勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年08月

    あじさいのたまご
       


    日本人は、借金に慎重である。資産運用では、銀行預金を第一とする国民だ。韓国人は、全く異なっている。「宵越しの金を持たぬ」とばかりに派手な生活を好む。これが、家計(個人)の借入金を増やしてきた。

     

    韓国の政策金利は、昨年5月から年利0.5%と過去最低水準に引下げられてきた。これによって、家計債務の激増を生み不動産市場へ莫大な資金を呼込んで価格暴騰を招いた。韓国銀行(中央銀行)は、もはやこれを放置できず、26日の0.25%ポイントの利上げを決断した。

     

    バブル心理に、いったん火がついた状況である。一回の利上げで、バブルマインドが正常化するかどうか疑問視されている。バブルの動きを見ながら、年内に第二弾、第三弾の利上げも予想されている。一方で、パンデミック下で大きな打撃を受けた自営業者は、借入金で生き延びている。それだけに、利上げが負担増を招くのは確実だ。韓国経済は、厳しい局面に差し掛かっている。

     


    『中央日報』(8月27日付)は、「終わる超低金利時代、始まった利子の心配」と題する記事を掲載した。

     

    安く容易に資金を借りて不動産や株式に投資してきた「イージーマネー」の時代が終わりつつある。強まる金融当局の貸出規制に続いて、韓国銀行(韓銀)が26日に政策金利を引き上げ、新型コロナ事態克服のために金利を低めて金融を緩和した流動性時代も幕を下ろすことになった。

    (1)「新型コロナ第4波の中でも韓銀が利上げカードを取り出したのは、家計の負債急増や不動産など資産価格の急騰による金融不均衡のためだ。今年4-6月期末基準で家計の負債(家計信用)は1805兆9000億ウォン(約170兆円)となった。1年前に比べ168兆6000億ウォン(10.3%)も増えた。このように増えた負債は不動産・株式市場、暗号通貨など資産価格を引き上げている。金融通貨委はこの日の利上げの背景について「家計貸出の増加傾向が強まり、住宅価格は首都圏・地方ともに高騰が続いた」と明らかにした

     


    出生率の急減している韓国で、不動産バブルの動きが広がったのは、文政権による政策失敗が原因である。ソウル市の不動産価格は、文政権発足以来すでに8割の高騰という異常状態である。家計が、今後の利上げによって直撃される。

     

    (2)「物価の上昇も尋常でない。韓銀はこの日、今年の消費者物価上昇率予測値を1.8%から2.1%に上方修正した。韓銀の物価安定目標値(2%)を超える水準だ。国内の景気回復に対する自信もある。新型コロナ第4波の中でも韓銀は今年の経済成長率予測値を従来の4%に維持した。ワクチン接種の進行と輸出好調などで経済回復の流れが続くという見方からだ。さらにテーパリング(資産購入縮小)時点を考慮する米連邦準備制度理事会(FRB)など主要国よりも先に金利を引き上げておき、通貨政策の余地を確保するための布石でもある」

     

    消費者物価上昇率は、2%に達するという。家計は当面、この物価値上りと金利引上げ分が負担増となる。特に若い人や自営業の人たちの財布に重い負担としてのし掛る。

     


    (3)「問題は一度の利上げで金融不均衡を解決できないというところにある。漢陽大経済学部のハ・ジュンギョン教授は、「2%台の物価上昇率と4%の成長率を考慮すると、政策金利(0.75%)は緩和的な通貨政策の継続」とし「現在の金融不均衡は政策金利を一度引き上げるだけで解消される状況でないため、今後1、2回は利上げの可能性がある」と話した。李総裁が、「金融不均衡は今回の措置(政策金利引き上げ)一つで解消されるのではない」とし「金融不均衡の累積を緩和するための一歩を踏み出した」と強調した理由だ」

     

    今後、1~2回の利上げとなれば、年利1%を超える。利下げ前の1.5%から見れば低位と言え、パンデミック下で痛めつけられた韓国経済に負担である。安易に見てはいけないだろう。これが、出生率のさらなる低下に現れるはずだ。

     


    (4)「超低金利状況で家計の負債が増えたうえ、利上げに敏感な変動金利貸出の比率が70%を超えている。政策金利引き上げ分(0.25%)分が、そのまま貸出金利引き上げとなる場合、4-6月期の貸出残額基準で利子負担は3兆988億ウォン(約3750億円)ほど増える」。

     

    .25%によって、約3750億円の負担増になれば、あと2回の利上げを仮定すれば、総額1兆1250億円の負担増になる。決して少なくない金額である。

     

    (5)「特に新型コロナによる社会的距離などで危機を迎えている自営業者は利上げの直撃弾を受けるしかない。今年1-3月期末の自営業者貸出規模は831兆8000億ウォン(約80兆7000億円)と、前年同期比18.8%増加した。高金利貸出の比率が増えるなど貸出の質も悪化したというのが韓銀の分析だ。小商工人連合会は26日、「新型コロナで直撃弾を受けた自営業者の利子負担が増えるしかなく心配だ」という立場を明らかにした」

     

    前記の利上げ負担増は、苦しい自営業の懐を直撃する。0.25%の利上げ分が、そのまま支払い金利となれば約2000億円の負担増となる。

     


    (6)「イージーマネー時代が終わり「貸し渋り」が発生するという懸念も強まっている。金利が上がり貸出総量までが縮小しながらだ。NH農協銀行は、新規住宅担保貸出と伝貰(チョンセ、家賃の代わりに入居時に高額を預ける賃貸方式)貸出を全面中断した
    銀行と貯蓄銀行、保険およびカード・キャピタル会社の信用貸出限度も縮小されるなど「貸出の崖」は広がっている。ソウル大のアン・ドンヒョン経済学部教授は「安い金利で簡単に資金を借りて資産に投資するイージーマネー時代が終わりつつある」とし「追加引き上げがない場合、投資心理にむしろ火をつけることもあるため、持続的な利上げ信号が続くだろう」と述べた」

     

    利上げ発表で即、新規貸出中止が始まっている。金融機関が、返済面で不安を感じている結果だ。それほど、信用力の低い層まで融資してきた実態を炙り出している。となると、底辺の人々には「金融閉塞」という思わざる事態が勃発しそうである。韓国経済の兵站線が、完全に「延びきっている」印象である。安易に考えては危険だ。




     

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    追込まれてきた文政権が最後に打った手は、なんと言論を統制するという中国共産党並みの手法を採用することだった。国会議長が、言論統制法案の本会議採決を延期したものの、単なる「通過儀礼」かもしれない。

     

    文政権が、言論にまで統制の手を加えようというのは、進歩派政権を継続させて、南北交流を復活させ最後は南北統一して、日本へ対抗する構図であろう。文氏は、南北が統一すれば日本経済に勝てると喋ったことがある。こういう夢を見ながら、言論統制して強引に進歩派政権を継続させようという策略を練っているのだ。

     


    『中央日報』(8月27日付)は、「K独裁の登場か」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のチェ・ミンウ政治エディターである。

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領は8月26日、青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)で「K+ベンチャー」行事を開いた。洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は25日、「K-テストベッドが我々の経済の躍動性を強化する触媒剤になると確信する」と述べた。K-防疫、K-ワクチンなどで好評を得ると、今ではもう何にでもKを付ける。文在寅政権は、これを国家主導の政策や事業にむやみに使用してKの価値を毀損した。現政権に入って深刻になった実情は隠しながらだ。それはK-独裁だ。

    タンクで軍事クーデターを起こしたわけでもなく、厳格に選出された権力であり、政敵を拷問することもないのに、何が独裁なのかと思うかもしれない。独裁も進化する。いわゆる「新型独裁」だ。

     


    (1)「2018年6月、英時事週刊誌『エコノミスト』はグローバル金融危機(2008年)以降、民主主義指数が落ちている国は89カ国にのぼると伝えた(民主主義指数が上昇した国は27カ国)。そして具体的な民主主義の退行段階として、次の4段階を上げる。

    1)国家危機事態で国民は危機克服を約束した指導者に票を集める(国政壟断事態で文在寅大統領の当選)

    2)このように執権した指導者は絶えず仮想の敵(積弊勢力と土着倭寇)を作り出して攻撃する

    3)執権勢力に立ちふさがる独立的な機関(司法府・検察・監査院など)を束縛したり去勢したりする

    4)メディアを掌握して世論を操作(言論懲罰法)したり選挙法改正(準連動型比例代表制および衛星政党)などで国民が執権勢力を追い出すのを難しくする」

     

    敢えてコメントを付けるまでもない。文政権は、巧妙に韓国の「乗っ取り」を狙っている。まさに、「K独裁」の完了である。労組と市民団体を使って、韓国を意のままに動かそうとしている。あのヒトラーも最初は、合法的政権でスタートしたが、後にドイツを乗っ取った。文在寅とヒトラーの違いは、武力を使わずに南北を統一することである。文氏の祖先は、北朝鮮である。彼が、祖先墳墓の地に思いをいたすのは自然の感情発露だが、国民を道連れにしてはいけない。

     


    (2)「鳥肌が立つほど、文在寅政権の出現以降の韓国社会の流れと一致する。特にエコノミスト誌は第3段階まで表面上は民主主義国家の形態を帯びるが、第4段階になれば民主主義国家とはいえないと断定する。結局、民主党が8月30日に強行処理しようとする言論懲罰法はK-独裁「軟性ファシズム」の完結版だ」

     

    日本は、こういう不条理な動きを傍観するほかないが、韓国の国力はこれでさらに落勢を強める。皮肉な言い方をすれば、自分で墓穴を掘っている愚行である。韓国経済は、ゼロ成長に向かう速度を速めるに違いない。日本にとっては、「反日」が減るという意味で歓迎すべきことかも知れない。だが、なんとも韓国国民には気の毒であり、後味の悪い話である。

     

    (3)「世間では、すでに「ドンミョドゥンダ」(独裁+入り込む)という言葉が広まっている。独裁の弊害はいつのまにか我々の日常生活を蚕食している。代表的なのが家賃上限制など「賃貸借3法」だ。法施行直前の3年間の年平均上昇率3.1%に比べて、現在は8倍以上も上がった。同じ団地、同じ広さでも新規と更新の伝貰に倍の差が生じるなど奇怪な2重・3重伝貰価格も市場の混乱を深めている。それでも謝罪する民主党議員は誰もいない」

     

    文政権は、経済原則に反することを平気で行っている。「賃貸借3法」もその適例である。賃借人を不利な状況に追込まれた。

     


    (4)「お金よりも致命的なのが互いに信頼できない点だ。伝貰は韓国だけの慣例だった。賃貸人は伝貰資金をテコに活用でき、賃借人は家賃を出さず伝貰金を担保に住居の満足度を高めた。ともにウィンウィンの共生だった。しかし価格上昇率を5%で抑えながら「相場よりあまりにも安い」「法を守れ」「それなら家主の私が入って暮らす」など、賃貸人と賃借人はもう敵になってしまった。民主党が現在進めている手術室の監視カメラ設置法(医療法改正案)の基本前提も「医師を信じることができないからカメラを設置しよう」だ。信頼の崩壊と監視の強化は独裁国家の断面だ」

     

    韓国進歩派は、敵・味方の「二分法」である。味方でなければ敵という単純な仕分け法である。まさに、独裁手法そのものである。

     

    (5)「米ハーバード大政治学科のスティーブン・レビツキー教授は、「選出された独裁者は民主主義の『殻』を維持しながらその『中身』をえぐり取る。民主主義の転覆のために使う手段はすべて合法を装う」(『民主主義の死に方』)と説明した。検察改革という美名の下、検察の捜査力が破壊され、もう現政権の暴走を制御できる大韓民国の集団は100議席ほどの野党とメディアだけだ。残された牽制の一つの軸であるメディアをK-独裁は懲罰法で瓦解させようとする。立法・行政・司法に続いて第4府というメディアまでを抑え込めば、その後はフェイスブックなど個人SNSの統制だ。キム・オジュンのような親与メディアばかりが活発になる。検閲と報道統制が日常化した中国は我々にとって遠い未来ではない。後にコロナが収束してマスクを外しても、我々はずっと口を閉じることになるかもしれない。

    下線の「キム・オジュン」なる人物は、8月26日付のブログで取り上げたので、参照していただきたい。空虚な主義主張を展開している。韓国進歩派は、こういう人物が支える政党になってきたことを知るべきだろう。

     

    次の記事もご参考に。

    2021-08-26

    韓国、「的外れ」言論人、日本を極右政治と呼ぶならば K国は極左政治「無益なレッテル貼

     

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    毛沢東の弁によれば、「社会主義社会に失業はない」ことになっている。これは、単なる建前論に過ぎない。16歳から24歳までを対象とした7月の失業率は、過去最高となった前年同月の16.8%よりは低かったものの、なお16.2%と高止まりしている。

     

    李首相は、2025年までの高い「雇用圧力」を認めている。失業問題解決が、長引くという予測をしているのだ。この一事によっても、中国経済の回復過程が深刻な事態にあることを覗わせている。楽観できない状況である。

     

    米国は、すでにパンデミックから経済回復過程に入っている。コロナ・ワクチンの有効性と「ウイズ・コロナ」政策の結果である。中国は、「ノー・コロナ」で都市封鎖を行っている。有効なワクチンがない結果だ。こういう両国の防疫体制と経済政策の差によって、中国の出遅れは決定的である。

     


    中国にとって、ここで4年の出遅れは致命傷である。中国の人口高齢化が加速化するなかで、GDP成長率は低空飛行する。この間に、「中所得国のワナ」にはまり込む確率が一段と高まるはず。中国は、自ら引き起したパンデミックによって、首を締められる皮肉な結果が待っている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月26日付)は、「工場人手不足の中国、若者は『楽なサービス業』に」と題する記事を掲載した。

     

    中国全土で労働力不足が表面化している。若者が工場労働を嫌がり、出稼ぎ労働者が地元にとどまっているためだ。こうした状況は、労働力人口が高齢化、縮小を続ける中で今後生じるより大きな課題を予見させる。今年に入って中国製品への需要が急増する中で、ハンドバッグから化粧品までさまざまな製品を手掛ける工場のオーナーらは、労働者の確保に苦労していると語っている。

     


    (1)「中国の抱える問題は、長期的な人口動態の変化をも反映している。何十年も続き2016年に正式に廃止された「一人っ子政策」の産物である労働力人口の減少も、こうした変化の一つだ。こうしたトレンドは、中国の長期的な潜在成長率に対する重大な脅威となる。それはまた、中国が世界に安価な製品を供給し続けることを一層困難にし、世界的なインフレ圧力を高める可能性がある。スタンダードチャータード銀行の香港子会社のエコノミスト、シュアン・ディン氏は「中国は、人口動態面での有利な条件を使い果たしてしまって久しい」と述べている」

     

    ほとんどの人が、中国の人口動態悪化に関心を払わず、GDPの高さを賛美してきた。現実は、全く様相が異なっており、浦島太郎が竜宮城の玉手箱を開けた同じで、中国は「老人大国」へ一直線である。なぜ、この分かりきったことを認識できなかったのか。幻想に取り憑かれていたのだ。習近平氏もその一人であろう。

     


    (2)「中国では工場労働者が不足しているが、同国経済の別の部分では逆の問題に悩まされている。ホワイトカラーの専門職を希望する労働者が多すぎることだ。エコノミストによれば、今年には過去最高となる900万人を超える学生が大学を卒業するため、中国の労働市場における構造的なミスマッチは一段と進むとみられる。親にかかる教育費の負担削減を目的として最近実施された民間学習塾産業に対する締め付けは、若者の失業率を上昇させる恐れがある。教育コンサルティング会社の麦可思(MyCOS)によると、2019年の時点で教育業界は、どの業界よりも多く大卒者を採用していた」

     

    習氏は、出生率低下原因が教育費増大にあると見て、学習塾規制に踏み切った。これによって、雇用の場を狭めて若者の失業率を高めている。これが原因で、結婚=出産ができなければ、出生率増加には結びつかない。逆効果である。

     

    (3)「東莞市に本拠を置くアジア靴業協会のデービッド・リー事務局長によると、デルタ株が他のアジア諸国で猛威を振るう中、バイヤーが発注先を中国以外の国から中国に切り替えているために、一部の工場では受注が急増している。このため、一部の企業は給与を上げて何としても従業員を確保する動きに出ている。リー氏は「多くの工場所有者は現在、ジレンマに陥っている。新たな注文を受けても、利益を出せるかどうか分からない。彼らにとって最大の悩みは、働き手を探すのが難しいことだ」と話す。李克強首相は先週、中国が2025年まで「比較的大きな雇用の圧力」に直面し続けるだろうと述べ、追加的な職業訓練を含む労働集約型産業への支援を強化することを約束した」

     

    中国は、すでに生産年齢人口の減少過程に入っている。この認識を強く持つべきだが、過去の「人余り現象」に惑わされている。未だに、中国GDP世界一論を信じている向きがいる。現実をしっかりと見つめるべきなのだ。

     


    (4)「15歳から59歳までと定義されている中国の労働力人口は昨年、全人口の63%に当たる8億9400万人へ減少した。10年に1度実施されている同国の国勢調査によると、労働人口は2010年の9億3900万人(当時の全人口の70%)から減少している。政府の推計によると、中国の労働力人口は向こう5年間で約3500万人減少するとみられる。習近平国家主席は近年、内陸部の省により多くの投資を振り向けることで地方の活性化を進めているが、これによって、工場がより大きな困難に直面している可能性があるとエコノミストらは指摘する」

     

    中国の労働人口は、2010年の9億3900万人(当時の全人口の70%)から、2020年には、8億9400万人(全人口の63%)へ減少した。さらに今後5年間で約3500万人減少の見込みである。この労働人口減少は、中国経済の潜在成長率を引き下げる。

     

    今後5年間で、労働人口は約3500万人減少するが、李首相は「雇用圧力」が掛かると正直に言っている。これは、潜在成長率がさらに低下するので、失業問題を解決できないと「告白」しているのだ。

     

    日本は、アベノミクスによって労働力人口が減る中で、失業率の引下げに成功した珍しい国だ。それは、潜在成長率を引き上げる政策を行った結果である。中国に必要なことは、「中国版アベノミクス」の実行だが、不動産バブル崩壊を抱えて不可能である。

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    米国は、8月31日のアフガン撤収期限を前に任務完了すべく努力中である。今回の米軍撤退をめぐって種々の見方がされているが、米国の国益は守られたのかどうか議論されている。元CIA工作員が、見解を述べている。

     

    『ニューズウイーク 日本語電子版』(8月26日付)は、「アフガニスタン撤退は、バイデンの『英断』だった」と題する寄稿を掲載した。筆者は、グレン・カール(『ニューズウイーク』コラムニスト、元CIA工作員)氏である。

    米情報機関は世界の80以上の国と地域にアルカイダの支部があると警告していた。これは誤りだった。アルカイダの永続的な組織が存在するのは6カ国のみ。ジハーディスト(聖戦主義者)は共通のイデオロギーはあるが、多くは世界戦略ではなく、地域の勢力争いに没頭している。彼らの多くは、米軍のアフガニスタン占領など特定の行為や状況に抵抗している。つまり、彼らは「反乱分子」であってテロリストではない。タリバンは反乱軍だが、米政府はテロ組織と見なしてきた。

     


    (1)「米軍幹部と情報関係者らは、野に下ったタリバンの反乱に対して軍事的勝利を収めることは不可能だと、当初から分析していた。同時に、アフガニスタン政府は救いようがなく腐敗しており、アメリカの支援がなければ存続できないと評価していた。バラク・オバマ大統領(当時)は、08年の就任早々にそれを認識した。副大統領だったバイデンも同じだ。そこでオバマは、駐留米軍を一旦は縮小した。だが、「テロとの戦い」という看板を下ろす政治的コストや、アメリカは「負けた」とレッテルを貼られる可能性から、完全撤収には尻込みした」

     

    2008年、オバマ氏が米大統領に就任した際、すでにアフガン政府は救いようもないほど腐敗していたことに気付いていた。副大統領のバイデン氏も同じ認識であった。以来、米国はアフガン撤退の機会を待っていた。

     


    (2)「ドナルド・トランプ前大統領もそうだった。アフガニスタンにとどまるか、それとも撤収するか。この問題を考えるとき、アメリカの政策立案者らが一番に問わなければならなかったのは、そもそもアフガニスタンにおけるアメリカの重大な国益は何か、だ。テロとの戦いか。戦略的な外交政策か。それを考えれば、おのずとアメリカがアフガニスタンに関与する理由は大きく失われる

     

    アフガンについては、米国にとって地政学上のメリットを指摘する声も強い。中央アジアの核という立地上の点を強調している。だが、ホワイトハウスにそういう意見がなかった。トランプ前大統領も同じ見方である。

     


    (3)「バイデンは、アメリカがもはやアフガニスタンに重大な国益を持たないと判断した。たとえタリバンが権力を奪還しても、アメリカの重大な国益は傷つかない。タリバンの目的は、アフガニスタンからアメリカを排除することだからだ。アメリカの国家資源を、アフガニスタンの人々を守り、「アフガニスタンにおけるテロとの戦い」にささげ続ければ、「アメリカのテロとの戦い」への資源配分がゆがめられ、アメリカの戦略的課題に対処する能力が低下する」

     

    米国は、アフガン防衛に価値を見出さなくなっている以上、早くここから手を引くことが、対中国戦略上で有利になると見ていた。

     


    (4)「現在のアメリカの戦略的課題とは、大国の仲間入りを果たして攻撃的な姿勢を強める中国や、依然として敵対的なロシア、中東を不安定化するイラン、人類の存続を脅かす地球温暖化、そしてアメリカの安定と民主主義を脅かす国内の政治社会問題だ。米軍の撤収が終了すれば、アフガニスタンを取り巻く力学は変わっていく。アメリカは、テロとの戦いを手伝うと言いつつ、ひそかにタリバンを支援してきたパキスタンと距離を置き、インドとの関係を深化させるだろう」

     

    米国は、パキスタンの「二枚舌」から離れて、インドとの関係強化に進む。クアッドで日米豪印は協調路線を取っている。米印関係強化が、今後の戦略になる。

     


    (5)「イランとロシアと中国は、泥沼にはまるアメリカを積極的に傍観する戦略から、パイプラインや「一帯一路」ハイウエーを建設するなど、アフガニスタンの天然資源と地理を利用することに力を入れるようになる。アフガニスタンの全ての近隣諸国は、タリバンと良好な関係を築こうとするだろう。ただし、アフガニスタンを脆弱で操りやすい国に維持し、テロを輸出したり、過激なイデオロギーを輸出したりしないように目を光らせる」

     

    アフガンは、経済的に極めて脆弱である以上、周辺国が助ける動きを強めよう。アフガンが、過激なテロを輸出しないように監視する必要性はある。

     

    (6)「タリバンの本質が変わっていなければ、彼らはアフガニスタンの国内問題に集中する政治をするはずだ。かつて国際テロリストをかくまったせいで、権力を奪われた苦い経験から、再び同じようなことをする可能性は当面低い。彼らの本質はテロリストではなく、宗教的原理主義者だ

     


    タリバンは、テロリストでなく宗教的原理主義者と定義している。この場合タリバンは、中国新疆ウイグル族が弾圧されている状況に、どのように対応するのか。無関心でいるのか、あるいは、救済に動くのか。極めて微妙なところであろう。

     

    (7)「なにより重要なことに、アフガニスタン撤収は、アメリカの政策立案者と大衆に、アメリカの国家安全保障を真に脅かすものは何かを見極めることを可能にするだろう。ろくな計画もない「テロとの戦い」の20年間で、世界全体で80万1000人が命を落とし(このうち33万5000人が民間人)、3800万人の難民が生まれ、アメリカは6兆4000億ドル以上の資金と人命を浪費した。アメリカは今、想像上のテロの脅威に基づき、国家安全保障を考える必要はなくなった。遠く離れた、はっきり言って、重要ではない国アフガニスタンを安定させようと必死になる必要は、もうない。バイデンは困難だが、正しい決断を下したのだ」

     

    アフガンは、米国にとって遠く離れた重要でない国としている。米国は、テロリストでないタリバンに、もはや気を使う必要がないとしている。中国に向かって、全力投球する戦略転換である。

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    中国は、奇想天外なことを始める。地方政府が不動産企業と組んで私立中学をつくり、進学率を上げて住宅を値上りさせる「戦法」である。地方政府は、進学率の高い地域という評判を呼べば、住宅値上り=地価上昇でメリットが得られるという戦術である。

     

    この地方政府の戦略は、習近平氏の学習塾規制という大方針に対し真っ向から対抗するものだ。家計の負担は増すが、一流校へ進学できれば親にとって十分に報われること。この地方政府と不動産企業のタッグマッチの行方はどうなるのか。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(8月25日付)は、「教育熱でゆがむ中国不動産市場」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「経済発展が遅れる中国内陸部の地方政府が奇策を講じて不動産市場を活性化している。民間不動産会社の出資で学校を設立し、国内屈指の大学に多くの合格者を送り出して学校の評価を高め、そこにわが子が通える住宅を購入するよう親に誘いかけているのだ。中国政府はこのところ、急騰する不動産価格と活況に沸く民間教育業界への規制を強化している。にもかかわらず、河北省にある人口430万人の衡水市では不動産販売が急増している。「この2カ月間で過去2年分以上の商談をまとめた」と同市中心部で不動産仲介業を営むリー・ホンニンさんはほくそ笑む。「お客さんは少しでも早く契約したいから割高な価格でも気にしない」ほど」

     

    「孟母三遷」の国である。子どもの教育となれば、転居してまでも進学率の高い学校へ入学させる。地方政府も不動産企業は、ここが狙い目である。

     


    (2)「有力校が不動産市場をゆがめている実態に大きな変化はみえない。恒生銀行上海支店のエコノミスト、王丹氏は「衡水モデルは不動産バブルを生み、教育機会の不平等を助長するため、習指導部にとっては面白くないだろう」と語った。「だが、地方政府は地元経済を活性化するために衡水モデルをまねたくてうずうずしている」。中国の不動産業界では万科企業や碧桂園など大手を中心に、住宅開発物件の近隣に質の高い私立校を誘致して住宅購入者に対する訴求力を高める手法が慣行となってきた」

     

    私立学校の進学率が高いのは、公立学校よりも教育課程が優れているのであろう。それは、政府が公教育に財政資金を投入していない結果でもある。

     

    (3)「米株式市場に上場する碧桂園の傘下企業、博実楽教育集団(ブライト・スカラー・エデュケーション・ホールディングス)は、その流れに乗って中国最大の私立校ネットワークを運営し、生徒数は5万7000人を超える規模になった。衡水市も例外ではない。市内に一流私立校を誘致し、子供を持つ親たちを引き付けてきた。ほとんどの私立校を不動産会社の資金で設立し、学力はトップクラスとの評価を受けている。同市の平均住宅価格はこの5年間で2倍以上に高騰した。近隣自治体の同時期の上昇率が20%にとどまるのとは対照的だ」

     

    不動産企業設立の私立中学が、トップクラスの進学実績を上げている。これにより、住宅価格は5年間で平均、2倍以上の値上りになっている。これは、親にとっても十分に採算に乗る話だ。

     

    (4)「河北省の省都、石家荘市出身の会社員、ワン・シャオナさんは「教育水準では、衡水市が省内のどの市よりも高い。子どもを優秀な学校に入れるためなら、法外な価格で住宅を購入しても気にならない」と胸を反らした。ワンさんは今月、1LDKのマンションを31万元(約530万円)で購入した。これでワンさんの息子は、衡水市の不動産大手が所有する有力中学に入学できるようになった。学区制導入前、そのマンションは28万元で販売されていた」

     

    不動産企業の設立中学であるから、その不動産企業の建設したマンション入居が前提である。不動産企業は、進学率上昇という「付加価値」を付けた住宅販売であり、ちょっと考え付かないアイデアだ。これは、日本人も脱帽である。

     


    (5)「生徒のひしめく学区をさらに拡大しようと衡水市が初めて計画を練ったのは、10年ほど前だった。当時財政難に陥っていた市は資金の潤沢な企業に出資を頼る以外なかった。不動産デベロッパーもこの申し出に飛びついた。管理が行き届いた私立校を建設すれば周辺の住宅価格上昇につながるだけでなく、不動産会社にとっても収益源になると見込んだためだ。衡水市のある不動産会社幹部は、「地方政府は経済を活性化するために我々によい学校を建設してほしいと考えている。地方政府だけではできないが、わが社にも地方政府にもプラスになるウインウインの施策だ」と述べた」

     

    財源のない地方政府が、中国独特の教育熱にあやかろうというものである。これは、歪んだ「地方振興策」である。不動産バブルと教育フィーバーの結合であるからだ。政府の学習塾規制は、やがて私立中学校まで手を延ばしてくるかも知れない。

     

     

     

     

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