勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年08月

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    尖閣諸島の海域に石油資源が埋蔵していることが分かって以来、中国は手のひらを返して、尖閣諸島の「中国領」を言い出した。国際法上、尖閣諸島は日本領土である。最初に人間が住んだこと、中国が日本領と宣言したことが、その根拠になっている。

     

    中国は、この尖閣諸島を中国公船によって脅かしている。すでに100日以上、連続して日本領海近辺に出動して、日本の様子を探っている。日本が気を緩めれば、いつ領海侵犯をするか分からない緊迫した状況にある。

     

    日本が、こういう危機打開のために「ファイブ・アイズ」(米・英・豪・カナダ・ニュージーランド5ヶ国による機密情報交換システム)へ参加するかどうかは、日本固有の自衛権に関わる問題である。非のある中国が、「絶対に許さない」と豪語するのは矛楯しているのだ。不審行動する者に対して、監視カメラをつけ警戒するような話である。嫌だったら、尖閣諸島周辺でいかがわしい行動を止めることである。

     

    『朝鮮日報』(8月1日付)は、「中国たたきの先頭に立つファイブ・アイズがシックス・アイズに拡大?」と題する記事を掲載した。

     

    「日本が英米圏の軍事・情報共同体である『ファイブ・アイズ(Five Eyes)』に加入するかもしれない」という報道が出るや、中国メディアは「絶対許さない」と敏感に反応した。1941年に結成されたファイブ・アイズは米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの5カ国が加入する軍事・情報協力国の集まりだ。ファイブ・アイズは先日の中国による香港国家安全維持法制定に反対し、香港との犯罪人引き渡し協定を中止するなど、足並みをそろえている。

     


    (1)「英紙『ガーディアン』は7月29日(現地時間)、議会で対中国政策にかかわっている議員たちの話として、ファイブ・アイズに日本を含めて「シックス・アイズ」に改編し、協力分野も軍事・情報だけでなくレアアース(希土類)や医療物品の共同管理などに拡大する可能性があると報道した。同紙は「オーストラリア議会でもこのような主張が提起されている。日本の河野太郎防衛相も先週行われたセミナーで中国の対外拡張を懸念し、ファイブ・アイズ加入の意向を明らかにした」と伝えた」

     

    英紙『ガーディアン』(7月29日付)の記事は、次のようなものだった。「中国の資源依存からの脱却に備えて、河野太郎防衛大臣および英国議員は、現在の英語圏情報協定ファイブ・アイズに日本を加え、情報協力を戦略的経済協力にまで拡大する必要性を説いている。英国の保守派議員が、ファイブ・アイズの諜報同盟に日本を加えることで、戦略的経済関係の強化や、希少鉱物や医薬品などの戦略資源を確保できると主張している。

     

    伝えられるところによると、ファイブ・アイズは、中国共産党への依存度を下げるために、オーストラリア、カナダ、米国からのレアメタルやセミ・レアメタルの採掘を大幅に増やすことを近々発表するという。レアアースは、携帯電話、ノートパソコン、テレビなどの家電製品から、ジェットエンジン、人工衛星、レーダー、ミサイルなどの防衛用品に広く使用されている。米国地質調査所によると、中国は過去10年間で世界のレアアースの90%以上を供給している。以上は、『大紀元』(7月30日付)が伝えている。

     


    (2)「トム・トゥゲンハート英下院外務委員長は「ファイブ・アイズは数十年にわたって情報・国防分野で重要な役割を果たしてきた。(加入国間の)連携を強化するため、信頼できるパートナーを探さねばならず、日本は重要な戦略的パートナーだ」と語った」

     

    「ファイブ・アイズ」の一員である英国は、中国という新たな「潜在的な敵」出現に備えるベく、日本を新メンバーで迎えたいというもの。日本側も、河野防衛相が参加の意思を表明した。「ファイブ・アイズ」が「シックス・アイズ」になれば、日本としても世界最高の機密情報を得られるメリットがある。英国が、日本を迎え入れる上で積極的なのは、EU離脱後に日本との密接な関係樹立を目指しているのであろう。昔の「日英同盟」(1902年)復活か。

     

    (3)「中国共産党系の英字紙『環球時報』は7月31日の社説で、日本のファイブ・アイズ加入の可能性について、「米国が中国相手に繰り広げている、いわゆる『新冷戦』の先鋒(せんぽう)になろうという意味」「中国人たちは絶対に日本のそのような行動を許さないだろう」と猛非難した」

     

    過激な内容で有名な『環球時報』が、日本に向かって吠えているという表現がピッタリである。孤立する中国が、米国への仲介窓口として期待しているのが日本である。その日本に対して、「絶対許さない」とは言葉が過ぎるのだ。

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    韓国でデモ行進するのは、労組と市民団体というのが一般的である。現在は、経済問題で30~40代の人々によって行なわれている。明らかに「反政府運動」である。問題は、不動産価格高騰による家賃の値上りだ。家賃が値上げされれば、「3040」は生活を圧迫されるという不満である。

     

    もう一つは、仁川空港で非正規雇用を一挙に正規雇用へ切換えたことへの不満だ。正規職員になるには大変な勉強をして厳しい試験を経てきた。一方では、空港でのサービス業に従事する非正規雇用者が、勉強という努力もしないで、文大統領の「一声」で正規職員になるのは不公平という怒りである。韓国という「試験社会」では、勉強もしない連中を正規職員にするのは不公平というのである。

     

    『韓国経済新聞』(7月31日付)は、「反政府集会の世代交代『住宅価格の怒りの3040』が主導」と題する記事を掲載した。

     

    反政府デモを率いる主導勢力が変化している。政府の不動産政策と非正規職の正規職化などに反発する3040世代(30代~40代)が前面に登場している。政治的な問題ではなく、経済的な問題が社会問題に浮上したことによるものだ。現政権初期に政権反対を叫んでデモを率いた5060世代の「太極旗集会」は、新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)事態などの影響で急速に弱まった。



    (1)「ネイバーカフェ(オンライン・コミュニティ)「6・17規制遡及適用被害者救済のための市民の会」などで活動しているメンバーは、8月1日にソウル汝矣島(ヨイド)広場で集会を開く。彼らは汝矣島LGツインタワー前の広場に集まり、共に民主党党舎まで行進し、民主党の金太年(キム・テニョン)院内代表と金賢美(キム・ヒョンミ)国土交通部長官に対する面談要請を提出する計画だ。彼らは7月18日と25日にもソウル中区預金保険公社前で不動産対策糾弾のろうそく集会を開いた。18日には、主催者の推算では500人が参加したが、1週間後には参加者が10倍の5000人に増えた。カフェの関係者は「今回は参加人数を3000人と事前申告したが、もっと多く集まると予想している」とし「不動産政策に変化がない場合は、毎週末に集会を開く計画」と語った。続けて「政府の対策で被害者が続出しているが、現実を知っているのか卓上行政なのか、政府に聞いてみたい」と付け加えた」

     

    政府の不動産対策失敗を批判するデモである。文政権は、不動産対策でことごとく失敗してきた。対策を出すたびに価格が高騰するというヘマを演じてきた。規制一点張りが、価格先高予想を招いたもの。住宅価格が上がれば、家賃が高騰する。被害者は借家住まいの30~40代に集中した

    (2)「同日午後7時には仁川(インチョン)国際空港公社労働組合(正規職労組)が政府の一方的な正規職転換政策に抗議するために預金保険公社前で「透明で公正な正社員への転換を促す文化祭」を開催する。労組関係者は「仁川国際空港公社創立以来、公社の職員が自発的に乗り出してソウル都心での集会を開催するのは今回が初めて」とし「正規職転換対象第1号の事業場であるだけに、国民の目の高さに合致する正規職転換モデルを確立できるように訴えたい」と述べた」

     

    就職先としての仁川国際空港は、就職人気度1位という花形企業である。ここへ就職するには、高い英語力が求められ「艱難辛苦」して、ようやく就職できる狭い門である。一方の非正規雇用者は、難しい試験もなくアルバイトの腰掛け就職だった。それが2017年5月、文氏が大統領に就任するや3日目に、「非正規雇用者を正規雇用にする」と発言したのがことの発端である。棚からぼた餅の話に喜んだ非正規雇用者に対して、正規雇用者は冷たい反応だ。こういう一律の昇格でなく、それなりの試験を行なえという主張である。



    (3)「中年層と高齢者が主に参加していた太極旗集会は、政治的性格が濃かった。弾劾された朴槿恵(パク・クネ)前大統領を支持する勢力が主導した。しかし、最近開かれた反政府集会は若年層が率いており、デモで主に扱うのは経済問題だ。仁川国際空港正規職労組の場合、30代の若い職員が声を上げている。不動産集会に参加する人たちも彼らと同世代だ」

    最近の反政府集会は、本来の文政権支持者が、「反対」に回った点に注目すべきであろう。文政権の人気取りの「非正規雇用の無条件正規雇用化」に反対が出ている点である。この問題は、正規雇用側がどこで折り合いをつけるかという「感情論」であろう。正規雇用者にとって、「非正規雇用者」は仲間として認めがたいというのだ。いかにも韓国的な「敵・味方論」の話に帰着する。

     

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    中国南部は、大洪水に悩まされている。世界最大のダム・三峡ダムの最高水位まで、「あと何センチ」という危険状態にある。一方、東北部の遼寧省などでは、ほとんど雨が降らない状態である。昔から、「南船北馬」と言われる通り、南の豊富な水に対して、北は僅かと言う事情から、交通機関は南が船。北は馬である。この南北の差が、今年は極端な形で表面化している。

     

    背景について、南はインド洋や南シナ海の海水温が高く、湿気が多く多量の雨を降らしていると説明される。北の干ばつの理由はなにか。環境破壊によるものと考えられる。中国政府がこれまで、高度成長一点張りで環境を破壊し尽くした「報い」というもの。地下水を過度にくみ上げており、これが降雨を妨げているのだ。この環境破壊説は、説得力を持っており、中国は「半永久的」にこの状態から抜け出すのは困難となろう。

     

    中国企業による地下水くみ上げが、豪州で水飢饉をもたらした例がある。『大紀元』(1月17日付)が報じた。

     

    「中国企業ジョイフル・ビューは、2019年12月末から地下水の汲み上げを開始した。同社は2008年、サザンダウンズで開発計画に基づき地下水汲み上げと配分の許可を得ている。2018年、同社はミネラルウォーターの販売業と、ゴールドコーストなど都市部へ輸送される計画を提案した。住民はサザンダウンズのスタンソープ地域評議会を通じてこの提案に反対し、その年は水の抽出計画は否決された」

     


    「しかし、住民にほとんど知らされないまま2019年12月下旬、ジョイフル・ビューは再び申請を行い、評議会で許可された。水の汲み上げが始まると、数週間でほとんど水が枯渇し、痛々しいほど干からびた大地が露わになった」

     

    地下水の異常なくみ上げをやると、降雨に影響が出る。豪州で、その「最新実験」が行なわれたのだ。中国北部では、過去何百年も地下水のくみ上げで灌漑を行なってきた。それが限界を超えたのだ。地下水の枯渇は、1000年単位の修復期間が必要である。

     

    『大紀元』(7月31日付)は、「遼寧省で深刻な干ばつ、トウモロコシなど収穫できず」と題する記事を掲載した。

     

    中国中南部の地域で洪水被害が広がっている一方で、東北部の遼寧省で干ばつに見舞われている。同省阜新市や錦州市などでは、トウモロコシなどの収穫は皆無に近い状況だ。

     

    (1)「中国水利部(省)729日の発表によると、61日~727日まで、遼寧省の平均降水量は108.8ミリで、平年同期と比べて53.1%減少し、昨年同期比では20.6%減少した。1951年以降、降水量が最も少ない年となった。また、728日までの統計では、省内の干ばつによる農作物の被害面積は1792万畝(約119.5万ヘクタール)。省西部の被害が最も深刻だ」

     

    遼寧省の平均降水量は108.8ミリで、平年同期と比べて53.1%減少し、昨年同期比では20.6%減少した。1951年以降、降水量が最も少ない年となった。この状況は今後、ますます酷くなるだろう。

     

    (2)「中国紙『新京報』730日付によると、遼寧省西部はトウモロコシの主要産地で、7月末に収穫期を迎える。しかし、この2カ月間、降水量の不足で、トウモロコシは成長できず、収穫ができなかった。一部の村ではトウモロコシ畑の大半が水不足で枯れた。動画配信サイト「梨視頻」の報道では、同省錦州市の干ばつ被災者数は約70万人。地元の農民は「家の飲料水はなんとか確保できるが、トウモロコシの栽培には全く足りていない」と話した」

     

    干ばつ被害は、中国政府も手の施しようがない。ただただ、過去の過剰地下水のくみ上げを反省するしかない。

     

    (3)「地元の河川にも水がない状況が続き、ポプラなどの樹の葉が黄色くなって枯れたという。地元のネットユーザーは、「南部の雨を北部にいる私たちに分けてください!」「もうだめだ!村に飲料水が全く入ってこない。井戸から水を取れないこともあるし、トウモロコシの収穫は全滅。生活が本当に大変だ」と相次いでSNS上に投稿した」

     

    事態がここまで悪化するまで、地下水のくみ上げを規制しなかった報いである。過去の「帝国」では、外延的発展(領土拡張)に専念し、内政問題に無頓着という共通現象が起こっている。中国は、その典型例である。干ばつ発生=地下水過剰くみ上げという内政問題解決に力を入れなかった結果が、現在の悲劇をもたらした。

    ポールオブビューティー
       


    『ブルームバーグ』によると、ドイツ銀行のアジア太平洋地域の最高経営責任者(CEO)に8月就任するアレクサンダー・フォン・ツァ・ミューレン氏は、本拠地を香港ではなく、シンガポールに移すという。これは、香港にとって悪いニュースだ。ドイツ銀行と言えば、ドイツで最大規模を誇りEUでも大きな存在感を持っている。そのドイツ銀行の移転は、他行にも影響を与えそうだ。

     

    習近平氏は、香港へ「国家安全維持法」を強引に持込んだが、外国人も同法の適用を受けることが判明した結果、中国共産党の毒牙に引っかかったら身の破滅。難を逃れて香港を離れる選択が不可避となった。

     

    『ロイター』(7月23日付)は、「金融センター『香港』ロンドンと同じ運命をたどるか」と題する記事を掲載した。

     

    香港は近くロンドンとの共通点が増えるかもしれない。このほど施行された香港国家安全維持法により、アジアの金融センターとしての魅力が想定的に薄れているためだ。ロンドンも、英国の欧州連合(EU)離脱を受けて金融センターとしての魅力が以前よりも低下している。『ブルームバーグ』によると、ドイツ銀行でアジア地域を統括する新トップは、シンガポールを拠点とする。前任者は香港を拠点としていた。こうした流れは今後も続くだろう。

     


    (1)「ドイツ銀行は、アジアに2つの拠点を置く構造を維持する方針。同行では、過去にアジア部門のトップがシンガポールを拠点としていた例もある。だが、香港では抗議活動が続き、表現の自由も制限される措置がとられた。現地の米商工会議所が今月実施した調査によると、回答者の過半数が、国家安全維持法の適用範囲や施行方法のあいまいさなどに懸念を表明。約30%は香港から他の地域に資本や事業を移すと答えた。ただ、香港から移転する計画はないとの回答も半数近くを占めた」。

     

    人間の習性で、トップを切って行動を起こすのは「先覚者」である。後から動くのは、「付和雷同組」と決まっている。習近平政権の動きから見て、香港に残留していれば災難を被るばかりだろう。習氏は、経済合理性に基づく判断でなく、「習氏にとってプラスかマイナス」という狭い価値基準で動くであろう。典型的な独裁者である。

     

    (2)「大量脱出の可能性は低いとみられる。香港の金融業界は約26万3000人を雇用。域内総生産(GDP)に占める比率は2004年の13%から2018年には20%前後に上昇している。オックスフォード・エコノミクスによると、この比率は今後も拡大する見通しだ」

     

    米国が、これまで香港に与えてきた恩典がすべて取り消されるデメリットを考えるべきだ。香港ドルと米ドルの「ペッグ」が、香港側の事情で打ち切られれば、香港金融センターとしての役割は終わる。米国は、最終的にそれを狙っており、中国を追い詰めるであろう。米中関係は、そこまで悪化している。この現状を重視すべきであろう。

     

    (3)「フランクフルトやパリは、ロンドンからの金融機関の誘致で苦戦を強いられたが、台北やシドニーも、香港からの金融人材の獲得で苦戦を強いられるとみられる。昨年9月のEYの調査によると、EU離脱の是非を問う2016年の英国民投票以降、大手投資銀行がライバル都市に移した職は1000人分にとどまっている。もちろん、英国が正式にEUを離脱するのは今年末で、現在ロンドンからEUの顧客にサービスを提供している金融機関は、欧州大陸に子会社を設立する必要がある」

     

    英国のEU離脱と、香港問題を同列に論じることは、理屈に合わぬ話である。英国のEU離脱は、主義主張の対立ではない。純然たる経済問題の対立である。香港問題は、政治的対立で、中国が西側企業に罰を与える野心を持っている。これが、根本的な違いである。野心ゆえに、いかようにも法律を拡大解釈されるのだ。これが危険なのだ。

     


    (4)「アジアでも今後、欧州同様に他の都市の魅力が増していくだろう。金融機関の間では、出張を減らして遠隔勤務を活用する意欲がみられ、これが一定の影響を及ぼすはずだ。複数の拠点を維持すればコストもかさむため、他の都市に引き寄せられる引力も強まるとみられる。コンサルティング会社Z/Yenの3月の最新調査によると、国際金融センターのランキングで香港は3位から6位に転落。シンガポールや東京の後塵を拝している。新たにアジアに参入する金融機関は、香港以外の選択肢を検討する理由が今後増えていくだろう」

     

    下線部分の解釈は、その通りであろう。世の中は、遠隔勤務時代である。今回のコロナ騒ぎが、人間社会に教えた教訓である。香港に残って政治的な圧迫を受けるリスクを考えれば、「脱香港」が正解と思われる。

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