勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年05月

    119
       

    東・西ドイツを統一に導いたヘルムート・コール元ドイツ首相は、190センチ以上の身長で体重も重く、言葉も滑らかでないため、よく嘲弄された。英国の「鉄の女」を言われたサッチャー元首相は、「コール氏は利口でないと思っていたが、会ってみたら凄く利口なことが分かった」と報じられたほどだ。

     

    当のコール氏は、こういう世評にどう答えていたか。「まぬけな首相」というトーンのユーモア集まで出ていたほどだから、記者が「名誉毀損や侮辱罪ではないのか」と尋ねたという。コール元首相はこう答えた。「そうではない。国家機密漏洩罪だ」。抜群のユーモアで切り返した。このコール氏がいたから、分断ドイツは統一できたのである。

     

    分断民族の南北朝鮮で、韓国を率いる文在寅(ムン・ジェイン)大統領はどうか。残念ながら、コール氏のようなユーモア感覚はないのだ。文氏を批判したビラをまいた国民を告訴したのである。コールvs文在寅では、人間の器に雲泥の差がある。

     


    『中央日報』(5月3日付)は、「権力者のとぼけ」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のチェ・ミンウ政治エディターである。前記のコール氏にまつわる話は、このコラムから引用して私見を加えた。

     

    大統領侮辱罪で騒がしい。2年前に文在寅(ムン・ジェイン)大統領を非難する内容の印刷物をばらまいた30代男性のキム氏が侮辱罪容疑で最近、送検されたからだ。侮辱罪は刑法上親告罪であるため、被害者(大統領)の告訴意思がなければいけない。「大統領を侮辱する程度は表現の範疇として許容してもよい。大統領を罵って気分が晴れればそれでよい」と述べた文大統領の以前の発言が改めて取り上げられながら、波紋は広がっている。

    (1)「キム氏がまいた印刷物には、「北朝鮮の犬、韓国大統領文在寅の真っ赤な正体」という言葉があった。「北朝鮮の犬」という表現は十分に不快なものかもしれない。(北朝鮮はこれ以上のひどい言葉を文大統領に浴びせたが、侮辱罪は主観的だ)。青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の関係者は先月29日、「ビラの内容が極悪であり、当時は黙過できないレベルという雰囲気が強かった」と話した。文大統領も大統領である前に人間であり市民だ。それで本人が「人間として尊厳を侵害された」と考え、侮辱罪で告訴することは考えられる」

     

    「北朝鮮の犬」と書いたビラが、文氏への侮辱罪として告発・起訴された。北朝鮮は、文氏に対して「ゆだってふやけた脳」という表現まで使っている。この北朝鮮に対しては沈黙しながら、自国民を告発する。バランスを欠いた行動である。文氏の心理状態には、北朝鮮崇拝という思いがあるのだろう。だが、自国民は文氏の統治下にあるから、刃向かってはならないという皇帝的発想だ。

     

    (2)「それなら堂々としなければいけない。告訴した事実を明らかにし、なぜそのようにしたのかを話せばよい。それが透明な社会であり、民主的リーダーシップだ。是非はあるだろうが、論争を通じて合意を導き出すのが民主主義ではないのか。しかし文大統領はそれを隠した。事件当事者のキム氏が何度か警察の取り調べを受けながら尋ねても、警察は「誰が告訴したのかは公開できない」と述べた。波紋が広がると、青瓦台が一歩遅れて告訴の事実を認めた」

     

    警察は、ビラの主を10回も取り調べている。その間、告発者の名前を明かさず、「想像に任せる」と言い逃れてきた。告発する側も、内心忸怩たる思いがあったのであろう。だが、現実に告発している。「犬」呼ばわりされて、心のモヤモヤが収まらなかったのだ。

     

    (3)「なぜ隠したのか。一般人に対する大統領の告訴が招く波紋を十分に予想したのだ。それが負担になるのなら、やるべきではなかった。ところが告訴はし、それが外部に露出するのは抑えようとした。市民として持つ権利は握りながら、権力者として受ける非難は避けたかったのだ。典型的な二重基準であり、欲張りで意地が悪い」

    文氏は、思い悩みながらもついに告発した。それは、「北朝鮮の犬」という言葉が、文氏の胸に刺さっているからだ。「国民から見た自分の北への行動は、北朝鮮の犬に映っているのだろうか」というものだ。そうでなければ、笑い飛ばせられる。現実は、北朝鮮の「チュチェ思想」を信奉している。こういう心の葛藤が、国民を告発に走らせた。

     

    文氏は、南北対話を3回も行いながら、上げた成果がゼロである。その挙げ句、北朝鮮から罵倒されている。立つ瀬がないのだ。そういう心の焦りが、告発という突飛な行動を取らせたと思われる。文氏は、人間として「小物」であり、笑い飛ばして済ませられる心のゆとりがなくなっている

     


    (4)「大統領退任後に住む梁山(ヤンサン)の私邸をめぐる問題も同じだ。「警護の敷地まで用意したところ、やむを得ず農地まで含まれた。農地法がこれほど厳格であることを知らなかった」と理解を求めるべきだった。青瓦台も明らかにしたように、この私邸で財産上利益を得るわけではない。しかし青瓦台は元秘書室長、国政状況室長まで立ち上がって「病的なレベル」「盧武鉉(ノ・ムヒョン)峰下村私邸を豪邸だと騒いだ者たちは自重しろ」とむしろ声を高めた。文大統領もフェイスブックに「やめなさい。偏狭であり、恥ずかしい」とコメントした」

     

    梁山(ヤンサン)の私邸建設では、近隣住民が「建設反対」を叫んで工事を阻止している。理由は、静かな住宅街が文氏の引っ越しで騒がしくなると懸念しているためだ。普通なら、大統領の邸宅ができれば名誉と考えそうである。それが、逆になっている。庶民の人気を失っている証拠だ。これも、国民を告発した「イライラ」の原因になっているのであろう。

     

     

     

     

    ムシトリナデシコ
       

    日韓は歴史問題で争っているだけでない。WTO(世界貿易機関)を舞台に紛争を繰返している。韓国は、WTOで上手く立ち回り日本を苦境に追込んできたのである。

     

    最近の代表例では、2019年4月の福島県ほか8県の海産物輸入禁止がある。日本政府は、韓国の規制が不当だとしてWTOに提訴し、1審にあたる小委員会では日本の訴えを認めた。韓国側に是正を求める判断が示された。韓国側は不服として上級委員会に上訴したが、韓国は反訴のデータを示さず「風評被害」という抽象的な口実で「日本敗訴」にした。韓国は、「韓国敗訴」を覚悟していただけに、大儲けした形になった。

     

    こういう経緯があるだけに、WTOの歪んだ組織を立て直すには、日本人がWTO事務局入りして韓国の横車を防止しなければならない。

     


    『ハンギョレ新聞』(5月3日付)は、「WTOの主要ポストに日本の元外務省幹部が就任、静かに実利を得た日本」と題する記事を掲載した。

     

    日本外務省の宇山智哉前審議官が5月2日、ヌゴジ・オコンジョイウェアラ世界貿易機関(WTO)事務局長の上級補佐官に就任した。読売新聞は、日本がWTOの主要ポストに就くのは今回が初めてだと報じた。

     

    (1)「日本外務省は51日の資料で、宇山前内閣官房TPP(環太平洋パートナーシップ協定)等政府対策本部企画・推進審議官をWTO事務局長上級補佐官として派遣すると発表した。宇山補佐官は事務局長を直接補佐しながらアジア地域を担当する予定だと外務省が説明した。上級補佐官は、今回新たに設けられたポストで、任期は2年であり、再任が可能だ。宇山補佐官は外務省経済局国際貿易課長や経済局審議官などを歴任し、駐韓日本大使館経済公使を務めたこともあり、韓国に詳しい人物だ」

     

    下線のように宇山上級補佐官は、WTO事務局長を補佐しながらアジア地域の紛争を担当するという。韓国にとっては、忌避したい人事であっただろう。

     


    日韓間で現在紛争が続いているものとして、日本の韓国向け輸出管理の運用見直し、韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング措置のほか、韓国の造船補助金に関する紛争がある。これは、自国造船業に対する韓国政府の大々的な公的助成が輸出補助金に相当するとして、日本が2018年11月にWTOに提訴した。

     

    無論、日本人の上級補佐官が就任したからと言って、日本の主張が全て通るということはあり得ない。ただ、韓国の不当な要求は公正な審議を経て解決案を出すべきだ。福島県ほか8県の海産物輸入規制は、明らかに韓国の「風評被害」という非科学的な視点で韓国の主張に軍配を上げている。

     

    福島原発トリチウムの海洋放出でも、韓国は世界中の国々を煽動して日本海産物の輸入禁止措置を呼びかけるであろう。日本として、こういう卑怯なやり方に対抗する手段を準備しておくべきだ。韓国は、日本のやること全てに反対する決意を固めていると見られる。トリチウム問題は、第二の「少女像」として、世界中へ流布させる方針と見て間違いない。

     


    (2)「今回、日本がWTOの事務局長上級補佐官のポストに就いたのは、日本政府の要請が直接的な影響を及ぼしたものと見られる。日本経済新聞は同日付で、「日本政府は茂木敏充外相を中心にオコンジョイウェアラ氏を支える人材を派遣する用意があると伝えてきた」と報道した。日本政府は今年2月に終わったWTO事務局長の選出過程で、韓国のユ・ミョンヒ産業通商資源部通商交渉本部長と競争したオコンジョイウェアラ候補を積極的に支持し、静かに実利を得たということだ」

     

    WTO事務局長選では、韓国も候補者が出て決戦投票まで進出したがオコンジョイウェアラ氏に大差で敗れた。韓国は、事務局長選挙が始まる前から日本を強くけん制した。日本が、韓国候補者の落選を狙って各国へ手配しているなどと騒いでいたのである。だが、蓋を開けると、アフリカ、EU(欧州連合)などが一票の漏れもなく、全てオコンジョイウェアラ候補を支持していた。もともと、アフリカ出身者をWTO事務局長に選ぼうという暗黙のコンセンサスができあがっていたのだ。韓国は、そういう国際間の動きを知らずに、日本を敵役にしてきた。

     

    こういう経緯によって、宇山氏がWTO上級補佐官へ就任することは、韓国が口に出さなくても大きな衝撃を受けているはずである。鉄槌を食ったような感じであろう。これで、反日が少しでも減れば良いが、執念深い韓国である。次の手を編み出すことであろう。

     

    あじさいのたまご
       

    米国にとって、韓国の役割が大きく低下している。韓国が、クアッド参加を曖昧にしている結果だ。バイデン米政権は、世界覇権堅持の姿勢を強く打ち出した。インド太平洋を対中マジノ線に設定して、クアッド(日米豪印)の結束を高めているなかで、韓国は「洞が峠」を決め込んでいるのである。

     

    韓国のこの「曖昧戦術」は、高い代償を払うことになった。米国の北朝鮮政策について、何らの関与もできないままに、決定されているからだ。ホワイトハウスのサキ報道官は、日米首脳会談における菅首相の意見と米国の接近法によって、北朝鮮政策を決定したと発言した。韓国の名前は出なかったのである。文大統領はこれまで、「朝鮮半島問題の運転席に座る」と主張してきた。現実には、日米が運転席に座ったのだ。

     

    『朝鮮日報』(5月3日付)は、「『オバマでもトランプでもない』…バイデン政権の対北政策は『第3の道』」と題する記事を掲載した。

     

    米国のバイデン政権が発足から3カ月で対北朝鮮政策のレビューを完了し、その中でトランプ政権が一時目指した「一括妥結」、あるいはオバマ政権による「戦略的忍耐」とも異なる「第3の道」を行く考えを示した。しかしその具体的な内容は公表されなかったため、結局は「北朝鮮による核・ミサイル技術の高度化を阻止するこれといった手段はないのでは」との懸念も出始めている。

     

    (1)「米ホワイトハウスのサキ報道官は4月30日(現地時間)、北朝鮮政策について「我々の目標は今もなお『韓半島の完全な非核化』だ」とした上で、「米国の政策は『グランド・バーゲン(一括妥結)』の実現に焦点を合わせるものではなく、『戦略的忍耐』にも依存しないだろう」と説明した。サキ報道官はさらに「我々の政策は米国、同盟国、駐留軍における安全保障の実質的な進展を目指す北朝鮮との外交に開かれており、そのような外交を探索するためのうまく調整された実用的な接近方法を目指している」と述べた」

     

    米国の北朝鮮政策は、「一括妥結」(トランプ流)や「戦略的忍耐」(オバマ流)でもない、「実用的接近法」(段階的解決)という第三の道を選択することになった。

     

    (2)「バイデン政権のある幹部はワシントン・ポスト紙の取材に「うまく調整された実用的な接近方法」について「非核化という究極の目標を定め、(北朝鮮による)ある特定の行動によって制裁を解除する準備が整った、慎重かつ調整された外交的接近方法だ」と説明したという。要するに前提条件なしに北朝鮮と交渉を行い、北朝鮮が核の凍結あるいは一部廃棄に同意すれば、米国もそれ相応の措置を執りながら最後は非核化にまで進むという戦略になるとみられる」

     

    下線のように前提条件なしに、米朝が交渉した「タイムテーブル」にそって、北朝鮮が対応すれば米国もそれに応じて制裁を解除するバーター方式である。

     


    (3)「バイデン大統領がブリンケン国務長官、オースティン国防長官、サリバン国家安全保障補佐官、ミリー合同参謀本部議長から対北朝鮮政策レビューが完了したとの報告を受けたのは先週だったという。米国の複数のメディアが伝えた。バイデン大統領は4月28日に連邦議会上下両院合同会議で演説を行った際、北朝鮮の核問題について「深刻な脅威」とした上で「外交と厳重な抑止によって解決を目指す」との考えを明確にしたが、これは対北朝鮮政策レビューの内容が反映された演説だったと考えられる」

     

    バイデン大統領の施政方針演説段階では、すでに対北朝鮮政策レビューが完了していたという。それゆえ、バイデン演説の北朝鮮部分は、米国の北朝鮮政策に基づいている。

     

    (4)「この演説でバイデン大統領は、「責任感のある米国の大統領であれば、誰であっても基本的な人権侵害に沈黙することはできない」と述べた。これは北朝鮮における人権侵害について今後も引き続き問題提起を行うという意味で、トランプ政権が使用した「外交」と「抑止」に「人権」を加えたものだ。シンガポール合意文そのものは破棄しないということだ」

     

    バイデン政権は、トランプ政権の使用した政策(「外交」・「抑止」)に「人権」を加えることになった。北朝鮮は、「人権」問題を取り上げたことに強く反発している。金正恩氏を冒涜すると言う理屈である。

     

    (5)「5月21日には韓米首脳会談が予定されているが、米国がこれを待たず4月16日の米日首脳会談の結果だけに基づいて対北朝鮮政策を決めたことも、米国の外交政策において韓半島問題が占める比重がそれだけ小さくなっているシグナルと考えられる。ホワイトハウスのサキ報道官は、「バイデン大統領と(日本の)菅首相が2週間前に会談した際、2人は(対北朝鮮政策についても)意見交換した」「日本からのインプットと以前からある我々の接近法がその役割を全て果たした」と説明した。これに対してサキ報道官は文在寅(ムン・ジェイン)大統領については特に何も言及しなかった」

     

    米国最大の外交・防衛問題は、いまや朝鮮半島問題でなくインド太平洋戦略に移っている。朝鮮半島問題は、インド太平洋戦略の付属的な扱いである。日米首脳会談が、朝鮮半島問題まで網羅する状況になったのだ。韓国は、このことに全く気付かずにいる。米韓首脳会談で、朝鮮半島問題を議論するという認識だが、日米首脳会談の追認を迫られるだけとなろう。韓国の外交的な立場は、これだけ引下げられたのである。

     

    次の記事もご参考に。

    2021-04-04

    韓国、「親身」米シンクタンクが勧告、日本は多国間構想の中心「反日は不利益」

    2021-04-28

    韓国、「溝深まる」米韓関係、クアッドの行き違いが意思疎通阻み文在寅「孤立」

     

    a1180_012903_m
       

    文大統領は、人権派弁護士出身である。文氏を批判した30代の青年が、警察から侮辱罪で検察に送検されたことが明るみに出た。大統領が、国民を告訴するという事態だ。

     

    文大統領の最新の世論調査では、支持率29%、不支持率60%である。国民の大統領批判のビラは正鵠を得ていたことになろう。文氏は、国民の批判を謙虚に聞く度量がないことを図らずも証明した。事件の顛末は、次のようなものだ。

     

    ソウル永登浦(ヨンドゥンポ)警察署は、2019年に文大統領など与党要人を批判するビラを国会に散布した容疑(侮辱等)でキム・ジョンシク氏(34)を起訴意見で検察に送検することを決めたと4月8日、キム氏に通知したもの。『中央日報』(4月29日付)が伝えた。



    キム氏は2019年7月17日、国会噴水台周辺に文大統領など与党要人を批判するビラを散布した容疑(大統領文在寅等に対する侮辱)で取り調べを受けてきた。フォレンジックの名目で携帯電話を3カ月間押収され、警察に10回近く出頭した。

    キム氏は中央日報の電話取材に対して「警察に『私を送検した容疑が文大統領侮辱と軽犯罪違反で間違いないか』と聞いたところ、これを肯定する返事を聞いた」と話した。刑法上、親告罪である侮辱罪は、文大統領本人か文大統領が委任した人が告訴してこそ起訴することができる。大統領が、自身を批判するビラをばらまいた国民を侮辱罪で告訴したとすれば異例のこととなる。

    文大統領は2020年8月、教会指導者との懇談会で「大統領を侮辱するくらいは表現のカテゴリーとして許容してもかまいません。大統領のことを悪く言って気持ちが晴れるならそれも良いことです」と発言。2017年2月9日民放のトーク番組では、「国民はいくらでも権力者を批判する自由があります。それで国民が不満を解消して慰めとすることができるなら、それも良いことではないですか」と話したことがある。現実は、文氏を批判したビラを書いた国民を侮辱罪で訴えていたのだ。

     


    韓国の中道性知識人に挙げられる浦項工科大学(ポステック)のソン・ホグン碩座教授が文在寅(ムン・ジェイン)政権に対する苦言をまとめた『正義よりも大事なこと』と題する著書を出版した。以下の記事は、ソン・ホグン教授とのインタビューである。

     

    『中央日報』(3月4日付)は、「文政権4年、『進歩どころか、固執・告訴・孤立の3コ政治』」と題する記事を掲載した。

     

    ソン教授は文政権4年に対して「進歩どころか政治の基本要件も充足することすら手に余る」とし「その理由は『固執・告訴・孤立』の(それぞれの頭文字を取って)『3コ政治』のせい」と話した。続いて「この本は、左派引き揚げショーをする政権の失政を明らかにし、未来の希望を取り戻さなければならないという切迫した覚悟から出発した」とした。2月25日、ソン教授に会った。



    (1)(質問)「本の題名のように『正義よりも大事なこと』は何か」
    (答え)「青年には雇用、30~40代には家と養育、50代以上には生きていく問題ではないだろうか。人々にこのような小さな夢でも実現するようにすることが、正義よりも大事なのではないか。ところが(政権に)このようなことを言えばハナから無視する。この政権のように公論に参加しない政権は初めてかもしれない」

     

    文政権は、国民の生活に関わる悩みを議論することを最初から無視して来た。

    (2)(質問)「参加政府(注:盧武鉉政権)の後身だが」
    (答え)「参加政府は参謀が市井に耳を傾けた。運動圏出身も多くなかった。ところが、この政府は核心がみな運動圏だ。自分が望む目的通りに引っ張っていくのが運動圏の特徴だ。だから公論の場がないということだ」

     

    文政権は、大統領府の核心部分を運動圏(学生運動出身と市民運動のプロ)が占めてしまった。運動圏出身者は扇動家である。公論(議論)することなく一方的にリードするだけであった。



    (3)(質問)「なぜ文大統領は権力の核心を運動圏で固めたと考えるか」
    (答え)「本人の意志ではなく、運動圏に呼ばれて出てきて執権したためだ。そのため状況を判断する能力があるのか分からない。南北関係や日本・中国イシューには所信があるように見えるが、労働や資本政策は方向が分からないようだ。大統領の世界観が人権・抵抗・法曹界に限定されたためでないか」

     

    文氏は、運動圏の利益代表として大統領候補に選ばれ、当選したまでにすぎない。南北問題や日中問題に付いて私見はある。ただ、「親中朝・反日米」という1980年代の古い国際感覚であった。労働政策や経済政策については、ほとんど無知である。文氏の政治師匠の盧武鉉氏が、文氏に政治家になるなと忠告したことは正しかった。



    (4)(質問)「現政権特徴を「3コ政治」に要約した」

    (答え)「2018年3月青瓦台(チョンワデ、大統領府)で政策講義をした。『所主成(所得主導成長)』が推進真っ只中だった時だ。『趣旨は良いが問題が多い』と指摘すると冷たい反応が返ってきた。20日後、再び張夏成(チャン・ハソン)青瓦台政策室長チームとセミナーをしながら所主成の問題点を指摘すると、秘書官の一人に『資本家の言うことだ。皆、大げさだ。あなたも事実、大げさに騒いでいる』と言われた」

    「3コ政治」とは、文大統領の特性である「固執・告訴・孤立」の3つを指す。

    1)固執は、一度言い出したら絶対に修正することがなかった。まさに直情径行である。

    2)告訴は、国民を侮辱罪で告訴したことに現れている。このほか、与党「共に民主党」は告訴の乱発である。

    3)孤立は、公論(議論)しないから意思疎通ができず、反対者を説得しない。仲間内(支持者)だけのインナーサークルに閉じ籠もった。大統領として致命的欠陥である。

     

    韓国は、文在寅という特異の性格の持ち主を大統領にしてしまった。朴槿惠(パク・クネ)前大統領を罷免した、その反動現象というほかないだろう。大袈裟に言えば、フランス革命直後の混乱に似通っているようだ。

    a0960_005453_m
       


    レッドライン割れ支持率

    道を踏み外して迷路入り

    米外交の真髄を掴めない

    空想的外交論に嵌る韓国

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、任期をあと一年残すという段階で、早くも国民の支持を失って漂流状態を迎えている。2019年7月、文氏は「日本に二度と負けない」と啖呵を切った頃が懐かしくなるほどの落勢である。

     

    大統領就任直後は80%台という高い支持率であった。この「ご祝儀相場」に酔ってしまい、国民から100%の負託を受けたと錯覚に陥ったのである。内政面では、支持者向けの政策(最低賃金の大幅引上げ、原発廃止)を行いご機嫌伺いした。

     

    外交面では、徹底的に反日政策を行なった。これが、日米韓三ヶ国の安保体制にヒビを入れさせるという大きなミスを冒している。さらに、米国バイデン政権が牽引するインド太平洋戦略対話の「クアッド」参加問題では、中国の怒りを恐れて曖昧戦術を取って、米国を当惑させている。

     

    こう見ると、文政権は何の目的で存在しているのかという根本的な疑問にぶつかる。皮肉な言い方をすれば、国内では労組と市民団体の利益に奉仕する。外交では、中朝を怒らせまいと涙の出るほどの低姿勢を貫く一方、日本へは反日の牙を向ける行動を取ってきた。反日は、国内の保守派=親日派を排除するという目的である。反日は、内政の延長であるから不可欠のツールと化している。最近では福島原発トリチウムが、新たな反日の狼煙に利用され始めた。反日は、韓国の「生きがい」である。

     

    レッドライン割れの支持率

    文政権は、既述の通り内政面で労組と市民団体へ顔を向けてきた。それ以外の層は、文大統領の支持層から離脱している。最新調査の支持率では、レッドラインの30%を割って29%へ落込んだ。韓国ギャラップが、4月27日から29日にかけての世論調査した結果である。文大統領が、就任後初めて直面する最低支持率だ。不支持率は60%に上がっている。

     

    不支持率急増の背景として、住宅価格の高騰が絶望感を与えた。文政権発足後の4年足らずで、ソウルのマンション価格は8割も上昇した。政府は価格抑制策の実施を急いでいるが、歯止めがかからない状態だ。首都圏では家賃高騰で退去を迫られる「マンション難民」も社会問題となっている。家主から一挙に、3割もの家賃引上げを迫られ、やむなく転居せざるを得ないという混乱ぶりである。

     

    世代別の不支持率は次のようになっている。

    20代   62%

    30代   49%

    40代   52%

    50代   61%

    60代以上 62% 

     

    全ての世代で、不支持率が支持率を上回るという危機的状態に陥っている。とりわけ危険視されているのは、文政権支持率29%が、与党「共に民主党」支持率33%を下回っている点である。これは、与党は支持するが、文大統領を支持しないという現象が起こっている意味である。与党は、文大統領を見捨てて「サバイバル」せざるを得ない深刻な事態を迎えた。こうして文政権は、レームダック(死に体)政権として彷徨することになりそうだ。文政権の寿命が、早くも尽きたのである。

     

    ここで、歴代大統領の支持率の変遷を見ておきたい。

     

    金泳三(キム・ヨンサム)元大統領

    IMF救済金融の申請を経て支持率が急落し、5年目の10~12月期支持率6%へ落込む。

     

    金大中(キム・デジュン)元大統領

    就任4年目に、次男のホンオプ氏と三男のホンゴル氏が、収賄で拘束されて世論が急激に背を向けた。任期最後には最低値である24%まで急落した。



    盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領

    就任4年目に不動産政策の失敗などでレームダックが加速化した。4年目10~12月期に支持率12%の最低値を記録した。

     

    李明博(イ・ミョンバク)元大統領

    就任4年目に実兄のイ・サンドク議員らが汚職で拘束され、24%の支持率で任期を終えた。

    朴槿恵(パク・クネ)前大統領

    就任4年目である2016年、国政壟断疑惑が浮上して支持率が急落し、同年12月国会で弾劾案が可決された。最後の支持率は4%であった。

     

    道を踏み外して迷路入り

    歴代大統領は、就任4年目で支持率が急落している。文大統領も同じ状況に追込まれた。文氏は、「魔の4年目」に対する警戒心が希薄であった。希薄どころか、「やりたい放題」と言ったほうが適切なほど。内政では検察改革と称して、政権捜査を阻止する「お手盛り法律」を成立させた。つまり、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)である。大統領、国会議長、大法院長(最高裁長官)などの高位公職者の犯罪捜査を専門とする独立機関である。検察庁から独立させた理由は、文氏が大統領退任後に備えた捜査阻止が目的とされている。

     

    こうした文氏の身辺防衛策が、「検察改革」として強行されたのである。国民から見れば、文氏が口癖のように発言する「公平・公正・正義」とは裏腹の「不公平・不公正・不正義」のシンボルが「文在寅」となった。支持率が急落したのは当然であろう。

     

    文大統領は、来年5月10日の退任である。退任まで一年を残すが、一足早く送別の辞を送りたい。「あなたは道を間違えた」という結論だ。「間違えた」には、二つの意味がある。

    1)文在寅は、大統領になるべきでなかった。

    2)文在寅は、外交政策で国際情勢の急変を読み取れず右往左往し、米韓同盟の本質を見誤っている。

    (つづく)

    次の記事もご参考に。

    2021-04-01

    メルマガ245号 文在寅「天誅下る」 次期大統領選は野党勝利 政権交代で「被告席」

    2021-04-15

    メルマガ249号 文在寅が国民から「三下り半」 空理・空論では民の暮し立たず「若者反

     




    このページのトップヘ