中国は、「科学強国」を目指している。米国へ積極的に留学生を送っており、米国大学での留学生数では1位だ。この裏には、トリックが仕掛けられていた。米国へ留学させて、研究成果を「盗み出す」という違法行為を目的にしていたのだ。また、研究者として米国で就職させ、本来は米国に帰属すべき研究成果が、「中国発」に塗り替えられていたのだ。
こういう経緯があって現在、FBI(米連邦捜査局)は中国出身の留学生、研究者の身元を厳重に調べる事態になっている。同時に、入国ビザも審査が厳しくなった。こうして、中国の目指す「科学強国」の夢は、米国の高い壁に遮られ始めている。自力で乗り越えられるだろうか。
『サーチナ』(1月1日付)は、「ノーベル賞受賞者を多数輩出してきた日本の神話、そこから学ぶべきこと=中国メディア」と題する記事を掲載した。
中国メディア『澎湖新聞』(12月26日付)は、「日本のノーベル賞神話と中国に対する警告」と題する記事を掲載した。
(1)「記事はまず、中国が目指す姿を体現している国こそ日本だと紹介。日本は欧米以外で最も多くノーベル賞受賞者を輩出している国であるため、2035年までに「教育強国」になることを目指した「中国教育現代化2035」を発表した中国は、日本から学ぶことがあるという。記事によると、日本は欧米を目指した高等教育の改革を段階的に進めたことが成果を上げてきたと分析。そのうえで、これまで積み重ねてきた人材育成が結果を出していると論じた」
昨年までのノーベル賞受賞者数では、中国人(中華民国時代を含む)は5人である。現在の中国になってからは3人だ。日本は27人である。2000年以降の自然科学部門では、米国に次ぐ受賞者数になっている。
ノーベル賞受賞は、過去の研究成果に対する評価であり、現在と未来の動向を暗示するものではない。そういう意味で、日本が今後とも受賞者を輩出できる保証はない。最近では、「日本危うし」という警告も出ており、大学での研究費配分が議論されている。問題点は、早く改善すべきであろう。
中国は、冒頭に指摘したように米国へ「へばりついている」状態だ。国際共著論文数(2016年)では、次のようになっている。
1位 米国 19万2375
2位 中国 9万5476
10位 日本 3万2074
(資料:NSF)
日本は従来、5位にあったが後退している。一方の中国は、米国との共同研究という形で研究費を負担しているケースが多い。ノーベル賞では、共同研究の多いことが、世界中で認知される機会も増えて有利である。中国には、二つの狙いがある。世界へのPR効果と共同研究で成果を中国へ持ち帰ることだ。
FRBが、この危険性に気づいて身辺捜査を厳重に行なっている。最近、米国の著名な国立医学研究所の部長級(中国系米国人)が解雇された。当局に申告せずに中国の複数大学で教授に就任し、米国での研究成果を持ち出していたからだ。中国は、「中国系」に照準を合わせて、「研究成果持出し」を唆しているという。
R&D(研究開発費)の対GDP比率(2017年)は、次のようになっている。
2位 韓国 4.55%
6位 日本 3.20%
10位 米国 2.80%
11位 中国 2.13%
(資料:UNESCO)
このデータは多くの示唆を与えている。韓国は、研究予算を目先のテーマに振り分け失敗。日本は、大学での研究システムに問題が出てきた。米国は、研究費はそれほど多くないが、ノーベル賞を独占している。米国には、創造の自由という研究に不可欠な基盤を誇っている。世界中から、米国に憧れて人材が集ってくるのだ。中国は、研究費が多くない上に自由もない。米国から締め出されれば、自然淘汰の危険性が高い。
(2)「しかし記事は、現状の教育環境を考慮すると、日本がこの先ノーベル賞受賞者を輩出し続けるのは難しいと指摘。科学予算が減り、論文の被引用数も減少しているためで、日本の科学技術レベルは全体的に落ちると警鐘を鳴らす声も多いことを指摘した。このほか、海外留学希望者が減少していて海外交流も減っていることや、OECDの学習到達度調査で日本は読解力などで大幅にダウンしており、日本の基礎教育能力が中国より低くなっていると問題点を指摘した。中国の教育は、科学研究の予算や競争とゆとりある研究環境のバランス、人材育成、基礎教育の詰め込み式など、日本と共通して面している問題点が多く、大いに参考になるとしている」
下線を引いた部分は、日本国内の基礎学力の試験結果を指している。これは、たまたまそういう悪いデータが出たもので、日本人の「頭脳」が急に「柔く」なった訳ではあるまい。日本人は、こういう結果が出るとすぐに微調整する。その能力は世界一である。