韓国で文政権を熱烈支持するのは、左翼メディア『ハンギョレ紙』しか存在しない。新聞の売り上げにも影響するのだろうが、ともかく「文支持」である。日本のスポーツ紙で言えば、『報知新聞』は、巨人軍が勝っても負けても「第一面」記事である。『ハンギョレ紙』もこれと同じパターンである。政治とスポーツは別物なのだ。
文在寅(ムン・ジェイン)政権は、反日を最大の政治目標に据えている。文氏にとって、なぜ反日がプラスになるのか。親日排除=韓国保守排除であるからだ。理由は、韓国経済復興過程で政権をになった保守派が、日本の支援を受けてきたという関係だ。文氏は、親日=韓国保守と捉えており、これを排除すれば、韓国の進歩派政権が安泰であり続けられると錯覚している。まさに、国民不在の政治なのだ。『ハンギョレ紙』は、この韓国進歩派の野望実現に邁進する「政治新聞」である。日本で言えばスポーツ紙の『報知新聞』であろうか。
『ハンギョレ紙』(7月23日付)は、「日本右翼と韓国保守のデカルコマニー」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコ・ミョンソプ論説委員である。
タイトルに「デカルコマニー」という言葉を使っている。ペダンティックな臭いが芬芬とする。「デカルコマニー」とは、フランス語で「転写」を意味する。シュルレアリスムの芸術技法というのだ。まず、タイトルから受ける印象が、衒学的である。メディアのタイトルではない。
(1)「(安倍首相が)力を入れて主催したG20は、閉幕の翌日に南-北-米首脳の電撃的な板門店会合にスポットライトを奪われ、全世界の耳目は朝鮮半島に集まった。安倍としては、出し抜かれた気持ちだっただろう。安倍政権は直ちに“報復”の刃を抜いて韓国に向かって駆け寄った」
いかにも左翼メディアである。議論を空想から出発させる。日本が、7月1日に韓国を「ホワイト国」から除外すると発表したのは、前日に朝鮮半島で米韓朝の3首脳が顔合わせした反動だというのだ。驚くべき発想である。
先ず、こういう論法がジャーナリズムに席を置く人間として妥当だろうかという疑問だ。「ホワイト国」問題は、長期にわたって練られてきた課題であろう。そんな、安直に発動させられるテーマではない。この筆者には、「ホワイト国」の重大性が良く分っていないようである。一夜にして決められる話でない。
(2)「安倍の夢は、平和憲法を変え、日本を“戦争する国”にすることだ。明治維新以後、常勝疾走しアジアを支配した過去の栄光を再現することが安倍の夢だ。その目標を成し遂げるには、平和憲法改正に反対する国内世論を制圧しなければならない。世論の流れを変えるには、北東アジアの緊張と葛藤の持続が欠かせない。ところが、昨年の南北首脳会談と朝米首脳会談以後、このような葛藤構造が解体される兆しが高まっている。そのうえ、今度は板門店で3カ国の首脳が一度に会った。安倍政権としては、決して歓迎できない構造的変化だ。何としてでも朝鮮半島を対決局面に戻すことこそが、安倍政権には死活がかかった問題だ」
このコラムの筆者は、現実の国際情勢がどのように動いているか無関心である。日本の安全保障政策は、朝鮮半島から「インド太平洋戦略」による東シナ海と南シナ海へ移っている。陸上自衛隊が海上自衛隊と共同作戦する時代になった。自衛艦に陸上自衛隊員が乗船して警戒に当るもの。戦前の海軍陸戦隊が、現代にも編成され南西諸島の島嶼防衛に当っている。これでは、朝鮮半島の動きに重大関心はあっても、米韓同盟が対処すること。日本は無関係である。
韓国は、日本の安全保障政策で重要なパートナーから外れている。米国、豪州、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)に次いで、韓国は5位に下がった。昨年12月まで2位の韓国が、ここまで下がったのは、安全保障政策の構造が大きく変わった結果だ。
(3)「安倍政権は、今後南北和解が進展し経済協力が本格化する場合、南北経済交流が北朝鮮の武器開発につながるという論理を前面に出し、南北協力を妨害しようとする可能性が高い」
安倍政権の任期は、2021年9月までだ。永久政権ではない。南北が協力できるかどうかは、北の核放棄しだいだろう。南北協力を妨害する理由はない。拉致被害者の帰国が可能になるからだ。
(4)「日本右翼と韓国保守の戦略的利害関係の一致があらわれる。韓国の保守勢力は、南北の対決と朝鮮半島の緊張を存立の根拠としてきた。北朝鮮の脅威を前面に出し、韓国国民の安保不安を刺激して、そうすることで作った不安感を利用して既得権を維持し育ててきた。朝米対話と南北和解は、その安保既得権の土台を揺さぶっている。韓国の保守勢力は、このような流れを何としてでも阻止し、逆転させようとしている。日本右翼と韓国保守の関心は、デカルコマニーのように似ている。韓国保守のイデオロギー機関紙である朝鮮日報をはじめとする既得権勢力が、安倍の経済挑発を糾弾するどころか、反対に肩を持ったりそそのかして、その波紋の責任を文在寅政府に押し付ける理由がそこにある」
韓国保守は、南北協力に反対である。だから、日本の保守派と同根という荒っぽい前提で議論している。もう少し、論理的な展開はできないだろうか。論説委員の肩書きに傷がつく。
日韓の保守派は、市場経済と自由主義という同じ価値観を信奉している。その点で、韓国進歩派とは価値観が異なる。進歩派は、市場経済の代わりに統制経済。自由主義の代わりに民族主義が支配している。韓国進歩派の「エセ」具合は、強烈な民族主義に裏付けられ、現在の日本品「不買運動」を支持している。民族主義は、感情的であって理性に盲目である。現在の韓国与党「共に民主党」の日本批判にそれが現れている。恥ずかしいほど、冷静さが欠如した政党である。