勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年07月

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    中国は、人口政策や教育制度でことごとく失敗している。「一人っ子」政策を37年間行って、出生率の急低下を招き人口減社会が目前にきている。若者の就職難で大学進学を奨励していたら、今度は現場で働く専門職工不足に陥るというチグハグな事態を招いている。

     

    どうしてこういう間違いを次々に引き起すのか。それは、制度改革が柔軟に行われない結果である。現行制度を始めた人物のメンツを保つために、弊害が生まれても簡単に改革できない「人縁社会」の硬直さによるもの。中国社会特有の現象である。これが、合理化を疎外する強力な壁になっている。

     


    『日本経済新聞』(7月26日付)は、「少子化中国、技能工を育成 職業訓練校 大卒・高卒扱いに 労働力確保へ格差是正」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が、主に工場で働く技能工の育成策を打ち出した。技能工を養成する職業訓練学校に関する法律を改正し、訓練校の卒業生が就職や昇進する際、普通科の卒業生などと差がつかないようにする。根強い学歴信仰を打破するとともに、少子化で不足が懸念される労働力の確保を急ぐ。

     

    (1)「学生が通う職業訓練学校は主に2種類ある。1つは年齢層が大学生と同じ学校で、高等職業院校などと呼ぶ。もう1つは高校生と同じ中等専業学校などで、日本の高等専門学校に近い。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は6月、こうした訓練校を定める「職業教育法」の改正案審議に入った。法案では「職業教育と普通教育は同等に重要な地位にある」と明記」

     

    中国は、歴史的に科挙(官僚)の社会である。科挙の受験資格では、職人を排除するという片手落ちなことを行ってきた。この伝統が現代まで引継がれてきたので、気付いたら現場で働く有能な職工が不足していたという事態に見舞われているもの。そこで大急ぎで職業教育を行おうとしている。この無計画さには驚く。

     


    (2)「高等職業院校を卒業すれば大卒と、中等専業学校卒業なら高卒とそれぞれ同じ扱いにし、公務員試験や就職活動での差別を禁じる方針だ。都市戸籍の取得のほか、政府や国有企業での昇進においても普通教育をうけた人と同等に扱う。企業の学校運営への参入も促す。企業側が即戦力として求める技術や技能を習得してもらうことで、就職先を確保しやすくする。既存の職業訓練学校が企業の資本を新たに取り込み、官民共同で学校を運営することも奨励する」

     

    戦後の日本では、大企業は自前の職業教育を行って技能工を養成してきた。中国は、日本よりおくれること70年余で、優秀な技能工の必要性に目覚めた。

     

    (3)「15~64歳の生産年齢人口は2013年をピークに減少が続く。長年の産児制限政策のツケで、働き手は中長期的に減り続ける。中国メディアによると、全人代の関係者は「25年までに、製造業の重要産業で3000万人近く、介護職員や家政婦で少なくとも4000万人が必要になる」と推計する。特定分野の技術にたけた労働者の不足は米国と覇権を争う中国にとってボトルネックになりかねない」

     

    中国の生産年齢人口は、世界標準の15~64歳でなく、15~59歳である。定年が最大60歳である結果だ。健康上の理由で世界標準の労働を避けたもの。中国の生産年齢人口比率のピークは2010年である。以降、この比率が低下しており、潜在的経済成長率は低下局面に向かっている。

     


    25年までに、製造業の重要産業で3000万人近く、介護職員や家政婦で少なくとも4000万人が必要と試算されている。いずれも専門職である。現在、大学院修士課程卒業生が、就職難も手伝い現場の職工として働く姿も普通になっている。技能工がいれば、それで代替できる。それがいないので、修士卒によって代わりを務めている。

     

    こうなると、義務教育も十分受けていない約2億人強の農民工(出稼ぎ労働者)の働く場所がなくなる。この救済も新たな課題だ。これまでの安易な労働政策が、根本からひっくり返される状況になっている。

     

    (4)「そもそも中国政府は経済管理などの高度人材を育てるため、大学など普通教育を重視してきた。18年までの10年間で大学普通科の新入生は4割増えた一方、高等職業院校や大学専門科の伸びは2割以下だ。高校では少子化の影響で新入生が5%減ったのに対し、相当する職業訓練学校では3割も減った。大学教育の拡大に伴い、ホワイトカラー志向が強い大卒生も増え、就職難に直面している。6月の16~24歳の調査失業率は15.%で、全体平均の5%を大きく上回る。工場の人手不足と若年層の就職難という雇用のミスマッチが深刻さを増すなか、職業訓練学校の活性化で構造問題の緩和も狙う

     

    工場の人手不足は、技術練度の高い人材が不足している結果であろう。より生産性を上げるべく精密機器を導入すれば、それに見合った高度知識が要求される。それに応えられる人材不足で、大学院修士課程卒が採用されていると思われる。中国は、人的資本への投入で明らかに大きなミスを冒している。その責任は、硬直な計画経済の非弾力性にある。

     

     

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    文在寅氏は一見、純朴そうに見えるがどうして、相当に計算し尽くして動いている。その計算も間違えなければ良いが、完全な誤算も多いのだ。日韓関係破綻は、その誤算の最たる例であろう。

     

    国内では強かに計算している。過去の政権の問題については、物わかりの良さを見せてすぐに謝罪する。だが、文政権の失策になると頑として誤りを認めない。先ず、沈黙してしまい、その問題に付いて触れないのだ。ほとぼりの冷めるのを待っている形である。これは、弁護士稼業で身に付けた悪い特技であろう。

     


    『中央日報』(7月25日付)は、「『国が間違っていた』破格謝罪 こんな文大統領はなぜ消えたのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「青瓦台(チョンワデ、大統領府)の立場はありません」。大統領選挙過程で起きた「世論操作事件」で、金慶洙(キム・ギョンス)前慶尚南道(キョンサンナムド)知事が有罪判決を受けたことに対する青瓦台の公式立場だ。野党陣営が「大統領の謝罪」をはじめ、一部では「大統領下野」「弾劾」まで切り出して総攻勢に出たが、青瓦台はこの言葉だけ出した」

    文氏は、自らの大統領選挙に関わる腐敗事件について頬被りしている。この問題こそ、文政権の正統性に関わる問題だけに、弁明があってしかるべきだ。それが、例の沈黙作戦で逃げ回っている。

     

    (2)「金前知事は大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)大統領を随行・補佐・代弁する「1人3役」以上の役割をした最側近だ。これと関連し「国民の力」のキム・ギヒョン院内代表は「この巨大な犯罪を随行秘書が単独で犯したはずがない。本体は文大統領と民主党。選挙介入を超えた選挙操作事件」と主張した。李俊錫(イ・ジュンソク)代表は野党代表時代の文大統領が国家情報院のコメント事件に対し「青瓦台が謝罪しなければならない」と述べた事実に言及し、「旧文在寅と現文在寅を比べて嘲弄することが発生しないよう即刻謝罪をお願いする」と要求した。しかしまだ文大統領の謝罪はない」

     

    文氏にとって、最も触られたくない事件であろう。金前知事は、文大統領と家族ぐるみの付き合いであった。文氏の夫人が、大統領当選の決まった直後、最初の言葉は「金氏へ挨拶しなければ」というものだった。裏事情を知っているはずだ。検察もそこまで捜査しなかったのだろう。捜査をやり直せば、「一大疑獄」に発展すること間違いなしであろう。

     


    (3)「この4年間の文大統領の謝罪にはパターンがある。要約すれば過去の政権で発生した事件に対しては異例なほどの破格な謝罪をしてきたのに対し、現政権で発生した事件に対しては謝罪に極度に控えるという傾向だ。こうした傾向は任期末になりより強まったという評価が出ている。文大統領は最近不動産投機で退いた金起杓(キム・ギピョ)前反腐敗秘書官ら人事関連議論をはじめ、新型コロナ大流行に対する責任議論、史上初の海外派兵部隊員の集団コロナ感染、金前知事の有罪判決などを経るたびに野党陣営の謝罪要求を受けている。しかし文大統領は直接謝罪を極度に控える姿を見せた。むしろ責任を関連官庁や参謀に転嫁。また、「個人が責任を負うべき問題ではない」という趣旨の釈明が提示された」

     

    文氏は、過去の政権に関連する事件では、大仰な反省と謝罪をしてみせる。元慰安婦の人たちを大統領府に招待した際は、車椅子を押して歩くというパフォーマンスをして見せたほど。スタンドプレイが好きなのだ。

     


    (4)「清海(チョンヘ)部隊員の集団感染に対しては文大統領が直接言及した。ところが国軍統帥権者である文大統領は謝罪の代わりに「軍がそれなりに対応したが、国民の目には不足し安易に対処したという指摘を免れがたい」として責任を軍に転嫁するような発言をした。議論が起きると青瓦台は、「『謙虚に受け止める』という文大統領の発言が事実上の謝罪」と主張した。そうしていたが、7月23日には「大統領が責任を転嫁する」という批判世論が激しくなってから「部隊員が健康に任務を遂行できるよう細かくチェックできなかった。心配する家族にも申し訳ない気持ち」という投稿をSNSに載せた。部隊員の感染事実が確認されてから8日ぶりに行われた「フェイスブック謝罪」だった。文大統領がこれまで現政権での失策に対し謝罪したケースは数えるほどだ」

     

    大統領は、韓国軍の最高指揮官である。海外派遣の海軍艦艇乗組員に、コロナワクチンを接種せず出港させたことは、大変な落ち度である。大統領は、最高司令官としてコロナ陽性の乗組員に陳謝するのが礼儀であろう。それを回避して、韓国軍部に責任を押し付けている。最高司令官として、恥ずかしい限りである。



    (5)「政界は、任期末になるほど強まる文大統領の控えめになる謝罪と関連し、「来年の大統領選挙を控えた支持層結集を念頭に置いた意図的な動きかもしれない」でとの観測が出ている。野党陣営の謝罪要求などには一切応じず、与党支持者を結集させる戦略ということだ」

    文政権下での不祥事に謝罪しないのは、同時に再発防止を怠っていることに繋がるのだ。文氏は、来年の大統領選挙を目標に支持者の結集を狙っている。それには、謝罪は邪魔になるのだ。文氏は、ことごとく選挙目当ての行動に徹する「選挙屋」に成り下がっている。

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    中国共産党創始者・毛沢東が最近、若者の間で崇拝されているという。貧富の格差拡大による社会的不平等は、企業経営者が国民を搾取している結果であり、これを是正するには、毛沢東主義に帰らなければならないという結論に基づくものだ。

     

    これは、習近平氏にとってはなはだ「危険な思想」に映る。習近平というれっきとした国家主席がいながら、毛沢東崇拝は不都合という判断である。そこで、習近平氏は、毛沢東崇拝者を逮捕している。共産党内部事情は、複雑怪奇になってきた。それだけ、社会的な矛楯が深まっている証拠だ。

     

    『大紀元』(7月25日付)は、「中国共産党、毛沢東主義者らを拘束」と題する記事を掲載した。

     

    複数の報道によると、中国共産党建党100周年に先立ち、中国では統一と忠誠を強調する宣伝活動の障害と見なされる主義者や活動家等の一勢検挙が実施された。中華人民共和国を建国した初代最高指導者である毛沢東の思想を支持する毛沢東主義者さえもこの罠に嵌ることになった。

     


    (1)「2021年7月に建党100周年を迎える前、香港、チベット自治区、新疆ウイグル自治区だけでなく、全国規模で反対意見の弾圧に取り組んだ中国共産党の政策の一環として多数の毛沢東主義者が拘束された。吴祚来学者は『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)に対して、「中国共産党は毛沢東主義者、人権活動家、民主主義活動家を取り締まっている。こうした主義者や活動家等の存在による中国共産党政権の不安定化が発生する可能性が高いためである」とし、「中国共産党にとっては政権の安定が何よりも大切である。その種類に関わらず、何らかの社会運動が多少なりとも勢いを増すと、中国政権はこれを混乱と見なす」と説明している」

     

    中国共産党は、習近平氏だけを敬えばよく、毛沢東崇拝を禁じている。共産党内の規律を守る苦肉の策であろう。

     


    (2)「『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、世界大国に成長した中国発展の功績を頑なに訴える中国共産党の意図に反して、今日の経済減速、住宅コストの上昇、労働条件の悪化、所得格差の拡大を起因として中国では「毛沢東思想への回帰現象」が発生している。

    これは特に現状に不満を抱く十代の若者や青年層で顕著である。同紙は7月上旬に、「社会的不平等の拡大に直面している現代中国では企業家階級を搾取的と見なす若者が増加しており、こうした若年層の怒りを正当化しているのが毛沢東思想である」と報じている」

     

    下線部は重要である。10代の若者や青年層は、中国の経済成長の成果が国民に平等に分配されていないという不満を高めている。そこで、毛沢東思想への回帰が始まっているという。公然と習近平氏を批判する立場だ。習氏にとって、はなはだ不都合な事態が起っている。

     

    (3)「これに敏感に反応した中国共産党政権は、ソーシャルメディアプラットフォームで毛沢東主義に関連する投稿記事を検閲した。『ラジオ・フリー・アジア』が伝えたところでは、中国共産党はまた文化大革命55周年に当たる2021年5月に開催される予定であった毛沢東思想の信奉者や組織の集会も禁じた。社会の一党独裁を否定し、抑圧される傾向にある革命的諸党派による連合独裁思想を謳う毛沢東主義は、中国共産党の一党支配には障害となり得る」

     

    毛沢東思想回帰は、習近平路線の否定になる。毛沢東主義は、革命的諸党派による連合独裁思想を認めていた。習近平氏は、一党独裁主義者である。こうなると、習氏にとっては、毛沢東主義者が邪魔になるのだ。こうして、毛沢東崇拝者まで拘束するという、究極の「独裁体制」に陥ってきた。これだけ、社会的危機が深まっている証拠である。

     


    (4)「台湾の国営通信社「中央通訊社(CNA)」の報道内容を引用した『ラジオ・フリー・アジア』の記事によると、ここ数週間の間に毛沢東主義者であることを理由に拘束された者の中には、大学をすでに引退している77歳の馬厚芝元教授が含まれる。中国毛沢東主義共産党を設立したことで10年の実刑判決を受けた馬元教授は、2019年に出所したばかりであった。中国共産党は新政党の結成を禁止している」

     

    毛沢東主義者である77歳の元教授まで最近、拘束されているという。徹底した弾圧強化である。習近平の危機である。

     

    (5)「馬元教授は中国共産党について、「中国政権は社会における不満増大と貧富の差の拡大だけでなく、実質的に未来のない若年層が増加している現実を非常によく認識している」とし、「実際に経済的不平等に関する膨大な量のデータを有しており、これが社会不安の勃発に繋がる可能性があること十分に承知している。そのため一層厳格に取り締まるのである」と説明している」

     

    中国の不平等は、米国を上回って世界一である。習近平一派は、それを証明するデータが外部へ流出しないように、IT企業の取締りに全力を挙げている。中国の経済発展よりも、習近平個人の権力保持が最大の目的になってきたことを覗わせているのだ。

     


    (6)「建党100周年記念大会の宣伝活動では、他のどの中国最高指導者よりも多くの毛沢東と習主席の写真や映像が明らかに目立つように展示された。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校の宋永毅教授の説明によると、「偉大な指導者」毛沢東が没してから約45年を経た今日、中国共産党政権の観念よりも毛沢東思想のほうが中国国民にとって魅力的に映る可能性がある。これは毛沢東主義の信念のほうが透明性の高いためである。 宋教授は『ラジオ・フリー・アジア』に対して、そのため「習主席が毛沢東主義者を犠牲にする可能性は十分に高い」と述べている」

     

    習近平は、鄧小平を敵視するどころか毛沢東すら敵視して、自らの権力護持に全力を挙げざるを得ない事態へ遭遇してきた。経済危機の進行である。中国共産党は、自然瓦解へ向かい始めていると見るべきだろう。

    テイカカズラ
       

    気象警告無視した自治体の責任

    大洪水の元凶は中国の環境無視

    EUは23年から炭素税で防壁

    ドイツ政変で緑の党が鍵を握る

     

    判じ物に映るかも知れない。今回、ドイツ西部のライン川沿いの地域を襲った大洪水は、ドイツの政治情勢を変えて「反中国」に動かすテコになりそうだ。この大きな変化に目配りする必要があろう。

     

    地元自治体の不手際もあって、大洪水で他国を含め約180名もの犠牲者を出す惨事となった。この原因は、二酸化炭素の過剰排出が原因による異常気象である。このことから、世界一の二酸化炭素排出国である中国への風当たりが強くなることは間違いない。

     

    ドイツは、伝統的に環境重視の国である。そのドイツがこれまで、対中国輸出に目が眩み中国批判を抑えてきたのが現実だ。特に、メルケル首相在任の16年間は、中国についての「価値と経済」が著しくアンバランスになって、経済(輸出)に傾き価値(人権と環境重視)を軽視してきた。ドイツは、ヒトラーという歴史への反逆者を出した国である。その意味からすれば、メルケル首相の「価値と経済」の不均衡が、改めて問われる事態となってきた。

     


    ドイツは、9月に総選挙を迎える。メルケル首相は引退するので、「メルケル後」のドイツ政治が、中国に対して方向転換させる予兆に、今回の大洪水が大きく響くことは避けられない情勢である。これには先例があるのだ。2002年夏には独東部のエルベ川で大きな洪水被害が発生した。その際、当時のシュレーダー首相がいち早く長靴姿で現地に入り、その後の大規模な復興を主導した。率いていたSPD(ドイツ社会民主党)の支持率を一気に高め、同年9月の総選挙を勝利に導いたのである。

     

    気象警告無視した自治体の責任

    冒頭から、ドイツの大洪水→9月の総選挙→反中国へ軸足シフトと三段飛びの話になった。この間をつなぐ「中身」を、これから説明していきたい。

     

    まず、大洪水の実態を見ていきたい。

     

    7月中旬、ドイツをはじめ、ベルギーやオランダ、ルクセンブルクの一部で、数日にわたる豪雨が発生し、壊滅的な洪水をもたらした。この地域の死者は180人にも上った。ドイツで最も被害が大きい地域の一つ、西部ラインラント・プファルツ州の警察は、一連の災害による州内の死者が110人に増えたと発表した。ラインラント・プファルツ州だけで負傷者は670人に上り、今後も死傷者が増える恐れがあるとしている。甚大な被害である。

     

    洪水の大半が発生したドイツのライン川流域では、降雨量が記録的なものとなった。家屋は浸水し、流域に建つ城の一部が流されたほどの氾濫である。原因は、異常気象に尽きる。これについて、専門家は次ぎように解説している。以下、『NATIONAL GEOGRAPIC』(7月21日付)を参考にした。

     

    世界中の天気予報を提供するAccuWeatherによると、西ヨーロッパでは7月中旬から、動きの遅い低気圧のために激しい雨が降り続いていた。ドイツの一部では、1日の降水量が例年の1カ月分を超えた。この低気圧は、7月12日にロンドン各地で洪水を引き起こした後、南ヨーロッパに向かって移動していたものだ。

     

    前記の記事の中に、今回の異常気象のもたらした2つの特色がある。

    1)降雨量の増加

    2)暴風雨(低気圧)の長期停滞

     


    これは、日本でも先の集中豪雨で観測された事実だ。これは、次のメカニズムによって引き起される。

     

    1)気温が上昇すると、空気中に蓄えられる水蒸気の量が増える。科学者らの見積もりによると、気温が1℃上昇するごとに、大気中に蓄えられる水分量は約7%増加する。大気中の水分量が増えれば、低気圧やハリケーンなどによる降雨量も増える。

     

    2)地球の北極と南極の両極地方は、赤道地方との温度差が大きくなると、強く一定のジェット気流が吹く。だが、両極地方の温暖化が進むと温度差が縮まり、ジェット気流の速度が低下する。この結果、低気圧や高気圧が停滞する期間が長くなる。気象は3日から7日ごとに変化するものだが、現在では数週間も同じ気象パターンが続く異常気象になっている。

     

    現在、地球を襲っている異常気象は、大気中の過剰な二酸化炭素排出量が原因と見ざるを得ない。これに反対する見解もある。どちらが正しいか、議論の決着を待っている訳にもいかず、「脱炭素」が急務の課題になっている。

     


    大洪水の元凶は中国の環境無視

    「脱炭素」では、中国が世界一の排出国である現実に目を向けざるを得ない。中国は、二酸化炭素の排出量で世界全体の28.4%(2018年)を占め断トツのワースト・ワンである。ワースト2位の米国14.7%(同)を1.9倍も上回っている。ちなみに、日本は3.2%(同)でワースト6位である。一部原発を止めている影響が出ている。

     

    この中国は、つい数年前まで環境問題に無頓着であった。二酸化炭素問題は、産業革命(1860年以降)後に先進国が無軌道な工業生産を行った結果であると突き放してきた。新興国の中国は、何ら責任がないと言い切ってきたのだ。それが今は、脱炭素先進国のような顔をしている。実際はそうでなく、2030年まで二酸化炭素排出量が増え続け、それ以降に減少させ2060年にゼロにする目標である。現実問題として、30年間で「排出ゼロ」にできるはずがなく、責任回避のアドバルーンと受け取られている。(つづく)

     

     

    ポールオブビューティー
       

    与党「共に民主党」は、政権維持へ露骨な動きを強めている。政権批判の報道を規制する動きだ。最近の韓国政府は、「先進国入り」を自画自賛しているが、メディア規制という発展途上国並みの政策に恥ずかしさを感じないようである。不思議な政治感覚である。

     

    文政権は、『ハンギョレ新聞』と密接な関係を持っている。政権広報官など重要ポストをこの発行部数の極めて少ないメディア出身者を多用している。放送通信審議委員会の委員長候補として、また『ハンギョレ新聞』出身者を採用するというのである。この人物は、過去に「偏向報道」で批判受けている。また、自ら執筆の記事で言行不一致を指摘されるなど、物議を醸してきた経緯がある。「札付き人物」と言えそうだ。

     

    文政権は、こういう過去を持つ人物を敢えて放送通信審議委員会の委員長に据えて、政権批判報道抑制に睨みを聞かせようという意図だ。ここまで、恥も外聞もなく「我田引水」を図るのは、大統領選に相当の危機感を持っている証拠であろう。

     


    『東亞日報』(7月25日付)は、「文大統領が元KBS社長の放通委委員委嘱を強行、野党は『メディア掌握の完結版』と猛反発」

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、鄭淵珠(チョン・ヨンジュ)元KBS社長の放送通信審議委員会(放通委)委員への委嘱を強行した。野党は、鄭氏が放通委委員長に事実上内定したことで、政府がメディアを掌握しようとしていると強く反発した。

    (1)「放通委委員は計9人だが、保守系最大野党「国民の力」が鄭氏の委嘱に反発し、野党に割り当てられた委員2人をまだ推薦していない。放通委委員は、大統領が3人、国会議長が与野党交渉団体と協議して3人、国会科学技術情報放送通信委員会が3人(与党1人、野党2人)を推薦する。委嘱された放通委委員のうち国会議長が推薦した1人を除く6人は、与党が推薦した」

    放通委委員は、9人で構成されるという。うち2人が、野党の推薦する候補者である。この構成から見ても、政権寄り委員が多数を占める。問題は、委員長である。中立人物でなければ公平な審議を期待できないからだ。それが、「問題人物」の鄭氏というのである。

     


    (2)「鄭氏は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代にKBS社長を務め、「メディア・フォーカス」、「生放送時事トゥナイト」、「人物現代史」など、政府寄りの番組を放映して批判を受けた。また、2002年にハンギョレ論説主幹を務めた時、コラムで米国籍を取得して兵役免除を受けることを批判したが、いざ自分の2人の息子は米国籍で兵役免除を受けたことが明らかになった

     

    このパラグラフで指摘されている人物のようである。露骨に進歩派政権へ擦り寄って、栄達を図ってきた。下線部は、言論人として最も恥ずかしい「二重人格」行為に当る。言行不一致の人物であることを自ら公表したようなものだ。それでも、政権は利用価値があると見て、再度の表舞台へ登場させた。文大統領は、最側近が大法院で禁固刑に処せられているにもかかわらず、こういう「色つき人物」を登場させる。いかに、慌てているかを示している。



    (3)「『国民の力』のシン・インギュ副報道担当は同日、論評を出し、「(鄭氏の委嘱は)メディアの公正性を無視するものであり、野党と市民社会団体の真摯な懸念と批判の声に耳を塞いだ」と指摘した。同党の朴大出(パク・デチュル)議員は、自身のフェイスブックで、「大統領選を目前にした時に、政権に有利な偏向放送は大目に見て、政権に批判的な放送には轡(くつわ)をはめるという意図でなければ、このように露骨な偏向人事をすることはできない。『鄭淵珠カード』は、文政府のメディア掌握完結版だ」と批判した。

    野党の批判は、当然である。完全な偏向人事である。メディアの報道に睨みを聞かせようという意図は明らかであろう。このどす黒い意図は、与党から具体的なメディア規制法として立法化が始まっている。



    『朝鮮日報』(7月7日付)は、「大統領選控え韓国与党が『メディア規制法案』を奇襲上程」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「メディアに対する懲罰的損害賠償を定める言論仲裁法、好ましいメディアにだけ政府広告を出す「メディアバウチャー制」を定める「国民参与を通じたメディア影響力評価法」など与党が提案したメディア関連法案が相次いで韓国国会で処理される見通しだ。与党は7月中にメディア関連法案の一部可決を目標としており、野党との衝突は避けられないとみられる。法案には表現の自由を侵害したり、メディアの営業権を侵害したりするポイズン条項が含まれており、違憲性があるとの指摘も相次いでいる」

     

    軍事政権時代に戻ったような感覚である。与党は6割の国会議席を背景にして、好き勝手に立法化しようとしている。多数決という民主主義の原則を質に取られた形である。狙いの一つは、弱小発行部数の『ハンギョレ新聞』への政府広告を多く出すための小細工とも見える。政府広告は、これまでABC審査の発行部数基準であった。それだと、『ハンギョレ新聞』への広告出稿が少額になるので救済策を講じるのだろう。この裏には、ハンギョレ新聞側の働きかけがあるに違いない。

     

    文政権は、来年5月までが任期である。政権交代の可能性が強い現在、この残り少ない任期中にハンギョレ新聞支援策と政権批判報道抑制という目的を果たそうとしているように見える。恥知らず言うべきだ。

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