勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2020年10月

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    習近平中国国家主席に、賢明な安全保障政策があるのか疑問である。ヒマラヤ山中の中印国境線で6月15日夜間、中国部隊がインド部隊を急襲して20名を殺害した。この日は、習氏の誕生日である。血塗られた誕生日になったが、インドの怒りは沸点に達している。「象の国」インドが、南シナ海で中国へ復讐するというブーメランを招くことになろう。

     

    習氏に、インド急襲でこういう復讐を招くリスクを発生させることに気付かせなかったとすれば、「中国再興の夢」もこの程度の行き当たりばったりのものであろう。中国の置かれている状況を子細に検討すればするほど、中国に勝ち目のないことが明らかになるのだ。インドは、ASEAN(東南アジア諸国連合)と水面下で安全保障のつながりを求めて、積極的に動いている。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(10月28日付)は、「インド、海洋でも対中強硬に傾斜」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「インド政府は今夏、中国軍との国境係争地域での衝突で20人が死亡したのを受け、南シナ海に最先端の戦艦をひそかに派遣した。これは異例の動きで、戦艦やその任務についてはほとんど何も公表されなかった。だが、インドの安全保障アナリストは、中国と周辺国が領有権を巡って激しく対立するこの海域でインドが突然存在感を示したのは、中国政府に対する明らかな警告だとみなしている。中国政府は南シナ海の広大な海域の領有権を主張している」

     

    下線部のように、インドはヒマラヤ山中での中印衝突事件のあと、間髪を入れずインド軍艦を南シナ海へ秘かに派遣した。これは、インドが、南シナ海で中国へ報復するシグナルと見られている。

     

    (2)「ベンガルールに拠点を置くシンクタンク、タクシャシラ研究所のナティン・パイ所長は、「戦艦派遣によるメッセージは『うちの裏庭を荒らすな。さもなければお宅の裏庭を荒らすことになる』ということだった」と解説する。これは中印のヒマラヤ国境地域での緊張が数千キロメートル離れたアジアの海域に大きな影響を及ぼしかねないことを示している。インド政府は侵略的とみなしている国境地帯での中国の動きに対抗するため、海軍力の行使に傾き、各国との安保連携を強化しつつある」

     

    中国の物資輸送では、どうしてもインド洋を通過しなければならない。これが、インドにとって絶好のロケーションと解釈している。インドを怒らせた中国は、多大の負荷を背負わされた格好である。

     


    (3)「インドは先週、日米と毎年インド洋で実施している合同海上演習「マラバール」にオーストラリアを招いた。安保アナリストたちや中国政府はインド太平洋での中国の拡張主義を抑えるための戦略的提携の構築に向けた第一歩だとみている。「クアッド」と総称される4カ国(注:日米豪印)は表向きにはあくまで海上での有事を念頭に置いているが、インド政府はこの新たな提携を膠着状態にある国境問題での立場の強化につなげたいと考えている。中印両国は国境問題についてハイレベル協議を重ねているが、緊張緩和には至っていない」

     

    インドは先週、定例化されている日米印による合同海上演習に、初めて豪州海軍を招いた。これで「クアッド」(日米豪印)が勢揃いした。豪州は、最近の中国による経済制裁に危機感を強め、「クワッド」に強い期待を寄せている。インドも同様な状況に置かれている。

     

    (4)「前出のパイ氏は、「ヒマラヤの安保問題は(インド洋と太平洋が接する)マラッカ海峡の東に広がっている」と語る。「ある対立の舞台で問題を解決できないのなら、舞台自体を拡大しなくてはならない」とも指摘する。インド海軍の元将校で現在はインドのシンクタンク、オブザーバー研究財団で海洋政策の部門を率いるアブヒジット・シン氏は、「インドが国境問題の解決方法が不満だと中国に伝える方法はいくらでもある。海域での緊張を高めるのもその一つだ」と指摘した」

     

    インドは、海洋作戦に強い自信を持っているようだ。逆に言えば、中国のウイークポイントは、海洋作戦にあると見ている。下線部は、中国の弱点を示している。

     


    (5)「中国共産党系メディアの環球時報でマラバール演習について「これは明らかにインド(洋)にミニ北大西洋条約機構(NATO)を創設するステップだ」とも指摘。「インド洋で軍事同盟が形成されれば、他国は対抗措置をとらざるを得なくなる。軍事衝突のリスクが高まるだろう」と懸念を示した」

     

    このパラグラフでの中国の言い分は、自らの弱点を告白しているようなもの。「アジア版NATO」が結成されれば、中国海軍は手出しができなくなる。もう一つ、最近のドイツがインド太平洋構想に関心を寄せていることだ。NATO(北大西洋条約機構)と「アジア版NATO」が提携して、中国軍に共同で対抗する構想も出る可能性がある。中国は、EUでも最大の警戒国となっており、袋のネズミになるリスクが高まっている。

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    WTO(世界貿易機関)事務局長選は28日、投票結果が判明した。それによるとナイジェリアのオコンジョイウェアラ氏が104ヶ国、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)氏は60ヶ国の支持であったという。公式発表はされないが、ナイジェリア側が104ヶ国の支持を得たと発表したことから、韓国60ヶ国という結果になった。

     

    オコンジョイウェアラ氏が事務局長となるには、一般理事会で承認される必要がある。ただ、韓国側が反対姿勢にこだわればトップ選びが長期化する可能性もある。この日の加盟国代表会合では、日本、中国、欧州連合(EU)などはオコンジョイウェアラ氏の選出に賛成を表明し、米国のみが兪氏支持を明言した。米国は、オコンジョイウェアラ氏の選出に「拒否

    権」を使ったとも伝えられるが、これだけの大差がついている以上、米国の主張が通るか疑問視されている。

     

    何よりも見苦しいのは、韓国大統領府がこの時ばかり、米国にすがっている姿だ。韓国外交は、「多国間主義」を唱えている以上、自ら今回の選挙結果を受入れて、撤退することであろう。それが、全く違う「居直り」姿勢を見せている。悪例を残してはいけないという意味からも、早急な決断をするべきだろう。

     


    『聯合ニュース』(10月29日付)は、「WTO事務局長選『まだ手続き残っている』、劣勢報道は『一方的』=韓国大統領府」と題する記事を掲載した。

     

    韓国青瓦台(大統領府)の高官は29日、世界貿易機関(WTO)事務局長選に立候補している産業通商資源部の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長が加盟国を対象とした調査でナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相にリードされていることに関連し、「まだ特別理事会などの公式手続きが残っている」との立場を示した。

     

    (1)「劣勢に立たされた兪氏が撤退するのではないかとの見方とは異なり、韓国政府はWTO内での議論をもう少し見守るという意思の表れと受け止められる。WTO一般理事会の議長は28日(現地時間)の非公式会合で、より多くの加盟国の支持を集めたオコンジョイウェアラ氏を事務局長に推薦した。ただ、全会一致での合意が原則のため、合意にこぎつけることが必要で、11月19日の特別一般理事会などの手続きが残っている」

     

    票数の圧倒的に少ない韓国候補が、アルジェリア候補を押しのけてWTO事務局長に就任するという僥倖はあり得ない。仮にあるとすれば、韓国の横車が米国を動かしたという謀略論が出てくるだろう。104対60という圧倒的票差が出た状況で、米国が拒否権を行使することは容易ではない。兪氏が、この状況に長く耐えることは難しいのでないかとの見方も韓国国内にある。潔さが必要なのだ。

     

    文政権は、韓国人をWTO事務局長にすることで国の格を高め、国際通商外交力を一層強化する契機にしようという構想だった。具体的にいえば、日韓経済紛争をWTO事務局長の権力を利用して、韓国へ有利に導くという「邪念」を持っていたことだ。そうでなければ、文氏が90ヶ国へ親書や電話で「運動」をするはずがない。狙いは、日本攻略のテコにするつもりだったのであろう。

     

    (2)「調査(投票)では兪氏が劣勢だが、米国は兪氏を支持すると明らかにしており、形勢はまだ流動的だと判断したものとみられる。青瓦台高官は、「今後残った手続きにどのように対応するかは関係官庁が説明する」と述べた。また、青瓦台はオコンジョイウェアラ氏が163の加盟国のうち100カ国・地域以上の支持を得たとの分析にも異議を唱えた。この高官は「WTO選挙の手続き上、調査結果は公開しないのが原則だ」とし、「したがって、ナイジェリア候補の具体的な得票数に言及した国内・海外メディアの一部報道は一方的な主張だと考える」と述べた」

     

    BBC放送もオコンジョイウェアラ氏が、アフリカ連合(AU)41カ国、欧州連合(EU)27カ国を含めて過半数(83カ国)をはるかに超える104カ国の支持を受けたと報じている。こういう情報は隠しても、必ず表面化するものだ。韓国は、大敗したことでメンツが丸潰れになり、鬱憤晴らしをしているに過ぎない。

     

    米国が、最初から韓国候補を支援していたとすれば、事前にEUや日本と協議したはずだ。それが、全くなかったことは、韓国候補を本命と見ていなかったことを示している。土壇場で、韓国に泣きつかれ「演技」をしているのであるまいか。米国は、韓国へ大きな「貸し」をつくったことになる。今後の米韓交渉を有利に運ぶために、オコンジョイウェアラ氏に「拒否権」を使った形にしたと見られるのだ。韓国の往生際の悪さが招いた騒動である。


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    中国経済が破竹の勢いで伸びていた頃は、中国への密入国者が跡をたなかった。その中国に「落日」が迫っている。サプライチェーンの中国集中化が、米中対立の長期化懸念とパンデミックの教訓によって、分散化が始まっているためだ。中国の外資系企業もベトナムへ移転するケースが増えている。日本政府もベトナムなどASEAN(東南アジア諸国連合)への移転を勧めるなど、中国の産業空洞化が始まった。

     

    こうした企業の海外移転で、最大の被害者は中国の労働者たちである。今まで勤めていた企業がベトナムへ移転となれば、失職するかベトナムへ密出国するしかない。すでに、その動きが顕著であり、中国当局はベトナムとの国境に壁をつくって阻止する構えだ。改めて、中国経済の凋落を象徴する話である。

     

    『大紀元』(10月29日付)は、「中国人のベトナム脱出急増、不景気で国内雇用悪化が背景に」と題する記事を掲載した。

     

    外資企業が中国から相次いで撤退したため、ベトナムに密入国しようとする中国の失業者が続出している。ベトナムの国境警備隊はこのほど、中越国境地帯で、中国広西チワン族自治区出身の不法入国者100人以上を逮捕した。米『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)が10月28日伝えた。

     

    (1)「報道によると、10月25日、ベトナム北部ランソン省の国境警備隊は、省内で不法入国した中国人76人を、中北部ハティン省の国境警備隊は同省内で中国人25人をそれぞれ拘束した。中国人全員は広西チワン族自治区出身だという。ベトナム当局の取り調べに対して、中国人らは、「国内広東省で働いていたが、昨年初めから外資企業が次々と撤退したため、仕事を失った。外資企業の多くがベトナムに移転したと知って、(ベトナムの)ダナン市で職を見つけようと思った」と話した」

     

    広東省は、中国輸出のメッカである。そこで仕事が見つからなくなってきたのは、外資系企業の撤退が大きな影響を与えている。米中対立の長期化はボディーブロウのように、中国経済へ影響を与え始めている。

     

    (2)「ベトナムで事業を展開している台湾人実業家、郭海光氏は「昨年以降、仕事を見つけるために、中国大陸からベトナムに密入国する中国人が増えている」とRFAに語った。同氏によると、広西チワン族自治区だけでなく、雲南省からも多くの中国人がベトナムに不法に入った。長年、ベトナムに住む郭氏は、「外資の大手企業は、法を破って不法入国者を雇うことをしないから」とし、ベトナムに進出した中国の中小企業が中国人の密入国を手伝っているのではないかと指摘した

     

    中国人の密出国者が増えているのは、ベトナムへ進出した中国の中小企業が手引きしているのでないかと指摘されている。「法破り」は、中国で日常茶飯事、「違法意識」がゼロである。

     


    (3)「広西チワン族自治区で会社を経営している陳氏は、RFAの取材に「ベトナムの経済発展は、過去の広東省深圳市を彷彿とさせる。ベトナム市場は中国と比べて、より開放されている。この時勢で、労働力がベトナムに流れるのは仕方ない」と述べた。北京市民の孫雨辰氏は、「密航者が経済先進国に向かうのは普通だが、中国人がベトナムに不法入国したことは、われわれ中国人が深く考えなければならないことだ」と語った。孫氏は、ベトナムへの密航者急増は「中国経済の悪化が深刻化していることを浮き彫りにした」とした」

     

    同じ共産主義国家でも、ベトナムは中国よりも開放的という。中国人労働者が、ベトナムで働きたいのは自然の動きである。また、中国人がベトナムへ密航してでも行きたがる理由は、中国経済の疲弊ぶりを示している。

     

    (4)「『RFA』は10月22日、ベトナムに入国しようとする中国人技術者約1000人が中越国境に集まったと報道した。また、中国当局は中国人の脱出を防ぐため、中越国境に長さ数百メートル、高さ2メートルの壁を建設していると伝えた」

     

    中国人技術者までが、ベトナム国境に集まっている。密出国の機会を狙っているのであろう。中国当局は、中国人ネットユーザーの投稿によると、中越国境で長さ、数百メートルの壁を建設している。中国人がベトナムに密出国しないように作られたという。だが、高さ2メートル程度の壁では、乗り越えようと思えば乗り越えられる。中国はベトナムの手前、壁をつくったに過ぎず、本心は「密出国OK」ということかも知れない。失業対策費が減るからだ。 

     

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    韓国のGDPは、7~9月期が前期比1.9%増と3期ぶりにプラス成長になった。これに気を良くした洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政部長官は、「経済正常化に向けた回復軌道に入った」と発言。まだ、1年前に比べたGDPは1.3%減である。パク・ヤンス韓国銀行統計局長は、「V字反騰ではない」クギを刺しているほどだ。

    洪楠基経済副首相は、これまでも楽観論を口にしており、国民の不満は根強い。洪氏への信頼感は地に墜ちている。それを象徴するように、「洪楠基副首相兼企画財政部長官の解任を強く要請する」という、韓国大統領府の国民請願に対する同意が28日、21万人を超えた。経済の指令塔に対して20万人もの国民が、「解任すべき」と請願するのは洪副首相が初めてという。

     

    写真で見る洪氏の印象は、極めて楽観的に物事を見るタイプのお人柄のようだ。緻密に経済データを分析して行く官僚型ではなさそう。それだけに、放言・失言は「毎度」という感じを受ける。国民から嫌われている点はそこであろう。

     


    『中央日報』(10月29日付)は、「『解任請願』21万人、こんな経済副首相はいなかった」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「これまでの経済副首相や企画財政部長官は「専門性に基づく揺るがない独自のリーダーシップ」という軌道を維持してきた。政治的な影響と非専門的な入れ知恵に対して所信に基づく対応を見せるのが基本だった。しかし、洪副首相は災難支援金給付決定、財政健全性論争などでみられるように、青瓦台・与党の言いなりになることが多かった。延世大のヨン・ガンフム経営学部教授は「今の洪副首相は自分の声を出すよりも、青瓦台や与党が要求することを執行するだけのようだ」と指摘した」

     

    洪副首相の最大の欠点は、経済専門家として失格発言を連発していることにある。政府・与党のロボットであり、「イエスマン」に過ぎないという不満である。

     

    (2)「市場と認識の乖離も信頼を落とす要因だ。いわゆる「伝貰(チョンセ、契約時に一定の金額を賃貸人に預け、月々の家賃は発生しない不動産賃貸方式)物件不足」が深刻化する状況で「伝貰価格の上昇幅が鈍化している」(14日)、「伝貰物件の取引が増えた」(18日)などと発言し、ひんしゅくを買った。洪副首相本人が「伝貰難民」になるという事実まで伝えられ、世論の批判と嘲弄はさらに強まった。新型コロナのため今年9月に就業者数が前年同月比で39万人減少したという統計が発表された16日にも、洪副首相は「10月から雇用市場が回復するはず」と楽観的な発言をした」

     

    韓国の経済失政の一つは、住宅価格の高騰である。いわゆる「伝貰」という韓国独特の家賃が急上昇しており、「住宅難民」が出る騒ぎとなっている。この家賃急騰への対策を間違えており、洪氏自らがその被害者になったといわれているほど。住宅価格高騰で大儲けした政府高官がいるとされている中で、洪氏は「失敗組」に数えられている。

     


    (3)「任命初期から続いている「パッシング」の声も負担だ。今年7月、開発制限区域(グリーンベルト)について洪副首相が解除を検討する可能性に言及したが、翌日、国土交通部次官は「検討しない」と否認した。結局、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「グリーンベルトは保全する」と述べて一段落した。不動産政策のほか、税制改編案、各種マクロ・財政政策でも洪副首相の主張が黙殺されたり覆されたりする事例が多かった」

     

    経済副首相というポストは鬼門である。文大統領自身が間違った経済政策を撤回しないので、そのしわ寄せは経済副首相のところへ集中する格好だ。

    (4)「『更迭説』『パッシング』の声が出るたびに、文大統領は「今後も頑張ってほしい」(3月13日)、「力強く進めてほしい」(7月21日)など力を与える発言をした。しかし、洪副首相が政策決定過程で実際に主導権を発揮した事例は少ない。漢陽大のキム・テユン行政学科教授は「個性の強い政治家出身者を傘下の経済部処長官に座らせておいて、副首相は調整に限界がある人物を任命した」とし「結局、調整をするなという話であり、洪副首相個人の限界もあるが、任命権者の失策も確実にある」と述べた」

     

    文大統領は、洪副首相を信頼している。これまで報じられた更迭説を、覆してきたのは文氏の信任が厚い結果であろう。この両者は、「同病相憐れむ」であろうが、国民が最大の被害者である。

     

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    事前合意はアフリカ出身者

    WTOに全力投球した裏

    韓国の深慮遠謀を見抜く

    日本を黒幕視する敗北感

    反日・甘えの構造とは?

     

     

    韓国が、総力を挙げて当選を目指してきたWTO(世界貿易機関)事務局長選の最終選考において、韓国産業通商資源部の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長の敗北が決まった。EU(欧州連合)27ヶ国が、韓国のライバル候補であるナイジェリア元財務相のオコンジョイウェアラ氏を支持することで合意した結果だ。

    『共同通信』(10月29日付)は、次のように伝えた。

     

    WTOは28日、事務局長選で最終選考に残った2人の女性候補のうち、ナイジェリアの元財務相のオコンジョイウェアラ氏が、韓国の兪明希・産業通商資源省通商交渉本部長を上回る支持を得ており、次期トップに推薦されたと明らかにした。オコンジョイウェアラ氏が事務局長となるには、一般理事会で承認される必要がある。ただ、韓国側が反対姿勢にこだわればトップ選びが長期化する可能性もある。この日の加盟国代表会合では、日本、中国、欧州連合(EU)などはオコンジョイウェアラ氏の選出に賛成を表明し、米国のみが兪氏支持を明言した。

     

    以上の記事で、WTO事務局長選は決着がついた。

     

     

    WTO加盟国は164ヶ国である。地域別の内訳は次のようなものだ。

    アフリカ   44カ国

    欧州     37カ国

    アジア太平洋 49カ国

    中南米    31カ国

    北米      3カ国

     

    事前合意はアフリカ出身者に

    WTO事務局長選は、単純に票数では決められず、米国、EU、中国、日本などの最終意見を聞いて決まるという。ただ、票数が基盤になることは当然であろう。これを頭に入れて兪明希氏とオコンジョイウェアラ氏の票数を占うと、だいたいの見当がつくのだ。

     

    オコンジョイウェアラ氏は、アフリカ44ヶ国とEU27ヶ国が基礎票である。これだけで71票になる。WTO加盟国は164ヶ国であるから半数は82ヶ国だ。オコンジョイウェアラ氏は、基礎票71票にあと12ヶ国の支持を積み増せば過半数の83票になる。オコンジョイウェアラ氏は、数日前に79票を確保したと話したが、決して過大に言っていなかった訳だ。

     

    今回のWTO事務局長選の前に、「次の事務局長はアフリカ出身で女性」がコンセンサスになっていた。最終選考に残った二人の候補者は、いずれも女性である。そういう意味では、事前のコンセンサス通りに選考が進んでいる。

     

    韓国大統領府が、事前コンセンサスの「アフリカ出身で女性」を理解していなかったとは思えない。韓国出身者が、過去2回のWTO事務局長選に立候補して、あえなく第一次選考で敗退している。今回は、二次選考をパスし最終選考二人の候補の中に残っただけに、「あるいは勝てるか」という希望を膨らませたのであろう。

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、これまで約90カ国と電話首脳会談をしたり親書を送ったりして「兪明希支持」を訴え、総力戦を繰り広げてきた。康京和(カン・ギョンファ)外交部長官も外交チャンネルを通じて支持を訴えてきた。康長官は、「毎日、電話での依頼が仕事である」とぼやくほど、韓国の外交網を総動員した。

     

    WTOに全力投球した裏に

    韓国政府が、これだけ熱意を込めてWTO事務局長選を支援した理由は何か。

     

    第一は、文政権が就任以来、何らの業績も上げていないという実態がある。

    経済面では、最低賃金の大幅引き上げが雇用を破壊した。生産性を上回る大幅な賃金引き上げが、解雇者を増やして、最賃引上と真逆の結果をもたらした。

     

    外交面では、日韓外交が最悪事態に落込んでいる。文氏が大統領就任によって「反日政策」を矢継ぎ早に行った結果である。米韓同盟も軋んでおり、米国の主導する「インド太平洋構想」にも中国の鼻息を気にして、曖昧姿勢をとっている。このまま進めば、文在寅氏は何一つ業績のない大統領という刻印を押される。それを覆すには、WTO事務局長選で勝ち抜いたという「宝物」が不可欠である。韓国の国格を引上げると考えているからだ。

     

    韓国政府のWTO事務局長選支援チーム・トップは、大統領府の金尚祖(キム・サンジョ)政策室長が当った。金氏は、外交部によるサポートを康京和(カン・ギョンファ)長官に要請。康長官は「(当然のことであり)要請までする必要はない」とやり返すほどだった。このやり取りの中に、文大統領がWTO事務局長選に最大の関心を寄せていたことを物語っている。政権浮沈の鍵が、WTO事務局長選にあったことを示している。

     


    第二は、韓国がWTO事務局長ポストを手に入れれば、日本との紛争において極めて有利な立場になることだ。韓国が提訴している「半導体3素材の輸出手続き規制強化」撤廃は、安全保障上の問題であり、日本の手続き規制は正しいというのが米国の立場だ。だが、韓国がWTO事務局長に当選すれば、韓国に有利な判断を出せる立場になるのだ。

     

    韓国は、福島県産ほかの海産物について、WTOで「風評被害」という雲を掴むようなことを根拠に、日本に不利な輸出禁止条件を科すことに成功した。科学データで無害が立証されながら、WTO上級審を煙に巻いて輸入禁止措置を合法化させたのだ。こういう「奇襲作戦」が、韓国の特技である。WTO事務局長が韓国出身者になれば、いかなる奇策が罷り通るか分らないリスクを発生させる。日本として、韓国出身WTO事務局長を避けたいのが本心であろう。(つづく)

     

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