勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年08月

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    韓国文政権は、GSOMIA破棄が来年4月の総選挙で与党勝利に「必勝パターン」としか見ていない。実は、これが韓国の運命に大きな影響を及ぼすという指摘が現れた。文政権は、国と国との関係を軽く考えているが、何十年間に渡る関係者の努力の上に築かれてきたものだ。文政権は、それを与党選挙のために壊すという暴挙に出ている。

     

    『東亜日報』(8月24日付)は、「前在韓米軍司令官、70年間の韓米同盟を危険に陥れる」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ビンセント・ブルックス前在韓米軍司令官は22日(現地時間)、韓国政府が協定終了を発表すると、「そのような決定が下されたことは不幸なこと」とし、「韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了は、直接的な情報共有チャンネルを断つだけでなく、米韓日3国の情報共有協力という三角形の一辺を壊す結果につながる」と話した。ブルックス氏は東亜(トンア)日報との電話インタビューで、「均衡を保つ米韓日の安全保障協力の一軸が崩れれば、部分的な情報しか共有されず、総合的で全体的な絵を見ることができなくなる」と懸念を示した

     

    韓国は、日米韓三ヶ国の関係が単なる情報の共有程度と見ているが、それによって、総合的な全体的な認識を持つことができるとしている。テクニカルな側面でなく、共通の認識を形成するという。

     

    (2)「ブルックス氏は2016年に在韓米軍司令官として協定の締結を見守った在韓米軍最高位の要人。ブルックス氏は、「協定が維持されてこそ敏感な軍事情報を迅速かつ効率的に共有することができる」とし、速度の問題を指摘した。特に、ロシアと中国が最近、韓国の領空を侵犯した事件を取り上げ、「このような問題に効果的に対応できなくなる」と強調した

     

    韓国が、GSOMIAを破棄したことで、中ロが「ハゲタカ」のように韓国の領空侵犯を始めている。日米韓三カ国が一体感を持っていれば無用の摩擦を防げるのだ。

     

    (3)「ブルックス氏は、「今回の決定は本来の意図とは異なり、米国と日本の双方に誤って受け止められる可能性が非常に高い」と診断した。日本には「両国の協力から完全に手を引く」というメッセージに、米国には「韓国が北東アジアで構築されている同盟の構造を危険に陥れかねない」というメッセージに誤解される恐れがあるということだ

     

    韓国の今回の行動によって日米がそれぞれの誤ったイメージを持つ危険性があるという。日本は日韓の協力関係から完全に手を退く。米国は、北東アジアの同盟構造を危険に陥れると判断する。この二つのイメージが定着したら、韓国は生きてはいけない国となる。

     

    (4)「韓国の協定終了の背景については、「積極的に韓日対立を仲裁するよう米国を引き入れ、日本に対する効果を高めることが目的と見える」と答えた。ブルックス氏は、「韓国が協定終了を決定したことで、北東アジアの平和と繁栄に向けて70年以上構築してきた同盟の構造が危険に直面した。正直に言って失望している」とし、「単純に協定の問題ではなく、韓日関係をさらに悪化させてもいいという考えがあるという点で問題だ」と強調した。「これは中国とロシアを喜ばせ、日本と米国は混乱させることだ」とも述べた」

     

    韓国は大胆な行動に出ている。本心は、米国によって日韓対立を仲介して欲しいと思いながら、GSOMIA破棄という最終行動で、米国の仲介余地を無くした、とブルックス氏は見ている。「帰らざる河」になってしまった。


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    国内事情で安保を決める

    米中貿易戦争最大の被害

    コリア・ディスカウント

    経常赤字転落で地獄見る

     

    韓国は8月22日、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を破棄しました。GSOMIAは、日韓において軍事情報交換を行うという狭い意味だけでなく、日米韓三ヶ国の安保インフラを意味していました。このため、米国は韓国に対して自動延長を強く要請しました。日本も同様に、延長を要請したのです。

     

    日米韓三カ国の安保体制は、中朝に対して盤石であることを示すシンボル的な意味を持ってきました。ところが、今回の韓国の離脱によってその意味合いが薄れる懸念が出てきたのです。安全保障は国家の基本的骨格です。これがぐらつく状況では、「カントリー・リスク」が高まらざるを得ません。その意味で、韓国は自ら「カントリー・リスク」高めるという行動を取ったのです。

     

    国内事情で安保を決める

    韓国は、なぜこういう行動に走ったのでしょうか。

     

    韓国の国家安全保障会議(NSC)が、今回の離脱を最終決定しましたが、その際の討議では、最初から「結論ありき」のデータを提示して、それに基づき結論が出された形跡が濃いのです。

     

    1)2016年11月にGSOMIAが締結された後、両国間の情報交流が行われた回数は29回。うち韓国が日本から受けた情報量が極めて少ないという不満だそうです。2018年度には事実上、情報交流の需要がなかったし、最近は北の短距離ミサイル発射によって日本側が韓国に要求した安保情報交流需要があった程度というのです。

     

    日本は偵察衛星7基、沿岸の観測所や飛行機で北朝鮮の電波情報を収集し、弾道ミサイル発射などの情報を入手しています。日本の収集できる北朝鮮情報は、韓国側に貴重な情報源でした。事実、韓国国防省など情報機関は、GSOMIA継続の必要性を主張していたのです。

     

    先に、韓国が日本から受けた情報量が極めて少ないという不満を述べています。これには深刻な「情報漏出問題」が起こっていたのです。韓国の情報機関、国家情報院の幹部が定期的に北京を訪れ、日本や米国が提供した機密情報を中国に漏らしているという疑いが、米国防総省高官から日本側に告げられていたと言われています。このため、日本側の情報を無条件に韓国へ渡すことは厳に控えてきたとされます。極端なケースでは、「韓国から提供された情報の中には、日本側を誤った方向へ誘導するためとみられる虚偽情報が含まれていたこともあった」と指摘されています。こうなると、日韓は友好国ではなく、韓国が日本を敵視していたとも言えるでしょう。

     

    2)国民感情=反日世論の重視です。大統領府は、国民の意思がどういうものかを把握するため、ほとんど毎日世論調査を実施したというのです。GSOMIA破棄に賛成する意見が多数だったので、「世論」に従ったとされています。ここで重大な点は、安全保障という高度に専門的な判断を要する問題が、世論で決められるという「大衆迎合政治」の典型例が見られることです。

     

    文政権が、世論重視でGSOMIAを破棄したことは事実です。それは、来年4月の総選挙で与党が勝たなければ、文政権の残り任期2年が「レームダック化」するのです。そこで、是非とも与党勝利を期すべくGSOMIAの破棄に至ったのです。総選挙で与党が勝利を握れば、次期大統領選も与党候補が選挙戦を有利に戦えるでしょう。その結果、2期連続で進歩派が大統領ポストを占めて、南北統一へ「ゴー」という期待を高めたいのです。(つづく)

     

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    韓国政府は、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄後、米国から強い批判を浴びている。米国務省は二度にわたり声明を発表するという怒りかただ。GSOMIAは、日韓だけの問題でなく、日米韓三ヶ国の安保インフラであると力説している。当然、米国は事前に韓国へ、この主旨を説明しているはず。それにも関わらず、米国の要請を断ったのだ。

     

    米国は、「文在寅政権」と名指しの批判である。普通は、「韓国」と呼んでいるが、「文在寅政権」が、GSOMIAの意味を理解せず破棄したというニュアンスである。ちなみに、GSOMIAを導入したのは、「朴槿惠政権」であった。言外に、現政権と前政権を比較しているのだろう。

     

    韓国大統領府は、米国の怒りを逸らすために、記者団にとんでもない「責任逃れの話」をでっち上げている。韓国大統領府の品性がいかに劣るかを示している。呆れる話だ。

     

    『聯合ニュース』(8月25日付)は、「軍事協定終了、延長決定後に日本が破棄する可能性も考慮=韓国高官」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国の青瓦台(大統領府)や政府が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を決めた背景には、同協定を延長した後、日本が協定を一方的に破棄する可能性があるとの判断も大きく働いたようだ。韓国政府が7月、日本に高官級の特使を派遣し、8月には日本政府高官との協議を試みるなど、外交的な解決を目指したが、これを無視し続けた日本側が「外交挑発」を敢行する可能性を考慮したという」

     

    (2)「韓国政府高官は聯合ニュースに対し、「政府と青瓦台の安保室で(協定延長の)賛否を巡って激論が交わされた。深く考慮したことの一つは、われわれの対話の努力に日本が応じなかったこと」と明らかにした。また、「(協定の更新期限の)24日以前に協定を延長しても日本は結局、28日に『ホワイト国(輸出管理の優遇対象国)』から(韓国を)除外する措置を取るとみた」と伝えた」

     


    (3)「その上で、「その後、日本が一方的にGSOMIAを破棄する可能性があった」として、「われわれが協定を延長し、日本がこれを破棄すれば、ばかを見ることになる」と説明。「(日本にとっても)非常に負担になる決定であるにもかかわらずホワイト国から韓国を除外するほど強気に出たのは、『韓国政府とは(共に)できない』と判断したとみなければならない」との認識を示した。韓国政府としては、対立の解消を促した米国の呼びかけまで拒否して関係改善の努力を行わなかった日本と信頼関係を維持することは難しいと考えたようだ」

     

    韓国が、これほど荒唐無稽な作り話をしている。日本は、韓国に対して国家間の協定を守れと要求している。その日本が、GSOMIAの自動延長後に破棄できるはずがない。自動延長したならば、1年間は守る義務があるのだ。仮に、韓国がそういうリスクを感じたとすれば、韓国がこれまで日本に対して行ってきたことから引き出した妄想だろう。

     

    それにしても、こういうあり得ない話を記者団にして、「フェイクニュース」を書かせる。韓国大統領府は、相当に悪質な情報操作をし始めている。

     

    この作り話は、GSOMIAの意義を全く忘れた議論をしている。GSOMIAは、日米韓三ヶ国の安保インフラである。日本が、この輪から抜け出ることが対米関係から言ってもあり得ない自殺行為である。日本はG7の一員である。世界の物笑いになる道を選ぶはずがない。それができるのは、韓国だけである。


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    韓国が、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の延長をせず、今年で破棄する決定をしました。米国は、日米韓三ヶ国の安保ラインとして中ロに対峙する象徴と、GSOMIAを位置づけていました。毛利元就の「三本の矢」同様に、三ヶ国が一体となって、北東アジアの安保体制を固めておきたかったのです。

     

    ところが、韓国は22日にGSOMIA破棄を決定しました。その発表文が、なんと日本を「悪者」にしているのです。韓国大統領府の金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長は、次のように結論を語ったのです。

     

    日本の対応は単純な韓国への拒否を超え、韓国の「国家的自尊心」を喪失させるほど韓国を無視し「外交的な礼を欠いた」と指摘しました。このため、韓国のプライドを守るために、GSOMIAを破棄するというのでした。

     

    ここには、日米韓三カ国による安保ラインを守るという認識が消えており、日本が憎ったらしい態度を続けるから、腹を据えかねて破棄すると言うのです。韓国に駐留する在韓米軍の後方部隊は、日本に常駐しています。これが、韓国の防衛にどれだけの効果を上げているか。韓国大統領府は分っていないのです。日本の基地があるから、韓国防衛はより強力なものになっているのです。その日本による韓国への態度が良くないので「懲らしめる」とまでは言っていませんが、「国家的自尊心」を賭けて対抗するというのです。

     

    私は、ここまで書いて来て、日本の「大東亜戦争」でも、韓国の「国家的自尊心」に近い言葉を使っていることに気付きました。

     

    大東亜戦争における天皇の開戦詔勅では、次のような文面(口語訳)がありますので紹介します。

     

    「私(注:天皇)は政府に事態を平和に解決させようとし、長い間忍耐をしたが、米英は少しも譲りあう精神が無く、むやみに事態の解決を遅らせようとている。ことここに至っては、我が帝国は自存と自衛の為に決然と立ち上がり、一切の障害を破砕する以外にはない」

     

    韓国の「国家的自尊心」と、太平洋戦略詔勅の辞の「自存と自衛の為に決然と立ち上がり」はよく似ています。

     

    もう一つ似ている点は、韓国には「日米韓」の安保ラインという前提が抜けています。開戦詔勅では、従来の宣戦布告書にあった「国際条約を守る」という一言が入っていません。要するに、韓国は米国の存在を忘れて「日本憎し」で平衡感覚を失っています。日本の宣戦布告も同様です。日本の立場だけで開戦に踏み切りました。

     

    ここで、結論としましょう。

     

    日本は大東亜戦争で、米英に対して経済的劣勢にもかかわらず開戦し、結局は敗れました。韓国も、日本の経済力には対抗できないにもかかわらず、戦いを挑んでいます。

     

    まだ、大東亜戦争との類似点があります。日本にとっての米英は、日露戦争で日本側に立ち支援してくれた国です。朝鮮を日本の保護国にする上で協力支援した国です。日本は、その米英に宣戦布告したのです。米英の怒りは大変なものがあったろうと思います。

     

    韓国は、1945年の独立以来、日本の技術と資本で経済発展して、今日の経済的な地位を得ました。その日本と歴史問題で対抗して、ついに日米韓三カ国の安保ラインから抜けると宣言したのです。なにやら現在の韓国は、戦前の日本と立場がそっくりです。この帰結は、どうなるか。それに触れることは止めましょう。「武士の情け」です。

     

     

     

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    米中貿易戦争は、大混戦になってきた。中国も負けじと報復関税で応戦しているからだ。

    中国は23日夜、米国が9月から発動する予定の対中制裁関税「第4弾」への報復措置を発表した。原油や農産物など約750億ドル分(約8兆円)の米国製品に5~10%の追加関税をかける。

     

    この中国の「応戦」に対して、トランプ米大統領は23日、さらなる対抗策を発表した。2500億ドル(約26兆円)分の中国製品に課している制裁関税を、10月1日に現在の25%から30%に引き上げると発表したもの。さらに、ほぼすべての中国製品に制裁対象を広げる「第4弾」については91日に15%を課すと表明した。従来は10%の予定だった。

     

    『ブルームバーグ』(8月23日付)は、「対中関税第4弾実施なら中国成長率は6%未満」と題する記事を掲載した。

     

    この記事は、これまで米国が発表してきた関税率に基づく、中国GDPの成長率見通しである。ただ、23日に発表された「プラス5%」の関税引き上げを加味していない。よって、実際の中国経済は、以下の予測よりさらに悪化するであろう。この点をあらかじめ注意していただきたい。

     

    (1)「ブルームバーグが実施したエコノミスト調査によると、トランプ米大統領が9月1日に発動するとしている対中制裁関税第4弾が実施されれば、中国の経済成長率は6%未満と、1990年以来の低い伸びに鈍化する見通しだ」

     

    エコノミストの予測では、今年の中国のGDP成長率が6%割れと見込んでいる。すでに、4月以降に経済は急減速局面に向かっている。7月の統計でそれがはっきりと確認された。

     

    (2)「エコノミスト14人を対象とした調査によれば、(第4弾で)10%の制裁関税が上乗せされた場合、中国の国内総生産(GDP)の前年比成長率が最大0.5ポイント押し下げられると見込まれる。中国の2020年のGDP伸び率は既に6%への鈍化が予想されている。中国政府の19年の成長率目標は6~6.5%だ」

     

    関税第4弾で10%の関税で、最大0.5ポイントの引き下げになるという。ところが、最新のトランプ関税では、第1弾から第4弾までさらに5%の関税引き上げになれば、0.5ポイントの引下げにとどまらず1%ポイントの落込みは不可避。中国経済は大混乱に陥る。

     

    (3)「中国経済が内需縮小と米国との貿易戦争という逆風に直面する中で、このような見通しは同国経済の危うさを浮き彫りにする。ただ、トランプ大統領は9月1日に実施予定の制裁関税の一部製品への発動を延期するとしており、9月から再開されることになっている対面協議の結果、さらなる猶予が与えられる可能性もある」

     

    中国が、米国の「関税攻撃」にどう対応するかだ。抵抗を止めて、米国と合意にこぎ着けるのか。その辺がポイントになろう。ともかく、これ以上の米中貿易戦争は、中国が金融システムの波瀾で「再起不能」になる。むろん、世界経済もメチャクチャだ。「原爆投下」と同じで、局面転換のテコ役を果たすだろう。

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