中国の社会主義は、「空想的社会主義」である。確たる将来計画もなく野放図に手を広げて、国威発揚という民族主義に陥っているからだ。その一例が、中国全土に高速鉄道網を拡大している点に表れている。高速鉄度は建設費もかかるが、その後の維持費が莫大である。米国でさえ高速鉄道建設に消極的である。維持費が嵩むからだ。
中国が、将来の人口推計でもっとも減少することは避けられなくなっている。
米中の将来人口推計
2020年 2100年 増減率
中国 14億3900万人 10億6500万人 -26%
米国 3億3100万人 4億4500万人 +34%
(資料:国連人口部 2019年6月)
中国は、2100年の人口が現在よりも26%減少する。高速鉄道を建設しても乗客が減ることを何も計算していないのだ。さらに、重大なことは、現在の大都市人口(100万人以上)の占める比率が日米よりも低く、採算が難しいことを証明している。
世界大都市人口比率(2018年)
日本(世界5位) 64.63%
米国(同15位) 46.25%
中国(同35位) 27.89%
(資料:世界銀行)
高速鉄道のように大量高速輸送機関が、経営的に採算に乗るには、営業基盤の都市人口比率が高いことが前提だ。前記のデータを見れば、中国は最悪である。鉄道線路に「ぺんぺん草」が生えるのは不可避であろう。この程度のことがなぜ分からないのか、不思議な国である。
『レコードチャイナ』(12月28日付)は、「中国の高速鉄道が3万5000キロ突破し世界の3分の2に 貧困地区にも続々開通」と題する記事を掲載した。
『人民日報』(12月26日付)は「今年末までに中国では13路線の高速鉄道が立て続けに開通し、営業距離が3万5000キロを超える」と報じた。
(1)「『人民日報』は、「今年末までに中国では13路線の高速鉄道が立て続けに開通し、営業距離が3万5000キロを超える」と報じた。記事によると、3万5000キロという営業距離は世界の高速鉄道の総距離の3分の2を上回る。記事は、「中国では今年、高速鉄道の営業距離が5000キロあまり増加した。鉄道の旅客数は計23億1000万人に達する見込み。鉄道を使って出かける旅客の3人のうち2人が高速鉄道を選んでいることになる」と説明した」
中国の高速鉄道の営業距離が3万5000キロに達したという。今年だけで5000キロも増加したことは、GDP押し上げ目的達成のため、無茶苦茶なスピードで建設・開業に持ち込んでいることが分かる。中国の大都市人口比率は世界35位である。人口密集地帯を走れば営業的にプラスであるが、田園都市を走っても営業上はマイナスである。
(2)「また、「来年の春節のピーク時期を前に、鄭州-重慶間を結ぶ路線の鄭州-襄陽区間を始めとして、成都-貴陽路線、鄭州-阜陽路線、武漢-十堰路線などが開通した。それによって、中国を“縦横無尽”に走る高速鉄道網はさらに密になり、地域開発のバランスもますます良くなろうとしている」と指摘した」
米国は、遠距離交通を空路に頼っている。中国は、そういう交通機関の棲み分けもなく「重複」させている。目的はただ一つ、GDP押し上げである。
(3)「記事によると、高速鉄道は地方の業者に農作物などの鮮度を保ったまま輸送することを可能にするといった理由から、「高速鉄道の発達は農村の活性化にとって新たなエンジンとなる」との指摘もあるという。このほか、記事は「今年に入って山東省臨沂市や広西チワン族自治区カン州市、安徽省阜陽市、貴州省畢節市といった貧困地区にも初めて高速鉄道が開通した」と紹介。人手不足に悩む郊外の工場などにとって、高速鉄道の開通は「貧困から脱出するための契機になる」と論じた」
高速鉄道が、人口希薄地帯で開業したからといって経済が活性化するだろうか。大都市へ購買力が吸収される「ストロー効果」が懸念される。今後の人口急減速によって地方人口が減るので、人間の住まない地域を高速鉄道が走っても赤字を生むだけ。そういうリスクについて、なんら考えていない記事である。「おめでたい」のだ。