勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年11月

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    習近平氏は、コロナ感染拡大の防止に必死である。欧米に向かって、ワクチンの相互承認を呼びかけている。欧米が、中国製ワクチンを承認すれば、中国も欧米製ワクチンを承認して、中国で接種したいと言っているのだ。

     

    中国製ワクチンは、デルタ変異株に効かないとされている。目下、中国で感染が拡大しつつあるのはこのデルタ変異株だ。欧米製ワクチンは、デルタ変異株予防に有効である。それだけに習氏は、何としても「相互承認」を理由にして、中国で欧米製ワクチンを使用したいと焦っている。中国のメンツもあって、欧米が中国製ワクチンを承認しなければ、中国も欧米製ワクチンを承認できず、中国の感染予防に役立てられないと言うのである。

     


    中国製ワクチンが、いかに効かないかというデータがある(『大紀元』6月18日付)。6月中旬のデータだが、人口100万人あたり1日の感染者数が多い上位10カ国で、9カ国が中国製ワクチンを使用していたことが、オックスフォード大学の統計によって明らかにされている。中国が、デルタ変異株に感染したならばどうなるか。最悪事態へ転落は確実である。中国が、欧米製ワクチンを接種したい気持ちが痛いほど分かるのだ。現状は、中国のメンツでそれが不可能である。

     

    『ロイター』(11月1日付)は、「中国レジャー・観光業界、コロナリスクで打撃 上海ディズニーも」と題する記事を掲載した。

     

    中国で新型コロナウイルス感染が確認された都市やリスクが懸念される都市では娯楽施設が閉鎖されたり、文化イベントが延期されたりしており、レジャー・観光業界が影響を受けている。

     

    (1)「国営メディアによると、上海ディズニーランドは1日と2日に入園を停止し、10月30日から31日に園内にいた客やスタッフに新型コロナ検査を直ちに受けるよう求めた。これらの措置は上海市外の当局から要請された新型コロナ調査への協力の一環だとしているが、詳細は明らかにされていない」

     

    上海ディズニーランドも感染拡大で緊急休園を迫られている。コロナ拡大が、中国の消費に大きな影響を与えたのは、すでに、7~9月期のGDP増加率の鈍化に現れている。新型コロナウイルス感染再拡大で、夏季休暇シーズンの観光業や消費に悪影響が及んだことで証明されている。

     

    当局は当時、観光地閉鎖や文化イベント中止、旅客便の運休を急いだ。わずか2週間のうちに感染力の強いデルタ変異株が32ある第1級行政区(省・直轄市・自治区)の半分近くで確認され、少なくとも46都市が住民に不要不急の旅行を避けるよう呼び掛けたほどだ。野村ホールディングスはこの事態を受けて、中国の7~9月GDP成長率見通しを従来の6.4%から5.1%に下方修正したほど。現実のGDPは,さらに低下して4.8%に止まった。

     

    中国でコロナ感染拡大が起こっても、欧米製ワクチンを接種できないのだ。やむを得ずできる手段は、都市封鎖(ロックダウン)や隔離(ソウシャル・ディスタンス)強化しかない。前記の野村ホールディングスは当時、10~12月GDPも5.3%から4.4%に、21年通年も8.9%から8.2%へ引き下げた。今回の感染拡大が、21年GDP伸び率を8%割れにすることは確実と言えよう。

     

    (2)「公式データに基づく11月1日時点のロイター算出によると、10月17日から31日までの間に確認された国内感染者は、主に中国北部で計484人に上った。感染者の多くは複数の地域を旅行した観光客で、接触者の追跡調査は複雑化・長期化している。他国と比較すると、中国の感染者数はごくわずかで、一部の地域ではここ数日で感染者数の伸びが鈍化したり停止したりしているが、ビジネスや地域経済の混乱を犠牲にしても、感染リスクを最小限に抑えるための努力を惜しまないのが中国の特徴だ」

     

    このパラグラフは、夏期のコロナ感染対応を彷彿とさせる。夏場危機の再来と言えそうだ。

     

    (3)「中国の大手航空会社3社は、7~9月期に前四半期よりも深刻な損失を計上。これは夏の間に国内で新型コロナ感染が再燃し、国内旅行が落ち込んだためだ。観光当局は先月、感染リスクが高いとされる地域を含む省間の旅行を旅行会社が企画することを禁止すると発表し、観光地を結ぶ専用列車の運行を停止した」

     

    ここも、夏場の混乱期を再現している。

     


    (4)「首都北京を含め市中感染があった多くの都市では、インターネットカフェ、チェスやカードの遊技場、映画館など一部の屋内レジャー施設が運営を停止し、マラソンレース、コンサート、演劇などの多くの公演が延期または中止された。また、市中感染が数カ月間確認されていないいくつかの都市でも文化・レジャービジネスに影響が出ている。国際的な展示会が開かれる南部の東莞は、感染者が報告されていないにもかかわらず、さまざまなイベントを中止した」

     

    下線部の現象は、日本が東京オリンピック時に味わったと同様のソウシャル・ディスタンスの強化である。この「戒厳令」同様の事態は、少なくも来年2~3月の北京冬季五輪・パラリンピックまで続くのであろう。習氏が、欧米製ワクチンを欲しがる理由はこれなのだ。 

     

     

     

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    昨日の総選挙は、事前の予想と大きく異なる現象が起った。与党(自民党・公明党)が、善戦して大きな議席減にならなかったこと。野党第一党の立憲民主党が、議席を大きく減らしたことである。小選挙区で、野党統一候補を出して自民党候補と対決する構図が、不発に終わったのである。

     

    野党が政権につけば、共産党は閣外協力するとしてきた。だが、共産党の安保政策は、日米安保条約を認めないというものだけに、現在の米中対立激化を考える時、有権者には不安となったのであろう。

     

    今回の総選挙は、安全保障が底流にあった。日本維新の会が、大きく議席を伸した裏には、共産党とは対照的に「硬派」であったことが、安心感を強めたのかも知れない。

     

    『日本経済新聞』(11月1日付)は、「野党、戦略練り直し 5党 210超で候補者一本化「接戦区」多くで競り負け」と題する記事を掲載した。

     

    立憲民主党や共産党など小選挙区で統一候補を立てた5野党は公示前と比べ、合計の議席を減らした。候補者の一本化で政権批判票の集約をめざしたが接戦区の多くで与党候補に競り負けた。来夏の参院選に向け戦略の練り直しを余儀なくされる。

     

    (1)「289ある小選挙区のうち7割を超える213の選挙区で立民、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の5党が候補者を一本化した。そのうち野党候補が勝った割合は3割を切った。共産との連携強化によって票を上積みできた選挙区もあれば、それによって一部の政権批判票が立民から他党に流れた可能性も指摘されている。

     

    前回総選挙の与野党別の得票数だけ見ると、野党が統一候補を出せば、自民党に競り勝てるという大前提があった。今回の総選挙では、この前提が崩れたのである。共産党という、日本の政党の中で「異質」の主張が、野党統一候補擁立でハレーションを起したと見られる。

     


    現在の国際情勢で、日米安保を否定する共産党と共闘する野党統一候補は、かなり苦しい立場に追込まれたはずだ。これは、選挙戦略で与党から足を掬われ兼ねない点であろう。

     

    (2)「立民の枝野幸男代表は31日の記者会見で「一票一票積み重ねていく足腰が弱い。ここを強くしないと政権にたどり着くことはできないと改めて痛感している」と語った。野党共闘についてはNHK番組で「一定の効果はあった」と強調した。日本テレビ番組では代表を退く意思があるかを問われ「ない」と明言した。「目先を変えてはまた同じ失敗を繰り返すと確信している」と述べた。共産党の志位和夫委員長も31日の記者会見で「1回だけではなく2回、3回とチャレンジしていきたい」と話した」

     

    枝野氏の主張にも一理ある。野党の足腰が弱いことは事実だ。だが、立憲民主党内では次のような不満が高まっている。

     

    「枝野氏は1日午前、国会内で福山幹事長と会談した。福山氏は会談後、記者団に「執行部として、結果については責任がある」と述べた。自身の対応については「腹を決めている」と語った。福山氏は、2日に執行役員会を開き、今後の対応を協議することも明らかにした。党内では、「議席減はあり得ない結果だ。枝野、福山両氏が続投することに正当性はない」(ベテラン)などとして、執行部に対する不満の声が高まっている」(『読売新聞 電信版』(11月1日付)

     


    (3)「立民の政党支持率は選挙直前まで10%前後とふるわなかった。そこで野党として候補者を絞り込んで議席増を狙った。実質的に与野党が一騎打ちとなる選挙区は全体のおよそ半数にのぼった。なかでも共産は小選挙区の候補者を前回衆院選のおよそ半分の105人に絞り込んだ。一本化した選挙区のうち立民が共産に譲った選挙区はあるものの、共産が候補を取り下げた例がほとんどだ」

     

    最初の野党統一候補擁立論者は、小沢一郎氏である。小沢氏は、古巣の自民党への敵愾心が人一倍強く、共産党とも手を結ぶと広言し、そういうパフォーマンスもしてきた。だが、保守的志向の強い有権者にとって、日本人の価値観へ大きく挑戦する共産党に対して、必ずしも好意的に見る者ばかりでなかった。そういう、微妙な心のアヤを読めなかった小沢氏に見落としはなかったか。

     


    (4)「共産支持層は一選挙区ごとに数万票あるとされ、多くが立民の候補に回ったとみられる。
    立民は今回の衆院選を前に市民団体を介して共産、れいわ、社民と共通政策を結んだ。国民とも連合を通じて政策協定で合意した。このとき立民が政権交代時には共産から「限定的な閣外からの協力」を受けると合意したことを巡っては反発も招いた。共産が閣外とはいえ政権に協力する方針を示したのは初めてで民主党政権時も共産は野党だった。共産は自衛隊を違憲と主張し、日米安全保障条約の「廃棄」を訴えるなど他の野党と政策的な隔たりが大きい

     

    下線部は、重要な点を指摘している。共産党の安保論は、他の野党と異なっている。政党として、外交・安保は重要な主張になる。これを曖昧にしたまま、「選挙で勝てば良い」という小沢流主張は、理解されにくいであろう。まさしく、「野合」であるからだ。

     

    (5)「立民、国民の支持団体である連合内からは懸念する声が出ていた。枝野氏は内政を中心とした政策協定の範囲内で共産が協力することや法案の事前審査に共産は関わらないことなどを説明し理解を求めた。与党は選挙戦で「野合だ」と批判し、麻生太郎副総裁ら自民幹部もこぞって「立憲共産党」と皮肉った。終盤戦にかけて立民が「政権交代」の訴えを強めるほど、与党側も立民が共産と連携することへの懸念を強調し始めていた」

     

    労働組合の連合は、今回の共産党を含む統一候補者選出に強い疑念を示した。トヨタ労組は、この統一候補から離脱したほどである。日本の労働組合総本山が、こうした決定をしていたことを甘く見過ぎたのではないか。立憲民主党に突付けられた課題は大きいのだ。 

     

     

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    米衰退・中国繁栄論へ加担

    駆引きしすぎクアッド失敗

    対日関係は冬眠状況が続く

    働き盛り世代で雇用減の怪

     

    韓国の次期大統領選は、来年3月である。すでに、与党「共に民主党」は、李在明氏が代表候補者に決まった。最大野党「国民の力」は、11月初めに代表候補者を決定する。これを待って、韓国は本格的な大統領選へ突入する。

     

    文在寅大統領の任期は、来年5月9日までだ。文氏は、すでに重要な政策決定を差し控えており事実上、政治的な「お飾り」になっている。いわゆる、レームダック化している。一足早いが、文氏の5年間を振り返る必要があろう。そこから、韓国の置かれている外交的、経済的な難しさが浮かび上がるのだ。

     


    米衰退・中国繁栄論へ加担

    文氏の対米国観は、中国の抱く対米国観に強く影響されていたと見られる。中国の王毅外相が,文大統領と面会した際に吹き込んだであろう。それは、米国経済が衰退して、逆に中国経済が繁栄するというシナリオである。文氏は、これまで「親中朝・反日米」という1980年代に韓国で流行した見方に支配されてきた。中国の唱える「米国衰退・中国繁栄」論を、何ら疑うことなく受入れたことは間違いない。

     

    その根拠に、韓国の安全保障政策の根幹に関わる部分で、中国へ「三不政策」(2017年10月)の一札を入れているのだ。すなわち、次のような内容である。

    1)米国のミサイル防衛(MD)体制に加わらない。

    2)日米韓安保協力が三カ国軍事同盟に発展することはない。

    3)THAAD(超高高度ミサイル網)の追加配備を検討しない。

     

    これら3条項は、中国政府の要求に従って、韓国固有の自衛権を放棄するに等しいことを約束させられたのである。米韓は、同盟関係である。中国は、この米韓同盟を引き裂く目的で、韓国から「三不政策」の約定書を取ったのである。

     

    文政権が、こういう中国の内政干渉を受入れた背景は、前記の「米国衰退・中国繁栄」論に騙されたのであろう。日本に対しても、解決済みの歴史問題を再び持出した裏に、この妄想が影を落としていることは容易に想像できるのだ。

     

    私は、「米国衰退・中国繁栄」論の間違いを一貫して指摘し続けている。米国の著名な外交専門誌『フォーリン・ポリシー』(10月1日付)が、「衰退する中国が問題」」と題する論文を掲載して世界の注目を集めている。

     

    この論文は、米国のジョンズホプキンス大学の国際政治学者、ハル・ブランズ特別教授とタフツ大学政治学科のマイケル・ベックリー教授による共著である。その主旨を要約すると次のようになる。

     

    1)ハーバード大学の政治学者、グレアム・アリソンは、既存の大国が新興大国の浮上をけん制するため戦争のわなに陥ることを「トゥキディデスのわな」と呼んだ。大国が新興国へ戦争を仕掛けるとしているが、歴史的事実は逆である。新興国が、大国へ開戦している。

     

    2)現代の新興国中国は、すでに経済発展で頂点を極めており、今後は弱体化の危機に直面しようとしている。2000年代末ごろから、中国経済の発展力は停滞もしくは逆転するようになった。2050年代になると、労働年齢層人口23人で65歳以上の高齢者1人を扶養することになる。国連の推定によれば、2040年代の中国の年齢中央値(メジアン)は46.3歳で、米国(41.6歳)より高く高齢化する。

     


    3)
    頂点に達した中国は今後10年間、自分たちの運が尽きる前に、より大胆に、さらにはより軽率に軍事行動をしかねないリスクを抱える。米国はこれまで、浮上する中国と対面せねばならなかった。今後は、衰退する中国が一層危険な存在になりかねないことを知るようになるだろう。

     

    以上は、『朝鮮日報』(10月31日付)から引用した。私は、一国経済力の基盤として人口動態統計を重視している。この論文も全く同じ手法である。かつて、著名な米国経営学者のP・F・ドラッカーは、「経済統計の中で唯一、将来推計の場合に不可欠なデータは人口動態統計」と発言している。人口推計に優る信頼できる統計は存在しないのだ。その人口動態推計で、中国は衰退するとはっきり出ているのである。

     

    いかに「中国贔屓」の文在寅氏といえども、この現実を受入れざるを得ないはずだ。文氏は、「社会科学の成果」を政治に取り入れず、学生時代の政治スローガンにすがり、これまで政治を行ってきた。その報いが、韓国の運命に大きな影響を与える事態になったのは、不幸というほかない。「無能な大統領」を持った報いだ。


    駆引きしすぎクアッド失敗

    「米国衰退・中国繁栄」論は、文氏だけが信じて来たのでなかった。韓国進歩派に共通の視点である。現に、そういう主旨の論文が登場していたのだ。この、蜃気楼のような見解は、韓国の外交・経済の両政策に色濃く反映されている。先ず、外交政策から見ていきたい。

     

    韓国は、米韓同盟を結びながら中国との「二股外交」も行なってきた。従来の米中関係であれば、別に支障も出ずに継続できた。だが、中国が「トゥキディデスのわな」を実行して、米国へ戦争しかける可能性が強まりかねない現状において、韓国はいかなる外交政策を行うべきか、問われている。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

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    メルマガ298号 韓国経済に「SOS」、10月中に家計債務整理案 ウォン危機防止へ全力

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    10月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が発表された。2ヶ月連続で好不況の分岐点50を下回った。前月を下回ったのは7ヶ月連続である。

     

    不動産バブル崩壊がはっきりしており、これに伴い鉄鋼・セメント・アルミなどの素材産業も影響を受けている。暗いトンネルに入った感じが強まっている。当局は、お手上げ状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月31日付)は、「中国景況感、10月も節目の50割れ 電力制限や資源高響く」と題する記事を掲載した。

     

    中国国家統計局が31日発表した2021年10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.2と、前月より0.4ポイント低下した。好不調の境目である50を2カ月連続で下回った。資源高による企業収益の悪化で受注が伸び悩んだ。電力制限も生産の足かせになった。

     


    (1)「前月を下回るのは7カ月連続だ。PMIは製造業3000社を対象に調べる。新規受注や生産、従業員数など項目ごとに調査する。50を上回れば前月より拡大、下回れば縮小を示す。項目別では柱である生産が48.4と1.1ポイント下落した。新規受注も3ヵ月連続で節目の50を下回った。3分の1の調査企業が最大の経営課題として需要不足を挙げた。幅広い企業の収益悪化による受注減が製造業の景況感に影を落としている。電力制限で工場の稼働率が下がったことも影響した」

     

    調査企業の3分の1が需要不足を訴えているのは、典型的な景気下降局面にあることを示している。GDPの25%は、不動産開発関連需要とされている。この大きな需要に変調が起こっている以上、中国経済が揺さぶられるのは当然である。

     

    (2)「原材料などの調達量や製品在庫を示す指数も悪化が続いている。政府系シンクタンク、国務院発展研究センターの張立群研究員は、「企業の先行き見通しが一段と慎重になっている」と分析する。先行きを警戒する企業が設備投資も控え、景気の停滞感が強まる恐れもある。とりわけ川下産業に多く、コスト高を価格転嫁しにくい中小零細企業の苦境が目立つ。企業の規模別では、大企業のみ節目の50を上回った。中小零細企業は5月から50を下回っている。中国政府は、中小製造業の法人税(企業所得税)などの納付を猶予する。11月1日から22年1月の納税申告期間までで、猶予規模は2000億元(約3兆5000億円)規模になると見積もる。収益悪化の痛みを和らげる狙いだが、資源高が続くなか景気下支えの効果は不透明だ」

     

    設備投資を控え始めていることは、景気下降が本格的になってきた証である。設備投資が手控えられる状況では、雇用調整も本格化していく。コロナも有効な欧米製ワクチンが手に入らず、立ち往生せざるを得ない。来年2~3月の北京冬季五輪・パラリンピックで、都市封鎖が厳格に行われるはずで、経済に良いことは一つもない。独裁政権の辿る運命と言える。

     


    (3)「同時に発表した10月の非製造業のビジネス活動指数は52.4と、9月から0.8ポイント悪化した。2カ月ぶりに前月を下回った。新型コロナウイルスの感染再拡大で移動制限が広がり、交通運輸や飲食の景況感を下押ししたとみられる。昨年、主要国に先駆けて正常化が進んだ中国経済だが、最近では息切れ感が鮮明だ。7~9月の実質国内総生産(GDP)は季節調整済み前期比で0.%増にとどまった。「新型コロナ感染の局地的な再拡大、洪水被害、世界経済の減速、原材料価格の高止まりなど景気回復は困難に直面している」。

     

    GDPも対前期比の伸び率で見れば年初来、「0%台」に止まっている。前年同期比という伸び率が、実態に認識を誤らせている。対前期比ベースの成長率は1%以下である。年率数%の成長率で回転してきた経済が、ここまで急減速すれば経営者が、全て萎縮して当然である。

     


    (4)「国営新華社は10月24日、「権威人士」なる匿名人物のインタビューを配信した。習近平(シー・ジンピン)国家主席に近い劉鶴(リュウ・ハァ)副首相らが書いたとの見方がある。権威人士はこれらの景気下押し要因を「短期的要素」と強調した。「7~9月の成長鈍化は(構造調整を進めた証しで)長い目でみて中国経済にとってよいことだ」。インタビューは外国メディアの論評を紹介しつつ、不動産投機の抑制など習指導部の経済政策の妥当性を訴えた。ただ先行きは「10~12月や22年初めの経済成長も多くのリスクに直面する」と慎重な見方を崩さなかった。雇用など構造問題が顕在化し、原材料と製品の価格差は拡大するため、投資や消費を抑制する要素が多いと見通した。「圧力の前では信念が黄金よりさらに貴重だ」。神頼みとも受け取れる権威人士の言葉は、中国政府による経済のかじ取りがますます難しくなっていることを物語る」

     

    中国が、これから味わう本格的な減速経済に企業がどのように馴れるかである。具体的には,設備投資の圧縮である。これが、一段と減速感を高めるはずだ。本来ならば,10年前に味わうべき苦しみが、不動産バブルで現在まで先延ばされてきたもの。「以て瞑すべし」と言うべきであろう。 

     

     

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    米中復交以来、米国金融界が最大の利益を得てきた。この延長線上で、米金融大手ゴールドマン・サックスは、中国で投資銀行業務を手がける現地合弁の完全子会社化の承認を受けたと発表した。米系では、すでにJPモルガン・チェースに続き2例目となる。

     

    米中が政治的に激しく対立している一方で、前記のように米国の大手投資銀行が中国へ進出している。中国にとって利益になると判断したから、進出承認を与えたものであろう。これには、中国の深い読みと思惑が隠されているように見える。

     


    『日本経済新聞』(10月31日付)は、「中国『共同富裕』に揺れる米金融」と題する寄稿を掲載した。筆者は、英『フィナンシャル・タイムズ』前編集長 ライオネル・バーバー氏である。

     

    米トップクラスの金融機関を率いる人々にとって、最高ともいえる時期が訪れている。世界的なM&A(合併・買収)の急増で投資銀行業務などが伸び、7~9月期は軒並み大幅増益となった。業界を取り巻く環境は順風で、(地域別では)中国で追い風を受けているようにみえる。米中は香港や台湾、あるいは貿易を巡って真っ向から対立している。中国が8月に極超音速兵器の実験をしたと報じられるなど、軍事技術でも競い合う。米中の金融部門の利害一致は、両国が特に地政学的に反目し合うのとは対照的だ。

     

    (1)「(2001年の)中国の世界貿易機関(WTO)加盟に向けた交渉が大きく前進した1999年以降、中国市場への進出という経済的な好機が、政治的なリスクより大きいという考え方が広がっていた。欧米企業は、中国政府による外資の過半数出資や全額出資への規制、技術移転の強要などにもしぶしぶ従ってきた。中国は巨大な存在で、アジアは成長の源だった。米政財界の有力者は、西側の資本主義国との関係構築により中国の姿勢がゆっくりと変化し、民主化にもつながるだろうとの見方を示していた。いまとなっては、期待が大きすぎたことが証明された。中国は世界経済を都合良く利用する一方、自国に欠かせない権益は守ってきた」

     

    中国は、金融後進国である。人民元相場は、管理変動相場制である。資本自由化も行われていない。これが、不動産バブルを生み出している理由の一つでもある。こういう金融脆弱性を考えれば、中国が、世界一の投資銀行のノウハウを学びたいと言うのは掛け値なしで本音であろう。

     

    米国側にも利益はある。これから始まる不良債権を上手く買い取る「ハゲタカ・ビジネス」のチャンスもあろう。こういう両者の思惑が一致したと見られる。トランプ政権時では、米国投資銀行の進出を後押ししていたのだ。

     

    (2)「習近平国家主席の下、大事にされたのは(習氏がトップの)中国共産党の権威だ。習氏が着手した汚職取り締まりは、企業への締め付けに取って代わられている。アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏ら、シリコンバレーとの競争の切り札とみられたハイテク企業幹部の言動まで問題視されたとされる。習氏が裕福なエリート層を引きずり下ろしたことで、中国の富裕層と密接な多くの米機関投資家に戦慄が走った。ニューヨーク拠点のファンドマネジャーは「いまは中国のリスクを織り込み、(資産などの)価値低下を前提に取引している」と語る」

     

    問題は、米国の資金で中国株の売買を行って中国企業を儲けさせるな、という素朴な批判である。その辺の線引きが議論されるであろう。

     

    (3)「いままでのところ中国政府の中枢がひるむ様子はない。習氏の「共同富裕(ともに豊かになる)」を目指す新たな取り組みは、2022年秋の共産党大会で3期目続投を勝ち取るための掛け声にとどまらない。ハイテクや不動産の企業が罰を受けて当然だと位置づける意味もありそうだ。米金融業界に残された選択肢はどれも甘くないだろう。米マイクロソフト傘下でビジネス向けSNS(交流サイト)を運営する米リンクトインのように中国から撤退すれば、自らの首を絞める」

     

    米国に損害を与えずに、利益になるビジネスと言えば「金融手数料ビジネス」である。米国の投資銀行が、そういうマージンの薄いビジネスに満足するはずがない。利益を上げるためのリスクは、どこまで認められるのかという議論が将来、起るであろう。

     

    (4)「米IT(情報技術)各社に比べ、金融業界は中国で大きな権益を手にしているようにみえる。シンガポールなどに資産や人材を移し、投資リスクを減らすのを推奨する意見もある。だが、米金融大手などは、中国に対し悪い印象を与える行為であると強く認識している。投資家の信頼感や経済成長をリスクにさらすような改革を、習氏がどこまで断行するつもりかというのが重要な問いになってくる」

     

    英国籍のHSBCは、中国政府の要求を入れて、「中国籍」にならんばかりの変貌を遂げている。よほどの「旨味が」あるのだろう。これを見た米国投資銀行が、余慶に預かろうと考えるとしても致し方あるまい。問題は、最終的に米国の国益に抵触しないかという問題となろう。

     

    (5)「中国が経済的な意味で超大国になりきれるかどうかは、人民元の国際化や中間層の成長などにかかっている。いずれの点でも、米国の資本とノウハウは欠かせない。15~16年に中国の金融市場が不安定化した際、(人民元の国際化につながる一方で投機マネーの流入に拍車がかかりかねない)資本取引の開放が進みすぎていたと当局は認識しただろう。中国政府は、同じ過ちを繰り返すつもりはない。米カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授らも、人民元の国際化の歩みは、緩やかに進んでいくと予測する」

     

    中国経済が、人口動態面で発展に限度があることは確実である。むしろこれから,衰退過程に入る公算が強まることを考えると、米投資銀行は中国へ深入りするリスクを冷静にカバーできる計算が不可欠であろう。

     

    (6)「米金融業界は全般的に、(リスク懸念はくすぶるものの)中国が超大国への変貌を遂げるという賭けに一段と入れ込もうとしているようにもみえる。大胆な賭けは当面、かなりの度胸を必要とするはずだ」

     

    中国の抱える本質的リスク(経済衰退)は、投資銀行らしく常に弾いておくべきだろう。

     

     

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