東・西ドイツを統一に導いたヘルムート・コール元ドイツ首相は、190センチ以上の身長で体重も重く、言葉も滑らかでないため、よく嘲弄された。英国の「鉄の女」を言われたサッチャー元首相は、「コール氏は利口でないと思っていたが、会ってみたら凄く利口なことが分かった」と報じられたほどだ。
当のコール氏は、こういう世評にどう答えていたか。「まぬけな首相」というトーンのユーモア集まで出ていたほどだから、記者が「名誉毀損や侮辱罪ではないのか」と尋ねたという。コール元首相はこう答えた。「そうではない。国家機密漏洩罪だ」。抜群のユーモアで切り返した。このコール氏がいたから、分断ドイツは統一できたのである。
分断民族の南北朝鮮で、韓国を率いる文在寅(ムン・ジェイン)大統領はどうか。残念ながら、コール氏のようなユーモア感覚はないのだ。文氏を批判したビラをまいた国民を告訴したのである。コールvs文在寅では、人間の器に雲泥の差がある。
『中央日報』(5月3日付)は、「権力者のとぼけ」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のチェ・ミンウ政治エディターである。前記のコール氏にまつわる話は、このコラムから引用して私見を加えた。
大統領侮辱罪で騒がしい。2年前に文在寅(ムン・ジェイン)大統領を非難する内容の印刷物をばらまいた30代男性のキム氏が侮辱罪容疑で最近、送検されたからだ。侮辱罪は刑法上親告罪であるため、被害者(大統領)の告訴意思がなければいけない。「大統領を侮辱する程度は表現の範疇として許容してもよい。大統領を罵って気分が晴れればそれでよい」と述べた文大統領の以前の発言が改めて取り上げられながら、波紋は広がっている。
(1)「キム氏がまいた印刷物には、「北朝鮮の犬、韓国大統領文在寅の真っ赤な正体」という言葉があった。「北朝鮮の犬」という表現は十分に不快なものかもしれない。(北朝鮮はこれ以上のひどい言葉を文大統領に浴びせたが、侮辱罪は主観的だ)。青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の関係者は先月29日、「ビラの内容が極悪であり、当時は黙過できないレベルという雰囲気が強かった」と話した。文大統領も大統領である前に人間であり市民だ。それで本人が「人間として尊厳を侵害された」と考え、侮辱罪で告訴することは考えられる」
「北朝鮮の犬」と書いたビラが、文氏への侮辱罪として告発・起訴された。北朝鮮は、文氏に対して「ゆだってふやけた脳」という表現まで使っている。この北朝鮮に対しては沈黙しながら、自国民を告発する。バランスを欠いた行動である。文氏の心理状態には、北朝鮮崇拝という思いがあるのだろう。だが、自国民は文氏の統治下にあるから、刃向かってはならないという皇帝的発想だ。
(2)「それなら堂々としなければいけない。告訴した事実を明らかにし、なぜそのようにしたのかを話せばよい。それが透明な社会であり、民主的リーダーシップだ。是非はあるだろうが、論争を通じて合意を導き出すのが民主主義ではないのか。しかし文大統領はそれを隠した。事件当事者のキム氏が何度か警察の取り調べを受けながら尋ねても、警察は「誰が告訴したのかは公開できない」と述べた。波紋が広がると、青瓦台が一歩遅れて告訴の事実を認めた」
警察は、ビラの主を10回も取り調べている。その間、告発者の名前を明かさず、「想像に任せる」と言い逃れてきた。告発する側も、内心忸怩たる思いがあったのであろう。だが、現実に告発している。「犬」呼ばわりされて、心のモヤモヤが収まらなかったのだ。
(3)「なぜ隠したのか。一般人に対する大統領の告訴が招く波紋を十分に予想したのだ。それが負担になるのなら、やるべきではなかった。ところが告訴はし、それが外部に露出するのは抑えようとした。市民として持つ権利は握りながら、権力者として受ける非難は避けたかったのだ。典型的な二重基準であり、欲張りで意地が悪い」
文氏は、思い悩みながらもついに告発した。それは、「北朝鮮の犬」という言葉が、文氏の胸に刺さっているからだ。「国民から見た自分の北への行動は、北朝鮮の犬に映っているのだろうか」というものだ。そうでなければ、笑い飛ばせられる。現実は、北朝鮮の「チュチェ思想」を信奉している。こういう心の葛藤が、国民を告発に走らせた。
文氏は、南北対話を3回も行いながら、上げた成果がゼロである。その挙げ句、北朝鮮から罵倒されている。立つ瀬がないのだ。そういう心の焦りが、告発という突飛な行動を取らせたと思われる。文氏は、人間として「小物」であり、笑い飛ばして済ませられる心のゆとりがなくなっている
(4)「大統領退任後に住む梁山(ヤンサン)の私邸をめぐる問題も同じだ。「警護の敷地まで用意したところ、やむを得ず農地まで含まれた。農地法がこれほど厳格であることを知らなかった」と理解を求めるべきだった。青瓦台も明らかにしたように、この私邸で財産上利益を得るわけではない。しかし青瓦台は元秘書室長、国政状況室長まで立ち上がって「病的なレベル」「盧武鉉(ノ・ムヒョン)峰下村私邸を豪邸だと騒いだ者たちは自重しろ」とむしろ声を高めた。文大統領もフェイスブックに「やめなさい。偏狭であり、恥ずかしい」とコメントした」
梁山(ヤンサン)の私邸建設では、近隣住民が「建設反対」を叫んで工事を阻止している。理由は、静かな住宅街が文氏の引っ越しで騒がしくなると懸念しているためだ。普通なら、大統領の邸宅ができれば名誉と考えそうである。それが、逆になっている。庶民の人気を失っている証拠だ。これも、国民を告発した「イライラ」の原因になっているのであろう。