勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年06月

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    米国は、1930年代の世界恐慌を上回る失業率に落込むと予告されていた。5月の失業率は、意外なことに4月に引き続きさらなる悪化を免れたのである。一段の悪化を予想していたエコノミストは、真っ青になるほど。先ずは、「めでたし」というところか。

     

    米労働省が6月5日発表した5月の雇用統計は、失業率が13.%となり、戦後最悪だった4月(14.%)から一転して改善したのである。市場は20%程度の失業率を見込んでいただけに、うれしい誤算になった。景気動向を敏感に映す非農業部門の就業者数も、前月比250万人もの増加である。

     

    5月の非農業部門の就業者数は当初、エコノミスト予想の中央値で750万人もの減少であった。ブルームバーグが調査したエコノミスト78人の中で、最も楽観的な予測ですら80万人の減少が見込まれていた。それが、蓋を開けたら前月比250万人増である。

     

    なにが、これほどの予測外れを起こさせてかである。それは、4月の失業率に問題を解くカギがあったのだ。4月の米雇用統計は、失業率が前記のように14.%と大恐慌以来の水準だが、失業者の大半は「一時的な解雇」で、経済が再開すれば早期の職場復帰も可能な状態であった。10年間にわたって失業率が高止まりした大恐慌時と異なり、雇用の回復が比較的早かった1980年代の「ボルカー不況」に近いと指摘されていたのだ。5月の実績で、今回のコロナ禍による失業者の過半が「一時的な解雇」であったことを証明する形になったのである。

     


    4月の失業者のうち「恒久的な解雇」は11%にすぎず、78%は「一時的な解雇」だった。08~09年の金融危機時は、逆に「一時解雇」が10%前後にすぎず、50%前後が「恒久解雇」と圧倒的に多数だった。統計をさらに遡ってみても「一時解雇」の割合は、新型コロナの発生前は1975年6月の24%が最大であった。以上は、『日本経済新聞』(5月9日付)が報じたものだ。

     

    米産業界は景気悪化時に、労働者を一時的に解雇したり帰休させたりするレイオフ制を利用している。雇用そのものを景気の調整弁に使う一方で、企業自体は固定費を削れるため存続しやすくなるためだ。雇用統計上の「一時的な解雇」は、恒久的な失職ではなく、景気回復時には失業者が早期に元の職場に復帰できる可能性があることを示している。

     

    5月の新規雇用が増加に転じたのは、「一時的な解雇」からの復帰であったことを示している。ここで重要なのは、トランプ政権がロックダウン政策に固執せず、弾力的に対応したことであろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月25日付)は、「ロックダウンの是非、モラルで語る危うさ」と題する記事を掲載した。

     

    科学と経済学の細かいところが理解できない単純な人間には、新型コロナウイルスによる都市封鎖(ロックダウン)をめぐって全米で繰り広げられている複雑な議論を明快に説明してくれる「物語」が必要だ。つまり、ロックダウンに伴う便益と費用の比較検討である。ここでは、死者数がピークを打てば一部、経済活動の解除が必要という結論である。

     

    (1)「経済を再開した州のほとんどで状況は同じかそれほど変わらない。これらの州の知事はただやみくもに賭けに出ているわけではない。彼らが科学とデータ、それに経済学を活用しているのは明らかだ。彼らはウイルスによる死者数がピークを超えると、リスクのバランスが変化することに気が付いた。ロックダウンの便益はますます費用に見合わなくなっているように見える」

     

    フロリダ州やジョージア州の2州は、ウイルス死亡者がピークを越えると、ロックダウンの便益と費用の関係が逆転することに気付いていた。これは、極めて重要な「発見」と言える。ロックダウンを長期継続すれば、その費用が便益を上回って市民は損失を被るのだ。死者数がピークを打ったら、その時点で、ロックダウンを解除すれば、便益が費用を上回るのである。これを、前記2州は経験値で理解していた。米国流合理主義の勝利と言えよう。

     

    (2)「ただ考えようによっては、そこが一番肝心な点だ。真実は複雑で、このウイルスについてわれわれが知らないことはあまりにも多い。経済上のリスクと健康上のリスクのバランスを適切に取ることは容易なことではない新型ウイルスへの対応は科学か無知か、あるいは善か悪かといった単なる道徳話ではない。だがそれでは「物語」にはなりにくい」

     

    5月の全米失業率で悪化に歯止めがかかったのは、コロナ死亡者がピークを打ったという確認を経て、経済活動を再開させた政治的決断の結果と見られる。ここで比較すべきは、中国流の強権によるロックダウンが、経済活動に決定的なマイナスをもたらしことである。米国では「一時的解雇」で済んだのが、中国では「恒久的解雇」につながる恐れが強いのである。

     

    中国のようなロックダウンを行なったからと言って、コロナを全面駆除できる訳でない。ロックダウンは、再考すべきであることを示唆している。こうなると、日本型のコロナ対策が最も経済的にも有効であった。そういう結論になるのかも知れない。


     

     

     

     

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    習近平氏が強権発動すればするほど、これまで中国の持っていたソフトパワーがニセ物であるという検証が始まっている。ますます攻撃性を増す中国共産党の「戦狼(戦うオオカミ)」外交は、国際社会から反感を買っているのだ。中国外交が一変しているのは、国内矛楯が深刻化している結果であろう。国内不満を、海外に向けさせるためなのだ。

     

    中国不信の影響を強く受けているのが、台湾野党の国民党である。中国と友好的になろうという主張で台湾大統領選に立候補した国民党候補の韓氏は、蔡総統に大差をつけられて敗北した。また、高尾市長の椅子もリコールされて辞職に追い込まれる事態だ。台湾市民の中国共産党嫌いが、ここまで影響を及ぼしたもので、注目すべき現象である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月6日付)は、「台湾の韓国瑜・高雄市長が罷免へ『親中』に逆風」と題する記事を掲載した。

     

    台湾南部の主要都市、高雄市で6日、韓国瑜(ハン・グオユー)市長に対するリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票が行われ、賛成多数で成立した。韓氏は1月の総統選に対中融和路線の野党・国民党候補として出馬し大敗。市長の座も追われることになった。香港問題で対中警戒感が強まり、親中派に逆風が吹く政情を映している。

     

    (1)「高雄市選管によると賛成票は約93万9千票と、「有権者の4分の1」(約57万5千票)という成立条件を大幅に超えた。7日以内に結果が公告され、韓氏は失職する。台湾の主要県市の首長が罷免されるのは初めて。リコールの成立を受け、韓氏は6日夕に記者会見し、対中強硬路線の与党・民主進歩党(民進党)が罷免に向け「メディアやネット工作員を買収した」などと不満をぶちまけた」

     

    高尾市は、旧日本統治下の色彩が色濃く残っている都市である。戦時中に建てられた記念碑の碑文は、コンクリで塗り固められたにもかかわらず、現在はそれが取り除かれて読める状態になっている。親日派がやったのであろう。そういう雰囲気の都市だから、親日=反中というのは歴然としている。こういう都市で、「親中」などと言えば反感を買うのだろう。

     


    (2)「韓氏は2018年11月の統一地方選で高雄市長に当選した。総統選出馬に向け、就任後1年足らずの19年秋から市長職を休職したことから、市民団体などが「市民への約束を破った」とリコール運動を展開していた。韓氏は中国ビジネスで人々を「大金持ちにするぞ」などと主張してきた。独特の風貌と話術で人気を博して「韓流」と呼ばれる社会現象を巻き起こし、統一地方選での国民党大勝の立役者となった。余勢を駆って総統選に参戦し、党内予備選では電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏を破ったが、総統選では民進党から再選出馬した蔡英文(ツァイ・インウェン)氏に敗れた」

     

    国民党が、本土を追われて台湾へ撤退した当時、台湾住民を弾圧した。このことから、植民統治下の日本の方がはるかに親切であった、という再評価に繋がった。以来、日本評価は高く「親日台湾」になっている。日本語が、街で普通に通じるほどだ。米中間の対立が激しくなればなるほど、日米への信頼が高まる政治情勢だから、中国は台湾市民から敵視される構図になっている。

     

    (3)「「香港」が韓氏の足かせとなった。19年6月から反政府デモが拡大。中国に統一されれば「香港の二の舞いになりかねない」との警戒感が台湾でも高まり、総統選での敗北につながった。直近では中国で香港への統制を強める「香港国家安全法」の制定方針が採択され、台湾では中国への反感が一段と強まる。今回のリコールは特に対中警戒感の強い若者らが推進しており、香港問題に刺激されて活動に弾みがつき、賛成票が膨らんだ面がある」

     

    米中の冷戦化は、台湾の軍事的価値を高めている。米国は、一段と台湾防衛に力を入れる構えを見せている。中国が、香港の「一国二制度」を破棄した結果、各国へ約束させた「一つの中国論」も消えている。中国が、台湾へ高圧的姿勢を取れば取るほど、台湾市民の支持を失うジレンマに立たされている。

     


    『日本経済新聞』(6月6日付)は、「国際世論で問う 中国の発生責任」と題する寄稿を掲載した。筆者は、インド・ジンダル・グローバル大学教授 スリーラム・チャウリア氏である。

     

    中国にパンデミックの罪を償わせることはできないのだろうか。法律以外の手段で、中国を罰する方法がある。米国や日本が探るように、中国のサプライチェーンへの依存度を引き下げるのだ。対中投資を縮小すべきだという声も広がっている。

     

    (3)「ソフトパワーという点では、国際世論における中国のイメージは、新型コロナによって大きく損なわれた。中国がどのように言い繕っても、パンデミックを引き起こしたことに対する人々の怒りが消えることはないだろう。正式な法廷ではなくとも、「国際世論の法廷」で中国の罪を問うことは重要だ。長い目で見れば、コロナ危機は、中国の力と威信を低下させる可能性がある

     

    下線部分は、極めて重要な指摘である。台湾で親中派の市長がリコールで罷免されたのも、中国のソフトパワーのメッキがはげたことの証明である。コロナ・パンデミックの後、世界に大きな変革が起こるという歴史の教訓に従えば、中国の噓によって築かれてきたソフトパワーは、簡単に消え去る運命とみる。世界に共通する普遍的価値観を持たない中国のソフトパワーが、今後も生き残れる保証はどこにもない

     

     

     

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    周辺国による中国への軍事的な警戒は、日一日と強化されている。中国の対外的膨張強化と共に、これを阻止する防衛線が強化されている。一体、中国は何を狙っているのか。広大な国土を持ちながら、さらに領土を拡大しなければならない理由は、国内矛楯の激化による圧力を、外へ逸らすという古典的な「帝国主義」に過ぎないのだろう。はた迷惑な話である。

     

    豪州とインドが、経済・防衛で協定を結ぶ。共に、中国の領土膨張に悩まされている結果だ。これまでインドは、安保面で他国との協定に慎重であった。それが、一転して豪州との協定に踏み切ったのは、中国という共通の相手が存在するからだ。こうして、日米主導で進んできた「インド太平洋戦略」は、日米豪印の4ヶ国が団結して、中国に対抗する構図ができあがった。

     

    『日本経済新聞』(6月6日付)は、「防衛・経済で首脳合意 日米との連携深める」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「オーストラリアとインドがインド太平洋での防衛協力を拡大させる。両国は4日、オンラインで首脳会談を開いた。両国軍の相互運用能力を高める協定で合意し、共同声明を発表した。通商や領土を巡り中国との緊張が高まる中、豪印は日米主導で中国に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」構想に賛同、対中けん制で足並みをそろえる。豪州のモリソン首相とインドのモディ首相は豪印関係を従来の戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げすると決めた。相互後方支援協定の締結でも合意した。ロイター通信によると、この協定で両国の軍隊が互いの艦船や航空機に燃料補給したり、整備施設を利用したりできるようになる」

     

    インド太平洋戦略は、もともとは日本の構想であった。それに、米国が乗りさらに豪印が加わる形で、中国の海洋進出をけん制する。中国が海洋進出する狙いは、米国との軍事覇権争いである。総合覇権は、経済・科学・軍事・文化などの総合力で形成されるものだ。中国にとっては、どれ一つ世界で突出したものはない。中国の場合、単なる勢力争い。消耗だけを伴う「見栄」が推進している無駄である。それだけに、破綻する時はあっけない崩壊となろう。第二のソ連である。

     

    (2)「インド太平洋地域での海洋協力に関する共同宣言では、「(豪印には)インド太平洋地域で航行の自由を確保する共通利益がある」と指摘した。両国が同地域で「安全保障などの課題に対し共通の懸念を抱いている」とも表明し、南シナ海とインド洋を結ぶシーレーン(海上交通路)の確保を目指す中国を強くけん制した。両首脳は海軍間の協力を深め、情報交換を進めることも確認した。米印海軍と日本の海上自衛隊による共同訓練「マラバール」への豪州の参加も協議されたとみられる。豪州は2007年マラバールに参加したが、中国が不快感を表明したため、その後は参加していない。外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)に関しても、少なくとも2年ごとに開催し、日米との連携も進める方針だ。両首脳は貿易や投資活動の拡大に向けた協力も協議した。豪州の投資家向けにインドのインフラ部門についての情報提供を行うなどの連携を進める」

     

    ドイツの哲学者カントは、『永遠平和のために』(1795年)で、共和国(民主国)が独裁国に対抗するには、同盟を結ぶことが最も重要だと説いた。古今東西、同盟は安全保障の要諦である。中国は、この同盟が苦手である。秦の始皇帝が、中国を初めて統一したときの戦略は「合従連衡」である。「合従」(同盟)を崩してバラバラにさせ、「連衡」(一対一)の関係に持込み相手を征服するもの。「合従」を崩す策が、「ニコポン」である。「ニコッ」と笑って接近し、相手の肩を軽く「ポン」と叩いて警戒心を解かせる。得意の「ニーハオ」である。

     

    中国の外交戦術を観察しているとすべてこれである。台湾の外交締結国を奪って断交させる中国のやり方は、多額の資金贈与である。これで、相手の歓心を買い中国の手元に引き寄せる。後は、返済不可能なほどの債務を負わせて、担保に相手国の領土を取り上げる。「一帯一路」プロジェクトは、こうやって他国を食い物にしている。これに引っかかる国が、後を絶たないのは貧困ゆであろう。中国の経済力が下降に向かう今後は、そういう余力がなくなる。中国の軍事覇権は、行き詰まる運命だ。

     

    (3)「豪印がここにきて中国へのけん制を強める背景には、中国と摩擦や緊張が高まっていることがある。豪州は今年4月、新型コロナウイルス感染拡大の経緯に関する独立調査を求め、中国の強い反発を受けた。中国は5月、一部の豪産食肉の輸入停止に踏み切り、大麦にも80%超の追加関税を課すと発表した。18年には豪州は安全保障上の懸念から次世代高速通信規格「5G」から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除している。インドと中国の国境付近では、1カ月ほど前から両国軍の小競り合いが続く」

     

    中国が、隣接国と領土争いをする目的は国内向けである。愛国心を高めるには、隣国との紛争を仕掛けて緊張関係に持込む「演出」が不可欠である。中国経済は、自らが引き起したコロナ禍で失業者が激増している。この不安不満を外に向けさせるには、インドと国境紛争を起こすことがどうしても必要になるのだ。隣接国である豪印が互いに協力して、中国へ対抗する。自然の動きである。中国の経済力低下は、海洋進出を一層、激化させる要因となろう。凶暴化するに違いない。警戒を解いてはならない理由だ。


     

     

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    韓国は、とんだ糠喜びをさせられた。米国トランプ大統領が6月1日、韓国文大統領へ9月のG7オブザーバーとして招待する旨を電話した際、G11かG12に拡大したいと口を滑らせた。これが、「韓国が新メンバーへ昇格」と韓国大統領府が発表し、「韓国の国格上昇」となったもの。

     

    韓国大統領府は4日、国家安全保障会議(NSC)を開催した。トランプ米大統領が提案したG7(主要7カ国)の参加要請などについて意見を交したという。NSCによると、「最近(トランプ大統領が提案した)G7参加国拡大案についても積極的に対応することにした」と明らかにしたほどだ。

    その後、EUから「新メンバーはG7の承認が必要」と水を掛けられて、しょんぼりしていた。韓国を喜ばせた米国は、国務副次官補が「メンバー増加には参加国の全員賛成が必要」と発言して、この「昇格騒ぎに」終止符が打たれた。

     

    『中央日報』(6月5日付)は、「マーク・ナッパー米国務副次官補『G7拡大、メンバー国の全員一致必要』」と題する記事を掲載した。

     

    先進国クラブである主要7カ国(G7)を、韓国を含めたG11またはG12に拡大する問題に関連し、米国のマーク・ナッパー国務副次官補(東アジア太平洋担当)が4日(現地時間)、「G7のメンバーを変えるためには参加国間の全員一致が必要だ」と話した。



    (1)「ナッパー氏はこの日、米戦略国際問題研究所(CSIS)のテレビ対談でこの問題に関連して「どのような方式になるかについて、ここ(ワシントンDC)で依然として議論が行われている」としながら「すべての議長国はゲストを招待でき、過去にも2008年度に日本が議長国だった時、(韓国の)李明博(イ・ミョンバク)大統領を特別ゲストに招いたことがある」と言及した。ナッパー氏は、「ただし、G7メンバーシップを永久的に拡大するか体制を変える場合には、すべての参加国間の全員一致した合意が必要だ」とし「このような努力はわれわれが検討しているもので、議論が行われている」と付け加えた」

     

    G7メンバーシップを永久的に拡大するか体制を変える場合、すべての参加国間の全員一致した合意が必要だ。ナッパー氏は、こう説明した。この瞬間、韓国がG11へ昇格する夢が消えた。

     

    (2)「ナッパー氏のこのような説明は、先立って韓国青瓦台(チョンワデ、大統領府)が言及した内容とは温度差がある。姜ミン碩(カン・ミンソク)報道官は2日の記者会見で、「もし年末に文大統領の訪米が実現するのなら、これはG7のオブザーバー資格としていく1回限りの一時的な性格のものではない」とし、「韓国が世界秩序を導くリーダー国の一つになるという意味」と説明した。文大統領の訪米をG11、G12体制転換と直結させながら先走った解釈をしたことになる。同じ脈絡で李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使も、特派員との懇談会で「今や米中間でわれわれが選択することができる国」と述べ、変化した韓国の地位を強調した」

     

    このパラグラフは、トランプ発言を過大に評価して糠喜びさせられた舞台裏が明らかにしている。G7のメンバー増加には、参加国の全員賛成が必要というルールを知らなかったことだ。大統領府高官が、こういうルールを知らないほど、外交知識のないことを暴露する結果となった。すべて、「野人集団」である。およそ外交に携わる資格のない人たちが集っているのである。

     

    (3)「前政府高官は、これに関連して「一種の特権クラブであるG7に韓国が加入することになれば、大きな外交的成果だが、過去にもG7またはG8を拡大しようとする試みが失敗に終わったことがある」とし、「G7メンバーが各自狙っているものが異なる以上、メンバーとして合流できるタイミングと条件が重要だが、このような複雑な過程をトランプ大統領や青瓦台が間違って理解したのではないかと思う」と話した。ある外交消息筋は、「ドイツ・カナダ・日本・イタリアは国連安保理常任理事国ではないため、G7体制で自分たちの位置づけを維持しようとする傾向がある」とし、「G7参加国が拡大すると発言権が弱まるので拡大を願っていないが、それに加えて韓国の永久的な参加は日本が強くけん制するだろう」と話した」

     

    下線部の指摘は正しい。ドイツ・カナダ・日本・イタリアは、国連安保理常任理事国でない。それだけに、G7は貴重な場である。そこへ新メンバーを入れたがらないのは分かるのだ。また、ドイツ・日本・イタリアは第二次世界大戦では枢軸国として、ともに戦った「戦友」である。今も、そういう意識があるかどうか分からない。ただ、ドイツの民間では日本へ寄せる「戦友意識」が残っている。私はドイツへ三度旅行して、それを実感した。

     


    (4)「
    ナッパー氏はこの日、韓米防衛費分担金特別協定(SMA)に関連して「要求を低くした点で、われわれは相当な柔軟性を見せた」とし「韓国政府も柔軟性を見せてほしい」と言及した。「韓国政府の提案を受け入れて無給休職状態の在韓米軍韓国人勤労者たちが仕事場に戻ることになった」点も強調した。「SMAの中で人件費の部分だけ韓国の国防予算で先行執行しよう」という韓国側の提案を米国が受け入れた以上、総額部門で韓国が譲歩しなければならないという圧迫性の発言だ」

     

    韓国の国家安全保障会議(NSC)は4日、常任委会議を開いた。その際、NSCは「G7参加国拡大案について積極的に対応する」という立場から、無給休職中の在韓米軍韓国人勤労者の業務復帰を機に、早急な韓米間防衛費分担金交渉が妥結できるように努力することにしたという。『中央日報』(6月5日付)が伝えた。あれだけ強硬に反対した韓米間防衛費分担金交渉が、G7参加国拡大案につられて妥結に向かうというのだ。韓国における「G7参加国拡大案」は、魔法の杖となっている。それほど、先進国の座が欲しいのだろう。


     

     

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    文大統領は、今年5月で任期5年のうち3年が過ぎた。あと2年の任期が残っている計算だが、実は次期大統領選挙を控え候補者選びなど、政界の関心は次期大統領選挙に移る。こうなると、文氏が大統領として指揮をとれるのはせいぜい、年内一杯が限度という指摘が出てきた。

     

    だが、日韓関係は荒れ放題である。ぶち壊しただけで収拾もせずに「ハイ、さようなら」ということになりそうだ。この8月4日以降になれば、韓国が旧徴用工補償で押えている日本企業の資産を現金化可能となる。万一、韓国が強行すれば、日本の最強報復は不可避である。韓国は大混乱する。だが、大統領として国を動かせる時期は、せいぜい年内が限度とすれば、その後の「日韓騒乱」を収拾できる時間がないのだ。これまで、沈黙してきた異論が噴出するに違いない。文氏の抑えは効かない。ジレンマに立たされるのだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月3日付)は、「文在寅政府の最後の“ゴールデンタイム”」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のペク・キチョル編集人である。

     

    文在寅政府の後半部改革のゴールデンタイムはどれほどあるだろうか。結論から言えば、第21代国会の任期が始まった6月からのせいぜい1年あまりだ。ことによると、まともに仕事ができる時間は、今年末程度までになるかもしれない。

     

    次の大統領選挙が2022年3月なので、来年下半期からは大統領選挙局面だ。通常、大統領選挙の6カ月前の9月、遅くとも3ヵ月前の12月までには候補の選出を終えなければならない。来年夏には各党が本格的大統領選挙候補選の局面に突入し、寒風が吹く頃には候補が出てくるだろう。民主党の次期代表が来年3月に党権・大統領選挙の分離規定により辞退すれば、時刻表はさらに早まることもありうる。

     


    (1)「(残りの在任が)長くない期間に、危機を機会として国の枠組みを変えるには、特別に対処しなければならない。まず、政権序盤のようにあらゆる事をすると言って疾走してはならない。不要な戦力浪費を減らし、実質課題に集中しなければならない。理念型の改革課題、積弊清算式の過去の問題よりは、民生、福祉、革新に焦点を合わせなければならない。朴槿恵(パク・クネ)、李明博(イ・ミョンバク)両元大統領の赦免問題も、もう少し大きな枠組みでアプローチする必要がある。法が許さないものを無理に赦免することはできない。法的手続きが終えられて、国民世論が大きな方向を示すなら順次赦免することも一法だ

     

    下線をつけた部分は、文政権支持メディアとして重要な点を指摘している。

    1)理念型の改革課題に力を入れない

    2)積弊清算式の過去の問題に時間を取らない

    3)民生、福祉、革新に焦点を合わせなければならない。

    4)朴槿恵(パク・クネ)、李明博(イ・ミョンバク)両元大統領の赦免問題を検討

     

    上記4点は、これまでの文氏の政策からの決別である。それぞれについて、コメントしたい。

     

    1)理念型の改革課題に力を入れない:空理空論を捨てて、地に足をつけた政策に戻れということだろう。最低賃金の大幅引き上げや、週最大52時間労働制という現実を無視した政策が、韓国経済を混乱に陥れている。

     

    2)積弊清算式の過去の問題に時間を取らない:親日排斥=保守排斥という過去を穿(ほじく)ることを止めるのは、次期大統領選を意識したもの。保守派や中立派を引入れる戦略である。

     

    3)民生、福祉、革新に焦点を合わせなければならない:これは、確実な経済成長なくして実現しない。現状では、予算の大盤振る舞いに終わるだけ。真実の改革は不可能であろう。

     

    4)朴槿恵(パク・クネ)、李明博(イ・ミョンバク)両元大統領の赦免問題を検討:これは、次期大統領が保守派になった場合、文大統領が退任後に同じ憂き目に遭うことを警戒しているもの。そういうリスクを減らすために、二人の元大統領の赦免問題を持ち出したと見るべきだ。だんだん、保守派の逆襲が怖くなってきたに違いない。今は、現政権になびいている司法も、野党が政権に復帰すれば「風見鶏」で保守政権になびくのだ。そうなれば、文氏が捜査対象になる。その材料は山ほどある。選挙違反、進歩派優遇など、是非とも捜査対象にすべき隠れた事件が山積している。

     

    文政権に終幕が迫っている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領夫妻が退任後の私邸を建てるために最近、慶南梁山市(キョンナム・ヤンサンシ)の通度寺(トンドサ)近くに3860平方メートル(1167坪)の敷地と109.62平方メートル(33坪)の住宅を購入したことが分かった。すでに、引退が視野に迫ってきた感じである。

     

    『朝鮮日報』(6月5日付)は、「文大統領、梁山・通度寺近くに私邸用地購入」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領と青瓦台がこのほど、慶尚南道梁山市の通度寺近くに退任後の私邸を建てるため1100坪余りの用地と30坪台の住宅を購入していたことが4日、確認された。この土地と住宅は文大統領と金正淑(キム・ジョンスク)夫人、大統領警護処が分散購入した」

     

    購入総額は、14億7000万ウォン(約1憶3000万円)。土地相場は3.3平方メートル当たり100~150万ウォン(約9~13.5万円)程度で、文大統領は相場とおり私邸敷地を購入したことが分かった。写真を見れば、田園地帯である。晴耕雨読の生活に適した場所に見える。新しい私邸が建てられる所は通度寺近くで、住宅、カフェ、食堂などが集まって梁山では交通が便利な方だという。

     

    このように、退任後の生活設計が決まると、「飛ぶ鳥跡を濁さず」になるかどうか。『ハンギョレ新聞』編集人は、「積弊清算式の過去の問題に時間を取るな」とアドバイスしている。日韓外交を破壊し尽くして、修復の兆しとほど遠い。「やり過ぎたな」と今、臍(ほぞ)をかんでいるに違いない。


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