は、ヨーロッパ上位国の「天国」になっている。
就職も保障され健康面でも世界トップ。それが、日本の現状である。この幸せを喜んでいるとみれば、新天皇誕生を祝う気持ちが、不安心理の裏返しとは曲解も曲解、最悪の見方であろう。昔流にいえば、「曲学阿世の徒」と呼ぶべきだろう。
ならば聞きたい。韓国の平均寿命は延びてきたが、自殺率はOECD加盟国中で長らくワースト・ワンの最悪状態であった。最近は1位でなく2位である。若者の体感失業率は約25%。就職できるまでに平均3年もかかるのだ。こういう事態にある韓国メディアが、日本を批判するとは的外れである。そんな余裕があれば、韓国経済立て直し策を書く方がはるかに建設的であろう
(3)「平成初期まで世界経済の15%を占めた日本の国内総生産(GDP)比率は現在6%ほどに落ちている。経済的な格差はもちろん、社会的な格差も深刻になった。高齢化時代に入って高齢者の人口が急速に増加し、全体の人口が減少している。いわゆる「失われた25年」の産物だ。賃金はそれほど上がらなかった。2012年に始まった安倍晋三政権が改革して革新しようとしたが、日本人の不安心理を完全に解消するのに苦労している」
日本の総人口は、1億2300万人がピークだ。この日本のGDPが、世界の15%を占めたのは、バブル経済のなせる業。永続性があるはずもない。現在の6%がいいポジションである。高齢化は世界の潮流になった。日本は、その最初の国だから戸惑いもあったが、平均寿命の世界一が象徴するように、高齢者も働く環境ができている。
韓国は出生率の急低下によって、日本以上のスピードで高齢化が進むはずだ。高齢化社会への準備がないから、自殺率がワースト・ワンになった理由であろう。韓国から見た日本は、あらゆる点で「天国」である。格差拡大問題の緊急性は、日本のことでなく韓国で現在、起っている問題だ。文大統領による間違った最低賃金の大幅引上げがもたらした悲劇である。
(4)「 問題は1980年前後に皇室に親近感を感じる日本人は40%ほどだったが、現在は76%にのぼるという点だ。未来が不安な時に天皇に寄りかかる心理だ。別の見方をすれば、微弱な経済成長がもたらした日本政治システムの遺産かもしれない。経済が好況を享受できずに生じる現象の一つだ。ブレグジット(英国のEU離脱)と「トランプ現象」も不安心理の表れだった。「令和シンドローム」もこうした道を歩んでいる」
象徴の天皇は、政治的な言動は禁じられている。その天皇に、日本人が寄りかかって何を求めるのか。誤解も甚だしい。新天皇への親近感が増えているのは、その庶民性=開かれた皇室への好感度の高さだ。
高度経済成長時代、昭和天皇への思いも深かった。日本人にとっての天皇制は、理屈を超えた関係にある。この天皇に対して、韓国は「日王」と呼んで揶揄してきた。その感覚が、日本人をして韓国への違和感を生んでいる。韓国人の不用意な天皇批判が、日韓の感情的な違和感を生む要因である。このコラムも、「天皇制批判」が根底にあるようだ。日本人を理解しない哀れな姿に見える。