勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年07月

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    中国は、完全に戦略を間違えている。尖閣諸島への軍事圧力を掛ければ掛けるほど、日本が軍事面で強い反応を示すからだ。近代において日本は、中国を恐れたことがなかった。日本は、これまで絶えず先を見て、中国へ対抗策を打ってきた。臍(ほぞ)を噛むことはないのだ。

     

    歴史を振り返れば、日本は7世紀に遣唐使を派遣した。だが、中国の混乱で見切りを付け、894年に廃止した。日本は、中国の動乱に関して本能的な嗅覚が働く民族と言える。この日本を、中国は威嚇できると誤診してきた。日清戦争の勃発は、中国の威嚇に対する日本による先手勝負である。中国は、こういう失敗を省みず再び、尖閣諸島へ大量の海警船を送って威嚇している。歴史書をひもとかないのだ。

     


    中国中央政治局常務委員の王滬寧(ワン フーニン)氏は、習近平氏の指南役とされる。日本の明治維新以降の軍事研究をしているが、肝心の点について見落としているようだ。中国における歴史の教訓は、日本を軽く見てはいけないという点だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(7月29日付)は、「中国にボール打ち返す日本」と題する記事を掲載した。

     

    注目された日本政府の動きはすべて台湾絡みだ。79日には、WSJの社説が麻生副首相の発言を取り上げた。麻生氏は、中国が台湾に侵攻すれば日本の「存立」を脅かす恐れがあると指摘し、そうなれば日米は共に台湾を防衛すると述べた。その翌週に公表された日本の年次防衛白書は、これまでの慣例に反し、日本にとっての台湾の重要性を強調している。

     

    (1)「岸信夫防衛相は先月のインタビューで、より明確な姿勢を示し、「台湾の平和と安定は日本に直結している」と語った。岸氏が話すと、中国は注目する。安倍晋三前首相の弟にして岸信介元首相の孫であり、佐藤栄作元首相を大叔父に持つ岸防衛相は、以前から日台関係に関し踏み込んだ発言をしてきた。台湾の二大政党のうち中国からの独立により前向きな民主進歩党と緊密な関係を維持している同氏は、中国政府による批判の格好の標的になっている。岸氏が防衛相に就任し、日本の台湾政策に関する新たなコンセンサスの中心になったことは、現在進行中の変化の深さを象徴している」

     


    安倍・岸の兄弟政治家は、DNA的にも日本の安全保障に強い関心を見せている。かつては、防衛問題を語ると「タカ派」とレッテルを貼られ、時には「右翼」と見られることもしばしば。現在は中国が、軍事力拡大に狂奔して南シナ海や尖閣諸島へ軍事圧力を掛けていることから、「タカ派」や「右翼」呼ばわりされることなく、「安全保障専門家」と言われる時代だ。ようやく自衛隊も市民権を得た。「税金泥棒」という罵倒を聞くことはなくなった。時代の要請が、そうさせたのだ。中国は、日本の世論変化を見落としてはならない。

     

    (2)「予見可能な将来において、日米同盟は一層強化され、かつてないほど重要になるとみられる。習近平氏の視点で見れば、日本は消え去ることのない戦略上の問題である。孤立した日本は中国の圧力に対して脆弱(ぜいじゃく)かもしれないが、米国との同盟関係があるため、日本を脅すことは難しい。中国が威嚇すればするほど、日本は自国の防衛能力を強化し、米国やオーストラリア、インド、ベトナムとの関係を深めようとするだろう。多くの中国政府関係者は、自国が覇権を握るのは当然のことで、アジアの近隣諸国は同調せざるを得ないと考えているようだ。そうかもしれない。しかし、支配を目指す中国が予想外に有効な日本の反撃に直面するのは、(東京五輪での)卓球会場だけではない」

     

    日本は、アジアの国々から最も親近感を持たれている国である。世論調査では全体の半分以上が、日本を好意的に見ている。中国や韓国への好感度は、日本の3分の1程度だ。日本が動けば、他国も動かせるという潜在的動員力を持っている証拠である。中国の影響度は、軍事力を除けば日本よりもはるかに少ないのが実態だ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(7月29日付)は、「日米台議員『対中抑止』議論 安倍前首相が参加」と題する記事を掲載した。

     

    日本と米国、台湾の議員有志は29日、安全保障などを議題に「戦略対話」の初会合をオンラインで開いた。日本側は日華議員懇談会(古屋圭司会長)の与野党議員が参加した。中国の抑止策を巡って意見を交わした。

     

    (3)「日華懇顧問の安倍晋三前首相は、中国当局による香港での民主派の運動への規制を念頭に「香港で起こったことが台湾で決して起こってはならない」と述べた。中国の海洋進出を巡り「南シナ海や東シナ海で一方的な現状変更の試みが行われていることを懸念している」と語った。日米台の経済的な連携を進めるため、米国と台湾に環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を呼びかけた。世界保健機関(WHO)への台湾のオブザーバー参加に関し「中国も広い心で受け入れてほしい」と説いた」

     

    安倍氏は、首相を辞してから安保に関する積極発言を続けている。台湾問題に付いても、「第二の香港にさせない」と注意を喚起している。

     


    (4)「日華懇幹事長の岸信夫防衛相は、「強固な絆で中長期的に継続できる素晴らしい対話になるよう期待する」とのメッセージを寄せた。古屋氏は「中国の力による一方的な現状変更は常軌を逸したものだ」と批判した。米国からは前駐日米大使のハガティ上院議員らが発言した。ハガティ氏は安倍前首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」を「地域の秩序を強化する」と評価した。「バイデン米政権は台湾との貿易協定をぜひ締結してほしい」とも指摘した。台湾の游錫堃立法院長(国会議長)は、「(中国は)台湾に軍事的な威嚇をして、間違った情報を流布し、社会を分断させようとしている。台湾は米国や日本のような民主主義国家の友人を得るのが必要だ」と説いた。定期的に開催すると確認した」

     

    日米台は、中国の軍事進出を食止めるべく協力体制を整えることが重要である。中国の台湾への軍事侵攻は、短期決戦で終わらず長期化するだろう。中国国内の経済的・政治的な混乱は酷くなる。習氏の「永久国家主席論」は揺らぐと見る。習氏は、こうした国内混乱が予想される中で「開戦」を決意するだろうか。敗戦すれば、辞任となろう。習氏の人生にとっても、一世一代の大勝負だ。

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    日韓対立は、エンドレスである。日米韓の三カ国の結束に賭ける米国は焦っている。歴史問題という難題に踏込んでしまい、日本が強い姿勢を見せているからだ。

     

    日本が、ここで安易な妥協をすれば、韓国は勝利感を持つはず。「やっぱり、日本は加害者だから弱い立場である」と間違った印象を持つだろう。韓国は、日本が譲歩してくれたという「大人」の懐の深さを持ち合わせていない。それゆえ、ここは妥協せず、正論を貫くべきである。

     

    日韓歴史問題は、国際法的に解決済みであるにもかかわらず、文政権が敢えて政治問題化して日韓の溝を深めてきた経緯がある。こういうプロセスであることから、韓国が二度と歴史問題を持ち出さないように、徹底的に膿を出させるべきである。時間がかかっても耐え抜くことだ。

     

    『中央日報』(7月29日付)は、「米国務省の韓日担当副次官補『韓日、過去と未来は別々の“カゴ”で扱え』」と題する記事を掲載した。

     

    米国務省のマーク・ランバート韓日担当副次官補が28日(現地時間)、韓日協力の必要性を強調して米国が考える韓日解決法を提示した。韓日葛藤は米国の立場では長年の課題だが、高位当局者が公開的に解決策に言及するのは異例のことだ。

    (1)「ランバート氏はこの日、ワシントンで韓米同盟財団と在韓米軍戦友会が共同主催した「平和カンファレンス」で、両国間の過去と未来の「2つのカゴ論」を提示した。ランバート氏は「数年間、われわれが共通の基盤を探るために東京、ソウルと協力してきたというのは秘密のことではない」と話し始めた。続けて「われわれは率直になろう。歴史は変わらない」としながら「20世紀に起きた残酷行為はそのままだ」と話した。あわせて「それらをひとつのカゴに入れてそれに合わせて対処し、もう一つのカゴには21世紀に両国を一つにまとめるもので満たそうと努力することが、われわれのような実務者にとっては挑戦課題」と明らかにした。一つのカゴには過去を、もう一つのカゴには未来を入れようという注文だ」

     

    下線部分の認識は間違えている。日本は、国際法に従って解決したにも関わらず、文政権がこれを政治的に利用して紛争を拡大した。歴史問題と未来問題を別々のカゴに入れよという提案は正しいとしても、韓国がこの両者を混在させて利益を得よとしているのだ。

     


    (2)「ランバート副次官補は「日本と韓国はアジアにおける(米国の)最も強力な2つの同盟」としながら「日本と韓国が協力しなければわが国(米国)はあまり安全ではなく、日本と韓国が協力しないとき彼らもあまり安全ではない」と主張した。あわせて「韓国の若者は国が日本と良い関係を維持すればもっと安全でより繁栄する可能性がある」としながら「日本の若者たち、米国の若者たちも同じこと」と話した。ランバート氏は「もし両国が共に米国に役割を果たしてほしいと願うなら、米国は役割を果たさなければならないと考える」と明らかにした」

     

    下線部は、韓国の若者に就職先がない以上、日本で雇用を探していることを指している。文政権は、この日本での就職を妨害するような動きまでしてきた。あくまでも感情的な対立を持込もうとしたのだ。日本は、米国の仲裁を断るべきである。仲裁は妥協である。国際法に反する行動をとる韓国へ、日本がどのような妥協をするのか。あり得ないことである。

     

    (3)「ランバート氏は北朝鮮が今月27日、13カ月ぶりに電撃的に南北通信連絡線を復元したことについては「興味深い進展」と明らかにした。事実上、評価を留保するような表現だ。「肯定する」あるいは「肯定しない」というニュアンスは含まれていない。ランバート氏は「停戦協定締結68周年を迎える日に起きた」とし「これが何を意味するのか把握するために、同盟である韓国と緊密に接触している」と話した」

     

    米国は、今回の南北ホットライン再開について、評価を留保している。北の狙いが、韓国大統領選への影響を狙っているとすれば、米国は複雑であろう。もう5年も進歩派政権が続けば、日韓関係は死滅しかねないからだ。

    (4)「ランバート氏は韓米同盟の今後についても指摘した。「70年を超える同盟が現在でも依然と意味があるのかどうか、米国は米国国民に、韓国は韓国国民に説明しなければならない状況」と診断した。あわせて「韓米同盟は韓国の防御に基盤を置いているが、これからは世界へ出て行く必要がある」としながら、世界の至るところに存在する挑戦と機会に韓米が共に対応しなければなければならないと主張した。中国に対する対応、産業サプライチェーン(供給網)の安定、サイバー脅威への対応、気候変動、国際機構の運営方式などで韓米が歩調を合わせなければなければならないと例をあげた」

     

    下線部は、韓国に対して「クアッド」(日米豪印)への参加を求めている。米韓同盟は、朝鮮半島だけの安全保障でなくインド太平洋へも広がっていることを示唆した発言である。韓国は、この真意を正確にくみ取れただろうか。







     

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    文大統領は、自ら蒔いた「反日の種」で日韓首脳会談を開けずに終わりそうだ。弁護士出身であるから一通りの法律知識を修めているはずだが、国際法には暗かった。日韓問題は、帰するところ国際法の領域である。文氏は、社会派弁護士として名を売っても、国際法に一片の関心も持たず反日を貫いて挫折した珍しい法律人であろう。

     

    韓国メディアは、こうした文氏の「反日」を鋭く批判するコラムを掲載した。第二次世界大戦中にドイツが占領してフランスには、ドイツへ魂を売った「悪いフランス人」が多くいた事実を上げている。韓国の「反日」は、この「悪いフランス人」と似通って目先の利益を求める集団であると喝破している。

     


    『中央日報』(7月29日付)は、「独が占領した仏でも『悪いフランス人』が危険だった、何のための反日か」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のイ・フンボン中央日報コラムニストでる。

     

    文在寅(ムン・ジェイン)政権は執権中ずっと反日フレームの中から出なかった。悪化する韓日関係を改善する努力どころか、むしろ反日情緒をあおって両国関係を悪化させた。日本が政経分離の原則を無視して過去の問題に輸出規制で報復すると、待っていたかのように大統領が李舜臣(イ・スンシン)の「尚有十二」を云々しながら亀甲船刺し身料理店で食事をした。参謀と支持者は「竹槍歌」「土着倭寇」のような耳慣れない用語で呼応した。

    (1)「国民を親日と反日に分け、韓日関係を心配する保守勢力を「親日派」に追い込んだ。支持者を結束させて支持率を引き上げる国内政治戦略だった。その渦中に元慰安婦や独立活動家のためだという市民団体の物乞い商売、機会主義者らが私腹を肥やした。反日フレームを強めると、高宗(注:朝鮮皇帝)のような無能な君主も日帝(注:日本)に抵抗した闘士として美化する必要があったし、そこから出てきたのが高宗の道と惇德殿の復元だったのだろう。この2つの事業を始めた主体が反日市民団体を支持勢力とした故朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長という事実がこれを雄弁に語っている」

     

    文氏の政治姿勢は、反日を貫くことで国内の保守派=親日派というダメージを与え、進歩派政権を継続させ南北統一への方向付けを確かなものにすることにあった。文氏の両親は、北朝鮮生まれという事情もあり、北朝鮮が「墳墓の地」である。その強い思いれが、反日を利用して国内の保守派を叩くという戦術を取らせたに違いない。

     


    (2)「東京オリンピック(五輪)を控えて政府が突然急変し、多くの人たちを戸惑わせたが、期待した東京での「南北平和ショー」が水の泡となっただけに、また反日モードに転じるのは明らかだ。五輪選手村の韓国選手団のベランダに掲出された横断幕からしてそうだ。大韓体育会は否認するが、「臣にはまだ5000万の国民の応援と支持が残っています」という横断幕のフレーズは「戦闘に参加する将軍のイメージを連想させる」というIOCの指摘が正しい。あたかも友人の誕生日パーティーに行って「昨年お前は私を殴っただろう」という言葉を繰り返すのと変わらない。我々がこのようにしながら、日本が旭日旗を振って応援するのを批判できるのだろうか」

     

    韓国にとって東京五輪は、決して友好増進の舞台ではない。反日を貫く貴重な場所になっている。選手団に提供する食材は、すべて放射能検出の機器を通すという徹底ぶりである。五輪は、各国選手が同じ食事を楽しみながら友好の輪を広げる場所でもある。そういう意義を完全に否定して、メダルの数を競う舞台に過ぎない。

     

    だから、五輪選手村の韓国選手団のベランダに掲出された横断幕が、著しく戦闘的なものだった。「日本に負けない」という宣言である。この横断幕は、IOCの指示で撤去されたが、スポーツの祭典に相応しくなかった。



    (3)「今日の我々(注:中年以上)に残っている反日感情には、自己に対する不満が込められている。生まれた時から祖国が、日本に劣らない先進国だったMZ世代には決してない感情だ。そのような時代錯誤的な情緒を一部の勢力が政治的に悪用し、自分たちが生きる手段として使っているのだ。こうした勢力は日帝よりもさらに悪い。その勢力に利用されないためにはしっかりとした考えを持たなければいけない

     

    韓国人は、戦勝国民という間違った認識がある。日本と戦争をしたわけでないから、「戦勝国」ではあり得ない。米国に対して、こういう要求を二度も出して拒否されたのだ。無論、講和条約にも出席を阻まれている。こういう鬱積が、反日感情の裏にある。韓国進歩派は、これを悪用して反日を煽り立て、国会で議席を得てきた。反日が、利益になることを知ったのである。

     

    (4)「彼らが、我々と比較してよく引用するのがフランスだ。解放後にドイツ反逆者の清算を完ぺきにしたという言葉だ。しかし看過されている事実がある。当時ドイツはフランスの占領地域で不純分子(日帝には不逞鮮人)を捜し出した後、ドイツやオーストリアに送って強制労役をさせた。ところがフランス人は自分たちの同胞をドイツ当局に誣告する事例が多かった。レジスタンスが本格的な活動をした時代のフランスでは、「誠実な」ドイツ人より「悪い」フランス人がさらに危険だったのだ」

     

    第二次世界大戦下でのフランスは、ドイツに占領されていた。この構図からは、「悪いドイツ人」と「良いフランス人」が連想される。現実は、そうでなかった。ドイツに密告する「悪いフランス人」もかなり存在した。

     


    この「悪いフランス人」が、韓国では「反日派」に置換えられる。反日を名乗って経済的利益を得ている集団が存在する。慰安婦支援団体が、元慰安婦への経済支援名目で集めた寄付金を流用して、懐に入れていたのだ。この代表者は、文大統領と懇意になり国会議員にまでなり目下、裁判中の身である。なんとも、言いようのない事件だ。韓国は、反日が利益になる社会である。

     

    (5)「我々も同じだ。この国にも反日感情を政治的な目的と商売に利用する悪い韓国人がいる。大韓民国の未来のために彼らをさらに警戒する必要がある。関係のない警察を苦労させるだけの反米(を悪用する悪い韓国人)も同じだ」

    文大統領は、反日で大統領ポストを手に入れた。韓国では、「日本」の価値がこれだけ高いことを証明している。皮肉な話だが、韓国は日本という掌に乗っているようなもの。ここから脱するには、過去を語らないことである。未来に照準を合わせるべきであろう。そうしない限り、日本の「属国」でありつづける。

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    南北のホットラインが、7月28日から復活した。「春の日は絶対に来ないだろう」と言っていた北朝鮮が突然、連絡チャンネル復旧に応じた背景に何があるのか。北朝鮮の自力では乗り越え難いほど悪化した経済難と、韓国がコロナ対応のための人道的支援再開なども理由として上げられている。同時に、対話のテーブルにつくように勧めてきた米バイデン政権に対する「前向き姿勢」を示すことにもなった。ともかく、米韓朝三カ国の思惑が一致した形である。

     

    韓国の文大統領は南北連絡の復活を政治生命としてきたから、日韓関係凍結後に訪れた「朗報」であることは間違いない。ただ、北朝鮮が突然の「心変わり」を見せた裏には、経済難だけが理由ではなさそうだ。南北の交流再開には、米国の強い圧力がかかるのでそう簡単に進展するとは思えない。となると、残る理由は韓国の大統領選への影響を狙ったものと分析されている。

     

    『朝鮮日報』(7月29日付)は、「南北通信連絡線の復元に米専門家ら疑念の声『北朝鮮、韓国大統領選に影響力行使か』」と題する記事を掲載した。


    米国務省は27日(現地時間)、南北間の通信連絡線復元が報じられたことについて「米国は南北間の対話を支持し、南北通信線復元の発表を歓迎する」とコメントした。しかし一部の専門家たちは北朝鮮の意図を疑う否定的な見方を示している。

     

    (1)「米国務省のポーター副報道官はこの日行われたブリーフィングで、「これ(南北通信線の復元)は肯定的な措置であると信じる」とした上で、「外交と対話は韓半島の完全な非核化成就と恒久的平和建設に必須だ」と述べた。米ホワイトハウスのキャンベル・インド太平洋調整官もワシントンで開催された韓米同盟財団との朝食会を兼ねた懇談会後、特派員らの取材に「われわれは北朝鮮との対話と疎通を支持する」と述べた」

     

    米国にとっては、米朝間の直接対話ができないまでも、南北の対話が可能になる連絡線が復活したことは好材料にちがいない。このこと自体は、歓迎であろう。

     


    (2)「このような米国政府の公式な立場とは違い、米国の専門家らは北朝鮮の意図に懐疑的な反応を示している。かつて米国務省で対北特別代表を務めたジョセフ・ユン氏は本紙の電話取材に「今挑発を行っても米国が何かを与えるとは考えられないが、その一方で韓国の大統領選挙まであと数カ月しかないため、北朝鮮は対話に応じる考えを持ったのかもしれない」との見方を示した。ユン氏はさらに「北朝鮮は明らかに(韓国大統領選挙で)進歩陣営を支援したいはずだ。それも一つの動機となっている可能性もある」「究極的には米国との対話を望んでいるのかもしれないが、一方で深刻な経済や食糧難に直面しているためかもしれない」と指摘した」

     

    韓国の次期大統領選では、進歩派が文政権の継続政権として継げる見通しがついていない。それどころか、20代の若者が反旗を翻して政権交代を熱望する状況だ。文政権の成立では、この20代が熱烈支持であった。それが、様変りしている。

     

    最新の世論調査は、大統領選で野党候補が与党候補を引きはなしている。『聯合ニュース』(7月29日付)が、次のように報じている。

    尹氏(野党)と李在明氏(与党)、尹氏(野党)と李洛淵氏(与党)の一騎打ちとなった場合はいずれも尹氏が優勢であることが分かった。尹氏と李在明氏の対決では尹氏が40.7%、李在明氏が38.0%で、誤差範囲内の接戦となった。尹氏と李洛淵氏では尹氏が42.3%、李洛淵氏が37.2%だった。与党不利という結論である。

     


    (3)「米戦略国際問題研究所(CSIS)のスミ・テリー上級研究員も本紙の取材に「北朝鮮の経済難やコロナの状況などから考えると、北朝鮮は韓国から何か得られないか探りを入れているようだ」、「しかし制裁違反にならない範囲で文在寅(ムン・ジェイン)政権が与えることのできるものは限られている」との見方を示した。その上でテリー研究員は、「北朝鮮の経済難、(韓国の)大統領選挙の日程などから考えると、今後平和攻勢が始まると予想はしていたが、その平和攻勢が韓米連合訓練よりも前にやや早く出たことは疑問が出る」ともコメントした。テリー研究員は、「米国が韓米連合訓練を取りやめることはないだろうが、コロナを理由に規模を制限することはあり得る」と予想した」


    北朝鮮は、次期大統領が野党の保守党に移れば、現政権よりも相当にてこずる相手になる。そうならないようにするには、次善の策として文政権と対話した方が「ベター」という選択である。北朝鮮の「損得計算」で、連絡線の復活になったものと見られる。 

     

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    米中の外交関係の高官会談は7月26日行われた。共同発表がないほど険悪であったことを示している。中国側の発表では意気軒昂である。今後の米中関係改善のボールが、米国側にあると胸を張って圧力を掛けたことになっている。

     

    『ハンギョレ新聞』(7月28日付)は、「中国、体制認定など『3大要求』掲げ米国を圧迫」と題する記事を掲載した。いかにも、「親中朝・反日米」メディアらしいトーンである。タイトルから中国寄りである。

     

    成果なく幕を閉じた米中高官級接触で、中国側が両国関係について「3大条件」を掲げ、攻勢的に米国を圧迫したことが分かった。一方、米国側は新疆ウイグル自治区や香港、チベットなど「敏感な懸案」に触れ、従来の立場を貫いた。

     


    (1)「27日の官営「新華社通信」などの報道を総合すると、中国の王毅外交部長は前日午後、天津で米国のウェンディ・シャーマン国務副長官と面談し、「中米関係は厳しい困難と挑戦に直面している」としたうえで、「今後衝突と対決に進むか、両国関係を改善・発展させるかは、米国側が慎重に判断しなければならない」と述べた。王部長は「米国の新政権も前政権の極端で誤った対中国政策をそのまま踏襲している」とし、「抑制と圧迫で中国を敵にし、中国の現代化を阻もうとする試みは現在も不可能であり、未来にも実現できないだろう」と主張した」

     

    下線部は、随分と強気なことを言っている。これでは、喧嘩腰である。米国側の報道では、3月のアラスカ会談より少し柔らかかったという。完全に国内向けの報道だ。米中が対決したら困るのは中国である。海上封鎖されれば、一切の輸入が止まるのだ。実力もないのに大口を叩くものではない。もっと、謙虚になるべきだ。

     


    (2)「特に王部長は米中関係を効果的に管理・統制するため、米国側に対し、中国の体制を認め、発展妨害行為を中止すると共に、主権侵害・内政干渉をやめるという3大条件を「マジノ線」として提示した。彼は、「米国は中国ならではの社会主義の道(中国特色社会主義)と制度に挑戦したり、これを転覆させようとしてはならない」とし、「かつ、中国の発展過程を妨害したり中断させようとしてはならない」と述べた。また「中国に対する一方的な制裁や高率の関税、(米国内法の管轄権を外国まで拡大して適用する)拡大管轄法、科学技術封鎖措置を速やかに取り消すべきだ」と強調した」

     

    中国の要求は下記の3点である。

    1)中国の体制を認める

    2)発展妨害行為を中止する

    3)主権侵害・内政干渉を止める

     

    1)中国の体制を認めろとは、なんと自信のないことを言っているのか。これは、中国国内で習政権に対する正統性への疑義が出されていることを反映したものと見られる。実は、中国社会の不平等拡大が、習政権への疑念を呼んでいるからだ。毛沢東崇拝者は、現在の混乱を正すために毛沢東原理主義へ復帰すべきと主張しはじめている。20代の若者に多く見られる意見だ。米国が、中国共産党と中国国民を分けて発言していることでかなりナーバスになっている。

     

    2)中国が、米国の覇権に挑戦すると宣言した以上、米国から報復を受けるのは当然である。「大口を叩いて、米国からしっぺ返しを受けている」という関係である。中国が、米国から過去に多大の技術的支援を受けながら、「米国の首を取る」という発言は穏当でない。米国が、対中関係での技術・貿易を制限するのは誰も止められない。安全保障上の問題であるからだ。

     

    3)主権侵害は、中国が米国に侵略されていない以上、この議論が成り立たない。米国側からすれば逆に、米国の主権を侵犯される危険性があるから、反撃していると言われるだろう。中国による米国国民所有の技術や情報の窃取は、主権侵害行為である。

     

    (3)「台湾については、「両岸(中国と台湾)がまだ統一されていないが、中国は一つであり、台湾は中国の領土という基本事実は変わらない」とし、「もし台湾の独立を試みる場合、中国には必要なあらゆる手段を動員して阻止する権利がある」と警告した」

     

    香港の場合もそうだが、人権は普遍的価値で政治が冒してはならないものだ。台湾も、中国の手に委ねれば人権が弾圧されることが自明である。その場合、民主主義国が共同で阻止できる固有の権利(人権擁護)によって守られるべきだ。中国が、いかなる理由でも人権を冒す権利を持たない。

     

    (4)「中国国内では、「今やボールは米国に渡った」とみている。中国の要求に米国側がどのように反応するかによって、両国関係のゆくえが決まるということだ。官営「グローバルタイムズ」は復旦大学米国研究所の呉心伯主任の言葉を引用し、「過去は米国が要求事項を持ってくれば中国が反応する形だったが、今回は中国が積極的に対話を主導する新しい外交スタイルを示した」とし、「中国が提起した問題を米国が具体的に実行に移さない限り、中米関係は改善しないだろう」と指摘した」

     

    米国は、経済的に言えば中国とデカップリングの方向である。中国の経済力を削ぐことが、南シナ海や東シナ海における侵略行為を支える軍事力を阻止できるからだ。EU(欧州連合)も米国と共同で、デカップリングへ進む。EUの炭素国境税は、中国の経済力を削ぐ目的も含まれている。これが、環境改善に資するのである。

     

     

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