勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年09月

    テイカカズラ
       

    習近平国家主席と王岐山国家副主席は、刎頸の友である。王氏が65歳の定年制で中央政治局常務委員を辞任したあと、金融と米国関係の円滑化を図るという名目で、国家副主席に就任した。この習―王ラインが機能していれば、米中貿易戦争は起こらなかったであろう。王氏が、習氏を説得して米中対立回避に動いた、と予想されるからだ。

     

    米中対立が現実化したのは、習近平氏が王氏を遠ざけたと結果と見られる。その後、両者が一緒にいる姿は確認されておらず、「習―王ライン破綻説」が噂されるほどだ。

     

    『大紀元』(9月7日付)は、「『中国王岐山副主席』3カ月ぶりに公の場に、習氏との関係に変化との見方も」と題する記事を掲載した。

     

    中国の王岐山国家副主席は「抗日戦争勝利記念日」の9月3日、北京で行われた「戦勝75周年」の式典に出席した。3カ月間、公の場に姿を見せなかった王氏は、友人で実業家の任志強氏が習近平氏を批判したあと、「王氏の習氏への影響力がなくなった」との見方が出ている。

     


    (1)「93日午前、中国共産党最高指導部の7人全員と王岐山国家副主席らが「戦勝75周年」の式典に出席した。王氏の出席に、外界の注目が集まった。王氏が最後に公の場に現れたのは、5月末の全国人民代表大会(国会に相当)の時だったという。香港紙『アップルデイリー』によると、習近平政権の発足直後から、王氏はかつて腐敗幹部一掃の運動を仕切り、習氏の権力基盤を強固なものにした。しかし、事実上のナンバー2だった王氏は習氏との関係性に変化があったとの見方が出ている」

     

    習近平政権第1期において、王氏が腐敗幹部の一掃など行い、政権基盤の強化に大きく寄与した。その後は、国家副主席に就任したものの、王氏の出る幕はなくなった。米中対立が激化して、王氏の意見を聞く耳を持たぬようになったからだ。

     

    (2)「大手不動産開発会社トップを務める任志強氏は新型コロナウイルスの感染拡大について指導部の初動の遅れが原因だと批判した。さらに「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化師」とその矛先が習氏にも向けられた。同氏は3月中旬から行方が分からなくなり、のちに長男と秘書も同時逮捕されたことがわかった」

     

    王氏が、公式の場から姿を消したのは、王氏の友人である任志強氏が、「習近平批判」を行い逮捕されたことと関係があると言われている。任氏は、中国政府の新型コロナウイルス対策を厳しく批判し、感染が拡大した理由を「言論の自由がないためだ」と指摘した。習氏については名指しを避けながらも、「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみ付こうとしているピエロ」と揶揄し、「遠くない将来、共産党はこの悪夢から目が覚め、もう一度『四人組』を打倒し、この民族と国家を救うかもしれない」と辛辣な批評を加えた。

     

    中国の現状では、こういう意見表明は「犯罪」とされている。疑い深くなっている習近平は、この任氏の裏に王氏がいると邪推したのだろう。ただ、習―王ラインは刎頸の友、王―任ラインも古い友人関係である。となれば、王氏が習氏を売るようなことに関係するとは思えないが、専制君主のこと猜疑心は旺盛だ。現在の粛清進行はその証である。

     

    (3)「任氏の父は、王岐山氏の義父で党の長老である姚依林氏に仕えていた。このことから、2人は親しい関係にある。任氏の踏み込んだ批判が習氏の逆鱗に触れ、指導部はいかなる人も任氏の件に介入してはならないとの指示を出したという。王氏は習氏との関係に変化があり、習氏に進言する立場ではなくなったとの見方があった」

     

    習氏は、独裁者になっている。かつての刎頸の友である、王氏の意見も聞かなくなっており、側近の「おべんちゃら」しか耳を貸さなくなっていると想像できる。粛清を始めたのは、こういう孤立感が生んだ猜疑心であろう。王氏との疎遠は、習氏の危機であり、中国の運命を狂わす要因となろう。

     

     

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    中国は、米国から半導体技術とソフトウエアの輸入で大幅な制約を受けている中、活路を韓国に求めている。高級技術者を募集しており、その条件はかつてなかったほどの好条件だ。経済的には年収で3~4倍、子弟の教育面では精華大学への入学を保証するという破格の条件を出している。

     

    この好条件に釣られてどれだけ応募するか。韓国政府は、いろいろと監視の目を光らせている。過去のスカウトの例では、使い捨てされた人も出ている。約束を守らない中国が、困ったときに好条件を出しても、高級技術者から技術ノウハウを吸い上げればお払い箱にされるリスクが高いのだ。

     

    『朝鮮日報』(9月7日付)は、「『年俸34倍、子女の清華大入学も保証』中国が半導体人材引き抜き」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「最近韓国の求人サイトに次のような広告が掲載された。

    海外勤務可能なDRAM設計者募集△担当業務:10ナノメートルDDR4設計△経歴:SH半導体関連部門勤務社優遇△年俸は最高条件で待遇可能、住宅提供、子女のインターナショナルスクール就学保証

    中国で勤務するDRAM技術をスカウトする内容だ。サムスン電子(S)とSKハイニックス(H)での勤務者を優遇するとうたっている。30ナノメートル以下のDRAM設計技術は国家核心技術に指定されている」

     

    中国が、韓国のメディアで人材募集を始めている。従来は、目立たぬようにこっそりと「引き抜き」をしていたが、もはやそれでは間に合わなくっているのだろう。米国による対中半導体戦争が苛烈を極めている証拠だ。

     

    8月初めには研究開発費100億ウォン以上が投じられた最新のディスプレー工程技術を中国企業に売り渡そうとした一団が検察に摘発された。一団にはサムスンディスプレーの元首席研究員や同社と取引がある設備業者の代表らが含まれていたという。中国が裏では、あくどいこともやっている。

     


    (2)「半導体、ディスプレー、バッテリーなど韓国の先端技術と人材を引き抜こうという中国の試みはますます露骨になっている。これまではヘッドハンターなどを通じ、ひそかに人材を採用する方式だったが、今では堂々と求人サイトで募集をかけている。米国の制裁で半導体などの先端部品・技術の供給を受けられなくなった中国が技術の自立に向け、韓国の技術と人材の確保に乗り出したというのが業界の見方だ」

     

    米国の技術蛇口が締まったので、韓国へ殺到した格好である。韓国人は、意外と簡単に中国の誘いに乗っている。中国人への親近感が強い結果であろう。これに伴い技術流出が懸念されている。

     

    (3)「中国による韓国からの技術・人材を確保しようとする動きは今に始まったことではないが、最近はその動きがますます強まっている。今月1日現在で求人サイトには半導体エッチング工程技術者(次長・部長クラス)、半導体熱処理工程の経歴者、OLED中間体材料研究開発(役員クラス)、自動車パワーバッテリーシステム開発(部長クラス)などの募集が掲載されている。勤務地は全て中国だ」

     

    技術者募集は、半導体産業だけでない。自動車関連にも及んでいる。日本でも「ポスドク」で日本に職場を得られなかった研究者が、中国の大学に職を得たというニュースが報じられた。中国では、技術ノウハウを持った人材が、緊急に求められているのだろう。

     


    (4)「中国のバッテリーメーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)は昨年7月、大規模な採用を行い、韓国の人材を対象にそれまでの年俸の34倍という破格の条件を提示した。部長クラス以上には税引き後で3億ウォン(約2700万円)に達する年俸を提示したとされる。子女のインターナショナルスクール入学、清華大など名門大学への入学を保証するなどと言って接近する例もある」

     

    部長クラス以上で税引き後、約2700万円の年俸という。子女は、名門学校への入学を保証する。「コネ入学」である。現役でバリバリ働いている人には魅力が薄いであろう。

     

    (5)「特に閑職に追い込まれた役員や退職技術者が中国による主なターゲットになっている。サムスン電子でDRAM設計を担当し、産業通商資源部長官の表彰を受けたA氏はサムスンSDIに異動となった後、2018年に中国の半導体メーカーに移籍したところ、裁判所から転職禁止を命じられた。サムスン電子の張元基(チャン・ウォンギ)元社長も昨年6月、中国のシステム半導体設計メーカー、北京奕斯偉科技集団(ESWIN)に副会長として移籍しようとしたが、論議を呼んだために断念した」

     

    引退組には、もう一度花を咲かせようという夢から、スカウトに応じるのであろう。

     

    (6)「スイスの国際経営開発研究所(IMD)によると、昨年の韓国の頭脳流出指数は4.81で世界30位だ。米国(6.86)、ドイツ(6.06)、イスラエル(6.22)よりも低い。指数が低いほど人材流出が激しいことを示している。警察庁によると、2014~18年に海外に流出した産業技術と企業秘密71件のうち、中国への流出が全体の68%の48件を占めた」

     

    韓国の頭脳流出指数は、世界30位という。米・独・イスラエルよりも高い。国への誇りがないことが背景にある。米・独などはプライドが許さないのだ。それなりの待遇と敬意を受けているにちがいない。韓国社会が、ギスギスしていることもハイレベルの人たちを引留めない理由であろう。あれだけ、騒々し社会であれば頭脳流出は致し方ない。

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    文政権には、「86世代」(1960年代生まれ、80年代に学生生活を送り学生運動家上がり)が多数を占めている。それゆえ、外交感覚が80年代の米ソ冷戦時代のままである。現在の米中対立という時代変化を正確に把握できないという、想像もできない事態に陥っている。驚きである。

     

    80年代に火炎瓶闘争を行った時代感覚は、「親中朝・反日米」である。この時のスローガンが現在も「86世代」は引きずっている。その後の40年間の国際情勢の変化を理解できずに、現在の米中対立時代にも米韓同盟を結びながら「親中朝・反日米」という立場だ。

     

    この政権は、韓国外交を根本的に誤った方向へ導いている。米韓同盟の精神をないがしろにして、中国へ秋波を送るという常識を超えた動きだ。米国が、これをいつまで黙認しているか。断が下ったときでは遅いのである。

     

    『朝鮮日報』(9月7日付)は、「韓国統一相『韓米は冷戦同盟』今なお1980年代の運動圏なのか」と題する記事を掲載した。

     

    韓国統一部(省に相当)の李仁栄(イ・インヨン)長官は2日、「韓米関係は軍事同盟と冷戦同盟から脱皮し、平和同盟に転換できると思う」と述べた。現在の韓米同盟を「冷戦同盟」と見なす李長官の認識がそのまま示されたのだ。これに対して米国務省は「韓米同盟と友情は安保協力を超えている」と反論したという。

     

    (1)「実際に韓米両国は軍事面だけでなく、経済や科学、保健など多くの方面で協力を行っている。自由・民主・人権の価値も共有する関係だ。米ソ冷戦は30年前にすでに終わった。にもかかわらず「冷戦同盟」とはどういうことか。韓米同盟が「平和を妨害する同盟」とでも言いたいのか。韓米同盟を「冷戦の遺物」と非難する国は、在韓米軍撤収を望む北朝鮮、中国、ロシアだ。大韓民国を地球上から無きものにするための戦争を起こしたのがこれらの国々だ。1980年代の反米運動圏もこのような主張に同調した。

     

    文政権は、進歩派を名乗っているが、民族主義である。習近平氏は、共産主義を標榜しているが、強烈な民族主義者である。中韓ともに、似たり寄ったりの政権である。文政権が、中国に惹かれるのは、同根であるからだろう。文政権は、米韓同盟を冷静時代の遺物と見ているから、早く取り払いたいと念じているのだろう。この見解は、80年代の学生運動時代の認識のままだ。これでよく政治家が務まっていると感心する。韓国進歩派は、こういう集団である。

     

    (2)「その運動圏(学生運動家)が主軸となっている今の政権が発足すると、韓米同盟や在韓米軍の価値を引きずり落とそうとする試みが徐々に露骨化している。全大協(全国大学生代表者協議会)の議長を務めた統一部長官は、就任直後に駐韓米国大使に会い「韓米ワーキンググループが南北関係を制約しているとの見解がある」と主張した。また大統領の安全保障特別補佐官は「私にとっての最善は、実際に同盟をなくすことだ」と発言し、与党の外交通商委員長は「在韓米軍は過剰」と指摘した。彼らは韓米同盟について、彼らが行いたい北朝鮮関連イベントを妨害する障害と認識しているのだ」

     

    下線部の文大統領安全保障特別補佐官発言は、異常としか言いようのないものである。文大統領に安全保障政策で助言する特別補佐官が、米韓同盟不必要論を喋る感覚に絶句するのだ。韓国が、米韓同盟で経済や科学技術など多方面の利益を得ていることを忘れているのだ。まさに1980年代の「反米闘争」そのものから一歩も出ていないのだろう。こういう感覚で日々の外交業務に当っているから、米韓関係はもとより日韓関係もギクシャクして当然だ。

     

    (3)「3カ月前には駐米韓国大使が、「韓国は米中の間で選択できる国だ」と発言したが、その直後に米国務省は「韓国は数十年前、どちらの側に立つかをすでに選択した」と反論した。「中国の側に立つこともできる」とも受け取れる発言を否定した形だ。駐韓米国大使が「北朝鮮への個別観光」を推進する動きに否定的な見解を示したときには、執権勢力(政府与党)が一斉に同盟国の大使に対して個人攻撃を行う事態も発生した。北核の脅威に対処する韓米日国防相会議には韓国だけが参加を見合わせた。米国のトランプ大統領は韓国を「金もうけの対象」と考えている。どれも正常ではない」

     

    駐米韓国大使は最近も、「韓国は米中の間で選択できる国だ」と発言している。こういう発言が飛び出すたびに、米国は韓国へ冷たい姿勢を取るのだ。米国務省高官の話では、日韓の外交官に大きな違いがあるという。韓国外交官は、頼み事があるときだけ国務省へ出向く。日本の外交官は用事がなくても国務省へ出かけ、「何かお手伝いすることはありますか」と言う。日本外交官は、いつも米国とコミュニケーションを取っている。これが、外交の正道であろう。日韓社会の違いが表面化しているのだ。

     


    (4)「北朝鮮は今も核・ミサイルを増強しており、覇権を目指す中国の動きはとどまるところを知らない。中朝という現実の脅威を何をもって阻止できるのか。平和は口ではなく、敵が身動き取れない備えを続けることによって守ることができる。ところが北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が「核保有国」を改めて宣言した直後、統一部長官は「爆弾が投下される戦争中にも、平和を叫ぶ人たちだけがもっと正義だ」という夢のような話をした。さらに1980年代に運動圏が主張していた論理まで持ち出している。夢想と古い考え方から抜け出せない人間たちが、わが国の安全保障を危険にさらしている」

     

    韓国にとっては、中朝は軍事的な脅威になっている。中国の軍事拡大は際限ないもので、周辺国と相次いで紛争を起こしている。こういう時代変化の中で、米韓同盟の有効性が100%発揮されるはずだが、文政権はそれを邪魔者扱いしている。不思議な外交感覚と言うほかない。

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    中国が、米国大統領選に介入しているという。ホワイトハウスのロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が明らかにした。発展途上国であれば、中国の「ウソ宣伝」が効果を上げることがあっても、共産主義嫌いの米国で効果を上げられるか疑問である。共産党最高指導部の指令で行っているとしても、効果のほどは疑問符がつくのだ。

     

    『大紀元』(9月6日付)は、「中国が米選挙妨害に『最も積極的』ーオブライエン米安全保障担当」と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスのロバート・オブライエン大統領補佐官は、中国共産党政権は、米国の選挙に干渉しようとする国の中で「最大規模の」プログラムを実施しており、政治的影響力を行使する上で最も積極的な役割を果たしていると述べた。

     

    (1)「オブライエン氏は記者会見で、「常にプロパガンダがある。私たちに影響を与える試みは常に存在する」「中国が最も積極的であることも知っている」と述べた。オブライエン氏は9月はじめ、11月に控える米国大統領選挙の安全保障にとって最大の脅威は、ロシアではなく中国だとした。これは、ウィリアム・バー司法長官の見方に「100%」一致するという」

     

    中国が、これまで行なってきたプロパガンダは、中国を褒める発言や原稿を書くことで報酬を与えてきた。だから、すぐに「背後に中国がいる」ことを感づかせた。私は、その種のプロパガンダを見れば、すぐに「臭い」と感じる。中国には褒めるようなことがないからだ。

     

    (2)「米国家防諜安全保障センター(NCSC)のウィリアム・エバニナ長官は7月、中国政府は米国の政策の変化を試みており、政界関係者に圧力をかけ、中国への批判を弱めるなど、影響力を強めていると述べた。エバニナ氏はその後、トランプ政権が対中国強硬姿勢を維持していることから、中国政府はトランプ氏が選挙で負けることを望んでいるだろうと述べた。中国が米国の選挙や政治に干渉しようとする試みは、ロシアの手法とは異なり、経済的インセンティブや強制力を利用して、企業や政治エリートに影響を与えようとするものである。さらに、中国の野望は一度の選挙にとどまらないという

     

    中国のやり方は古くさい。「政界関係者に圧力をかけ、中国への批判を弱めるなど、影響力を強めていると述べた」。可哀想な国だ。中国の批判を言わないでくれと頼んで歩くのだという。中国批判を言わないまでも、出てくるデータが、中国の異常さを示しているから、「中国は危ない」という結論が簡単に出てくるのだ。それを褒めろとは、無理難題である。

     

    (3)「中国とロシアの戦略を研究している、ジェフ・ナイクエスト氏は、「中国の目標は、その思想西側の中に入り込むことだ。これは非常に強力となり、彼らが何かを求めたら、誰もノーと言えなくなる」と、以前の大紀元の取材で述べた。米国政府は最近、米国の経済界の指導者や政府関係者を標的にして中国寄りの姿勢を取るよう圧力をかけているとの警告を発している。オブライエン氏は、中国共産党政権は米国のビジネスリーダーに影響を与えようとしており、「米国で(中国支持の)サポートがなければ、中国でのチャンスはないと言っている」と述べた」

     

    下線のような発言は、一種の「非関税障壁」(?)に当る。中国のことを褒めなければ、中国で営む事業にチャンスを与えないと言うのだ。何か、子どもじみた取引である。ここまで、中国批判を恐れているのだ。

     

    (4)「オブライエン氏はまた、米国の対中政策を「過去40年間における米国の外交政策の最大の失敗」と表現した。オブライエン氏によれば、民主党の「理屈」は、中国は豊かになればなるほど自然に民主的になるということだと述べた。しかし実際には、物事は反対に傾いていった。「中国の人権侵害はここ数年でますます悪化している」として、ウイグル人や他の宗教的少数派に対する共産党政権の虐待、香港の自由の破壊、台湾への攻撃的行動を挙げた。さらに、中国政府は米国に取って代わり経済大国になることを目的に、米国の知的財産を盗むための計画を主導していると付け加えた

     

    中国の狙いは、盗賊社会の話と間違えるほど。米国の知的財産を盗みだして、米国に代わり世界一の国になりたいとは、信じがたいことを始めているものだ。無理は無理、中国自滅への引き金を引く危険性を抱えている。軍事技術などは、スパイ行為で手に入れたものだろう。

     


    (5)「オブライエン氏は、「中国の対米活動は容赦ない」と言った。「こうした活動は見たことがない。ソ連との冷戦時代はそうではなかった」と。トランプ政権は、中国による技術がもたらす安全保障上のリスクから、南シナ海への軍事攻撃にいたるまで、さまざまな面で北京との戦いを加速させてきた。オブライエン氏は、トランプ大統領は40年ぶりに中国に立ち向かった大統領だと評し、トランプ政権が中国政府の不公正な貿易慣行や米国の知的財産の窃盗、人権侵害に直面して「強硬な措置」を取ったと述べた」

     

    オバマ政権時に、中国への対応をもう少し厳格にすべきであった。融和・話合い・協調という美辞麗句が、中国を増長させて盗賊行為をし放題にさせたのだろう。中国が今も、必死になってプロパガンダを行っているのは、過去の延長である。米国は、油断していたのだ。

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    習近平の粛清開始が示す危機

    腹心の誤判断が運命を狂わす

    大きすぎて潰せない有力銀行

    半導体産業の死命制する米国

     

    中国の世界を恐れぬ傲慢不遜な態度が、米欧を敵に回してしまった。新型コロナウイルスのパンデミックと、香港への国家安全法導入で「一国二制度」を一方的に破棄した結果だ。香港問題は、人権弾圧を生み出しており、EU(欧州連合)が絶対に容認できない問題である。中国流に言えば、「敏感な問題」で米欧の「尾」を踏んでしまったのだ。

     

    中国の「一国二制度」破棄は、台湾をめぐる「一つの中国論」を有名無実化させる理由になっている。米国は、公然と「一つの中国論」を見直す姿勢を見せている。チェコ上院議長(大統領に次ぐ地位)は、8月末から89人の大使節団を率いて国交のない台湾を訪問した。また、同時期に中国王毅外相は、ドイツ・フランス・イタリア・チェコなど欧州5ヶ国を訪問した。いずれの訪問国でも香港の人権弾圧を批判され、欧州5ヶ国訪問は失敗した。先進国の中国批判は、極めて厳しいものであることを示した。

     

    習近平の粛清開始が示す危機

    中国は、対外的に劣勢に立たされている。中国外交部による「戦狼外交」は、失敗に終わったのだ。習近平国家主席はこうした状況下で、すでに国内の不満分子を粛清する方向に転じている。中国が粛清という「嵐の時代」を予告する不気味さを孕んでいる。中国が、包囲されてきたという危機感が充満している結果だろう。

     

    民主主義国では、政治的な行き詰まりに直面すれば、政権交代が起こる。独裁国家では、不平不満分子を粛清する弾圧で臨む。習近平氏は、定石通りの粛清に着手した。中国危機の狼煙が上がったと言えそうだ。

     

    中国は、新型コロナウイルスによる景気悪化や、欧米との緊張の高まりを背景に、社会的混乱や習氏の指導力を巡る反発が広がりかねない状況になっている。こうした局面に遭遇する中で、今回の粛清が習氏にとって極めて重要な取り組みとなると指摘されている。

     

    習近平氏の側近は7月、国内の公安機関を巡る毛沢東式の粛清を呼び掛け、「剣を内へ向け、骨から毒をそぎ落とす」時が来たと言明した。こうして、たちまちのうちに粛清が始まったのだ。号令が掛かってから1週間とたたずして、中国共産党当局は警察と司法関係者少なくとも21人の調査に着手した。それ以降、これまででは最も高官レベルの上海の警察トップや表彰経験のある党幹部らなど、さらに十数人が追及されている。『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(8月19日付)が報じた。

     

    北京の精華大学元講師で中国政治研究者の呉強氏によると、中国の公安当局の支配を強めれば、習氏は党総書記として2022年に3期目続投を果たすための足場固めができる。「習氏は高圧的な国家機関を非常に頼りにしているが、同時に不信感も抱いている」と呉氏は指摘する。習氏の側近で粛清運動の指揮を一任された陳一新氏の言動も含意に富む。同氏は78日の会議で反腐敗運動の開始を発表した際、1942~45年の延安整風運動(毛沢東が党支配を確立した粛清運動)になぞらえた。前記WSJの報道である。

     

    1942~45年の延安整風運動の事態になれば深刻である。整風運動は、1942年から公式に開始された。この段階では、毛沢東の権力はまだ確立されたものとはいえず、古参幹部に逆襲される恐れが無いとは言えなかった。そこで毛沢東は彼らの切り崩しを図り、毛沢東の考えを支持する者、支持しない者とをはっきりと区別することにした。毛沢東はまず、毛沢東が政治的にも思想的にも優れていることを認めさせたのである。

     


    こういう過程を見ると現在、習近平氏が「習思想」なるものを共産党で学習させ、習近平氏を支持する者と、そうでない者を選別し始めているのだ。後者が、粛清(追放)される運命だ。多様性を原則とする民主主義社会に生きている側から言えば、中国は約80年前に戻って、揺らいでいる習近平国家主席の正統性を確立しなければならないほど、追い詰められていることが分る。

     

    習氏は8月26日、北京の人民大会堂に全国から警察、国家安全部門の幹部300人余りを招集した。初めてとなる習氏自らによる人民警察旗の授与には、極めて大きな政治的な目的があった。簡単にいえば、軍に続く警察権力の完全掌握に向けた「のろし」とされている。この授与式の現場にいた最高指導部メンバーは、習氏以外に思想・宣伝系を担う王滬寧氏と副首相の韓正氏だけ。首相の李克強氏の姿はなかったという。李首相は、除け者にされているのだ。『日本経済新聞 電子版』(9月2日付)が報じた。ここに、中国政治の異常さと歪みが露呈されている。(つづく)

     

     

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