文大統領が、「二度は日本に負けない」という宣戦布告して以来、日韓の経済競争が始まったような印象を与えている。この見方は、大きな間違いだ。潜在的経済成長率は、総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率の大小が大きな影響力を与えるからだ。
この重要な事実が見過ごされている。その結果、あちこちで「謬見」がはびこっている。その一つが、中国が2030年ころに米国経済を抜いて世界一になるというもの。前記の生産年齢人口比率に大きな影響を及ぼすのは、「合計特殊出生率」である。これが低下している国家は、いずれ生産年齢人口比率の低下をもたらし、GDP成長率は低下する構図になっている。
中国は、まさにこれに当てはまる「衰退型」である。その点で米国は、「発展型」に分類される。中国がひっくり返っても、米国経済を抜くことはあり得ない。最近、日本経済研究センターが、2030年代前半に一時、中国経済が米国を抜くとみている。だが、生産年齢人口の計算が、米国は国際標準(15~64歳)だが、中国は健康上の理由で15~59歳で、5歳も短いのだ。これを取り違えて計算すると大きな誤差が出るはずだ。
ここからが本論である。
韓国の生産年齢人口比率は、72.22%(2018年)である。日本は59.68%(2018年)である。日韓には、これだけの差がある。韓国の人口動態は、日本よりも約20年遅れている。GDPの潜在成長率から言えば、日韓は競争する次元が異なる。よって、「日韓経済の競争」という概念自体が成り立たない。
日本は、1990年の生産年齢人口比率が69.66%である。GDP成長率は4.89%であった。バブル経済が実態よりも押上げている。韓国の昨年のGDP成長率は、2.7%である。生産年齢人口比率が、72.22%と高いにもかかわらず、この成長率に終わったのは、文政権の政策ミスによることは明らかだ。
文大統領の発言するような、「日韓が経済競争する」共通基盤が存在しない。あえて言えば、韓国の生産年齢人口比率の高さから言えば4%台の成長率を実現できる能力を持っている。それを実現できない理由を問うべきである。反市場主義により企業への管理を強めている結果にほかならない。
『中央日報』(8月5日付)は、「韓日経済戦争、3年以内に低成長脱出競争で結果が出る」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のキム・ドンホ論説委員である。
(1)「(日韓) 衝突の根本的背景には日本の経済力衰退がある。今、日本は世界第3位の経済大国といっても見かけ倒しだ。世界第2位の中国との格差があまりに広がっており、インド・ドイツに押されるのも時間の問題だ。2001年、中国の3倍に及んだ日本の国内総生産(GDP)は2010年に逆転されたのに続き、今では36%〔日本4兆9710億ドル(約529兆円)、中国13兆6080億ドル〕に縮小した。さらに中国は2030年頃に米国まで抜いて世界1位になる」
このパラグラフの指摘は、すべて生産年齢人口比率の状況で説明がつく。下線の部分は、昨今の合計特殊出生率が、韓国と競うように世界最低ゾーンに落込んでいることから、あり得ない話だ。ちなみに、韓国の合計特殊出生率は世界最低の「0.98」。今年はさらに低下する。
(2)「その上、日本は植民地統治していた韓国との格差も縮小している。2001年に8倍だった韓日GDP格差は昨年3倍に狭まった(韓国1兆6190億ドル、日本4兆9710億ドル)。日本経済が「失われた20年」を経たことで実質的に成長を止め足踏みした結果だ。さらに、1人当たりの国民所得は韓国が昨年3万ドルを超え、日本と並んで3万ドル台国家グループに入った」
これも、すべて生産年齢人口比率で説明がつく。韓国は、1人当たりの国民所得で日本へ接近したと喜んでいる。だが、IMFでは今が接近したピークと予測している。
(3)「(韓国が)日本に対する依存度を下げ、独自の産業生態系を構築するには、すぐに政策実験から止めなければならない。そうでなければ韓国も近いうちに1%台の成長率と慢性的低成長構造が固着化し、低成長の沼にはまった日本と同じ道をたどる公算が大きい。そうなれば、今8倍の中国とのGDP格差は開き続け、再び中国の辺境国に転落することになる」
日本が、「失われた20年」に陥った理由は2つある。
① 不動産バブル崩壊の後遺症(不良債権累積)
② 生産年齢人口比率の低下(人口オーナス期入り)
韓国が、直面する問題点は2つある。
① 家計債務の急増
② 生産年齢人口比率の低下(人口オーナス期入り)
韓国経済も日本と似た状況にある。ここから脱するには、反市場主義を捨てて、企業への規制を緩めることが先決である。その点で、文政権はマイナスの存在だ。