勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年01月

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    昨年の7月以降、「反日不買」運動が盛り上がった。NOJAPAN」の幟がソウルや釜山の街に掲げられた。この「NOJAPAN」が人種差別に当る。現在、韓国国内でこういう問題が議論になっているほど、反日で沸騰していた。年が改まって、「風」はアゲインストからフォローに変ってきたようである、日本旅行が復活の兆しを見せているからだ。

     

    今年のソル(旧正月)連休(1月24日~27日)は、韓国旅行客の日本旅行に対する人気が復活しつつあることが分かってきた。20日、旅行予約プラットホーム「アゴダ(Agoda)」は、アジア圏旅行客の2020年旧正月連休期間の宿泊予約データを分析した結果を発表した。今年の旧正月連休にアジア地域旅行客に最も人気がある旅行先は東京だった。

     

    昨年7月以来の日韓騒動で、韓国の日本旅行客は急減した。昨年12月に日本を訪れた韓国人旅行者数は、前年同月より63.%減の24万8000人。減少幅は11月の65.%よりわずかに縮まったが、日韓の対立を背景にした「日本旅行離れ」が顕著であった。昨年1年間の韓国人旅行者数は、前年より25.%も減って558万4600人だった。

     

    この減少基調が、1月の旧正月で逆転して再び、「日本旅行」が浮上してきたのだ。ちょっと信じがたい感じもする。航空会社の乗客が今回の旧正月連休に韓国全土で220万人を上回ると予想される中、一部の日本路線の予約率が80%を超えるなど、日本不買運動が下火の気配を見せていることは間違いない

     

    『朝鮮日報』(1月24日付)は、「NOジャパン終了? 日本の一部路線で予約率80%超」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国空港公社釜山地域本部は旧正月連休特別交通対策期間の23日から27日までで国内線91576人、国際線141043人の計約23万人が金海国際空港を利用するものと予想されることを23日、明らかにした。一日平均利用客数は約46000人で、昨年の5万人より低い数値だ」。

     

    釜山の金海国際空港を利用する搭乗客は、旧正月中で昨年よりも8%ほど減っている。これは、韓国経済の落込みと休日の関係を反映したものだ。

     

    (2)「国際線では旧正月連休期間の一日平均利用客数が28208人で、昨年の3万人より約5.8%減少する見通しだ。しかし、同期間中の日本路線の平均搭乗率は60.8%で、搭乗率が50%まで下がった昨年下半期に比べると上昇傾向にあることが分かった。一部の格安航空会社では、旧正月連休の日本路線の平均予約率が84%に達するという。業界関係者は「昨年の旧正月連休期間の日本路線平均搭乗率が80%を上回っていたのと比較するとまだ低いが、今回の連休を基点に日本旅客需要が回復傾向に転じる可能性もある」と語った」

     

    国際線は全体で、昨年比5.8%減という。同期間中の日本路線の平均搭乗率は60.8%だ。昨年は80%を上回っていたことから見れば、約20%ポイントも開いている。ただ、一部の格安航空会社では平均予約率84%にも達している。これから見ると、日本観光が底入れして、再び回復軌道に乗ってきたと見える。本格的な「GOジャパン」とまでは言えないにしても、「日本人気」が戻り始めたとは言えそうだ。

     

    韓国航空業界は、今回の旧正月連休期間を基点に、日本旅客の需要が顕著な回復傾向を示すだろうと展望している。韓国国内の対日ムードが、緩和してきたことが理由であろう。韓国指導部から、厳しい批判発言が消えていることが支えになっている。

     

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    WHO(世界保健機関)は、中国政府の発表データだけを信じているが、武漢肺炎の現場である武漢市の現場は、大混乱状態に陥っている様子だ。SNSで飛び交う医療関係者の声は悲痛そのもの。「10万人以上の患者がいる」と医師が訴えている。こういう現場発言が、「処罰されるならしょうがない」と腹を括っている。それだけに深刻さが窺える。

     

    「大紀元」(1月25日付)は、「『政府の発表を信じないで』ネットに医療関係者の告発相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は25日10時30分まで、新型コロナウイルスによる肺炎の感染者が1330人、死者41人と発表した。しかし、現場の医療関係者は相次ぎ、SNSに投稿し、実際の感染者数は政府の発表よりはるかに超えていると訴えている。

     

    (1)「武漢漢口にいる看護師の女性はSNSに投稿した動画で、9万人の感染者がいる」と発言した。「感染者は隔離されなければ、14人に感染させてしまう。スピードは非常に早い」。もう一人の女性医療関係者はSNS微信で泣きながら「(現状は)テレビの報道よりずっと恐ろしい」と訴えた。「医師らの推定では10万人が感染した」「多くの患者はすでに手遅れ状態です」「(医療)物資が足りない。入院させることができない」「患者に懇願されても、何もしてあげられない。患者が徐々に弱まっていくのを目の当たりにしている」。最後に女性は「くれぐれも政府を信じないで。自分で自分の身を守ってください」と呼びかけた。この動画は5万回再生された」

     

    政府発表のデータを信じないで、自分の身は自分で守れと、訴えるSNSが飛び交っている。事態の深刻さが分かるのだ。病院では、患者を収容仕切れない状態に陥っている。野戦病院のような雰囲気である。

     


    (2)「武漢市の看護師と名乗る女性は微博で、「報道は事実と全くかけ離れている」と投稿した。
    「主人は感染した。8日間も発熱し、CT検査ですでに肺炎にかかっているとわかった。しかし、どの病院にも診断、治療、入院を断られた」 「病室が足りず、医師も看護師も休日返上して出勤しているが、人手が足りない。それでも患者は救急車でひっきりなしに運ばれてきた」。在米中国人はFacebookに北京の病院に勤務する大学後輩からの情報を投稿した。それによると、「460床がある地壇病院は全部、埋まった」「地壇病院に行ってきた主任は現状が悲惨だと言っている。」「政府の発表は全くのデタラメで、北京市は情報を封鎖している」と北京も深刻な状態にあると明かした」

     

    武漢市だけでない。北京市も情報を封鎖するなど、深刻な状態に陥っている。病室が足りず、医師も看護師も休日返上して出勤している。人手が足りない。それでも患者は救急車でひっきりなしに運ばれてくる。戦場そのものであろう。

     

    (3)「北京市は24日、新型コロナウイルスによる肺炎の予防・コントロールに関する記者会見で、「突発的な公衆衛生事件に対する第一級(最高レベル)の応急対応メカニズム」を発動したと発表した。このユーザーは確実な情報として、武漢市だけで15万人が感染しており、全国の感染者が20万に上っていると別の投稿で述べた。「全国範囲で戦時状態を宣言する可能性も排除されていない」にも言及した。湖北航天病院の医師は微信で、感染者が10万人を超えていると発言した。「病院が地獄のようだ。"助けて"の叫び声があちこちから聞こえている」という。また、箝口令が敷かれているが、「(この発言で)処分されることもいとわない」と発言した」。在米華字メディア明鏡新聞の何頻氏は武漢の専門家からの話として、感染者が10万〜15万人がいるとツイートした

     

    感染者は爆発的に増えているが、病室が不足して入院させられない状態だ。6日間で病院を開設すると政府は発表している。SARSの時は7日間で病院を開設したという。

     


    『大紀元』(1月22日付)は、「中国新型肺炎、武漢市医師『内部で当初からSARSの指摘あった』」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「武漢市のコミュニティ衛生サービスセンターで住民に診療を行う魏医師は、昨年11月と12月には新型コロナウイルスによる肺炎の感染は広がっていた。「われわれのセンターでは、1カ月半前から発熱で診察に来る人が多くなっていた。昨年の11月と12月には深刻化していた。その時は、まだインフルエンザだと言われていたので、小学校は休校などの措置を取っていた」という」

     

    (5)「魏氏によると、その時から医師の間でSARS(重症急性呼吸器症候群)の可能性があるとの見方が広がっていた。「でも医師や医療従事者の家族や友人の間でしか、注意を促すことができなかった」。魏さんは、当初から中国当局が情報統制を敷いており、医師らがその実情を公表したら、拘束される恐れがあったことを示唆した。武漢市江岸区の市民、劉さんによると、昨年12月、市内の病院で勤務する看護師がネット上のグループチャットに、「原因不明の肺炎はSARSの可能性がある」と注意を呼び掛けたところ、警察当局に拘束された」当局はこれ以降、新型肺炎の情報を交換する多くのグループチャットを閉鎖した」

     

    中国当局は、医療現場で生の声を訴えた当事者を拘束した。振り返って見れば、何とも愚かなことをしたものだ。政府の「メンツ」が、事態をここまで悪化させた原因である。専制社会の恐ろしさを感じるのだ。言論自由な民主社会であれば、こういう失態は起こらなかったはず。改めて、専制政治は世界の「敵」と言って間違いない。


    あじさいのたまご
       

    文大統領は、4月の総選挙を前に人気を高める可能性があれば、なんでもやる姿勢だ。北朝鮮への個人旅行案もその類いである。以前に、金剛山観光で韓国人女性が射殺される事件が起こっている。これが引き金になって、韓国人の北朝鮮旅行を中止した。

     

    こういう問題含みの場所へ、個人の観光旅行を認めるとなれば、身の安全をいかに保証するか、北朝鮮と話合わなければならない。現状では、そういう南北協議さえ実現していないのだ。肝心の北朝鮮が、韓国国民を受入れるか、という基本問題が未解決である。文氏は、アドバルーンを打ち上げて、反応を見ただけかも知れない。

     

    「東亜日報」(1月23日付)は、「中国旅行社、『北で個別観光許可の動きはなし』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「新年の辞」と新年記者会見を通じて北朝鮮への個別観光を推進する構想を明らかにしたが、北朝鮮が関連措置を取ったことは確認されていない。北朝鮮が韓国人にビザを発行する場合に北朝鮮観光の拠点となる中国の主要旅行社を東亜(トンア)日報が接触したところ、「北朝鮮が韓国人の旅行を許可することに政策を変えたという情報を確認していない」と答えた。中国の旅行社は、「韓国が推進中の北朝鮮への個別観光と関連して準備していることはあるか」という本紙の質問に、多くが「北朝鮮の立場が変わったとはまだ聞いていない」という反応を示した」

     

    北朝鮮が、韓国人旅行を受入れなければ、文大統領がいくら頑張っても実現不可能だ。文氏はこの問題で、事前に北朝鮮へ打診したわけでなく、「アドリブ」で言ったに過ぎない。

     


    (2)「中国・瀋陽にあるA旅行社は、「北朝鮮の政策が変わるなら、私たちが韓国人観光客を北朝鮮に送ることもできるだろう」としながらも、「まだ(観光政策に関連して)北朝鮮内部の変化はない。今は韓国の旅券所持者を北朝鮮に送ることはできない」と話した。北京にあるB旅行社も、「(韓国)政府の政策をよく知っている」としつつも、「まだ議論が進行中であるだけではないのか。結果がどのように出るか見守るだけ」と話した。また別の中国のC旅行社は、「現在のところ(韓国人の個別観光と関連して)何の計画もない。全ては仮定の状況」と話した。個別観光が実施される場合、仲介役を担うとみられるこれらの旅行社も、まだ北朝鮮のムード変化を全く感じていないのだ」

     

    中国の旅行会社の感触を聞いてみると、従来と全く変らないという。となれば、文大統領は実現困難であることを知りつつ、景気づけのために言ったという印象が強い。事情を知らない国民は、「大統領発言」に期待を持っただけで終わる話だ。文字通り、「選挙対策」である。こういう、実現しそうにないことを言って良いものか。文氏への信頼を落とすのだ。

     

    (3)「これらの旅行社は、韓国人観光客の安全問題については、「北朝鮮は安全な国」という原則的な立場だけを示した。A旅行社は、「インドに行くならインドの風習どおり豚肉を食べないのではないのか。北朝鮮でも北朝鮮の規則に従いさえすれば大丈夫だ」と説明し、C旅行社は「北朝鮮の文化と法を尊重するなら安全だ。極度に安全だ」とまで述べた。韓国人だからといって他国人と差別化される追加的な安全措置を取る必要性がないという考えを示したのだ。統一部は、北朝鮮の沈黙と個別観光に対する安全問題の憂慮にもかかわらず、政策を推進していく考えを再確認した。李相旻(イ・サンミン)統一部報道官は22日、定例会見で、「民間交流拡大次元の案の1つとして個別観光を考えている」とし、「(個別観光と関連した)安全問題もそのような次元で検討していく予定だ」と話した」

     

    中国の旅行会社は、韓国人だからと言って特別の安全措置をとることはない。韓国統一部は、具体的な「安全策」をすでに考えている様子でもない。文大統領が、こういう状態で自国民の北朝鮮旅行を勧めるのは、きわめて無責任である。所詮、選挙のために「一票」欲しいというレベルの話であろう。


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    中小企業が、音を上げている。文政権による早急な最低賃金の大幅引上げと、週労働時間52時間限度が壁になっているからだ。いずれも、賃金コストを大幅に引き上げた。中小企業には、耐えられる限界を超えており、金利もまともに払えず「ゾンビ化」している。経営は、過去2回遭遇した通貨危機や金融危機よりも圧迫された状態である。一方、大企業労組は最賃大幅引上げと労働時間短縮でメリットを存分に享受し恵まれた立場だ。

     

    『朝鮮日報』(1月25日付)は、「借金で持ちこたえる韓国中小企業『むしろ通貨危機当時がよかった』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「韓国の中小企業は630万社(2017年末)だ。そこで1599万人が働いている。企業数の99.9%、雇用の82.9%を背負う韓国経済の屋台骨だ。通貨危機や世界的な金融危機など大きな衝撃にも耐えてきた韓国の中小企業は内需景気の悪化、輸出不振、最 低賃金の急上昇、労働時間の短縮という例のない四重苦に直面した。ある中小企業の経営者は「酸素マスクで延命し、毎日毎日を持ちこたえ、死期を待つ存在だ」と嘆いた」。

     

    文政権の最大の欠陥は、大企業労組の要求を鵜呑みにしていることだ。労組にとって良いことは、韓国経済にプラスと信じ切っている素朴さである。労組の影で泣かされている中小企業がいることを忘れている。企業数の99.9%、雇用の82.9%を占める中小企業を苦境に追い込む。そういう政策は落第なのだ。

     


    (2)「中小製造業は昨年、マイナス成長の危機に直面した。通貨危機のピークだった1998年(マイナス2.01%)以降の21年間で初めてだ。韓国銀行によると、中小製造業の売上高は2017年に7.66%増加したが、18年は伸びが2.77%に縮小した。19年は13月がマイナス7.3%、マイナス0.5%を記録した。下半期に状況が改善したとしてもマイナス成長の危機だ。売上高も減少し、収益性の悪化を増収でカバーすることも限界に達した」

     

    中小製造業の売上高は、17~18年はプラスを維持したが、19年に入ってマイナス基調へ転落した。韓国には現在、通貨危機も金融危機も起こっていない。それにもかかわらず、この事態に落込んだ原因は、最賃大幅引上げによる内需不振である。文政権は、この政策が間違っていたことを絶対に認めず逃げ回っている。

     

    (3)「中小製造業の経営者らはしきりに「通貨危機当時よりも厳しい」と言い、いくつかの理由を挙げた。当時は内需が急速に冷え込んだが、ウォン相場の急落で輸出競争力が高まった。輸出でなんとか耐え忍ぶことができた格好だ。しかし、現在は内需だけでなく、輸出も厳しい状況だ。19年の輸出は10.3%減で、01年(12.7%減)、09年(13.9%減)以降で初めて2桁台の減少となった。借金で延命する企業も増えている。韓国銀行によると、営業利益で融資の利払いを賄えない中小企業(インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満)は18年時点で47.2%となり、14年に比べ9ポイントも増えた。中小製造業の2社に1社が潜在的「ゾンビ企業」ということになる

     

    韓国の労組組織率は、10%強である。残りは未組織労働者だ。この10%強が、腕力に物言わせて「厚遇」を得ている。その煽りで、未組織労働者が泣かされている。文政権は、このことに全く気付いていない。独り善がりなのだ。

     


    (4)「最低賃金の引き上げと労働時間の制限は火に油を注いだ。フレームメーカーの経営者Dさんは「通貨危機当時は政府が企業支援に取り組んだが、現在は政府が製造業の事業をさらにやりにくくしている」と指摘した。金型メーカーの社長は「製品価格が韓国の半額の中国企業と競争できたのは、韓国が昼夜分かたずに工場を稼働し、納期を2030日早めることができたからだ。労働時間の週52時間上限制で『納期』という唯一の武器まで奪われた」と話した。

     

    (5)「このメーカーは苦肉の策として、52時間上限制の適用を回避するため、従業員を58人から49人に削減した。豆腐業者を経営するEさんは「最近2年間で最低賃金は30%上昇したが、納品単価は1015%低下した。妻と息子、娘だけの家族企業になってしまい、『社長』と呼ばれるのもきまりが悪い」と語った。

     

    最低賃金の引上げや、労働時間の短縮は正しい目標である。問題は、実施するタイミングである。それを全く考慮せずに一律に実施する。この書生っぽさが、失敗の原因である。政治が成熟していないのだ。何をやり出すか分からない政府である。

     

     

     

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    韓国の朴槿恵前大統領への贈賄罪などに問われた、サムスン電子副会長の李在鎔被告(51)の差し戻し審が昨年10月、ソウル高裁で始まった。大法院(最高裁)は8月、李被告を懲役2年6月(執行猶予4年)とした二審判決を破棄したからだ。差し戻し審では、量刑が重くなるとの見方が一般的である。だが、文在寅大統領は就任以来4回も李被告と面会している。また、サムスンを称える演説もしている。これは、高裁に向けて「執行猶予をつけろ」というメッセージとみるべきだ。

     

    大法院は一昨年10月、徴用工賠償問題で日本企業へ支払い判決を出した。文大統領は、この2ヶ月前に徴用工問題が人権問題であり、時効はないと演説したのである。大法院に対して、「日本企業への賠償判決を出せ」というメッセージであったのだ。韓国では、大統領が絶対的権力者である。皇帝である。その意に背いた判決は出しにくいのだ。

     

    こういう韓国特有の権力関係から言えば現在、進行中の差し戻し審はきわめて興味深いのである。私には、執行猶予をつける準備が進んでいるように思えるのだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(1月24日付)は、「サムスントップ悩ます『異色』判事、仰天発言の真意」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄の罪に問われたサムスン電子トップの李在鎔)被告の差し戻し審で、ソウル高裁の判事が李被告に投げかけた発言が波紋を広げている。

    (1)「ソウル高裁で開かれた差し戻し審の初公判で、鄭晙永(チョン・ジュンヨン)部長判事は「サムスンに総帥も恐れる監視制度があったなら、こんな犯罪は考えもしなかったはずだ。米大企業の順法監視制度を参考にしてほしい」と李被告にこんな注文をつけ、さらにこう続けた。「審理が進む間も総帥としてやるべき仕事をしてほしい。1993年、51歳だった李健熙(イ・ゴンヒ=李被告の父)総帥はフランクフルトで新経営を宣言して危機を克服した。2019年、同じ51歳になった李在鎔総帥の宣言は何か」。鄭判事が引き合いに出したのは「フランクフルト宣言」と呼ばれる、李会長が93年に幹部をフランクフルトに集めてぶった演説だ」

     

    李健熙氏が、かつてドイツ・フランクフルトに役員を集めて、製造業として当然の「品質第一宣言」を行い、社風を一変させた有名な話だ。裁判長は、李副会長に向かって社風一変の策を聞いたのである。

     

    (2)「鄭判事の発言は、李被告に経営者として会社を変える覚悟があるのかを問うた格好だ。鄭判事は126日の第3回公判ではこう尋ねた。「被告人は(大統領からの)拒絶できない要求に応えたと主張する。ならば今後、権力者から同じ要求を受けたら同じように応えるのか。どうしたら防止できるのか。次の期日までに意見を出してほしい」。判事の問いかけに、李被告はさぞかし戸惑ったはずだ。だが、判事の求めに応えないわけにはいかない。サムスン側は回答を用意した」

     

    裁判長は李被告に対して、時の大統領から要求を受けても、それを敢然と断る「防衛策」を聞いている。この辺りに、すでに「執行猶予づき判決」を予想させるものがある。

     


    (3)「20年の仕事始めの12日、李被告は社内向けのスピーチで社員に語りかけた。「誤った慣行と思考は果敢に廃し、新しい未来を切り開こう」。サムスンは「順法監視委員会」を設置することも決めた。弁護士や検事出身者、大学教授ら7人で構成し、系列会社も含むグループの法令違反を調査する。委員長に就任した金知衡(キム・ジヒョン)元大法院(最高裁)判事は9日に記者会見し、「サムスン側の介入を完全に排除し、倫理経営の番人役を果たす」と語った」

     

    サムスンは、「順法監視委員会」を設置することも決めたのである。第三者の独立委員会にサムスングループ全体の法令違反を調査させる権限を持たせるという。自浄作用を果たす委員会だ。

     

    (4)「1月17日の4回目公判。サムスン側の弁護士は同委の概要と設置の狙いを説明した。鄭判事は「サムスンによる国民との約束だが、守られるか疑問を抱く人もいるだろう。厳しく徹底的に点検する必要がある」と述べ、独立した第三者の専門家を専門審理委員に指名し、点検するしくみを提案した。黒いスーツに濃いグレーのネクタイ姿の李被告は発言せず、緊張の面持ちでじっと耳を傾けていた。公判でのやりとりは、起きた事実に照らして量刑を判断する一般的な裁判とはずいぶん違ってみえる」

     

    下線部分は、「出来レース」である。裁判所が、「介入」する必要があるだろうかと疑問を持たせるほどだ。裁判所がここまで踏込んでくれば、「贈賄再犯」の恐れはかなり軽減されるはず。つまり、李被告に「執行猶予」をつける条件はすべて整ってきたと言えよう。後は、どういう判決になるのかを待つだけだ。

     

    李被告には、なぜ「執行猶予」が必要なのか。サムスンは、韓国経済を支える「一本柱」である。このサムスンのトップを収監したならば、韓国経済は漂流せざるをえないほど弱体化している。「反企業主義」の文大統領といえども、この程度のことは分かっているはずだ。韓国社会全体が「執行猶予づき判決」を納得するには、「贈賄再犯」を防止するシステムをつくることが先決と見ているのだろう。


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