勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年03月

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    韓国進歩派は、意味もなく日本を叩けば拍手喝采を受けるという不思議な雰囲気に浸っている。冷静な視点で日本経済を分析し、世界に通用するような内容の論文が現れないのは、「感情8割・理性2割」という国民性がしからしめる哀しい結果であろう。

     

    『ハンギョレ新聞』(3月23日付)は、「日本は大韓民国の反面教師」と題するコラムを掲載した。筆者は、朴露子(パク・ノジャ) ノルウェー、オスロ国立大学教授である。

     

    (1)「1990年代初め、私は当時流行したポール・ケネディ教授の『大国の興亡』(1987年)を読んでみた。500年間の覇権政治を明るみに出した名作であることは確かだが、同時に未来に対する予測がどれほど難しいかをよく示した事例でもあった。米国の覇権の衰退をきわめて理路整然と論じたその本で、著者は米国を抜き去り覇権国家として登場するかもしれない“未来の強者”として、他でもない日本を名指しした。1980年代中盤の日本こそが「最も未来性のある資本主義のモデル」に見えた」

     

    日本経済が、破竹の勢いで成長できた理由は二つある。生産年齢人口比率の急上昇と保護貿易である。前者は、戦後の産児制限の結果、出生率が下がり生産年齢人口(15~64歳)比率が急カーブを描いて上昇した。後者は、輸入制限による国産技術の開発で、輸出を急増させた。中国の急成長要因も、ほぼ日本と同じである。ただ一点異なるのは、国産技術の開発でなく、先進国技術の窃取である。

     

    (2)「日本の“成長時代”は過去の神話になってしまった。国内の総需要が増えない状況で、政権がいくら量的緩和を通じて経済に資金を注いでみても、成長鈍化の傾向を免れることはできない。総需要が増えない自明な理由は、新自由主義的非正規職の量産などがもたらした大々的な“貧困化”だ。非正規職労働者が雇用労働者全体の38%も占める日本の貧困率(15%)は、米国(9%)より高く、平均賃金は米国の約75%程度にしかならない。日本の自殺率も米国を含む多くの欧米圏国家よりはるかに高い。2011年以後には高齢化と少子化による総人口減少傾向まで加わって、「日本に未来があるのか」というような質問を投げる人々の数はずっと増えていっている」

     

    この論文の筆者は、ノルウェー在住である。最近の経済統計に明るくないという決定的な弱点を抱えて日本を批判している。所得格差を示すものは「ジニ係数」である。OECD調査(2018年)では、次のような結果だ。ジニ係数は、低いほど所得格差が少ないことを示す。米国0.39 韓国0.35 日本0.34である。日米韓3ヶ国では、日本の所得格差が最も少ない。筆者の在住するフィンランドは、0.27と低く「北欧民主主義」を実証している。

     

    日本の平均賃金が米国より低いのは、1人当たりの名目GDPで大きな差があるからだ。IMF調査では、米国が6万5254ドル(2019年)、日本4万0256ドル(同)である。日本は米国の61%である。両国の生産性の違いと為替の円安が影響している。ちなみに、韓国の1人当たりの名目GDPは3万1846ドル(2019年)である。米国の48%だ。

     

    日本の自殺率は、確実に低下している。OECD調査では、人口10万人当たり14.9人(2019年)で7位だ。韓国は、実に24.6人(同)で1位である。日本の1.65倍もある。

     

    (3)「1945年以後には軍備支出を自制してきた日本の敗因は何だろうか? きわめて短い期間を除き1955年からずっと権力を独占し、いくら政策を誤っても社会の牽制を避けられた自民党という「既得権ブロック」を、過去数十年間にわたり日本が歩んできた下降曲線の主因と見る見解がある。“不動産信仰”の政治家たちが、土木開発経済を煽り立て、結局不動産バブル現象を予防できず、既得権者であるだけに再分配・格差問題に鈍感で、労働の不安化と相対的貧困化を止めようともしなかったということだ。既得権者が労働問題に無関心な反面、組織労働者の発言権があまりにも脆弱で、格差解消に全社会が失敗してしまったのだ」

     

    このパラグラフでは、自民党政治を批判している。ただ、総選挙の結果であって、国民の選択である。野党の民主党は一時、政権を担当したが党内分裂と政策の不備で自壊した。筆者は、日本の土木開発を批判しているが、天災の多いという日本の国情からやむを得ない面もある。かつての民主党政権は、公共事業費を削減したが、天災の襲来を無視していた。

     

    日本の労働組合組織率は、OECD調べ(2018年)によれば17.00%で18位。韓国は10.50%で30位、ちなみに米国は、10.10%で31位である。日本の労働組合組織率は、西欧(欧州全体ではない)に比べれば高いのが実態だ。ただ、異なるのは労使関係が「敵対的」でなく、話合い路線である。韓国は、イデオロギーどおりに「敵対的」路線を踏襲している。それでも、「ジニ係数」は下がらない(所得格差の是正)のだ。それは、労働組合組織率が低い結果であろう。

     

     

    (4)「既得権者が追求してきた閉鎖的移民政策が、移民者の流入による人口数の維持や増加を不可能にさせ、結局人口減少を招いたという分析もある。戦後日本を“作った”と自負する巨大な自民党が、結局は日本をダメにしたという診断であるわけだ」

     

    ノルウェーと異なり、日本は多民族文化でないという特色がある。それが、犯罪発生率を下げている側面もある、移民は理想型であるが、すぐに大きく門戸を広げられない難しさがある。日本の人口減少を招いた最大要因は、合計特殊出生率の低下である。日本は「1.3台」であるが、韓国は、「0.84」(2020年)と世界最低記録を更新している。日本を批判する前に、母国の韓国を批判すべきである。

     


    (5)「一時は近代のモデルだった日本は、いまや韓国をはじめとする世界の反面教師だ。その失敗を他山の石とするべきで、日本がすでに陥ってしまったその落とし穴を、私たちがどのように避けるのかを考えなければならない。その落とし穴を部分的にでも避けられる時間的な余裕も、すでにほとんど残っていない」

     

    日本経済の成長率急低下は、先進国共通の課題である。韓国は、日本以上の急落が予想されている。日本の出生率はまだ改善余地があるものの、韓国は絶望的である。反日騒ぎを起こしているゆとりはないはず。それに気付かず、騒いでいる点に深く同情するのだ。

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    韓国は、中ロから外交戦を仕掛けられている。米国主導の「インド太平洋戦略の」クアッドに、韓国が参加しないようにけん制するためだ。今から約120年前、日本、中国、ロシアが朝鮮をそれぞれ自国へ引っ張りこもうと権謀術策を展開した。いままた、その再現である。韓国の歴史は、周辺国に振り回されていることを証明する形である。はっきりと意思表示しない結果だ。

     

    ロシア外相ラブロフ氏は韓国訪問を前に、モスクワで19日(現地時間)に行った韓国特派員とのオンラインインタビューで、今回の訪問での韓国側との会談の主要議題に関する質問に対し「アジア太平洋地域で、韓国はロシアの非常に重要で展望あるパートナーだ。アジア太平洋地域の問題も協議する」と答えた。『聯合ニュース』(3月23日付)が報じた。

     

    ラブロフ氏は、「インド太平洋戦略の枠内で取られる措置を注意深くみると、それらはブロック化の思考に基づいており、ある肯定的な過程ではなく特定の国々に反対するためのブロックを構築しようとしている。特定国家の抑制が目標として宣言されている」と批判し、同戦略が中国、ひいては中国と戦略的協力関係にあるロシアを狙っていることを指摘した。

     


    『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「対米けん制「韓国に触手」ロシア外相、8年ぶり訪韓」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのラブロフ外相は25日、約8年ぶりに訪韓し、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相と会談した。ラブロフ氏は会談後の共同記者会見でミサイル挑発を再開した北朝鮮の核問題に関連し「解決のため関係国の交渉を早期再開すべきだとの立場を堅持する」と述べ、米朝に日中韓ロを加えた6カ国協議の枠組みの必要性を強調した。

     

    (1)「2時間弱の鄭外相との会談では、朝鮮半島情勢について「踏み込んだ協議をした」(鄭外相)という。ラブロフ氏は「朝鮮半島を含む北東アジアの安定維持にむけた努力の重要性を強調した。軍拡競争の継続やあらゆる軍事活動の拡大を拒否することを意味する」と語った。ロシアは朝鮮半島の非核化にむけた議論がロシア抜きで進むことを警戒する。トランプ前米政権は金正恩(キム・ジョンウン)総書記とのトップ交渉を進め、中ロは深く関与できなかった。6カ国協議の再開提案で米国の独断専行をけん制する」

     

    ラブロフ氏は、6ヶ国協議を持ち出した。この協議は、時間だけ掛けて北朝鮮に時間稼ぎされるだけという最悪事態をもたらした。ロシアにも解決案はないのだ。ただ、発言権だけを確保しようという狙いである。

     

    (2)「今回は、韓ロ国交30年の記念行事に合わせての訪韓だが、ロシアには韓国との連携を強調することで、日米韓の同盟強化に動くバイデン米政権をけん制する狙いがある。安全保障は米国、経済は中国に依存する韓国は米中対立のはざまで立ち位置に悩む。そんな韓国を取り込み、日米韓連携にくさびを入れたい考えだ」

     

    中朝ロは、日米韓三ヶ国の結束にひび割れを起こそうと狙っている。強固な同盟をつくられたら不利になる、という損得論である。

     

    (3)「ラブロフ氏は訪韓前の22~23日には中国で王毅(ワン・イー)国務委員兼外相と会談し「人権問題の政治化に反対」するとの共同声明を発表。対米共闘を前面に押し出していた。ラブロフ氏は訪韓前の韓国メディアとのインタビューで、米国のインド太平洋戦略について「特定の国々に対抗するブロック」づくりが狙いだと批判した。両外相の共同記者会見では言及はなかったが、中国の顔色をうかがう韓国は同戦略と距離を置いており、ロシアは韓国との連携を探った可能性もある」

     

    同盟国結成が、最も安全を確保する道である。ドイツの哲学者カントは、『永遠平和のために』(1795年)を出版し、同盟論の利益を説いている。同盟は、仮想敵が存在するから成り立つ。ラブロフ氏の指摘する「特定の国々に対抗するブロック」づくりは、同盟にとって不可欠の要件である。

     

    (4)「前回の外相会談は2019年6月にモスクワで開かれた。18年には韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がロシアを訪問してプーチン大統領と会談し、同氏を韓国に招待していた。今回の会談で韓国側はプーチン氏を改めて韓国に招待。両国は新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた段階で訪韓日程を協議することで合意した」

     

    同盟に入って安全保障の基盤を固め、周辺国と交流することはなんら問題にならない。ただ、韓国が米韓同盟という基軸をないがしろにすることは、相手国から侮られる危険性を生むのである。韓国は、先ず米韓同盟の基礎を固めるべきである。それが、安全保障の基本である。

     

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    中国は当初、「ワクチン外交」で好イメージを高める戦略であった。現実は、発展途上国から悪評を被っている。ワクチン情報が公表されていないだけでなく、価格がロシア製ワクチンの3倍もしているからだ。

     

    パンデミックで、中国のイメージを大きく下げた。途上国からは、さらにワクチンで不評を被るっている。中国が、こうして新型コロナで大きな打撃を受けたことは間違いない。「禍を転じて福となす」ことにはならなかったのだ。


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(3月24日付)は、「
    中国製ワクチンに不信感募らす途上国」と題する記事を掲載した。

     

    先進国による新型コロナウイルスワクチンの奪い合いを横目に、中国はこれ幸いと発展途上国にワクチンを無償提供し接種キャンペーンを先導しているイメージを広めようとしてきた。だが数週間前から中国製ワクチンの供給能力不足や価格の高さ、有効性の低さを示す事例が相次ぎ、世界のワクチン接種が広がるなかで中国の存在感は薄まりつつある。

     

    世界の保健専門家はそうした事例報告を受けて、中国国有の中国医薬集団(シノファーム)と民営の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)、康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)のワクチンについて、現状では途上国の免疫獲得の決め手にはなり得ないと警告し始めた。

     


    (1)「世界保健機関(WHO)が主導し共同購入したワクチンを途上国などに分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」も3月から、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発し、インドのセラム・インスティチュート・オブ・インディアが生産するワクチンの供給を開始した。5月末までに2億3700万回分の確保を目指している。中国のコバックスへの関与は最小限にとどまっている。中国政府は1000万回分の提供を約束したが、まだWHOの緊急使用許可を得ておらず投与に至っていない。どのワクチンも海外へ供給する場合、物流面での障害や供給上の制約、信頼性の問題に直面するが、中国政府はワクチンの透明性不足の懸念に全く対応しようとしないため、そうした根本的な疑問を無視して使うのは困難だと専門家は指摘する。

     

    WHOが共同購入するワクチンは、オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発し、インドのセラム・インスティチュート・オブ・インディアが生産するワクチンが主体となっている。前記2社は、5月末までに2億3700万回分の供給を約束した。中国は、わずか1000万回分に止まっている。桁外れに低いのだ。

     

    (2)「各国がワクチンによる免疫の持続期間や変異ウイルスに対する有効性に着目するなかで、中国のワクチンメーカーは有効性の程度や同業者の審査を受けたデータを公表しておらず、懸念が広がっている。パキスタンのカーン首相はシノファーム製ワクチンの1回目の接種を受けたわずか2日後の20日、検査で陽性が確認された。同国保健省は2回のワクチン接種で免疫効果が高まる前に感染したとしている。ペルーのカジェタノ・エレディア大学は3月、湖北省武漢市で製造したシノファーム製ワクチンからは「有望な結果を得られなかった」と発表した」

     

    パキスタンのカーン首相は、シノファーム製ワクチンの1回目の接種を受けたわずか2日後に感染が判明した。ペルーでは、湖北省武漢市で製造したシノファーム製ワクチンに有力な結果が得られなかったと発表した。

     

    (3)「中国の製薬会社は、ワクチンの生産能力や規制当局の承認過程についてもあやふやな情報しか公表していない。先行する欧米のメーカーよりも受注が少ないのはそのせいではないかと専門家はみている。中国の製薬会社は外国政府との契約の詳細をほとんど公表しないが、これまでに約6億6000万回分のワクチンを受注する一方、出荷は4000万回分に満たないことが公開情報に基づく『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙の集計で明らかになっている。一方、オックスフォード大・アストラゼネカのワクチンの受注量は約25億回分に達している」

     

    中国製ワクチンは、外国政府から約6億6000万回分のワクチンを受注した。そのうち、出荷は4000万回に満たないほど。英国ストラゼネカのワクチンの海外受注量は約25億回分に達している。中国科学力の低さを証明している。

     


    (4)「中国はロシアと同様、合意内容が表に出にくい2国間取引に的を絞っている。だが、限られた価格情報からみる限り、シノファーム製は利用できるワクチンのなかで最も高い部類に属するようだ。ハンガリーは同社製ワクチンを1回分36ドル(約3900円)で購入したが、これはロシアの「スプートニクV」の3倍を超える。セネガルの同購入価格は1回分19ドルだ。価格が高くなる理由はワクチン調達を急ぐ国に直ちに供給できる即応態勢にありそうだ。だが、先進国による成人へのワクチン接種が一巡すれば、この強みも長くは続かないはずだと同氏は指摘する」

     

    中国製ワクチンの価格は、ロシア製の3倍である1回分36ドル(約3900円)という。「低成果・高価格」が、中国ワクチンにつけられる形容詞である。これでは、中国製ワクチンは売れるはずがない。

     

    (5)「中国は、他のワクチンを入手できない国々へ少量の自国製ワクチンを無償供与することで、各国の接種計画促進に重要な役割を果たしてきた。だが、米外交問題評議会のデータによると、これまでの供与量は2回接種型で1国平均30万回分にも満たない。中国の国営メディアは先進国の「ワクチンナショナリズム」を非難する一方、中国政府がいかに寛大かを強調している」

     

    中国国営中央テレビ系列の国際放送である中国国際テレビ(CGTN)は最近、「富裕国が(ワクチンの)備蓄に奔走するなかで、アフリカや中南米、カリブ海地域、アジアの国々を助けているのは誰か。答えは中国だ」と報じた。自画自賛だが、中国製ワクチンは世界でまともに相手にされない代物であった。あれだけ派手に演出した「マスク外交」も、不良品続出で失敗した。背伸びしても駄目な、気の毒な中国である。

     

     

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    米国外交は、超党派シンクタンクの提案する政策を踏襲する傾向が強いと指摘されている。大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)は1月、執筆者不詳で中国の将来を分析するレポートを発表した。執筆者は、政府関係者と推測されている。それによると、中国政治を深く揺さぶる問題は、経済動向であるとズバリ指摘している。次のような興味ある指摘をしている。

     

    「習氏の致命的な弱点は、経済だ。共産党が約束した経済成長や雇用、生活水準の改善という『非公式な社会契約』を守れるかどうか、が問題なのだ。間違った政策や米中経済戦争、疫病などによる景気後退の結果、成長が止まれば、この社会契約は破綻する。すると、彼らはますます国家権力による強制的な手段に頼らざるをえなくなる。そうなれば、現体制に対する怒りが表面化するだろう」

     


    世界の調査機関は、2020年代に中国経済が米国を追い抜くとしている。本欄では、その可能性のないことを指摘し続けてきた。根本的理由は、労働力人口の減少と不動産バブルの整理が未だに手つかずであることだ。1990年以降の日本を襲った状況と、瓜二つの事態が起こると見るべきである。中国経済が、行き詰まる材料はいくらでもある。

     

    米国バイデン政権は、こうした中国の弱点である経済の脆弱性に対して、米国経済の弾力性を示して、対抗しようとしている。景気刺激の追加財政支出1.9兆ドル(約207兆円)は、中国を睨んだ経済政策と見て良かろう。

     

    米国務長官ブリンケン氏は3月24日、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で演説。「米国が同盟国に対中国で敵につくのか味方になるのかというような選択を強いることはない」とし、「われわれが依拠するのは新機軸であり、最後通告ではない」と述べた。これは、米国経済が新機軸(イノベーション)をバネに発展することを公約したもの。米国の同盟国であれば、この新機軸による利益を受けられるという自信を示したのだ。

     


    英誌『エコノミスト』(3月16日付)は、「米の過剰貯蓄 経済回復の起爆剤に」と題する記事を掲載した。

     

    現在、ワクチンの普及によって新型コロナによる入院者数や死者数が減っている国々の政府はロックダウン(都市封鎖)を徐々に緩和しつつある。それに伴い今後、経済がどのように回復していくのかに関心が向けられるようになっている。重要な問題は、積み上がった貯蓄が急速な回復の原動力となった戦後の消費ブームを富裕国で再現できるかどうかだ。

     

    (1)「家計部門に多額の現金が蓄積されているのは確実だ。エコノミスト誌は「税引き後所得から個人支出を引いた差」と定義される個人貯蓄のデータを21の富裕国について収集した。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が起きていなければ、2020年1~9月にこれらの国々の家計が貯蓄に回した額は3兆ドル(約330兆円)だったとみられる。だが、実際の個人貯蓄は6兆ドルにのぼった。つまり約3兆ドルの「過剰貯蓄」が存在しており、これはこの21カ国の年間消費支出を合計した額の10分の1に相当する」

     

    パンデミックによって、富裕国は年間消費支出の約10%が繰り延べられている。これが今後、一挙に支出されるはずだ。後述の通り、米国でそれが最も顕著に表われる。

     

    (2)「米国では、3月11日に成立したバイデン大統領の1.9兆ドル規模の追加経済対策の効果もあり、過剰貯蓄は国内総生産(GDP)の10%を早々に上回る可能性がある。通常の景気後退局面では、家計がこれほど多額の貯蓄を積み上げることはない。そもそも賃金カットや失業で家計の所得は下がるのが普通だ。だが、今回のパンデミックでは富裕国の政府が一時帰休の従業員の賃金補助策や失業手当、個人への給付金などに全体としてGDP5%に相当する予算を投じた。その結果、家計所得はこの1年で実のところ増加した。同時にロックダウンによって支出の機会は減った」

     

    米国は、先の1.9兆ドルの追加経済対策で過剰貯蓄がGDPの10%を上回る見込みとなった。これがコロナ沈静化とともに消費へ向かう。まさに、40年ぶりの好景気が期待される理由である。

     

    (3)「米国は、政府によって打ち出された経済対策は異例の規模だった。まもなく3回目となる1人当たり最大1400ドルの給付金が大半の成人に配られる。失業保険の拡充措置によって、職を失った人の多くは仕事をしていた時の給料を上回る額を国からもらう結果になった。その結果、米国の低所得者層の所得に対する貯蓄の比率は富裕者層を上回った可能性がある

     

    下線部のように、低所得層の所得に対する貯蓄比率は富裕層を上回る見込みである。個人消費が米国経済を押し上げるはずだ。中国経済とは、全く様相が異なっている。中国では低所得層が沈み、高所得層がさらに貯蓄を積み上げるという格差拡大を生んでいる。これでは、消費が沈滞する。

     


    (4)「JPモルガン・チェース・インスティテュートの最新の調査によると、米国の最貧困層の銀行口座残高は、20年12月後半時点でその1年前より約40%増加したが、最富裕層は約25%の増加にとどまった。経済が再開した後に貯蓄を支出に回す可能性がより高いのは中低所得層で、これが経済回復の起爆剤になるとみられる大規模な経済対策を実施し、消費者がお金を使いやすい環境を整えた米国は、パンデミックが下火になるにつれて経済回復のペースで他の富裕国を大きく引き離すだろう」

     

    これからの米中経済は、米国の「消費爆発」にたいして、中国は「沈滞」となろう。改めて、米国経済の底力が発揮され、「米中経済逆転論」の誤りを立証するだろう。

     

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    メルマガ228号 「暴走中国」 安保と経済で落とし穴に嵌まり 自ら危険信号発す

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    メルマガ242号 米国、中国へ「冷戦布告」 バブルの混乱抱える習近平へ「追い打ち」

     

     

     

     

     

     

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    欧米と中国の間で、「人権戦争」が始まった。中国は、人権問題を政治化したと反発している。両者の間には、「人権」に関して超えがたい溝のあることを知らしめた。中国には、主権在民思想が存在せず、支配者が人民をいかに扱うか全ての権利を持つ専制主義思想に立っていることを図らずも「告白」したに等しい。

     

    EU(欧州連合)は、中国による新疆ウイグル族への人権弾圧非難に対し、中国が欧州議会の議員5人、オランダ、ベルギーなどの国会議員を含む個人10人と4団体を制裁した。これに対して、EUの主要5ヶ国が一斉に中国大使を召還して抗議する事態となった。

     

    ブリンケン米国務長官は3月24日の演説で、中国の人権問題をめぐる米欧と中国の対立について「我々は主張を曲げずに結束することが極めて重要だ」と強調した。中国に譲歩すれば「いじめ行為が機能するとのメッセージを送る恐れがある」と指摘し、中国による制裁に屈しないよう欧州に訴えた。『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)が伝えた。

     


    『大紀元』(3月24日付)は、「EU5カ国、中国大使を相次ぎ召喚 北京の報復制裁に抗議」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)が新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐり、中国当局者に対する制裁措置を発表したことを受け、中国政府は直ちに報復として、EU諸国に対して制裁を科した。 フランス、ドイツ、ベルギー、デンマーク、オランダなどは23日から、次々と中国大使を召喚して抗議した。 

     

    (1)「中国の制裁リストには欧州議会の議員5人、オランダ、ベルギーなどの国会議員を含む個人10人と4団体が含まれている。制裁対象となった団体はEU理事会政治・安全保障委員会、欧州議会人権小委員会、ドイツのシンクタンク「メルカートア中国問題研究所」、デンマークの「民主主義の同盟」などの4団体で、いずれも中国を批判したことがある。オランダは23日、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツは24日、中国大使を召喚して抗議を行った」

     

    中国は、居丈高になってEU各国へ臨んでいる。だが、EUとの投資協定は、欧州議会で審議棚上げ措置を受けた。中国が、人権弾圧を中止するか、それに見合う措置を講じない限り、打開の道はなくなった。「飛んで火に入る夏の虫」という皮肉な事態を招いている。

     


    (2)「ベルギーの『Knack』誌によると、同国のソフィー・ウィルメス外相は22日、中国当局によるEUの団体や欧州議会議員に対する制裁措置に強く反対すると表明した、と報じた」

     

    (3)「ドイツ外務省も中国の懇大使を召喚したことを発表した。ドイツ政府は「中国による欧州議員、科学者、政治機関、非政府組織に対する制裁は、欧中関係を不必要に緊張させた」と中国を批判した」

     

    ドイツは、中国と経済関係が最も密接である。EU・中国の投資協定も推進役はドイツであった。そのドイツを怒らせたのだ。ドイツと並んで推進役を務めたフランスは、国内事情で、投資協定反対に回るという事情になっている。投資協定の先行きは不透明である。

     

    中国は、投資問題でEUから締め出されれば、有力投資先を失う事態になる。こういう切迫した事情を抱えながら「強気」に出て大失敗である。

     

    (4)「デンマークも中国大使を召喚したと同国外務省が明かした。制裁対象には、元デンマーク首相で前北大西洋条約機構(NATO)事務総長のアナス・フォー・ラスムセン氏が設立した民主主義の同盟も含まれている。デンマーク外務省によると、中国大使に対して、デンマークは中国のこのような行動に不満であると告げた。デンマークのコフォズ外相は、「EUの制裁対象は、深刻な人権侵害に直接責任を負う中国当局者だけだ」とし、「中国の制裁は、EUのそれとは同じものではない」と強調した」

     

    (5)「ルドリアン仏外相が22日、ツイッターに「中国大使館の発言や、選挙で選ばれた欧州の当局者や研究者、外交官に対する措置は許容できない」と投稿し、「このメッセージをしっかりと再確認するため盧沙野・駐仏中国大使を呼び出した」と投稿した」

     

    フランス外相は、「選挙で選ばれた欧州当局者」と強調して、これに対する報復措置を許与できないと皮肉な批判をしている。中国では国民に選挙権も与えられず、選挙制度すら存在しないからだ。中国は、「やぶ蛇」という結果を招いた。

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