勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年02月

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    韓国は、新型コロナウイルス感染者の激増によって、各国から韓国人の入国を制限される事態になっている。感染源である中国からの入国で、厳しい制限を課さなかったことが原因と指摘されている。中国には100万人以上の朝鮮族が存在し、日常的に韓国との往来が多い。このことから、韓国は早期に中国との人的流れを制限しなければ、感染者の急増をもたらすと懸念されてきた。それが、不幸にも的中した形である。

     

    ほかの国でも、新型コロナウイルスの急激な感染拡大で当惑している国がある。欧州のイタリアと中東のイランだ。イタリアは欧州で感染者が最も多く、イランは死者の数が世界で中国に次いで多い。韓国感染者は中国の次に多い。

     

    韓国・イタリア・イランの3カ国は、中国と政治的に密接な関係にあるか、中国に対する経済依存度が高いため、初期の防疫過程で全面的な入国禁止措置を取るのが難しく、事態を拡大させたという指摘がされている。

    韓国の中央防疫対策本部は25日、この日午前9時から午後4時までに新たに84人の感染が確認されたと発表した。午前中に発表された60人を合わせると、1日で感染者は144人増えた。韓国での感染者数は計977人となった。感染者から新たに1人の死者が出た。韓国での死者は10人に増えた。

     

    (1)「イタリアは感染者が急増した。21日の一日だけで新たに16人の感染者が確認され、従来の3人から19人に増えた後、23日には感染者が156人(死者3人)に急増した。イタリアは先月31日(現地時間)、ローマにいた60代の中国人観光客2人が初めて新型コロナ陽性判定を受けると、国家非常事態を宣言し、欧州の国では初めて4月まで中国本土と香港・マカオ・台湾を行き来する直航路線の運航を全面中断すると発表した。しかしほかの欧州の国を経由して陸路や航路で入国する中国人観光客は防がなかった」

     

    イタリアは、観光立国である。新型コロナウイルス感染者が出るや、国家非常事態宣言を出すほど神経質に対応したものの抜け穴があった。他の欧州の国を経由して、多くの中国人観光客が入国していた。

     

    (2)「イタリアは昨年3月の中国の習近平国家主席の国賓訪問当時、主要7カ国(G7)のうち初めて中国の「一帯一路」(陸・海上シルクロード)に参加することにした。これに対し中国は両国修交50周年の今年を「中国・イタリア文化・観光の年」に選定し、米国の代わりにイタリア旅行を推奨する雰囲気だった。イタリアの観光産業は、2019年基準で国内総生産(GDP)の13%を占めるほど国の主要収入源となっている。イタリアが全面的な中国人観光客入国禁止措置を取ることができなかった理由だ

     

    イタリアのインバウンド所得は、GDPの13%にも達している。また、中国と「一帯一路」で経済的な関係を深めていた関係上、中国を粗略に扱えなかったという弱点もある。中国への厳しい措置が取れなかった理由である。

     


    (3)「イランは新型コロナ感染者に対する死者の比率(18.6%)が最も高い国だ。19日に初めて2人の死者が確認されたイランでは、24日に死者が計12人、感染者は47人に増えた(イラン政府発表基準)。イランは自国で感染者が出る前の先月31日、中国発または中国行き航空便を中断するという決定を下した。イランは、米国の制裁を乗り越えるために友邦の中国との関係を強化してきた。イランは昨年7月からは中国人観光客を誘致するため3週間滞在できるノービザ入国を認めたりもした。イラン国内の死者急増には、米国の経済制裁で医薬品などの輸入が難しい点も作用した

     

    イランも、経済制裁立直しで中国人観光客誘致に力を入れてきた。それが、裏目に出た。

     

    (4)「韓国にとって中国は最大の貿易国だ。人口1億人の広東省だけでも韓国との貿易はほかの多くの国との貿易規模を上回る。韓国政府が中国との外交・通商摩擦を懸念して中国に対する全面的な入国禁止措置に消極的だったという指摘が出る理由だ。韓国は4日から中国湖北省からの入国を禁止し、中国のほかの地域と香港・マカオから来る人々は強化された検疫を受けるようにした。入国禁止地域を中国全域に拡大すべきだという青瓦台(チョンワデ、大統領)国民請願に76万1000人が参加したが、政府は中国人入国者が大幅に減少したため、現在の水準の維持が妥当だという立場を固守している」

     

    韓国大統領府の国民請願には、76万人余が中国全域からの入国禁止措置を求めていた。結果的に、この請願は受入れられなかった。そこへ、今回の大量感染者増加である。政府は、苦しい弁明を迫られる。今もなお、中国との「門戸」は開けられたままである。中国の習近平国家主席の早期訪韓を熱望している結果だ。

     

    4月15日に迎える総選挙で、国民はどのような判断を下すのか。厳しい選択が下されことは不可避であろう。


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    中国は、台湾へ軍事攻撃するのか。「新型コロナウイルス」騒ぎで、中国による台湾政策は影を潜めている。だが、台湾の蔡総統支持率は、約7割にも達するほどの高さである。今回のウイルス感染症発生で、いち早く大陸との門戸を閉じ、感染者が25日時点で31人にとどまっていることが、求心力を押し上げている。中国政府が、「台湾独立熱」を警戒する理由である。

     

    大手シンクタンク・台湾民意基金会が24日に発表した世論調査では、蔡氏の支持率は総統選で再選された1月からさらに約12ポイント上昇し、68.%となった。就任直後の16年5月(69.%)以来の高い水準だ。蔡政権が新型コロナの「感染拡大を有効にコントロールできると信じる」とした比率は85.%にも上った。

     

    中国が、蔡総統の高い支持率を見れば台湾政策への自信を失って当然である。武力を用いても台湾解放を実現しなければならない衝動に駆られるであろう。中国は、武力で台湾解放をするのか。

     

    『大紀元』(2月25日付)は、「なぜ中国は台湾へ武力行使しないのか、米軍元高官が分析」と題する記事を掲載した。

     

    米太平洋軍指揮官、中央情報局(CIA)長官を歴任したデニス・ブレア氏が220日の米議会で、中台関係に言及した。同氏によると、中国は台湾に対してまだ軍事行動を取っていないことについて、中国は中台統一を民間交流や経済的手段など、非武力での統一を実現しようとしているが、中国の武力は台湾独立勢力を威嚇しているとの見解を示した。ブレア氏は、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」の公聴会に出席した」

     

    (1)「ブレア氏は、中国軍の編成と訓練について調査した後、「その戦略は、台湾を武力による略奪と占拠を実行するよりも、台湾の独立阻止に基づいているようだ」と述べた。同委員会委員のケネス・ルイス議員は、冒頭の質問をした。ブレア氏は、中国は軍事力で台湾の独立を防ぐことを望んでおり、経済および民間交流を通じて、統一という目標を達成しようとしているとの見方を示した。しかし、これは中国当局の現段階の考え方であり、状況次第で、変わる可能性があるとした」

     

    習近平氏が、最近の重なる政策失敗と取り戻し、中国国内の支持率を高める手段として、軍事的に「台湾奪回」を狙うことは十分にありうることだ。その時期が、2022年かどうかは分からない。解放時期は、「習氏の在任中」という公約から見れば常時、警戒すべきであろう。

     

    (2)「一方ブレア氏は、中国側の武力行使のリスクも非常に大きく、これに応じて「東アジア版NATO」の形成につながる可能性もあると語った。米国が中国の武力行使をどのように防ぐかについて、ブレア氏は、中国の軍事力を相殺するために、東アジアに駐留する米軍の質を確保し、その数を増やすという、トランプ政権の現在のアプローチに同意していると述べた。中国側には、私たちが何をするか知られないようにしなければならない。中国側が耐えられるかどうか分からない打撃で恐れさせるべきだ」とした」

     

    中国外交は、秦の始皇帝以来一貫して相手国側が同盟を結ぶことを極端に嫌ってきた。「合従連衡」は、同盟(合従)を解かせて中国と一対一の関係(連衡)にして、征服するパターンである。

     

    台湾防衛では、中国の嫌う同盟強化が有効である。NATOW(北大西洋条約機構)の東アジア版を結成して、共同防衛を図る構想が提案されている理由だ。この案は、日本としても尖閣諸島防衛という点と、アジア諸国の南シナ海防衛に寄与するので、大いに推進する価値がある構想だ。現在の日米豪印4ヶ国による「インド太平洋戦略」は、こういう構想の一端を担うものである。

     


    (3)「ブレア氏は、東アジア版NATO構想のような、米国が参加する強力な軍事同盟の形成に高い抑止力があるとした、中国側に武力攻撃のリスクを認識させる必要があると述べた。中国軍は、空軍の爆撃機や早期警戒機などの多型戦闘機を、2910日の両日にわたり台湾周辺の島を回る長期訓練を行った。これについて「台湾独立」分裂活動を挫折させるための決意と発表した」

     

    前述の通り、中国は「合従連衡」政策が基本である。中国が「合従」(同盟)を嫌う以上、同盟でがっちり手を組めば、侵略を諦めるのも事実だ。現在、米国トランプ大統領はインド訪問中である。狙いは、「インド太平洋戦略」への布石である。米国の中国忌避は最高度になっている。


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    文政権は、4月15日の総選挙を前に苦境に立たされている。経済不振、新型コロナウイルス蔓延、南北交流凍結、習近平訪韓の不透明という暗い材料に取り込まれている。ここで唯一の局面転換を狙えるのは、反日爆弾を炸裂させることだ。

     

    過去、反日政策の発動によって政権支持率は一挙に上がるというパターンが定着している。爆弾になり得る材料は二つある。一つは、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄。もう一つは、徴用工賠償問題で差し押さえてある日本企業の資産売却である。これら二つの材料の一つを使えば、瞬間的に文政権支持率は上がる。総選挙で、与党が勝利を得られるという「最終兵器」に手をつける可能性は残っている。果たして、この「禁断の木の実」に手を伸してくだろうか。それとも、自制して見送るだろうか。関心が集っている。

     

    『中央日報』(2月18日付)は、「総選挙用、『反日感情の助長』という自殺ゴール」と題するコラムを掲載した。

     

    (1)「昨年7月、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の週間支持率が一気に4.0%ポイントも高まったことがある。2018年9月の南北首脳会談以来、今までこのような場合はなかった。与党支持率も3.6%ポイントも高まった。反面、野党は3.2%ポイント落ち込み、8.3%ポイントだった与野党間の格差が15.1%ポイントにあっという間に広がった。原因は反日感情だった。強制徴用判決に関連して、日本の報復ニュースが駆け巡り、反日感情が高まったのだ。文大統領と与党は強く出たが、野党は「日本を間違って扱ったためだ」とこれといった戦略ももたずに与党を攻撃して世論からの袋叩きに遭った」

     

    反日政策に反対する「論理派」は、2割程度であろう。残り8割は「ムード派」と言える中で、文政権が起死回生策として反日爆弾に火を放つ可能性は消えない。

     


    (2)「反日感情によって支持率が上下するのは昨日今日のことではない。2012年李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島(トクド、日本名・竹島)に行った時も支持率は6%ポイント一気に上昇した。腐敗容疑で実兄の李相得(イ・サンドゥク)議員が拘束されて人気が落ちたことを受けて反日カードを使ったという批判が次々と出てきた。このように、反日感情が強まるほど政権支持率が高まるのは鉄則になった」

    李明博大統領(当時)は、在日出身である。韓国では、低く見られている階層だ。それだけに、李氏が反日爆弾に手をつけた意味は二つ。「強い韓国人」というイメージを植え付けたかったのだ。

     

    (3)「総選挙を前にした最近の与党もこの上なく状況が苦しい。選挙好材料が相次いでひっくり返ったのがその理由だ。政治功績にできそうだった金正恩(キム・ジョンウン)答礼訪問と習近平訪韓がともに凍りついた韓半島(朝鮮半島)の状況と新型コロナウイルス感染症(コロナ19)のせいで水泡に帰した。そのため今の与党にとって反日感情の攻略は喉から手が出るほど欲しいカードであるのは明らかだ」

     

    文政権が、現在の政治情勢を確実にひっくり返せる材料は、反日爆弾しか残っていない。それだけに、その扱いが注目されている。

    (4)「このような渦中に、最近青瓦台(チョンワデ、大統領府)が「韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」破棄を再検討するという報道が出てきた。前後の脈絡上、もっともらしい話だが、米国を意識したためなのか青瓦台は報道を否定した。だが、韓日関係が総選挙と無関係だと即断してはいけない。反日感情を爆発させる雷管が今も健在なためだ。まさにそれが強制徴用被害者賠償のための日本企業資産現金化措置だ。日本政府はこれまで「現金化すれば直ちに報復する」と公言してきた。現金化が現実化すれば、韓日関係は回復不能になるのは明らかだ」

    韓国裁判所が、司法手続きから見て4月は現金化へ「ゴー・サイン」を出す限界と見られている。司法の決定であれば形式上、文政権が責任を負うことはない。こういう理屈から、現金化させる道を選ぶ可能性は消えないのだ。日本政府が報復政策に出れば、韓国国内は反日一色になって、総選挙は与党勝利の道が開けるという「戦法」である。

     

    (5)「韓国政府は交渉するふりをするだけで現状況を放置しようとする態度が歴然だ。「現金化時期などは司法手続きの一部門なので、政府が介入できない」という康京和(カン・ギョンファ)外交部長官の2月初旬の発言がその証拠だ。総選挙前に現金化が行われれば、日本の報復に続き反日感情が爆発して与党に有利な局面が広がることは間違いない。裁判所が現金化断行時期をよく見極めなければならない理由がここにある。一歩間違えれば裁判所が与党の肩を持っているという誤解を生みかねない。政府も同様に、韓日関係を放置すれば、総選挙のための消極的な「局面転換用外交政策」を使っているという非難を避けられない」

    韓国が、理性ある政策に目覚めて真面目な対応する可能性は小さい。文政権発足時に、与党は今後20年間、政権を担う青写真をつくった。それが、「積弊一掃」である。保守派=親日派という区分けをして、徹底的に日本を叩いて進歩派の政権を長引かせるという基本戦略がある。その第一関門が、目前に迫った総選挙である。何が飛び出て来ても驚かない、そういう心の準備をしておくべきだろう。



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    習近平氏は、国家権力を一身に集めて盤石の構えであったが、「新型コロナウイルス」にその座を揺さぶられている。3月5日開催予定の全人代(日本の国会)を延期のやむなきに至ったからだ。

     

    連日、新型コロナウイルス感染者の死者が増えている中で、全人代を開催しても胸を張った演説は不可能である。国民への謝罪の一つも発言しなければ不満は収まるまい。となれば、この時期をずらした方がベターという政治判断が生まれて当然であろう。だが、全人代延期を決定する前に、最高指導部は意見が二つに割れたという。予定通り開催する案を主張した習近平国家主席と、延期論の李克強首相が対立して、ついに延期説が通ったというのである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月24日付)は、「習氏の訪日日程に影響も、中国が全人代を延期」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「全人代の延期を巡っては最高指導部内で意見が対立したとの指摘がある。20日付の香港紙・明報は、習氏は延期をしたくなかったが、李克強(リー・クォーチャン)首相が強く先延ばしを求めたと伝えた。真相は定かでないものの、盤石とみられた習氏「1強」体制で内部の対立が伝えられること自体が異例だ。新型肺炎を巡っては習指導部の初動の遅れに批判が集まった。習氏の4月の訪日計画に影響が出るとの見方も出るのは、共産党指導部が国内事情を理由に訪日を延期した例があるためだ」

     

    習氏は、政敵をことごとく獄窓へ繋ぎ、無敵の状態を作り出したが、「武漢ウイルス」にその座を脅かされている。何とも皮肉な話に聞えるのだ。権力を固めて油断しているところへ、「武漢ウイルス」が習氏の統治能力を試してきたとも言える。

     

    統治能力とは、上から強引に抑えつけることではない。不満を吸収しつつ方向付け誘導する力だ。習氏は、一党独裁を笠に着て政敵を追放する旧式スタイルである。毛沢東には可能でも、1人当り名目GDPが1万ドル時代の現在では不可能である。そういう時代背景を間違えている習氏とその取り巻き連中は、時代錯誤の点で進化する「武漢ウイルス」に敵わないのだ。

     

    「武漢ウイルス」は、国民の不満を焚きつけている。1万ドル時代の環境にふさわしい「抵抗力」を身につけてきたとも言える。毛沢東時代の国民は、静かな羊の群である。今は、「一匹オオカミ」にもなり得る。この違いを知るべきなのだ。国民を嘲ると、何倍かのブーメランに襲われるであろう。経済危機は、習氏の独裁を倒す魔力を持っている。

     


    (2)「江沢民(ジアン・ズォーミン)国家主席(当時)は、19989月の日本訪問を予定していた。ところが98年夏に長江流域で大洪水が発生し、国内対策を優先して訪日を先延ばしした。江氏は被災地域を何度も視察して洪水への「勝利宣言」をしたうえで9811月下旬に訪日に臨んだ。新型肺炎の脅威はなお広がっており、自国民の生死に直結する。習指導部は国内の動向をにらみつつ、慎重に判断するとみられる」

     

    全人代の開催が延期される、かつてない事態を迎えている。これと、訪日の重要性を天秤にかけて見れば、全人代の重要性がはるかに大きいことが分かるだろう。その重要な全人代を延期した以上、訪日計画も変更されると見る方が自然だ。新型コロナウイルス感染が、4月に終息するはずがないからである。

     

    (3)「習指導部には逆風が相次いでいる。トランプ米政権との貿易交渉は「第1段階合意」でひとまず休戦に持ち込んだものの、ハイテク覇権や構造問題を巡る争いは収まっていない。習氏の強権的な手法に反発した香港の抗議活動も収束していない。台湾では独立志向の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が1月に再選を果たした」

     

    米中貿易戦争、香港問題、台湾問題。この3つは一見、無関係のように見えるが同根による現象だ。中国経済が、不動産バブルによる過剰債務で身動きできなくなっている結果である。米中貿易戦争が典型的である。昨年5月には、まだ米国と経済的に対抗できるゆとりがあった。それから半年、中国経済は急坂を転げ落ちるように浮揚力を失った。だから、米国と妥協せざるを得なかったのである。「米高・中低」という経済的不均衡下で、中国は米国の風下に立たざるを得なくさせている。

     

    米中貿易戦争を始めたのは、民族派の習氏である。李首相など経済改革派は、米国との妥協の道を探っていた。昨年5月に妥結していれば、中国経済がここまで疲弊することもなかった。習氏の完敗である。全人代開催時期を巡る対立で、習氏が李首相の意見に譲らざるを得なかったのは、米中貿易戦争の敗北が理由だろう。これが、香港や台湾の問題で米国に対決できない伏線になっていると見る。

     

     

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    韓国政府は23日午後に急遽、新型コロナウイルス感染者激増に絡んで、警戒度最高の「深刻」に引上げた。この措置が、海外で韓国人入国を締め出す理由にされるのでないか、と気遣われてきた。その恐れがとうとう、現実問題になった。イスラエルが、韓国人旅行者全員の入国を認めず、イスラエル政府の費用でチャーター機を用意するという事態を招いている。

     

    『朝鮮日報』(2月24日付)は、「イスラエル、韓国人1300人『無料チャーター機用意するから帰ってくれ』」と題する記事を掲載した。

     

    イスラエルに滞在中の聖地巡礼客ら韓国人約1300人に対し、イスラエル政府が自国の航空機で帰国を支援する案を検討していると伝えられた。イスラエル政府は帰国便の費用を全額自分たちで負担する考えだという。

     

    韓国外交部当局者が24日、「イスラエル政府が自費で航空便を用意して、同国を旅行中の我が国民の帰国を助けることを提案してきたので、両国で協議しているところだ。航空機の準備などについて話し合う部分が多く、まだ確定していない状況だ」と明らかにしたものだ」

     

    (1)「イスラエル政府は22日午後730分ごろ、同国のベン・グリオン国際空港に到着した大韓航空KE957便に乗ってきた韓国人に対して入国禁止措置を取った。事前予告はなかった。これに韓国外交部が強く抗議すると、イスラエル側は自国の航空便で帰国を支援すると提案してきたとのことだ。22日現在でイスラエルに滞在している韓国人の短期滞在者は約1600人だという」

     

    (2)「イスラエル政府の入国禁止措置により、KE957便で韓国からイスラエルに同日やって来た人々がそのまま韓国に引き返すことになったため、この便にイスラエルから乗って韓国に帰ろうとしていた約130人は空港に足止めされた。これらの人々に対して大韓航空側はアライアンス(航空連合)を結んでいる他国籍機で近隣諸国を経由し、帰国できるよう航空便を用意した。この方法で22日以降、イスラエルを離れて帰国した韓国人は約300人に達するとのことだ」

     

    イスラエル側が、韓国人入国を拒否したことは、「新型コロナウイルス」感染症拡大を阻止するという意味で致し方ないであろう。

     


    (3)「まだイスラエルには、韓国人短期滞在者が約1300人残っている。このため、イスラエル政府は自国の航空便を動員して韓国人の帰国を支援する考えだという。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を懸念して、韓国人の早期帰国を望んでいるようだ。韓国政府は約1300人もの人員を短期間に一方的に帰国させるのは難しいという立場だ。個別の旅行日程があるため、政府が出て帰国を要求するのは難しいという面もある。現地に残った韓国人観光客らは現在、宿泊施設が韓国人の宿泊を拒否しているため、困難に陥っていると言われる。韓国外交部当局者は「現地で我が国民に不便がないよう、領事助力をもって最大限支援している」と語った」。

     

    イスラエルでは、韓国人観光客に対して宿泊を拒否する動きも見られる。これは、行きすぎた話であり、韓国政府は抗議すべきだ。

     

    日本でも今後、感染者が激増すれば、日本人旅行者がこういう措置を受けるかも知れない。互いに最大限の努力をして国内感染者を減らし、不名誉な扱いを受けぬようにするほかない。米国は、中国人旅行客を受入れず、米中航空路線も閉鎖している。過激な措置に思われたが、後から振り返れば、これが最善の予防策であった。国益確保という意味では、必要かも知れない。今後の課題として、日本は海外での伝染病発生の際、どのような対応するかを事前に決めておけば、感情論を交えずそれに沿った行動が取れるであろう。


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