勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年06月

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    韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、米誌『タイムス』アジア版の表紙写真を飾った。なかなかの「好男子」に映っており、先ずは祝意を申し上げねばならない。文氏は、2017年5月にも同誌アジア版表紙に登場しているので2回目となる。売れっ子である。

     

    今日、6月25日は朝鮮戦争が始まった日である。このタイミングで、文氏は金正恩氏を「非常に率直で国際感覚豊か」と褒めたのである。朝鮮戦争の傷跡を抱える人たちには、複雑な思いがよぎったであろう。

     

    『東亞日報』(6月25日付)は、「文大統領、『金正恩氏は非常に率直、国際感覚ある』米誌タイムの会見で語る」と題する記事を掲載した。

     


    (1)「文大統領は米タイム誌とのインタビューで、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記について、「非常に率直で意欲的であり、強い決断力を示した」と強調した。しかし同誌は、「正恩氏は叔母の夫と異母兄を冷酷に殺害し、2014年の国連人権調査委員会(COI)の歴史的な報告書によると、抹殺、拷問、強姦、飢謹長期化の惹起など『反倫理犯罪』を主導した人物」と相反する見解を示した」

     

    文氏は、北朝鮮の金正恩氏を「非常に率直で意欲的であり、強い決断力を示した」と評価したが、タイム誌は、「抹殺、拷問、強姦、飢謹長期化の惹起など『反倫理犯罪』を主導した人物」であると真逆の評価を付け加えた。

     


    文氏による金正恩評価について、韓国国内でも異論が出ている。

     

    韓国野党の大統領候補、劉承ミン(ユ・スンミン)「国民の力」元議員が24日、フェイスブックで次のように語った。『中央日報』(6月25日付)が伝えた。

     

    「北朝鮮は文大統領を『ゆでた牛の頭』『特等の馬鹿』『米国産オウム』と嘲弄したが、文大統領は金正恩を『非常に正直で、熱情的で、強い決断力を持った人』と称えた。また、『金正恩の正直、情熱、決断力はいったい誰のためのものなのか」とし『北の人民のためのものか、大韓民国の国民のためにしたことか、それとも北の核』サイルをいうのか』と皮肉った。また『正直という言葉の意味は何か』とし『文大統領は正直の意味をどう考えて金正恩が本当に正直だと話すのか』と問いただした」


    大統領府は、同誌が使った表現「honest」を国内メディアが「正直」と翻訳して報道すると、24日に「インタビューで大統領は『正直』ではなく『率直』という表現を使った」と明らかにした。

     


    「さらに、『6・25韓国戦争(朝鮮戦争)71周年を翌日に控えた今日、我々の大統領の金正恩賛歌に接し、殉国烈士の英霊に面目ない』とし『大韓民国の大統領として国と国民の自尊心を踏みにじらないことを願う』と強調した」

     

    文氏がタイム表紙を飾ったタイミングは、朝鮮戦争開戦と重なり合うだけに絶悪というのが本当だろう。文氏は、朝鮮戦争について批判すべきであった。

     

    (2)「23日(米現地時間)に公開された「文大統領が祖国を癒すための最後の試みに乗り出す」と題する記事で、文氏は正恩氏の性格を問われ、「国際的な感覚もある」と答えた。一方、同誌は、文氏の返答を紹介しつつ、「多くの北朝鮮消息筋は、正恩氏に対する文氏の変わりない擁護を錯覚と見ている」とし、韓国政府が北朝鮮人権運動を弱体化させているという指摘も紹介した」

     

    文氏は、なぜこれほどまでに金正恩氏を持ち上げるのか。無論、引き続き南北会談を開いて、南北融和の実績を上げたいという政治家の願望もあろうが、客観的に見てその可能性はゼロである。北朝鮮が、文大統領を相手にしないという意向を繰り返し発表しているからだ。

     


    結局、文氏が金正恩氏へ一方的な「親愛感」を示しているという認識しか残らない。ここで、文氏の「人を見る目」がどれだけ正しいかという「眼力」が問われるのだ。

     

    『中央日報』(6月16日付)は、「これほど多くの天下り人事はなかった」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のキム・ドンホ論説委員である。

     

    (3)「文大統領は、世論と聴聞会を無視して任命した33人の閣僚級人事こそが天下りの典型だ。歴代のどの政権もこれほど多くの天下り人事はなかった。昨年10月の国民の力の資料によると、公共機関のトップ3人のうち1人が大統領選挙で一緒だった親文派だ。今でも350の公企業のあちこちに天下り人事が続いている。ある政治家は「任期が1年残った今が最後の機会」とし「いま任命されれば3年ほど任期が保証される」と話した。この機会をつかむために権力にコネを作ってロビー活動をし、大韓民国が病んでいる」

     

    タイム誌表紙を飾った文在寅氏は好男子である。政治家というよりも大学教授の風貌を漂わせ、「私は善人です」と言いたげな表情である。だが、その裏では「思い込み人事」を行なっている。失業救済で「3年間の任期保障」でポストを与えている。猟官運動もあるだろうが、その見分けもつかない文氏は、退任後に厳しい非難の嵐に遭遇するであろう。結論は、文在寅の眼力は曇っているのだ。

     

     

     

     

     

     

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    欧州全域に拡散した新型コロナウイルスのインド型(デルタ株)が、米国でも広がっている。特にワクチン未接種者が危険にさらされ、感染急増の恐れが出ているという。『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙が分析したところ、最初にインドで特定されたデルタ株は、米国で毎日の新規感染で3分の1超を占めるに至っている。5月末時点の10%から急増している。米国では、感染力の強いデルタ株の急激な拡散が、ワクチン接種率の低い州で感染スピードを加速させている。

     

    こうした状況で、企業での感染対策が厳しくなっている。米金融大手モルガン・スタンレーが、新型コロナウイルスのワクチンを接種していない従業員と顧客に対して、ニューヨーク州内の同社オフィスに入れない方針を導入する。FTが、米モルガン・スタンレーの社内メモで確認した。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月24日付)は、「米モルガン・スタンレー、未接種なら入館禁止」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米モルガン・スタンレーの社内メモでは、「7月12日から、すべての従業員、臨時職員、顧客、訪問者はニューヨーク市とウェストチェスター郡のモルガン・スタンレーの建物に入るには、完全にワクチン接種を終えたかどうかを申告する必要がある」。最高人事責任者のマンデル・クローリー氏が署名したメモには、こう書かれている。この日以降、完全に接種を終えたことを申告できない人は、ビルに入れなくなるとクローリー氏は書く一方で、「スタッフの圧倒的大多数」がすでにワクチンの接種を報告したと付け加えた。

     

    モルガン・スタンレーは、入館の際に完全にワクチン接種を終えたかどうかを申告する必要があという。7月12日から、完全接種を終えていない人は入館できないという。日本でもいずれこうなるのか。職場での集団接種は、そういう伏線があるかも知れない。

     


    (2)「同社は、方針を通じてオフィスを通常の状態に戻すことを速める狙いがあると述べている。メモによると、モルガン・スタンレーはすでに、「協業と生産性を高める」ために、機関投資家向けの証券業務部門や富裕層向けの資産運用部門などの一部の部署で「ワクチン・オンリー」の作業スペースを設けている。また、6月23日からは、ワクチン接種済みのスタッフに対する規則を緩和し、職場へ行ったり顧客を訪問したりしたい人に義務付けている日々の健康状態チェックを廃止する」

     

    モルガン・スタンレーが、厳格路線を打ち出したのは、日々の健康状態をチェックする「雑務」廃止が目的である。

     

    (3)「ウォール街の大手銀行は、従業員を職場へ戻すための説得で先導してきたが、モルガン・スタンレーの方針は、そうした金融業界の中でも最も内容が厳しい。競合の米ゴールドマン・サックスは今月、ワクチン接種の状況を会社側に開示することをスタッフに義務付けたが、未接種のスタッフもマスクを着用し、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)を実践していれば入館は認められている。米JPモルガン・チェースでは、ワクチン接種の情報開示は、まだ任意だ。世界最大の資産運用会社ブラックロックも先週、ワクチンを接種した従業員だけにオフィスを開放すると述べた」

     

    モルガン・スタンレーは、競合他社と比べても、ワクチン接種で最も厳格だ。他社では、マスクとソーシャルディスタンスを守れば、未接種でも認められている。

     


    (4)「モルガン・スタンレーのジェームス・ゴーマン最高経営責任者(CEO)は、ニューヨークを拠点とする従業員が職場に戻る必要性について厳しい立場を取り、レストランで外食することに不安がないのであれば、職場でも安心できるはずだと主張した。ニューヨーク州では成人の70%以上がワクチンを少なくとも1回接種しており、州政府はパンデミック(大流行)時代の制限措置の大多数を解除した」

     

    職場の安全確保が、業務の能率を改善するという考えに立っている。ニューヨーク州では成人の70%以上がワクチンを少なくとも1回接種している。となれば、モルガン・スタンレーの要求もあながち強烈と非難できないかも知れない。

     

    (5)「米連邦政府管轄の雇用機会均等委員会(EEOC)は昨年12月、従業員がワクチン接種を拒んだ場合、宗教上または医学的な理由に適用除外を設けることを条件に、企業は職場への立ち入りを禁止できると述べた。今のところ、モルガン・スタンレーの「ワクチンチェック」システムは自己申告に基づいて運用されているが、今後、ワクチン接種の状況についての証明を求める可能性がある。関係者らによると、モルガン・スタンレーは今年4月に薬局のカプセル・ファーマシーと手を組み、タイムズスクエアの本社ビルに従業員のみを対象としたワクチンクリニックを設置した」

     

    EEOCは、宗教上または医学的な理由で接種できないという適用除外を設けることを条件に、モルガン・スタンレーのような「入館禁止」は合法としている。こうなると、「なんとなくワクチンが嫌い」、という理由は米国で通らなくなりそうだ。

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    韓国銀行(中央銀行)は6月22日、過去最大にまで膨らんだ韓国の家計債務と不動産価格の高騰により、韓国の金融状況が2008年の世界的な金融危機以降で最も不安な状態にまで悪化したと指摘した。もし危機が起きれば、経済全体に衝撃が広がる危険性が高いと警告した格好である。

     

    韓国銀行はこれに続き、24日に年内の政策金利引き上げを予告した。この措置によって不動産価格の高騰に歯止めを掛けようという狙いである。ソウルのマンション平均価格は、日本円で1億0700万円へ暴騰している。「億ション」になったことは異常を通り超えて、いつでも暴落するレベルまで跳ね上がっていることを意味する。文政権が生まれて以来、ソウルのマンションは8割値上がりした。20~30代の若者は、借金して住宅確保に動いている。マイホームを買えない若者は、借金で株式投資を始めるなど一攫千金の夢を追う異常事態になっている。

     


    『聯合ニュース』(6月24日付)は、「
    韓国中銀総裁、『年内』の政策金利引き上げを予告」と題する記事を掲載した。

     

    韓国銀行(中央銀行)の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁は24日、物価安定目標運営状況の説明会で、「年内の遅くない時期に通貨(金融)政策について秩序をもって正常化する必要がある」と述べ、「年内」の政策金利引き上げを予告した。

    (1)「今月11日の時点では「現在の緩和的な金融政策を適切な時期から正常化していくべきだ」としながらも、具体的な正常化の時期に言及しなかったが、この日は「年内利上げ」のメッセージを市場に明確に伝えた。緩和的な金融政策の正常化、政策金利引き上げの根拠としては、「物価」よりも資産価格の上昇や個人向け融資の急増といった「金融不均衡」のリスクに重きを置いた

     

    韓銀が金利引き上げを意図している理由は、資産価格の上昇とそれを背景にした個人向け融資の増大である。もう少し説明すれば、個人が債務を増やして不動産や株式の投資を行なっていることから、資産価格が下落すれば債務返済が不可能になって「金融不均衡」が起るという危険性である。

     


    この関係は、次のように説明できる。

     

    負債増加速度が、GDP成長率より速くなると資産価格まで上昇する。ここで、借入を通じた資産買い入れるという現象が始まる。その次の段階では、高い負債負担と資産価格下落で負債返済が難しくなり、「負債危機」が発生する。このバブルが崩壊する兆しを見せれば、負債が多い国から資金が海外へ流出し始める。韓国がこれまで2度経験した金融危機の勃発である。韓銀が、年内に政策金利引き上げを予告して理由は、資産バブル崩壊と海外への資金流出による金融危機回避が目的である。

     

    (2)「李氏は、株や不動産などの資産市場への資金集中が顕著で、個人債務もなお大幅に増加していると指摘しながら、「金融の不均衡が累積しており、ここに留意して金融政策を調整する必要性が日増しに高まっている」と強調した」

     

    このパラグラフは、前のパラグラフで私の付けたコメントの繰り返しであるが、重要な点である。韓国経済の脆弱性を端的に指摘している。

     


    (3)「韓銀は先月27日に開いた定例の金融通貨委員会で、政策金利を年0.5%で据え置いた。同行は昨年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により景気減速が予想されるとして政策金利を年1.25%から過去最低の0.75%に引き下げ、同5月にはさらに0.25%利下げ。その後は据え置きが続いている。韓銀内外では、同行が10月にまず0.25%利上げし、来年1月または2月に追加で0.25%上げるとの見方も出ている

     

    下線を引いたように、10月に0.25%、来年1~2月に0.25%、つごう0.5%引き上げが想定される。現在の政策金利は0.5%であるから、これが、1%へ引き上げられるもの。金融正常化の一環である。

     

    中小・零細の企業は、長いコロナ禍で経営的に苦しい局面である。それだけに、金利引上げでさらに苦境に立つのは明らかだ。韓銀は、財政政策でこの分野を救済すべきという立場である。金融政策が、弱者救済に力点をおいて低金利に固執すると、韓国経済全体は資産バブルという「大火」によって焼き尽くされるリスクを抱える。

     


    日本経済は、この局面で大きな失敗をした。1980年代後半の急速な円高で、企業経営が危機に立って日銀の超低金利政策を求めていた。これが不動産と株式のバブルを生み出して結局、日本経済沈没の憂き目を見た。中央銀行は、雑音に耳を貸さずセオリー通りの政策発動に徹することだ。それが、日本経済失敗から学ぶ教訓である。

     

    次の記事もご参考に。

    2021-06-23

    韓国、「不気味」中央銀行が警告、現実味を帯びてきた不動産・株式「バブル崩壊危機」

    2021-05-30

    韓国、「血迷い」仮想通貨狂、4月だけで187万人が新規参入「暴落で4割大損」

     

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    現在の世界的なテーマは、二酸化炭素の排出量を減らすことである。二酸化炭素は、人間の経済活動と密接な関係を持っていることはいうまでもない。一方、新型コロナウイルスの感染を減らすには、「人流」を減らすことが重要だと叫ばれている。この両者の共通点は、人間が蟄居していることが最善という結論に落ち着く。

     

    冒頭から、いささか荒唐無稽な話題を持ち出したのは、「脱炭素」が人間の数と比例しているという議論が出てきたので、この考えを吟味する必要を感じたたからだ。私の結論を先に言えば、合計特殊出生率が置換率「2.08」を割り込むと15年後に、その社会は経済活動に変調を来たすことを忘れてはならない。その結果、社会保障制度がガタガタになって、脱炭素も十分に行なわれない危機に直面することを覚悟すべきということだ。

     


    『日本経済新聞』(6月24日付)は、「人口減少のプラス面に着目を」と題する記事を掲載した。筆者は、エネルギー移行委員会議長 アデア・ターナー氏である。2008~13年英金融サービス機構(FSA)長官。民間企業が立ち上げたエネルギー移行委員会(ETC)で現職。

     

    5月に発表された中国の2020年実施の国勢調査は、人口がほとんど伸びていないことを示した。中国の1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.3と、(通常は約2.1とされる)人口置換水準(人口の国際移動がないと仮定し、一定の死亡率の下で現在の人口規模を維持するための合計特殊出生率の水準)を大きく下回った。こうした現象は先進国も同様だ。

     

    (1)「1990年ごろから2000年代にかけ米国の出生率が2を上回る水準に戻った当時、「古い欧州」と比較した米国のダイナミズムや「社会的信頼感」の高まりを理由に挙げる識者もいた。実際には、増加は移民によるものといえた。はるかに高い出生率が維持されているのは、アフリカや中東に集中するより貧しい国だけだ。女性が十分な教育を受け、いつ子どもを持つかどうかを自由に選択できるようになった国の出生率は、置換水準を下回ることになる。こうした状況が広がれば、世界の人口はいずれ減少するだろう」

     

    昨年7月、英医学誌『ランセット』に掲載された論文によれば、2100年の世界人口は88億人となり、現時点で国連が算出した予測よりも21億人少なくなる。合計特殊出生率の低下と人口の高齢化により、世界の勢力図が一新されると予測している。21世紀の終わりまでに195か国中183か国で、移民の流入が無い場合に、人口維持に必要な数値(注:2.08)を下回るという。


    (2)「幅広くみられる、型にはまった見方は、人口の減少は悪いことに違いないというものだ。人口が安定した後に減少すれば、絶対的な経済成長率は低下するかもしれない。だが繁栄と経済的機会にとって重要なのは、国民1人当たりの所得だろう。教育を受けた女性が、「経済ナショナリスト」の気分を良くするために子供を産むのは嫌だと思うのは、非常に望ましいことだ。人口の安定や減少が国民1人当たりの経済成長を脅かすという議論は誇張されており、間違っているケースもある

     

    日本を例に取れば分かるが、合計特殊出生率の低下に伴う総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率の減少は、潜在的成長率を引下げる要因である。つまり、全体の労働力人口が減れば、経済成長率が低下して、1人当たりGDPも上昇しにくい状況が生まれる。

     

    この筆者が最も見落としている点は、人間の数が減れば供給と需要が減って、その相互作用である経済成長率に響くことである。日本でも出生率低下を喜んでいた向きがいた。「通勤電車の混雑度が緩和される」という類いである。今、振り返って見れば、社会保障面で大きな穴が開くことに気付かなかったのである。経済活動は、供給と需要の二要因から構成されることを忘れては困る。人間の数が減れば、需要減に見舞われるのだ。

     


    (3)「人口が増加しなくなると、退職者1人当たりを支える現役労働者が減り、国内総生産(GDP)に占める医療費の比率が上昇するのは確かだ。しかし上昇分は、人口増加を支えるためのインフラや住宅への投資の必要性が低下することで減殺される。無駄をなくし、ハイテクなどへの支出を増やせば、人口が減少しても繁栄を続けられる」

     

    人口減によってインフラ投資や住宅投資が減ることは、需要を減らすことである。供給はロボットの多用で一定水準を維持できても、ロボットは消費しないから供給と需要の不均衡をもたらして、経済活動は停滞せざるを得ないのだ。よって、急激な人口減は経済活動のバランスを崩して不況を招く大きな要因である。

     

    (4)「世界の人口が安定し、やがて減少に転じた場合、気候変動を回避するための温暖化ガスの排出削減が容易になる。労働力の縮小は、企業の自動化の誘因となり、実質賃金は上昇する。一般市民にとっては、絶対的な経済成長よりも賃金増加のほうが重要だ。技術によって自動化される仕事が増えれば、より大きな問題は、潜在的な労働者の数が多すぎることで少なすぎることではない

     

    このパラグラフでも、同じ誤解を繰返している。ロボットや機械化は生産性を上げるが、需要がゼロという重要な点を忘れている。経済は、供給と需要の均衡によって発展する。賃金の増加も生産性の増加に見合ったものでなければ、アンバランスになって不況になる。韓国の文政権が陥った実例がこれだ。全体のGDPが増えないで、1人当たりのGDPが増えると言う魔術はない。全体のGDPが増えるのは、供給と需要がマッチしている結果である。

     


    (5)「複数の調査によると、出生率が低い国では多くの家族がもっと子どもを持ちたいと考えるが、高い不動産価格や託児所の不足などが障害になっている。政策立案者は、夫婦が理想とする数の子どもを持つことをできる限り可能にするような対策を検討すべきだ。しかし改善をはかっても、長期的には人口が減少していく。世界中で早く人口が減ったほうが、人々にとってよい結果をもたらすだろう

     

    下線部は、明らかに二酸化炭素を減らす上での前提条件である。だが、二酸化炭素を減らすには、究極の脱炭素として水素発電がある。科学の力による脱炭素が不可欠である。今後の人口減は、英医学誌『ランセット』に掲載された論文のように、確実に進行する。超高齢社会における福祉問題が、これからの重要問題になるだろう。脱炭素は、科学研究の成果も不可欠である。単に、人口減のみに期待を繋ぐ訳にはいかないだろう。

     

     

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    韓国は、先の英国におけるG7で「ゲスト国」として出席した。その際の記念写真で、文大統領が英国首相の隣に立ったことで大興奮している。「韓国は実質的にG8扱いである」というはしゃぎぶりである。

     

    その一方で、G7の共同声明は中国を批判する内容になった。韓国はこれについて、「あれはG7の考えで韓国は署名していない」と、中国に向けて防戦する始末だ。このように、韓国にとって都合のいいところだけ強調する姿に批判の声が出てきた。

     

    『中央日報』(6月24日付)は、「G7儀典写真一枚でG8になることはできない」と題するコラムを掲載した。筆者は、チャン・ブスン関西外国語大学教授である。

     

    世界先導国家(注:G7)の会合に、わが国(注:韓国)が招かれたというのはうれしいことだ。しかし今回のG7サミットの結果は韓国外交の限界が如実に現れていた。世界10大経済大国の水準に見合った成果を示すことができなかったからだ。今年G7サミットは新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)危機の渦中に主要国首脳の対面外交が繰り広げられたことから例年に比べ大きな関心を引いた。



    (1)「今回のサミットは、「大西洋同盟」復元の舞台でもあった。ドナルド・トランプ在任中に米国は伝統的な友邦との不和により、大西洋同盟の根幹が揺れた。しかしジョー・バイデン大統領は「価値観外交」を掲げて同盟復元の意志を鮮明にした。世界は中国とギクシャクした関係のG7が中国に送るメッセージに注目した。「価値観外交」の旗じるしの下に一丸となったG7首脳は、中国に対して、予想通り共同声明で新疆ウイグルの人権と香港の自律性尊重、台湾問題の平和的解決を求めた。東・南シナ海での一方的な現状変更にも反対した。中国は相当気まずい思いをしたはずだ」

     

    今回のG7は、「価値観外交」という民主主義の価値観を守ることを改めて強調ことにあった。韓国は、この会議にゲストとして出席した。この目的は達成されたのか。

     

    (2)「今回のG7サミットの核心アジェンダを見ると、なぜ韓国・インド・オーストラリア・南アフリカがゲストに選ばれたのかを知ることができる。インドと南アフリカは深刻な新型コロナ危機に直面している。韓国とオーストラリアは英国に比較すれば相対的に善戦している。インド・オーストラリアは中国と鋭く対立しており、韓国はTHAAD(高硬度ミサイル防衛システム)問題で韓中関係の底を経験した。インド・オーストラリアは日米が主導する日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)の一員で、韓国はインド・太平洋で米国の最も重要な軍事同盟国の一つだ。何よりこれら4カ国は世界が認める民主国家だ。このような状況を読んだのであれば、事前に十分に備えるべきだった」

     

    韓国は、G7出席前に中国の王毅外相から「威嚇」されていた。米国に肩入れするなと釘を刺されていたのだ。韓国がこういう圧力を受けること自体、独立国の体面に関わることである。断固、「威嚇電話」を断るべきであった。結局、韓国はヌエ的な立場でG7に出席したのであろう。

     


    (3)「他のゲスト国は、G7サミットを自国アジェンダの増進機会として十分に活用した。開発途上国代表として招かれた南アフリカのラマポーザ大統領は開発途上国のコロナ克服のためのG7の財政支援を力説した。インドのモディ首相もコロナ危機状況を説明して支持を訴えた。最も積極的な活動を見せたのはオーストラリアのモリソン首相だった。米英とそれぞれ首脳会談を行い、米英豪3者首脳会談も成功させた。菅義偉首相に会って「経済的強圧」反対カードで中国にストレート球を投げた。多国間会議と国益を接合して自国に有利なメッセージを引き出した」

     

    韓国と並んでゲスト国として出席した豪・印・南アの諸国は、堂々と首脳外交を行なった。韓国はどうであったか。

     


    (4)「韓国は何を得たか。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が英国のジョンソン首相の横に立った写真とファーストレディーの華やかなファッションが際立った。南北交流協力を強調することがこの政府(注:文政権)の基調なのに、G7共同声明は北朝鮮糾弾一色だった。日本と角を立てるのがこの国の外交なのに、日本牽制(けんせい)メッセージも得られなかった。G7成果に対する立場を聞く言葉に、外交部報道官は中国を意識したように「韓国はG7共同声明に参加しなかった」と言及した。本当に虚しい。文大統領の今回の歴訪目的は何だったのか問い質したい」

    下線を引いたように、韓国は日本を「けん制」することが外交目的と間違ったことを書いている。ゲスト国の韓国が、G7の正式メンバーの日本に対してそんなことができるはずもなければ、場所でもない。日韓首脳が、会談しなかったことがそれを証明している。

     

    (5)「中国の立場も考慮しようという反論が理解できないわけではない。しかし処している立場が違い、G7と歩調をそろえることに限界があるなら、そのような韓国の立場を普遍的言語で堂々と説明するべきだった。世界先導国家は経済力だけではなれない。G7首脳の間に入って写真を取ったからといってすぐにG8になれるわけではない。韓国の関心事を普遍的言語に昇華させてグローバルアジェンダとして反映させなければならない。そのような血のにじむような努力もせず写真を取るだけでは絶対にG8の一員になることはできない」

    韓国は、米韓同盟によって西側諸国と同一価値観で繋がっているという自覚がない。一本筋が通っていないことが、フラフラした外交に現れている。中国へよろめき、日本と対立する。「価値観外交」の樹立が、最も必要な国は韓国である。


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