習近平氏は、コロナ感染拡大の防止に必死である。欧米に向かって、ワクチンの相互承認を呼びかけている。欧米が、中国製ワクチンを承認すれば、中国も欧米製ワクチンを承認して、中国で接種したいと言っているのだ。
中国製ワクチンは、デルタ変異株に効かないとされている。目下、中国で感染が拡大しつつあるのはこのデルタ変異株だ。欧米製ワクチンは、デルタ変異株予防に有効である。それだけに習氏は、何としても「相互承認」を理由にして、中国で欧米製ワクチンを使用したいと焦っている。中国のメンツもあって、欧米が中国製ワクチンを承認しなければ、中国も欧米製ワクチンを承認できず、中国の感染予防に役立てられないと言うのである。
中国製ワクチンが、いかに効かないかというデータがある(『大紀元』6月18日付)。6月中旬のデータだが、人口100万人あたり1日の感染者数が多い上位10カ国で、9カ国が中国製ワクチンを使用していたことが、オックスフォード大学の統計によって明らかにされている。中国が、デルタ変異株に感染したならばどうなるか。最悪事態へ転落は確実である。中国が、欧米製ワクチンを接種したい気持ちが痛いほど分かるのだ。現状は、中国のメンツでそれが不可能である。
『ロイター』(11月1日付)は、「中国レジャー・観光業界、コロナリスクで打撃 上海ディズニーも」と題する記事を掲載した。
中国で新型コロナウイルス感染が確認された都市やリスクが懸念される都市では娯楽施設が閉鎖されたり、文化イベントが延期されたりしており、レジャー・観光業界が影響を受けている。
(1)「国営メディアによると、上海ディズニーランドは1日と2日に入園を停止し、10月30日から31日に園内にいた客やスタッフに新型コロナ検査を直ちに受けるよう求めた。これらの措置は上海市外の当局から要請された新型コロナ調査への協力の一環だとしているが、詳細は明らかにされていない」
上海ディズニーランドも感染拡大で緊急休園を迫られている。コロナ拡大が、中国の消費に大きな影響を与えたのは、すでに、7~9月期のGDP増加率の鈍化に現れている。新型コロナウイルス感染再拡大で、夏季休暇シーズンの観光業や消費に悪影響が及んだことで証明されている。
当局は当時、観光地閉鎖や文化イベント中止、旅客便の運休を急いだ。わずか2週間のうちに感染力の強いデルタ変異株が32ある第1級行政区(省・直轄市・自治区)の半分近くで確認され、少なくとも46都市が住民に不要不急の旅行を避けるよう呼び掛けたほどだ。野村ホールディングスはこの事態を受けて、中国の7~9月GDP成長率見通しを従来の6.4%から5.1%に下方修正したほど。現実のGDPは,さらに低下して4.8%に止まった。
中国でコロナ感染拡大が起こっても、欧米製ワクチンを接種できないのだ。やむを得ずできる手段は、都市封鎖(ロックダウン)や隔離(ソウシャル・ディスタンス)強化しかない。前記の野村ホールディングスは当時、10~12月GDPも5.3%から4.4%に、21年通年も8.9%から8.2%へ引き下げた。今回の感染拡大が、21年GDP伸び率を8%割れにすることは確実と言えよう。
(2)「公式データに基づく11月1日時点のロイター算出によると、10月17日から31日までの間に確認された国内感染者は、主に中国北部で計484人に上った。感染者の多くは複数の地域を旅行した観光客で、接触者の追跡調査は複雑化・長期化している。他国と比較すると、中国の感染者数はごくわずかで、一部の地域ではここ数日で感染者数の伸びが鈍化したり停止したりしているが、ビジネスや地域経済の混乱を犠牲にしても、感染リスクを最小限に抑えるための努力を惜しまないのが中国の特徴だ」
このパラグラフは、夏期のコロナ感染対応を彷彿とさせる。夏場危機の再来と言えそうだ。
(3)「中国の大手航空会社3社は、7~9月期に前四半期よりも深刻な損失を計上。これは夏の間に国内で新型コロナ感染が再燃し、国内旅行が落ち込んだためだ。観光当局は先月、感染リスクが高いとされる地域を含む省間の旅行を旅行会社が企画することを禁止すると発表し、観光地を結ぶ専用列車の運行を停止した」
ここも、夏場の混乱期を再現している。
(4)「首都北京を含め市中感染があった多くの都市では、インターネットカフェ、チェスやカードの遊技場、映画館など一部の屋内レジャー施設が運営を停止し、マラソンレース、コンサート、演劇などの多くの公演が延期または中止された。また、市中感染が数カ月間確認されていないいくつかの都市でも文化・レジャービジネスに影響が出ている。国際的な展示会が開かれる南部の東莞は、感染者が報告されていないにもかかわらず、さまざまなイベントを中止した」
下線部の現象は、日本が東京オリンピック時に味わったと同様のソウシャル・ディスタンスの強化である。この「戒厳令」同様の事態は、少なくも来年2~3月の北京冬季五輪・パラリンピックまで続くのであろう。習氏が、欧米製ワクチンを欲しがる理由はこれなのだ。