勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年10月

    サンシュコ
       

    韓国は、多くの国と自由貿易協定を締結しているが、日本とは敬遠して結んでいない。日本の自動車と農産物の競争力を恐れている結果だ。放射能を理由に、福島県産などの農漁産物の輸入を禁止している本音は、競争力の低さを恐れてカムフラージュしているものだ。

     

    こうした韓国は、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟をめぐって国内が揉めている。すでに、中国や台湾までが加盟申請しており、台湾加盟が実現すればさらなる競争相手が加わるとして、議論は一層混迷している。

     

    『中央日報』(10月21日付)は、「ぐずぐずしている時に虚を突いた中国と台湾、韓国もTPP加入するか」と題する記事を掲載した。

     

    「もう時間がない。『加入する、しない、するならいつする』まで含んだ決定は10月末か11月初めには出さなければならない。決定大詰めに来ている」。環太平洋経済連携協定(TPP)加入に対する韓国政府の決定が迫っている。14日に洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は米ワシントンDCで行われた主要20カ国(G20)財務相会議後の記者懇談会でTPP加入について近く決めると話した。また、18日に開かれた第1回対外経済安保戦略会議でも「TPP加入の経済的・戦略的価値と敏感分野の被害など懸念要因の点検などに対し総合的に調整する予定だ」としながら加入検討を公式化した。



    (1)「韓国もこれまで加入について天秤にかけてきた。だが米国が離脱したことから傍観姿勢を維持した。協定締結当時、韓国はTPP11カ国のうち日本とメキシコを除く9カ国とすでにFTAを締結しており、TPP加入は事実上日本と追加でFTA協定を結ぶ効果しかなかったためだ。日本は自動車と農畜水産物分野で韓国より優位で、FTAを結ぶのはむしろ損害という分析が多かった」

     

    韓国は、通商上で最大のライバルが日本としている。TPPに加入すれば、その日本とガチンコ勝負になる。勝ち目はないと、これまでもTPPを敬遠してきた理由だ。

     

    (2)「韓国政府が、最近立場を変えた理由は中国と台湾のためだ。中国は先月16日にTPP加入を申請した。中国の牽制で加入できなかった台湾も同時加入を狙って23日に申請書を出した。TPPはもともと米国と日本が主導し中国を排除する性格が強かった。だが米国が抜け中国が入る隙ができた。TPPに加入するには参加国すべての同意が必要だ。このためどうせ加入するならば、参加国がさらに増える前に加入するのが有利だ」

     

    中国や台湾が、TPP加盟を申請するご時世になった。中国の参加は難しいとされているが、台湾の加盟について条件的に可能性は高まる。こうなった以上、韓国も加盟に向けて決断すべきという流れが出ている。

     

    (3)「これまで台湾は、中国に妨げられ主要国とのFTA加入がほとんどできなかった。だがTPP加入に成功するならば、通商舞台に本格的に登場できる。台湾はITを中心に韓国と主力産業分野が重なる。実際に台湾は中国より加入の可能性も高い。TPPを主導する日本が台湾と半導体サプライチェーン同盟を強化しているからだ。中国はTPPの高い加入基準をクリアするのは容易でないという評価が多い。ソウル大学国際大学院国際学科のアン・ドックン教授は「これまで台湾は中国の牽制により通商で出遅れていたが、その恩恵を韓国企業が享受した。台湾がTPPに加入すれば他の国と追加でFTAを結ぶ可能性が大きく、韓国企業に大きな脅威になるだろう」と話す」

    台湾は、製造業では大きな競争力を持ちながら、中国に妨害されてFTAを結ぶことができなかった。それだけに、台湾のTPP加盟が実現すれば、一挙にFTAでも拡大作戦が成功して、韓国のライバルとなる。

     


    (4)「TPP加入の必要性は大きくなったが難関はある。まず農業界の反発が大きい。TPPに入れば韓国より進んでいると評価される日本産の農畜水産物輸入が本格化する可能性がある。TPP貿易規範が、自由貿易協定(WTO)とすでに締結したFTAより強いという点も負担だ。現在、韓国政府は病害虫が流入する恐れがあるとの理由で外国産のリンゴ、ナシ、モモなどを輸入していない。TPPの動植物衛生検疫措置(SPS)は、「国」や「地域」ではなく、同じ生物保安体系を適用する農場単位で「区画化」されている。韓国政府がもし病害虫などを理由に輸入を防ぐならば、TPPでは特定の国や地域の農産物すべてではなく、問題になる農場だけ禁止しなければならない。この場合海外の農畜水産物輸入が増える恐れがある」

     

    韓国農業界は、極めて保守的で日本農業界以上である。TPPをめぐって、日本では強力な反対運動が行なわれたが、「農産物輸出」で逆攻勢をかけ活路を開くことで納得した。韓国には、こういう大所高所論が通じない。狭い「我田引水」的な議論に固執している。

     

    (5)「韓国農業経営者中央会は、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の国会批准を控え農村現場の不安が増加している状況でTPP加入を宣言するのは農業放棄、さらに進んで食料主権の放棄と見なすほかない。対政府闘争を展開していく計画だ」と反発した。韓国政府関係者は「農業界の反発などを考慮すれば実際の加入まではまだ超えるべき山がたくさん残っている」としながらも、「ただ申請をしても国会批准まで最小2~3年はかかり、また必ず加入できるものでもないので申請書程度は提出しても良いのではないか」と話している」

     

    韓国農業は、これから日本以上の高齢化の進行でいずれは立ち消える運命だ。こういう客観的な事情を考えれば、いかなる道を模索するか。答えは、自ずと出てくるであろう。日本農業が、どういう理由でTPPを受入れたか。政府の施策はどうであったか。冷静に検討すべき最後の段階にきているはずだ。



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    難物になった「共同富裕」実現

    バブルをしゃぶった男は誰だ?

    住宅投資を景気の調整役に使う

    不動産税新設に反対の共産党員

     

    習近平氏は、人生最大とも言える大勝負に出ている。国家主席3期目を目指して、不動の地位を固める戦術を練っているからだ。一方、中国経済の「宿痾」と言える不動産バブルを解決して、正常化しなければならない任務も担っている。中国の所得不平等は、米国を上回っており、「中国式社会主義」などと胸を張れる立場にないのだ。

     

    こうした数々の矛楯を背にして、習氏は共産党の歴史を塗り替えて、毛沢東に次ぐ地位を確立し未来永劫、その名を中国共産党史に刻むべく「歴史作業」に乗出している。

     


    中国共産党は、11月に開く第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で、結党以来100年の歴史を総括する「歴史決議」を審議すると決めた。これは、毛沢東、鄧小平の時代に続く第3の決議となるもの。これだけでも、その物々しさが分かる。

     

    これまで2回の「歴史決議」では、過去の歴史を整理し、今後の方針を指し示す目的を持ってきた。具体的には、権力闘争と混乱に終止符を打ち、時の指導者の核心的地位を確立する役割を果たしてきた。こういう経緯から言えば、習氏が3回目の「歴史決議」の準備を始めた目的は、習近平氏を歴史的指導者として共産党史に明記することにある。これによって、どのような「御利益」が得られるのか。次のような指摘がされている。

     

    1)毛沢東、鄧小平に続き「歴史決議を出した指導者」との権威を手に入れる。

    2)習氏の記述量や質を毛沢東と同等とし、自身を毛沢東に並ぶ「偉大なカリスマ指導者」へと引き上げる。

    3)「毛・習>鄧>江・胡」という序列を歴史的定義とし、江沢民氏一派に引導を渡す。ちなみに、胡は胡錦濤氏である。

     

    難物になった「共同富裕」実現

    習近平氏は、こうした背水の陣を敷いて「共同富裕論」に着手しようとしているが、成功する保証はどこにもない。毛沢東さえ、「大躍進政策」(1958~61年)と「文化大革命」(1966~76年)で挫折している。鄧小平は、「改革開放政策」により、閉鎖経済に落込んでいた中国をグローバル化した功績が大きい。ただ、彼の「先富論」だけが取り上げられ、同時に主張した「共同富裕論」は、後の指導者によってないがしろにされてきた。

     

    習氏は、「共同富裕論」を自分の専売特許のように扱っているが、鄧小平によって解決すべき課題として掲示されていたのである。江沢民、胡錦濤、習近平の治世30年間は、「先富論」だけに専念して、「共同富裕論」を棚上げにしてきた。鄧小平は、自らの「先富論」が死後に非難されることを予知していたかのように、遺言で墓をつくらず散骨を希望した。中国には、後代に先代指導者を非難して墓を暴く悪習がある。鄧小平は、死後の辱めを避けたかったのであろう。現に、習近平氏はそれに近いことを始めようとしている。

     

    習氏はこれまでの9年間、不動産バブルを最も悪用した最高指導者である。バブルを利用して、GDPを押し上げてきたのである。2020年では、中央・地方の政府歳入で土地売却収入が54%も占めるまでになっている。こういう歪んだ歳入構造を是正せず、厖大な軍事費支出を行なってきた。換言すれば、土地バブルによって経済大国と軍事大国の地位を手に入れたと言えるのだ。

     

    国有地を売却して現金を手に入れてきたのは、最も危険な手法である。麻薬と同じである。財政収入を増やすには、入札に当って土地売却価格を引き上げればそれで済む。私はこれまで、中国の不動産バブルには地方政府が深く絡んでいると指摘し続けてきたが、中央政府も同様の手法を用いていた。こうした国家ぐるみのバブルは、世界史でも初めて見る事実である。



    バブルをしゃぶった男は誰だ?
     

    歴史上のバブルには、次のような原因があった。

     

    オランダはチューリップの球根、英国は南海泡沫会社という詐欺事件、米国は株価高騰、日本は土地と株価の複合バブルである。いずれも、民間企業の加熱した行動に原因があった。中国の場合は、企業と政府による不動産高騰ゲームである。世界史でも類例がない現象である。

     

    中国は、不動産企業の投機だけであれば、損害が民間部門だけに止まる。国有地売却で土地高騰の恩恵に浴してきた財政は、地価が横ばいないし下落に転じただけで、歳入に大穴を生じるはずである。国家ぐるみの経済的危険性を内包しているのだ。

     

    中国は、7~9月期のGDP成長率が前年同期比4.9%増。前期比では0.2%増、年率換算で0.8%程度に止まった。1~3月期以来、前期比では「0%台」成長率である。明らかにパンデミックによる大きな被害を受けている。

     

    7~9月期の業種別GDP(実質ベース)では、不動産業が前年同期比1.%減少になった。新型コロナウイルスが直撃した20年1~3月以来、1年半ぶりのマイナスである。当局の金融規制などで開発が滞り、建築業も1.%の落ち込みになった。

     

    20年1~3月は、中国全土がロックダウンに陥り、市民は住宅展示場すら出かけられない時期であった。それ以外では、ずっと住宅が売れ続けていたこと自体に異常性を感じる。それは、中国社会が常軌を逸し投機目的で住宅購買に走った意味で、一種の不気味さを感じるほどだ。(つづく)

     

     

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    韓国では、電池産業が盛んである。LG化学やSKイノベーションという電池専業メーカーを擁する。次世代自動車として、電気自動車(EV)が脚光を浴びているだけに、前記電池メーカーも活躍舞台が広がっている。

     

    発展のカギは、電池の性能と価格に掛かっている。自動車専業のトヨタは長年、ハイブリッド車(HV)で電池の技術を蓄積してきたから、電池工場を電池企業の技術支援を受けずとも建設可能である。韓国は、このトヨタの実力に畏服している。

     


    『朝鮮日報』(10月20日付)は、「トヨタ、3800億円投資 米に初のバッテリー工場建設へ」と題する記事を掲載した。

     

    日本のトヨタが、初めて米国で自動車バッテリー工場を新設する。エコカーの自国内生産を促す米バイデン政権の基本方針に応えようというものだ。

     

    (1)「トヨタは18日(現地時間)、米国で車のバッテリーを生産するため、2030年までに約3800億円を投資すると発表した。2025年に稼動するこの工場では、ハイブリッド車に使用されるリチウムイオン電池をまず生産し、その後、電気自動車用バッテリー生産も推進する。トヨタは新工場を通じて1750人を新規採用する予定で、新工場の場所や生産能力については後日発表すると明らかにした。トヨタは現在、米国国内のハイブリッド・電気自動車販売比率を現在の約25%から2030年には70%に拡大する計画だ」

     

    トヨタは、21年4~6月期の米乗用車販売で、初めて首位(四半期ベース)となった。幾度の危機を乗り越え獲得してきた市場シェアが、EVで一瞬にひっくり返されるとの危機感も同時に広がった。そこで、米国市場首位の座が奪われないように、米国内で電池工場を立ち上げて首位を守る意思と推測されている。手堅い「トヨタ戦略」である。

     

    (2)「今回のトヨタの発表でもう一つ注目すべき点は、米国のビッグ3GM・フォード・ステランティス)完成車メーカーがバッテリー企業と合弁の形で工場を建設するのとは違い、トヨタが100%出資して自社工場を建てるというものだ。サムスンSDILGエナジーソリューションのようなバッテリー専門会社の助けがなくても、自らバッテリー製造ができるという自信を見せたのだ」

     

    今回、トヨタは初めて実質的な「自前」による電池生産に踏み切る。ところが長年、電池生産で協業してきたパナソニックと組まなかった。なぜか。20年に発足したトヨタとパナソニックの電池新会社が「立ち上げに手間取った」とされている。ライバル自動車企業が、米国に殺到する中で、肝心の電池生産で時間を食われると、生産面で水を開けられる危険性が生じる。そうなると、資材手配でグループ内の豊田通商と組む以外、単独による進出が最善という結論になったであろうと報じられている。

     

    トヨタは、電池生産で完全に技術的習得を済ませていることが分かる。今回の件で、次世代電池の全固体電池でも単独生産に挑めることを内外に表明したことになる。トヨタが、満を持してEVに進出できる背景が、これで一層明らかになった。

     


    世界の自動車メーカーの間では電池メーカーと組み生産するのが一般的だ。トヨタほど技術を持たないためでもあるが、投資負担を軽減できるという利点がある。GMは韓国LG化学の電池子会社、LGエネルギーソリューションと組み、米2カ所で合弁工場を建設中。フォードは韓国SKと合弁で米国のテネシー州、ケンタッキー州に電池工場を建設する。提携相手は主に韓国や中国の電池メーカーだ。

     

    こういう中で、トヨタは自社技術の優秀さに賭けて、世界市場で競争するのだ。戦前・戦後の日本企業が堅持してきた技術開発路線を頑ななまでに守り、「日の丸技術」として高く掲げている。それは、絶対に世界で負けないという誇りでもあろう。日本の証券アナリストは、トヨタのように「電池から一貫して内製できれば、原価低減余地も大きくコストで優位性が増す」指摘したと『日本経済新聞』が報じている。

     

    (3)「トヨタは1997年にハイブリッド車(プリウス)を世界で初めて量産した時からバッテリー技術を内在化してきた。1996年にトヨタ60%、パナソニック40%の持分比率で合弁会社(PEVE)を設立してバッテリーを開発、2010年に合弁会社の出資比率をトヨタ80.5%まで増やして技術主導権を確実にした。「夢のバッテリー」と呼ばれる全固体電池の研究レベルも世界最高水準と評価されている。トヨタは昨年9月、自動車用バッテリー増産と研究開発のために、2030年までに総額1兆5000億円を投資すると発表した」

     

    全固体電池は、すでに試作品によって走行実験が始まっている。全固体電池の取得特許数と価値では、世界一との折紙がついている。全固体電池も自社技術で一貫生産が行われるのであろう。

     


    昭和25年(1950年)、トヨタはドッジラインによる緊縮財政の煽りで倒産の淵に立たされたが、「自分の城は自分で守る」という石田退三の執念で見事に立ち直った。この時の苦難の歴史が、今なお引継がれているのであろう。私は、東洋経済の名古屋支社勤務時に、石田氏の話を何度も聞く機会があった。貴重な体験であった。

     

    (4)「このため、現在ハイブリッド車中心の販売戦略を持っているトヨタは、いつでも電気自動車販売を急加速化できる見通しになった。トヨタは来年から純粋な電気自動車「TOYOTA bZ(トヨタ ビーズィー)」を発売し、2030年には電気自動車を年間200万台以上販売する計画だ。自動車業界関係者は、「トヨタの内燃機関車はハイブリッド車にほとんど置き換わり、電気自動車は需要に応じて柔軟に生産量を調節するという戦略だ」と語った」

     

    トヨタは、EVの将来性には極めて慎重である。内燃機関からEV化への波に、義経の「八艘飛び」でいつでもスムースに転換できる技術的準備を怠らず、そのとき時で最高の利益を上げる「理想経営」を貫いている。これは、世界でも珍しいことだ。この背景には、前述の「自分の城は自分で守る」精神が生き続けていると見られる。

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    中国経済を揺るがす最大の問題は、不動産開発企業の資金繰りがつくかどうかである。中国国家外為管理局(SAFE)の潘功勝局長は10月20日、不動産セクターに対する金融機関や市場の過剰な引き締めが徐々に是正されているとした。この金融当局の発言通りに不動産企業の資金繰りが、一息入れられるか予断を許さない。

     

    当局は、不動産開発企業によるマンションの「青田売り」(契約と同時に前受金を取る制度)が、不動産開発を無軌道にさせたという反省もあり今後、廃止の方向と伝えられている。そうなれば、不動産開発産業はかなり整理が進むと見られている。

     

    「青田売り」が禁止されるようになれば、住宅市況にも変化が出てくると期待されている。消費者が買い急がされる状況がなくなるからだ。今回の中国恒大問題は、不動産開発産業に少なからざる影響を与えるであろう。

     


    『日本経済新聞 電子版』(10月20日付)は、「中国、新築マンション6年ぶり値下がり 中古も落ち込み」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の新築マンションが値下がりに転じた。中国国家統計局が20日発表した9月の主要70都市の新築マンション価格は単純平均で前月を0.%下回った。下落は6年5カ月ぶりだ。住宅ローンの審査厳格化など当局の規制強化で市場が冷え込み、値下がりした都市も5割超に広がった。「前月から下落した都市は36地域となった。大都市を中心に住宅価格の高騰が続いていた5月の5都市から一気に広がった。値下がり都市が過半を占めるのは「チャイナ・ショック」と呼ばれ景気が減速していた15年5月以来となる」

     

    住民の9割超が持家といわれる中で、なお新築マンションが売れるとは異常である。生産年齢人口比率がピーク(中国は2010年)を迎える直前、各国とも不動産価格の高騰が起こっている。だが、中国はピークを過ぎて11年以上経ちながら住宅価格が値上りするとは、完全に投機現象である。仮需が盛行しているのだ。政府が、この投機熱を利用してGDP押し上げに使っていることは明らかである。

     


    (2)「取引価格を比較的自由に決められ、市場の需給を反映しやすい中古物件は、値下がりがさらに広がっている。9月は7割超の52都市で価格が下落した。単純平均した前月比下落率も0.%と、8月から拡大した。マンションバブルの抑制を狙った当局の規制強化が影響している。中国人民銀行(中央銀行)と銀行保険監督管理委員会は1月から住宅ローンなどに総量規制を取り入れており、借り入れに制限がかかりつつある。地方政府が中古物件に設ける標準価格も市場を冷ます。関係者によると、実際の取引価格は相対で決めるため標準価格より高い例が多いが、住宅ローンは標準価格を参考に決まる。実質的に頭金比率が高まり、住宅の購入を諦める人も少なくないという」

     

    中古物件の値下がりが先導すれば、新築物件の価格にもブレーキがかかるであろう。政府は歳入財源に、土地売却益を半分以上も充てている現状が改まらない限り、政府は絶えずバブルを起こそうという誘惑に駆られるであろう。

     


    (3)「
    販売総額でみても、9月は前年同月より2割近く少なかった。3カ月連続の減少だ。不動産シンクタンクの易居不動産研究院の厳躍進氏は、「住宅価格は過熱から過度な冷え込みへ変わるリスクを警戒すべきだ」と指摘する。当局の資金規制で不動産企業が経営難に陥っていることも、マンション価格に影を落とす。資金繰りのため、大幅に値下げしてでも開発物件を早期に売却しようとするためだ」

     

    9月は、3ヶ月連続の販売総額の減少になった。資源が、不動産開発へ過剰に配分されていることは、決して褒められたことでない。他産業への資金配分が滞っている証明である。中国は、目先のGDPのみに神経を使わず、将来の中国経済の展望に目を向けるべきである。

     


    (4)「例年は住宅展示場がにぎわう10月の国慶節(建国記念日)連休も、不動産市場は盛り上がりを欠いた。不動産会社の資金繰り難の解消にはほど遠く、信用不安が強まっている。中堅不動産会社の債務不履行(デフォルト)が相次いでいる。中堅会社の新力控股(シニック・ホールディングス)が18日に期限を迎えたドル建て社債を償還できなかった。大手の中国恒大集団も、ドル建て債の利払いの猶予期間が終わる23日ごろにデフォルトが確定する可能性が意識されている」

     

    10月の国慶節は例年、住宅展示場が超繁忙期を迎える時期だ。今年は、従来と異なり盛り上がりを欠いたという。23日は、中国恒大のドル建て債券のデフォルトになるかどうかが最終決定する日である。中国政府は、デフォルトにさせるのかどうか。これで、中国政府の姿勢がはっきりする。

     

    (5)「不動産市場の変調を警戒する当局は、強化一辺倒だった規制の微修正に動き始めた。人民銀行は15日、銀行の不動産向け融資をめぐり、行き過ぎた絞り込みを是正する方針を示した。「10~12月の不動産向け融資は多少持ち直すのではないか」との見方が広がる。中国メディアによると、広東省広州市や同省仏山市など一部地域では、銀行が住宅ローン金利を引き下げている」

     

    人民銀行が、不動産開発企業に提示した「財務3原則」を緩和させることはないであろう。ただ、財務内容が良好な企業で資金繰りに苦しむところには、支援の手が伸びて当然だ。そういう意味での、金融緩和期待は出てくるに違いない。

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    北京を補完する「都市」として注目された雄安新区建設は、その後どうなっているか。習近平氏が、打ち出す一連の計画を、事前評価する尺度の一つとして注目されるのだ。

     

    そもそも、この雄安新区はどういう構想であるかを見ておこう。

     

    習氏の主導する「千年大計」(1000年にわたる大計画)として保定市内の三地区から新たに「雄安新区」を設置した。国家級新区としては19番目に当る。果樹園などが広がるのどかなエリアだったが、最先端のテクノロジー企業や研究機関を集積する計画である。

     

    雄安新区は、130キロ離れた北京市から、非首都機能(教育、医療、行政機関の一部)移転の集中的な受け入れ先とされている。水域と緑地の面積が全体の70%を占めるように義務付けた理想郷を目指す。2050年には、人口1000万人の都市ができあがる計画だ。すでに、北京からの鉄道も開通している。受入れ準備は全て整ったのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(10月20日付)は、「
    習氏肝煎りの未来都市『雄安』に試練」と題する記事を掲載した。

     

    雄安新区は17年4月1日,中国共産党中央委員会と国務院が「千年大計の国家大事」として設立を発表した。北京・天津・河北省エリアの経済発展の起爆剤とし、混雑する北京の機能を一部移転する目的だ。「深圳経済特区」「上海浦東新区」に次ぐ21世紀初の全国規模の大都市開発構想と位置づけられた。

     

    (1)「北京西駅から高速鉄道で約1時間。「アジア最大の駅」という雄安駅に到着した。周辺には何もなく、広い駅はひとけのなさだけが目立つ。タクシーで高速道路を30分ほど走ると開発区で最初に建設された地区に到着した。管理委員会やオフィス、ホテルなどがあり、広さはおよそ1キロメートル四方だろうか。思いのほか狭い。街の真ん中まで歩くと、小型車型の無人販売ロボットを発見した」

     

    ほとんど乗客がいない雄安駅の状況は、これまでも報じられてきた。今も、それには「変化なし」なのだろう。

     


    (2)「鳴り物入りの無人スーパーも発見した。顔認証で入ると聞いていたが扉やゲートは開きっぱなし。店内は棚の空きが目立ち一昔前の農村の売店のようだ。顔認証用レジもあったが、買い物客はバーコードを読み込む方式のレジで決済していた。こうしたシステムはすでに北京市などのスーパーやコンビニエンスストアにもあり、目新しさはない。再び街を歩いていると無人バスがぽつんと走っていた。周囲には車は走っておらず、無人車の実験の意味はあまりなさそうだ。「以前は複数台の無人バスを走らせていたが今は1台だけ。人を乗せるサービスもやめている」。夕方、駐車場でバスを点検していた担当者はこう語った」

     

    新住民がいない街に、無人スーパーは似合わない。現状無視の理念先行で失敗しているケースである。

     

    (3)「一方、雄安の開発計画は終わったわけではない。開発区ではたくさんの建物が盛んに建設されていた。すでに外観ができあがっているものも多く、12年内には広大な街が出現するとみられる。実は、ここからが雄安にとっての本当の試練となる。雄安は内陸部にあり、決して地の利のある土地ではない。北京からほぼ同じ距離にある天津は港を持ち北京への玄関口としての機能がある。深圳や上海浦東も小さな農村や更地から摩天楼が立ち並ぶ大都市へと発展した。それも香港や上海と隣接する貴重な立地条件が背景にある」

     

    雄安の立地条件が良くない。内陸部にあって自然が豊かだけでは住宅地に好適でも、それ以上の発展性を望めないように思える。利に賢い中国人は、「銭」の臭いがしなければ集まってこないのだ。

     

    (4)「中国政府は雄安に人を集めるため、北京市にある大学や国有企業の本社など首都機能に直接かかわらない組織の移転を計画する。これも現時点では多くの組織は乗り気でなく、一部機能を移転するにとどまるとの見方もある。さらに当局は開発区での住宅の売買を禁じている。投機マネーの流入を防ぐ効果がある一方、多くの中国の都市の発展を支えてきた強力なけん引役を失う側面も持つ」

     

    住宅の売買を禁じているのでは、外部から移り住むことは不可能である。昔から住む人では限界がある。そういう面での配慮ゼロの都市計画も珍無類だ。

     

    (5)「7月末、雄安に関する一つのニュースが注目を集めた。河北省が「河北雄安新区条例」として「雄安新区管理委員会は河北省政府の派出機関とする」と発表したのだ。雄安は習氏肝煎りの「国家大計」であるだけに、多くの人が国家直轄市になると想像していた。ネット上では「中国雄安が急に河北雄安になった」「国家が頭金を払い、残りのローンは河北省が払う」などと揶揄する声も出た。雄安の可能性についてはまだ懐疑的な見方も少なくない」

     

    雄安新区は、北京や上海のような直轄都市を想像されていたが、「河北省政府の派出機関」という位置づけという。拍子抜けする扱いである。

     


    (6)「深圳や上海浦東は人々の欲望やニーズを原動力に成長した。一方、雄安は完全な「計画」下で発展を探る。共同富裕など共産主義色の濃い政策を進める習氏にとっては、雄安も計画経済の実力を占う大きな社会実験となるかもしれない。同事業が竜頭蛇尾に終わるのか、1000年後に目の覚めるような未来都市が出現しているのか――。少なくとも今後10年内にはある程度の答えがみえてくるだろう」

     

    深圳や上海浦東は、欲望の渦巻く中国社会が根底にあって発展した。だが、雄安新区はこれと全く趣が異なる。北京から、教育、医療、行政機関の一部が移転してくるのでは、庶民に人気のある「華やかさ」がないのだ。敬遠されそうな施設の移転では、先行きが懸念されそうだ。

     

    中国の経済計画は、この種の思いつきが多い。市場経済であれば、綿密な事前調査が行なわれるはず。独裁者の鶴の一声で決まるから、こういう形になるであろう。これまでの中国の発展は、「僥倖」であったという印象を拭えないのである。

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