王毅外相の日本威嚇発言
習氏の対応に二つの見方
中国は海洋国家へ楯突く
半導体後進国が対抗する
米は同盟国巻き込み防衛
米中首脳会談が4月16日、ワシントンで開催される。米バイデン大統領が、対面で初めて臨む海外首脳会談相手が菅首相である。日米会談は、インド太平洋の平和維持構想でさらに踏込んだ合意に達するか、世界が関心を持っている理由だ。
バイデン大統領は、これまでオンラインによる「クアッド」(日米豪印)の合意で日米協調の大枠ができあがっている。これを基礎にして、3月16日の日米外務・防衛「2+2会議」で台湾や尖閣諸島の防衛で協力する旨を確認している。こうした実績の上に、菅・バイデン首脳会談が行なわれる。
王毅外相の日本威嚇発言
中国は、この会談の行方に最大の関心を寄せている。日中外相電話協議が4月5日、中国側からの要請で行なわれた。この日は、中国が先祖を弔うため墓に参る大切な清明節の連休最終日に当たっていた。1時間半もの長時間会談になったが、中国の王毅外相は茂木外相を次のように威嚇した。
「複雑な国際情勢に対し、中国と日本は長い間隣国であり、世界第2、3位の経済大国として時代の流れと国際情勢に順応しなければならず、日本は大国の対決に干渉するな」と、極めて無礼な発言をした。これは、中国外交部発表の中にあった文言である。
中国の漢族は、黄河の中原から現在の広大な版図へ拡大するまで、周辺弱小国を統合してきた歴史を持つ。秦の始皇帝以来、連衡を組んで相手を恫喝して震え上がらせてきた。中国は、この悪しき恫喝の歴史を踏み台にして、今や外国まで恫喝するようになった。「田舎大国」という誹りを受ける理由である。欧州でも、すこぶる評判が悪いのだ。日本が、中国の威嚇に屈するはずがない。中国は、日本が対抗姿勢をさらに強めるという逆効果を計算できないのであろう。気の毒な国である。
こういう経緯からも、日米首脳会談の成果に関心が向けられている。一説では、米国が日本へ大量のワクチン供給を約束するだろうという見方もある。米国は、ワクチンの大増産体制を敷いており、いずれ過剰生産に陥る。そこで、日本への供給体制を築き、日米一体化を世界に向けて発信するというのである。
中国は、「ワクチン外交」を展開し新興国の協力を取り付ける戦術に出ている。だが、ワクチン生産能力が限られ、国内のワクチン接種すら大幅に遅延している。1回目と2回目の接種間隔を最大8週間に延ばせるとのガイドラインを出しているほどだ。欧米のワクチンでは、メッセンジャーRNA(mRNA)ベースの接種間隔が3~4週間である。中国は、いかにワクチン供給が遅れているかを示している。
中国が、「ワクチン外交」で失敗すれば、国威発揚は空念仏に終わる。習近平氏は、パンデミックの汚名をそそぐべく、「マスク外交」を始めて大失敗した。不良品が多く、各国から返品騒ぎが起こったのである。今度は、名誉回復で「ワクチン外交」に力を入れた。これも供給体制が整わず、価格はロシア製の2倍。かつ、ワクチン医療情報を開示しないことで、疑念を持たれる始末だ。現状では、ワクチン外交も失敗の烙印を押されている。
習氏の対応に二つの見方
以上のように、習氏にとっては対外政策で深みにはまった感じが強い。日米首脳会談で、日米が一段と結束する体制が出来上がれば、インド太平洋戦略の「コア」が不動という印象を中国に与えるであろう。習氏が、これを冷静に受入れるのか。さらに凶暴化して、尖閣諸島と台湾へ軍事威嚇を強めるのか。現状では、判断不可能である。
二つの相対立する見方がある。
1)中国国内で、元老から習近平の猪突盲進に危険信号が出ている。いずれ、習氏の行動は沈静化するという合理性を強調する見方である。
2)最近のEU(欧州連合)と中国が、新疆ウイグル族の人権弾圧をめぐり、互いに報復し合っている。EUは怒って、昨年12月末に署名した対中国の総括投資協定について、EU議会が審議棚上げで対抗している。習氏は、経済的な損失でも躊躇なく決断する、どう猛性を強調する見方だ。
上記二つの見方がある。新興国が覇権国へ対抗する際、1)のような合理的判断に基づく行動を期待できない。日本が、米国と太平洋戦争を始めた状況は、現在の中国の置かれた状況と寸分違わないことに注目すべきである。
日本は、満州撤兵をめぐり米国と対立した。米国は、経済制裁として対日輸出禁止(石油・鉄くず)を科した。山本五十六連合艦隊司令長官は当初、「米国から石油を買いながら戦争できるか」と対米戦争を否定していた。だが、陸軍は満州撤兵を拒否して、開戦を急がせた事実がある。
中国へ上記の事情を当てはめれば、日中の置かれている事情は瓜二つである。
(つづく)
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