中国は、人口政策や教育制度でことごとく失敗している。「一人っ子」政策を37年間行って、出生率の急低下を招き人口減社会が目前にきている。若者の就職難で大学進学を奨励していたら、今度は現場で働く専門職工不足に陥るというチグハグな事態を招いている。
どうしてこういう間違いを次々に引き起すのか。それは、制度改革が柔軟に行われない結果である。現行制度を始めた人物のメンツを保つために、弊害が生まれても簡単に改革できない「人縁社会」の硬直さによるもの。中国社会特有の現象である。これが、合理化を疎外する強力な壁になっている。
『日本経済新聞』(7月26日付)は、「少子化中国、技能工を育成 職業訓練校 大卒・高卒扱いに 労働力確保へ格差是正」と題する記事を掲載した。
中国政府が、主に工場で働く技能工の育成策を打ち出した。技能工を養成する職業訓練学校に関する法律を改正し、訓練校の卒業生が就職や昇進する際、普通科の卒業生などと差がつかないようにする。根強い学歴信仰を打破するとともに、少子化で不足が懸念される労働力の確保を急ぐ。
(1)「学生が通う職業訓練学校は主に2種類ある。1つは年齢層が大学生と同じ学校で、高等職業院校などと呼ぶ。もう1つは高校生と同じ中等専業学校などで、日本の高等専門学校に近い。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は6月、こうした訓練校を定める「職業教育法」の改正案審議に入った。法案では「職業教育と普通教育は同等に重要な地位にある」と明記」
中国は、歴史的に科挙(官僚)の社会である。科挙の受験資格では、職人を排除するという片手落ちなことを行ってきた。この伝統が現代まで引継がれてきたので、気付いたら現場で働く有能な職工が不足していたという事態に見舞われているもの。そこで大急ぎで職業教育を行おうとしている。この無計画さには驚く。
(2)「高等職業院校を卒業すれば大卒と、中等専業学校卒業なら高卒とそれぞれ同じ扱いにし、公務員試験や就職活動での差別を禁じる方針だ。都市戸籍の取得のほか、政府や国有企業での昇進においても普通教育をうけた人と同等に扱う。企業の学校運営への参入も促す。企業側が即戦力として求める技術や技能を習得してもらうことで、就職先を確保しやすくする。既存の職業訓練学校が企業の資本を新たに取り込み、官民共同で学校を運営することも奨励する」
戦後の日本では、大企業は自前の職業教育を行って技能工を養成してきた。中国は、日本よりおくれること70年余で、優秀な技能工の必要性に目覚めた。
(3)「15~64歳の生産年齢人口は2013年をピークに減少が続く。長年の産児制限政策のツケで、働き手は中長期的に減り続ける。中国メディアによると、全人代の関係者は「25年までに、製造業の重要産業で3000万人近く、介護職員や家政婦で少なくとも4000万人が必要になる」と推計する。特定分野の技術にたけた労働者の不足は米国と覇権を争う中国にとってボトルネックになりかねない」
中国の生産年齢人口は、世界標準の15~64歳でなく、15~59歳である。定年が最大60歳である結果だ。健康上の理由で世界標準の労働を避けたもの。中国の生産年齢人口比率のピークは2010年である。以降、この比率が低下しており、潜在的経済成長率は低下局面に向かっている。
25年までに、製造業の重要産業で3000万人近く、介護職員や家政婦で少なくとも4000万人が必要と試算されている。いずれも専門職である。現在、大学院修士課程卒業生が、就職難も手伝い現場の職工として働く姿も普通になっている。技能工がいれば、それで代替できる。それがいないので、修士卒によって代わりを務めている。
こうなると、義務教育も十分受けていない約2億人強の農民工(出稼ぎ労働者)の働く場所がなくなる。この救済も新たな課題だ。これまでの安易な労働政策が、根本からひっくり返される状況になっている。
(4)「そもそも中国政府は経済管理などの高度人材を育てるため、大学など普通教育を重視してきた。18年までの10年間で大学普通科の新入生は4割増えた一方、高等職業院校や大学専門科の伸びは2割以下だ。高校では少子化の影響で新入生が5%減ったのに対し、相当する職業訓練学校では3割も減った。大学教育の拡大に伴い、ホワイトカラー志向が強い大卒生も増え、就職難に直面している。6月の16~24歳の調査失業率は15.4%で、全体平均の5%を大きく上回る。工場の人手不足と若年層の就職難という雇用のミスマッチが深刻さを増すなか、職業訓練学校の活性化で構造問題の緩和も狙う」
工場の人手不足は、技術練度の高い人材が不足している結果であろう。より生産性を上げるべく精密機器を導入すれば、それに見合った高度知識が要求される。それに応えられる人材不足で、大学院修士課程卒が採用されていると思われる。中国は、人的資本への投入で明らかに大きなミスを冒している。その責任は、硬直な計画経済の非弾力性にある。