20年前まで、日本の半導体が世界を睥睨していた。それが、急速な円高と日米半導体協定に手足を縛られている間に、韓国サムスンの台頭を許すことになった。以後、日本の半導体は政府の支援もなく衰微の過程を歩んできたが、再び「戦略産業復活」という国家戦略の後押しを経て復興を目指す。
長らくタブーとされてきた国家の支援によって半導体再興を図る狙いは、安全保障上の視点である。グローバル経済においては、適者生存にまかされてきたが、米中対立の激化という「新冷戦構造」下では、悠長なことを言っていられなくなっている。米国政府もすでに、半導体を戦略産業の筆頭にあげて保護育成する体制へと180度の転換である。日本も、政府が腰を上げる大義名分ができたのである。
現在の日本半導体における「ミッシングピースは、ロジック半導体」とされている。半導体市場は2030年には現状の倍の100兆円に拡大するとも予測される巨大市場が見込まれる。世界規模で急速にデジタル化やグリーン化が進む中、日本がその波をとらえるには、技術の進展を支える半導体産業と両輪で取り組まなければならない。こういう危機感が、日本政府を捉えている。
『ブルームバーグ』(5月31日付)は、「TSMCが日本で先端半導体の実装技術開発、旭化成やイビデンと連携」と題する記事を掲載した。
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は5月31日、先端半導体製造技術の開発助成事業で、世界最大の半導体受託生産企業である台湾積体電路製造(TSMC)を実施者に選定したと発表した。TSMCは、茨城県つくば市に設ける拠点で日本の企業や研究機関、大学などとも連携する。
(1)「発表資料によると、選定されたのはTSMCジャパン3DIC研究開発センターで、中央演算処理装置(CPU)やメモリーなどを一つの基盤の上に立体的に積む「3Dパッケージング技術」を開発する。日本勢では材料メーカーの旭化成やイビデン、JSR、装置メーカーのキーエンスやディスコなどのほか、産業技術総合研究所や東京大学も参画する」
経済産業省は、世界半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)が新たに設ける日本拠点への支援で、総事業費約370億円の半分を拠出する。イビデンなど日本企業20社超が参画し、最先端の半導体製造技術の開発をめざす。官民一体でTSMCと連携し、国際競争力の維持・向上を図るというもの。茨城県つくば市の産業技術総合研究所で夏以降、試験ラインの整備を始める。2022年にも本格的な研究開発に着手する見込みだ。
(2)「国内関連企業にとっては、半導体の微細化で世界最先端の技術を持つTSMCと連携することで、先端半導体を国内で製造する技術の確立を目指す狙いがある。半導体はコロナ禍による巣ごもり需要の高まりや在宅勤務の長期化などで世界的に需要が拡大し続け、車載向けでは半導体不足で自動車メーカーが生産調整を余儀なくされるなど深刻な問題となっている。このほか、経産省とNEDОは先端半導体製造のエッジコンピューティング向け実装技術の開発でソニーやセミコンダクタソリューションズ、実装共通基盤技術の開発で昭和電工マテリアルズ、住友ベークライトも実施者に選定した」
世界の半導体各社は回路線幅の細さを競っている。線が細ければ狭い面積に回路を詰め込め、スマホなどのデバイスの小型化・低消費電力化に寄与するため、ロジック半導体やメモリーでこの傾向が顕著となる。微細化の競争には莫大な投資が必要で、日本勢の多くが競争から離脱した。
例えば、一部でロジックを扱うルネサスの線幅は40ナノ(ナノは10億分の1)メートルにとどまる。より細い線幅が必要な製品は、TSMCに生産を委託している。海外勢の主戦場は、1桁ナノの線幅での量産化技術に移っており、日本勢があらためて追い上げるのは容易でない。こういう事情を解決するには、今回の日本政府のテコ入れが欠かせなかった。
『ロイター』(5月14日付)は、「日の丸半導体、TSMC巻き込み描く復活 見劣る支援が壁」と題する記事を掲載した。
(3)「サプライチェーンの国内整備を進める米国は、2兆ドル規模のインフラ投資計画のうち、米国半導体業界の国内生産回帰の実現に向け500億ドル(約5.5兆円)を割り当てる。EUも復興基金92兆円を用意。半導体を含むデジタル投資に2~3年で1350億ユーロ(約18兆円)以上を投資する。翻って日本は、ポスト5G(第5世代移動通信システム)基金が2000億円、サプライチェーン補助金も昨年度が約3000億円、今年度が約2000億円。業界からは「文字通り、ケタが違う」(半導体メーカー関係者)と、嘆息が漏れる。英調査会社オムディアの南川明シニアディレクターは「それなりの予算がつかなければ企業も動きにくい」と指摘する」。
欧米が、多額の資金を投入して半導体産業の振興に全力を挙げている。自民党では、半導体支援体制を組んでいる。安倍前首相や麻生副総理も半導体「応援団」に名前を連ねている。これで、欧米に遅れを取ることもあるまい。久しぶりの高度成長時代に幅を効かした「産業政策」の登場である。歴史は繰返すと言うが、まさにそういう時代環境である。
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