勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2019年12月

    a0960_006638_m
       

    中国の社会主義は、「空想的社会主義」である。確たる将来計画もなく野放図に手を広げて、国威発揚という民族主義に陥っているからだ。その一例が、中国全土に高速鉄道網を拡大している点に表れている。高速鉄度は建設費もかかるが、その後の維持費が莫大である。米国でさえ高速鉄道建設に消極的である。維持費が嵩むからだ。

     

    中国が、将来の人口推計でもっとも減少することは避けられなくなっている。

     

    米中の将来人口推計

     2020年      2100年    増減率

    中国 14億3900万人  10億6500万人 -26%

    米国  3億3100万人   4億4500万人 +34%

    (資料:国連人口部 2019年6月)

     

    中国は、2100年の人口が現在よりも26%減少する。高速鉄道を建設しても乗客が減ることを何も計算していないのだ。さらに、重大なことは、現在の大都市人口(100万人以上)の占める比率が日米よりも低く、採算が難しいことを証明している。

     

    世界大都市人口比率(2018年)

     

    日本(世界5位) 64.63%

    米国(同15位) 46.25%

    中国(同35位) 27.89%

    (資料:世界銀行)

     

    高速鉄道のように大量高速輸送機関が、経営的に採算に乗るには、営業基盤の都市人口比率が高いことが前提だ。前記のデータを見れば、中国は最悪である。鉄道線路に「ぺんぺん草」が生えるのは不可避であろう。この程度のことがなぜ分からないのか、不思議な国である。

     


    『レコードチャイナ』(12月28日付)は、「中国の高速鉄道が35000キロ突破し世界の3分の2に 貧困地区にも続々開通」と題する記事を掲載した。

     

    『人民日報』(12月26日付)は「今年末までに中国では13路線の高速鉄道が立て続けに開通し、営業距離が35000キロを超える」と報じた。

     

    (1)「『人民日報』は、「今年末までに中国では13路線の高速鉄道が立て続けに開通し、営業距離が35000キロを超える」と報じた。記事によると、35000キロという営業距離は世界の高速鉄道の総距離の3分の2を上回る。記事は、「中国では今年、高速鉄道の営業距離が5000キロあまり増加した。鉄道の旅客数は計231000万人に達する見込み。鉄道を使って出かける旅客の3人のうち2人が高速鉄道を選んでいることになる」と説明した」

     

    中国の高速鉄道の営業距離が3万5000キロに達したという。今年だけで5000キロも増加したことは、GDP押し上げ目的達成のため、無茶苦茶なスピードで建設・開業に持ち込んでいることが分かる。中国の大都市人口比率は世界35位である。人口密集地帯を走れば営業的にプラスであるが、田園都市を走っても営業上はマイナスである。

     

    (2)「また、「来年の春節のピーク時期を前に、鄭州-重慶間を結ぶ路線の鄭州-襄陽区間を始めとして、成都-貴陽路線、鄭州-阜陽路線、武漢-十堰路線などが開通した。それによって、中国を“縦横無尽”に走る高速鉄道網はさらに密になり、地域開発のバランスもますます良くなろうとしている」と指摘した」

     

    米国は、遠距離交通を空路に頼っている。中国は、そういう交通機関の棲み分けもなく「重複」させている。目的はただ一つ、GDP押し上げである。

     

    (3)「記事によると、高速鉄道は地方の業者に農作物などの鮮度を保ったまま輸送することを可能にするといった理由から、「高速鉄道の発達は農村の活性化にとって新たなエンジンとなる」との指摘もあるという。このほか、記事は「今年に入って山東省臨沂市や広西チワン族自治区カン州市、安徽省阜陽市、貴州省畢節市といった貧困地区にも初めて高速鉄道が開通した」と紹介。人手不足に悩む郊外の工場などにとって、高速鉄道の開通は「貧困から脱出するための契機になる」と論じた」

     

    高速鉄道が、人口希薄地帯で開業したからといって経済が活性化するだろうか。大都市へ購買力が吸収される「ストロー効果」が懸念される。今後の人口急減速によって地方人口が減るので、人間の住まない地域を高速鉄道が走っても赤字を生むだけ。そういうリスクについて、なんら考えていない記事である。「おめでたい」のだ。

    a1180_012431_m
       

    中国で習近平第2期政権発足時に、現在のような経済危機に襲われると予想した者はいなかったであろう。民族派は、意気揚々と「米国経済衰亡」、「中国経済飛躍」という妄想を習氏に吹き込んでいた。これを真に受けた習氏は、「米国覇権に挑戦する」、「2050年頃には経済力・軍事力で米国を抜く」とバブル経済に酔っていたのだ。

     

    現在の中国は、酔いから冷めて深刻な事態だ。失業の嵐が吹きまくっている。無慈悲な首切りが行なわれており、突発的な社会騒乱発生を警戒せざるを得ない状況だ。バブル崩壊後、失業率はどの程度、高まるのか。日本を例に見ておきたい。

     

    日本の失業率(%)

    1990 2.10 (1月4日、株価大暴落)

      91 2.09

      92 2.15

      93 2.50

      94 2.89

      95 3.15

      96 3.37

      97 3.40 

      98 4.10

      99 4.67

    2000 4.73

      01 5.04

      02 5.36 (失業率ピ-ク)

      03 5.24

      04 4.73

      

    日本は、終身雇用制で人員整理せず、「社内失業」でカバーしたが、それも1998年ころから限界にぶつかった。それ以前の急速な円高で輸出不振に陥ったことも影響した。

     

    こういう日本のバブル経済崩壊後に辿った「失業の大波」は、必ず中国経済にも表れる。特に、日本のような終身雇用制(当時)で守られていないだけに、失業が中国経済に及ぼす影響は甚大であろう。

     

    『大紀元』(12月28日付)は、「中国当局、雇用安定再強化の指針を発表『失業ラッシュ』強く意識」と題する記事を掲載した。

     

    中国国務院(内閣に相当)は12月24日、雇用安定の再強化に関する指針を発表した。指針は「規模性失業風険(大規模な失業リスク)」との文言を複数回用い、失業問題に対して中国当局が神経をとがらせている様子を映し出した。

     

    (1)「李克強首相が署名した『国発(201928号文件』は、「国内外のリスクや課題が増える中、雇用の安定化の圧力が強まっている」との認識を示した。指針は、2019年下半期以来、企業が粗雑に従業員を解雇したケースが急増していると指摘し、「雇用の安定化をさらに重要な位置づけにする必要がある」と強調した。また、「大規模な失業リスクを全面的に回避・防止し、雇用情勢の安定を全力で確保しなければならない」と発表した

     

    下線部分で今年下半期以降の首切り旋風が起こっていたことを示している。

     

    (2)「同指針は、民間企業や零細企業向け融資を拡大し奨励すると唱え、雇用の促進や失業者への失業保険や生活保護費の支給も強調した。その一方で、「各地方政府は、大規模な失業による突発的な抗議事件に対応する体制を整えなければければならない。対立の激化と事態の悪化を防ぐ必要がある」「突発的で、大規模な失業リスクに備えて、条件のある地域では、失業リスク準備金を設立することも可能だ」と提唱した。さらに中国当局は、失業問題について「プロパガンダ宣伝を行い世論を導く」よう地方政府に要求し」

     

    突発的な失業の発生を警戒している。これは、「金融連鎖倒産」に伴うもので、実態はここまで悪化してきた。同時に、これがもたらす社会騒乱の発生が警戒されている。まさに、臨戦体制だ。中国経済も落ちぶれたものである。

     


    (3)「大紀元コメンテーターの李林一氏は、同指針は今後、広範囲に人員が削減されるだろうという中国当局の見通しを反映しているとした。「民間企業は国内約9割の雇用に貢献している。景気後退と米中貿易戦の先行き不透明感で、数多くの民間企業が経営破たんに追い込まれた」

     

    中国一の富豪とされる、アリババ集団創業者の馬雲氏はこのほど、国内で行われた企業家フォーラムで、1日に5人の友人から借金を頼まれたことを明かした。馬氏は、中国民間企業の「難局は始まったばかりだ」と発言している。これは、馬氏の持論でもあり、中国経済の将来に警戒感を持っている。危機は、これから本格化するという立場だ。

     

    (4)「国務院の指針に関して、中国版ツイッター「微博」では波紋が広がった。次のような書き込みがされている。

    1)このニュースを見た途端、もうすぐ失業ラッシュが本当に起きるのだなと思いついた。2020年は大変な一年になりそうだ

    2)企業はすでに社員をどんどん解雇しているけど、報道されていないだけだ。(当局が)このニュースを通して、今までの深刻な状況を認めたということか?それとも、(当局が)企業に対して『穏やかに』リストラしなさいというメッセージを送っているのか?

    3)会社に解雇されたばかりだ、リストラされた、というネットユーザーらもコメントを書き込んだ」

     

    失業とこれに伴う騒乱問題が、2020年のトピックスになる懸念が強まっている。解決策はない。米中貿易戦争を回避せず、粋がって買って出た民族派の失敗である。米国経済の実力を見誤った結果だ。同時に、市場経済が持つ経済調整力を軽視したことも、致命的な結末をもたらすであろう。

    a0960_008532_m
       

    韓国は毎年、ノーベル賞受賞者発表シーズンになると落胆している。韓国からの受賞者が出ないためである。もともとノーベル賞に値するような研究成果が出ていないにもかかわらず、成果だけを求める方が無理なのだ。反日と同じで、原因を考えようとしない。

     

    ノーベル賞に値する研究成果は、長期の時間をかけて初めて出てくるもの。韓国では基礎研究を許す社会風土がない。短期間で成果の出るようなものにしか関心が向かない「風見鶏」社会である。そのことの認識がゼロで、今日も右往左往している。

     

    『朝鮮日報』(12月28日付)は、「政権におもねり 流行の研究を追いかけないと研究費支援が途絶える現実」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ソウルにある大学で物理化学を研究しているある教授は「政権が変わると、政治との関係で後続研究ができなくなりかねないのが韓国の現実だ。政治の動きを気にする者が生き残り、研究に専念する者は滅んでしまう」と話した。科学が政治に振り回され、科学者も政権の顔色をうかがわなければならないのだ。同教授は「研究費を受け取り続けるためには、テーマを変え続け、何としてでも流行を追うしかない。研究費をもらいやすい『ホット分野』を探す必要がある」とも漏らした」

     

    儒教社会の「科挙」試験では、職人には受験資格を与えなかった。これは、上流社会が手に汗して働く「勤労」を蔑視した結果である。中国も韓国も、未だにこの悪弊から逃れられないのだ。中国は、これがもたらす欠陥をスパイや技術窃取で補ってきた。韓国の半導体は、日本の技術者を毎週末、ソウルへ招いて手に入れた技術窃取による。サムスンの基礎は、こうした違法な技術によって築かれた。

     

    韓国では、長期にわたってコツコツと研究するスタイルを尊敬しない社会である。研究テーマが、政権を喜ばせることに集中している。政権が変れば、研究テーマも変る。まさに、「風見鶏」研究である。

     

    (2)「最近韓国で最もホットな分野は「夢の新素材」ゴラフェンだ。ソウルにある私立大学だけでグラフェン研究室が10カ所ある。2010年に同分野でノーベル物理学賞受賞者が出たことで物理学科で起きたグラフェンブームが化学科、材料工学科、電気科、機械科などに飛び火した。他の大学でも素材関連学科の新任教授の大半をグラフェン専攻者が占めるほどだ。韓国ではグラフェン関連の論文が平均で2-3日に1件発表される」。

     

    韓国の研究テーマは、ファッションと同じである。流行のテーマに、シフトするからだ。この時流に流される研究スタイルからは、何も生まれないのである。国民性とは恐ろしいもの。誰も、その矛楯に気付かす一斉に、同じ方向へ張っていくからだ。

     

    (3)「流行に追従する韓国の科学界が生んだおかしな現象が研究成功率100%の奇跡だ。科学技術情報通信部によると、毎年5万件を超える政府の研究開発(R&D)課題の成功率は95-98%で、事実上ほとんどの課題が成功した。最初から成功しそうな研究ばかりをやる科学者たちと失敗に伴う責任追及を避けようとする予算当局の共謀がつくり出した笑えない現実だ」

     

    下線を引いたように、成功率は「95.98%」である。神業としか言い様のない話である。だいたい、科学研究で短期間の「成功率」に、いかほどの意味があるのか。韓国の対GDPのR&D費用は、4%台と日本を上回るようになった。だが、この「成功率」とやらは、野球の「打率」と同じ感覚である。いくらR&Dに予算をつけても真の研究成果に結びつくものは出ないだろう。

     

    (4)「基礎科学研究院(IBS)のロドニー・ルオフ団長は、「韓国は基礎科学分野で『ハイリスク・ハイリターン』の研究を行わない」と指摘する。炭素素材分野のノーベル賞候補でもあるルオフ氏は「それは研究費支援を容易に受けるための方法ではあるが、それでは世界最高レベルの研究者たちと競争にならない」と語った」

     

    ここでの指摘は、その通りである。だが、国民性がそれを許さない「単眼思考」である。韓国が反日の勢いで、「素材独立」を目指して年間2000億円をつぎ込むという。従来と同様に、「無駄ガネ」に終わるだろう。

     

    あじさいのたまご
       


    中国ファーウェイ(華為技術)は今や、世界最大の通信機メーカーとなった。急成長した裏には、中国政府と密接な関係のあることが分かった。約8兆円にも上る巨額の補助金などの助成を受けていることが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の調査記事で判明したもの。

     

    ファーウェイは、これまで社員株主制による純然たる民間会社と言い張ってきた。だが、実質株主は国家であることが判明している。退職したファーウェイ社員が、保有株式数に見合った株価に基づく退職金を裁判所に訴え敗訴している。判決で、登録株式名義は労組であり、最終的に国家が所有するとの判決が下ったのだ。

     

    ファーウェイの実質は、国有企業でありながら民間会社の仮面を被ってきた。その理由は何か。スパイ活動をする上で、「民間企業」であることが好都合であったのであろう。ファーウェイのスパイ活動は、世界中で行なわれてきた。中国大使館と表裏一体になって諜報活動や技術窃取などを行なっている。本欄でもしばしば取り上げてきた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月27日付)は、「ファーウェイ、台頭の裏に政府支援8兆円超」と題する記事を掲載した。

     

    中国の華為技術(ファーウェイ)が世界トップの通信機器メーカーに上り詰めた背景には、政府からの巨額の金銭的支援があった。主要な指標で見た場合、その規模はライバル企業が政府から得た支援をはるかに上回る。

     

    (1)「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はファーウェイが受けた補助金、信用供与、税制優遇措置などの金銭的支援を確認し、同社がいかにして最大750億ドル(約82040億円)もの国家的支援を利用し、ほぼ無名の電話交換機ベンダーから世界最大の通信機器メーカーへと成長したかを初めて明らかにした。そうした支援を武器に、ファーウェイは顧客に寛大な融資条件や競合を30%も下回る価格を提供しているとアナリストや顧客は話す」

     

    仮面を被ってきたファーウェイの実態が初めて、WSJの記事で明らかにされた、中国政府の手厚い保護を受けてきたのである。表面的には民間企業を装いながら、実態は国有企業である。なぜ、カムフラージュしたのか。それは、技術窃取と諜報活動には民間企業の体裁が相手国から警戒されず好適であったからだ。

     

    (2)「ファーウェイは次世代通信規格「5G」ネットワーク構築の契約獲得を世界中で競っている。中国以外の国でも、政府が力を入れる企業や業界に金銭的支援を提供すること自体は珍しくない。ただ、25年前に開始された免税措置をはじめとする中国のファーウェイ支援は、同社と政府の関係への疑問を強める一因となっている。米中関係を調査する米議会委員会のマイケル・ウェッセル委員は「ファーウェイには商業上の利益がある一方で、そうした商業上の利益は国家によって強く支えられている」と述べた。米国はファーウェイの機器について、中国政府が同社にネットワークデータの提供を要請した場合、安全保障上の脅威をもたらしかねないと懸念を表明している。ファーウェイはデータを政府に引き渡すことはないと否定している」

     

    ファーウェイ製品は、他社製品よりも飛び抜けて割安である。この裏には、中国政府の補助金などの助成があったから可能なのだ。中国政府が、手厚い補助金を出した理由は、ファーウェイ機器に仕組んだ「バックドア」により、各国政府の機密情報を奪取する目的である。それ以外に、理由は考えられない。ファーウェイの補助金は、政府諜報活動費の一環である。

     

    (3)「WSJが確認したところによると、支援で最も大きな部分を占めるのが、国営銀行から提供された約460億ドルに上る融資や信用枠だ。また、IT(情報技術)業界向けの優遇策によって200818年に最大250億ドルを節税している。その他、16億ドルの補助金や土地代の20億ドルの値引きなどもある。ファーウェイに対する国家的支援には定量化できないものもある。中国やその他の関係者によると、中国政府は1999年、ファーウェイを脱税疑惑から救済するため異例の介入を行った」

     

    ファーウェイは、国有銀行から融資枠で優遇されている。政府からは、減税の恩典にも預かっている。脱税疑惑では、政府の介入で税務調査をストップさせたこともある。このように、民営でありながら、実質国有企業のファーウェイは、「身分」を偽って世界中で暗躍を続けている。

    a0960_006043_m
       


    中国は、世界の工場といわれてきたが、米中貿易戦争の影響と製造工程の急速なAI(人工知能)化によって、その座を揺さぶられている。米国は3年後、製造業のオペレーションで大卒者が現場に大量採用されると予測されている。結果的に、人件費は大幅に削減され、中国で製造するより、トータルコストが安くなる時代を迎える。中国は、世界一の人口に胡座をかいている時代でなくなった。

     

    米中貿易戦争は、覇権戦争である。中国は、習氏が国家主席に就任以来、米国と覇権を争う姿勢を宣言したことが命取りになってきた。米中経済の将来性を考えれば、誰でも「米国有利」と判断する。企業は、勝ち馬に乗るべく米国へ付き従うのだ。習氏の妄言が、中国経済の足を引っ張っている。いずれ、習氏の責任追及の声が、中国に起こるだろう。

     

    現実に、中国へ進出している米国企業の41%が撤退を計画する衝撃的な事実が判明した。外資企業の撤退は、中国にとっては「死の宣告」である。輸出減少がもたらす経常黒字圧縮によって、中国は大幅に海外活動を制約される。これまで、外資系企業の稼ぎ出す輸出という「他人の褌(ふんどし)」が利用できなくなるのだ。

     

    『大紀元』(12月27日付)は、「中国離れ加速、米企業41%が中国転出を計画、33%が投資見合わせ」と題する記事を掲載した。

     

    在中米国商工会議所の最近の調査によると、41%以上の米国系企業が中国からの転出を計画しており、33%以上が中国での投資を見合わせ、またはキャンセルを検討している。欧州や日本、韓国、台湾などに進出する企業も増えている。同所が在中の米国企業239社を対象に調査した。それによると、2019年、中国からサプライチェーンを移転することを決めた企業は22.7%だった。また将来、一部あるいは全部を中国から転出すると決めた企業は19.7%、投資の取りやめまたは延期した企業は33.2%だった。

     

    (1)「この調査は、米国の対中関税が在中の米国企業に及ぼす影響を評価するものだ。シンガポールAT貿易コンサルタントによると、米中貿易戦争の前から、多くの外国企業が中国市場への過度の依存を懸念し、既にサプライチェーンの見直しに着手していた。米中貿易戦はこの動きを加速しただけだと分析した。すでに、アップル、ホームデポット、アマゾン、ヒューレットパッカード(HP)、デル、グーグル、ハズブロなど、米企業が中国での生産ラインの移転を計画している。台湾、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムなどがその移転先となっている

     

    人件費が、製造コストで大きな比重を保つ製品では、中国から周辺国へ転出している。ベトナムが、最大の受益国になっている。

     

    (2)「アップルは、サプライヤーに対し、1530%の生産能力を中国から東南アジア諸国に移転するよう求めた。台湾の兆利はアップルのMacbook軸受のサプライヤーで、すでにタイ工場に500万ドルの投資計画を発表した。台湾の大手技術4社である鴻海(HonHai)、広達(Quanta)、英業達(Inventec)、仁宝(Compal)は、複数の米企業のサプライヤーだ。鴻海傘下の冨士康(Foxconn) は、インド・チェンナイの周辺工場でアイフォンXRの本格的な生産を開始した。同社幹部は、アイフォンの生産を中国からベトナム、インド、メキシコ、インドネシア、マレーシアなどへ移す計画があるとコメントを出している」

     

    中国は当初、周辺国への転出が、インフラ関係の未整備で困難であろうと高をくくっていた。だが、急ピッチの環境整備で楽観論は消えている。アップルはサプライヤーに対し、中国から15~30%の生産能力を東南アジア諸国に移転するよう求めている。

     

    (3)「米デルとHPのサーバーを手掛ける仁宝は、米国向けノートパソコンの生産ラインを台湾に戻し、中国工場への依存度を下げて、一部の小型家電製品の生産ラインをマレーシアに移そうとしている。アップルのコンピューターサプライヤーである広達は、生産ラインの一部を台湾に移転し、東南アジア市場を拡大するため、タイで子会社を設立した。また、米国のデータセンターも拡張した。またアップルの別のベンダーである仁宝も生産ラインを台湾に移し、ベトナムでの生産能力を増強している」

     

    米国IT企業は、サプライヤーに「脱中国」戦略を取るように進めている。米中貿易戦争は将来、「冷戦」になると考えるのが常識になっている。

     

    (4)「欧州企業も中国から移出している。12月初め、中国の欧州連合(EU)商工会議所の報告書によると、調査対象となったヨーロッパ企業174社のうち、10%は既にサプライヤーを替え、8%は一部の業務を中国から移転、あるいは移転させる計画がある。また、15%は中国への投資を延期させている。日本企業はスズキ、トヨタなど生産ラインの移管を検討している。マツダは一部をカンボジアなど東南アジアに、日本精工は特定の製品の生産を国内に戻す考えだ。韓国の現代(ヒュンダイ) 自動車と起亜 (キア) 自動車は、中国から部分的に撤退して、インドネシアとインドでの生産を増やした」
      

    欧州企業も、米国企業と同じ動きである。日本企業、韓国企業も中国から生産ラインを周辺国へ移す動きが増えている。

     

    このページのトップヘ