中国は、完全に戦略を間違えている。尖閣諸島への軍事圧力を掛ければ掛けるほど、日本が軍事面で強い反応を示すからだ。近代において日本は、中国を恐れたことがなかった。日本は、これまで絶えず先を見て、中国へ対抗策を打ってきた。臍(ほぞ)を噛むことはないのだ。
歴史を振り返れば、日本は7世紀に遣唐使を派遣した。だが、中国の混乱で見切りを付け、894年に廃止した。日本は、中国の動乱に関して本能的な嗅覚が働く民族と言える。この日本を、中国は威嚇できると誤診してきた。日清戦争の勃発は、中国の威嚇に対する日本による先手勝負である。中国は、こういう失敗を省みず再び、尖閣諸島へ大量の海警船を送って威嚇している。歴史書をひもとかないのだ。
中国中央政治局常務委員の王滬寧(ワン フーニン)氏は、習近平氏の指南役とされる。日本の明治維新以降の軍事研究をしているが、肝心の点について見落としているようだ。中国における歴史の教訓は、日本を軽く見てはいけないという点だ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(7月29日付)は、「中国にボール打ち返す日本」と題する記事を掲載した。
注目された日本政府の動きはすべて台湾絡みだ。7月9日には、WSJの社説が麻生副首相の発言を取り上げた。麻生氏は、中国が台湾に侵攻すれば日本の「存立」を脅かす恐れがあると指摘し、そうなれば日米は共に台湾を防衛すると述べた。その翌週に公表された日本の年次防衛白書は、これまでの慣例に反し、日本にとっての台湾の重要性を強調している。
(1)「岸信夫防衛相は先月のインタビューで、より明確な姿勢を示し、「台湾の平和と安定は日本に直結している」と語った。岸氏が話すと、中国は注目する。安倍晋三前首相の弟にして岸信介元首相の孫であり、佐藤栄作元首相を大叔父に持つ岸防衛相は、以前から日台関係に関し踏み込んだ発言をしてきた。台湾の二大政党のうち中国からの独立により前向きな民主進歩党と緊密な関係を維持している同氏は、中国政府による批判の格好の標的になっている。岸氏が防衛相に就任し、日本の台湾政策に関する新たなコンセンサスの中心になったことは、現在進行中の変化の深さを象徴している」
安倍・岸の兄弟政治家は、DNA的にも日本の安全保障に強い関心を見せている。かつては、防衛問題を語ると「タカ派」とレッテルを貼られ、時には「右翼」と見られることもしばしば。現在は中国が、軍事力拡大に狂奔して南シナ海や尖閣諸島へ軍事圧力を掛けていることから、「タカ派」や「右翼」呼ばわりされることなく、「安全保障専門家」と言われる時代だ。ようやく自衛隊も市民権を得た。「税金泥棒」という罵倒を聞くことはなくなった。時代の要請が、そうさせたのだ。中国は、日本の世論変化を見落としてはならない。
(2)「予見可能な将来において、日米同盟は一層強化され、かつてないほど重要になるとみられる。習近平氏の視点で見れば、日本は消え去ることのない戦略上の問題である。孤立した日本は中国の圧力に対して脆弱(ぜいじゃく)かもしれないが、米国との同盟関係があるため、日本を脅すことは難しい。中国が威嚇すればするほど、日本は自国の防衛能力を強化し、米国やオーストラリア、インド、ベトナムとの関係を深めようとするだろう。多くの中国政府関係者は、自国が覇権を握るのは当然のことで、アジアの近隣諸国は同調せざるを得ないと考えているようだ。そうかもしれない。しかし、支配を目指す中国が予想外に有効な日本の反撃に直面するのは、(東京五輪での)卓球会場だけではない」
日本は、アジアの国々から最も親近感を持たれている国である。世論調査では全体の半分以上が、日本を好意的に見ている。中国や韓国への好感度は、日本の3分の1程度だ。日本が動けば、他国も動かせるという潜在的動員力を持っている証拠である。中国の影響度は、軍事力を除けば日本よりもはるかに少ないのが実態だ。
『日本経済新聞 電子版』(7月29日付)は、「日米台議員『対中抑止』議論 安倍前首相が参加」と題する記事を掲載した。
日本と米国、台湾の議員有志は29日、安全保障などを議題に「戦略対話」の初会合をオンラインで開いた。日本側は日華議員懇談会(古屋圭司会長)の与野党議員が参加した。中国の抑止策を巡って意見を交わした。
(3)「日華懇顧問の安倍晋三前首相は、中国当局による香港での民主派の運動への規制を念頭に「香港で起こったことが台湾で決して起こってはならない」と述べた。中国の海洋進出を巡り「南シナ海や東シナ海で一方的な現状変更の試みが行われていることを懸念している」と語った。日米台の経済的な連携を進めるため、米国と台湾に環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を呼びかけた。世界保健機関(WHO)への台湾のオブザーバー参加に関し「中国も広い心で受け入れてほしい」と説いた」
安倍氏は、首相を辞してから安保に関する積極発言を続けている。台湾問題に付いても、「第二の香港にさせない」と注意を喚起している。
(4)「日華懇幹事長の岸信夫防衛相は、「強固な絆で中長期的に継続できる素晴らしい対話になるよう期待する」とのメッセージを寄せた。古屋氏は「中国の力による一方的な現状変更は常軌を逸したものだ」と批判した。米国からは前駐日米大使のハガティ上院議員らが発言した。ハガティ氏は安倍前首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」を「地域の秩序を強化する」と評価した。「バイデン米政権は台湾との貿易協定をぜひ締結してほしい」とも指摘した。台湾の游錫堃立法院長(国会議長)は、「(中国は)台湾に軍事的な威嚇をして、間違った情報を流布し、社会を分断させようとしている。台湾は米国や日本のような民主主義国家の友人を得るのが必要だ」と説いた。定期的に開催すると確認した」
日米台は、中国の軍事進出を食止めるべく協力体制を整えることが重要である。中国の台湾への軍事侵攻は、短期決戦で終わらず長期化するだろう。中国国内の経済的・政治的な混乱は酷くなる。習氏の「永久国家主席論」は揺らぐと見る。習氏は、こうした国内混乱が予想される中で「開戦」を決意するだろうか。敗戦すれば、辞任となろう。習氏の人生にとっても、一世一代の大勝負だ。