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米国政府は、米中通商協議を前に、中国の監視カメラ大手を対象にした「禁輸リスト」の拡大を発表した。すでに、ファーウェイ(華為技術)などが対象にされている「エンティティー・リスト」に追加されたもの。

 

米国が,今週の10~11日の米中通商協議を控えた7日(現地時間)に新たな「エンティティー・リスト」追加企業を発表したのは、米国が妥結を急いでいないという示唆と受け取れる。それは、中国が香港のデモ収拾で時間がかかっているからだ。最悪ケースで、人民解放軍の出動で「惨劇」に終われば、対中通商協議が吹き飛ぶ。こういう緊急事態の発生リスクを抱えるだけに、米国は「急がず」情勢観望の時間稼ぎをしているのだろう。

 

『ロイター』(10月8日付)は、「米が中国企業の禁輸リスト追加、ウイグルなど弾圧に関与と判断」と題する記事を掲載した。

 

米商務省は7日、中国の監視カメラ大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や公安機関など28団体・企業を事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」に追加した。中国政府によるウイグル族などイスラム系少数民族への弾圧に関与しているとした。

 

(1)「米商務省によると、新疆ウイグル自治区政府公安局とその傘下にある19の政府機関のほか、営利企業8社がリストに追加された。企業はハイクビジョンのほか、浙江大華技術(ダーファ)や安徽科大訊飛信息科技(アイフライテック)、厦門市美亜柏信息、顔認証技術を手掛けるセンスタイムグループや北京曠視科技(フェイス++)が含まれる。米政府高官によると、今週の米中通商協議との関連はないという」

 

(2)「米商務省はこれら団体・企業が「中国によるウイグル人やカザフ人などイスラム系少数民族への抑圧や恣意的な大量拘束、ハイテクを使った監視を通じた人権侵害に関与してきた」と非難。ロス商務長官は「米政府と商務省は中国における少数民族への残忍な弾圧を容認することはない」と強調した。エンティティー・リストに追加された企業・団体は、米政府の承認なしに米企業から部品を調達することができなくなる」

 

米国が、中国の監視カメラ大手をエンティティー・リストに追加する話は、ファーウェイがこの対象に指定された5月から話題に上がっていた。その意味で意外性はない。ただ、米中通商協議再開直前に、なぜエンティティー・リスト入りを発表したのか。その方が注目される。米国は、中国が監視カメラ大手禁輸を理由に通商協議を延期してくると見たのだろう。この間に、香港デモの収拾方向を見極めたいという思いが強いはずだ。

 

『ロイター』(10月8日付)は、「米中交渉に暗雲、中国企業に禁輸、トランプ氏『大型取引望む』」と題する記事を掲載した。

 

(3)「トランプ大統領は7日、今週に実施される米中閣僚級通商協議について「何か極めて大きなことができる可能性がある」と発言。「大型合意のほうがはるかに望ましい。我々が目指しているのはそれだと思う」と述べた。今週の協議が進展する可能性があるかとの質問には「何か起きるだろうか。起きるかもしれない。何とも言えない。おそらく可能性は低いと思う」と答えた。大統領はホワイトハウスで記者団に「何か悪いことが起きれば、交渉にとって非常に悪いことになると思う。政治的に非常に厳しいことになると思う」と述べた」

 

下線を引いた部分は、香港のデモ問題の行方である。中国人民解放軍がデモ鎮圧の動きを見せているので、米国はこれを警戒している。仮に、米中通商協議が合意した後で、軍事力を行使したデモ鎮圧となれば、米国の立場は台無しである。米国は、慎重に事態を見極める必要があるのだ。

 

(4)「中国共産党の機関紙、人民日報は8日、米との協議について、(1)「公平な」合意に達する、(2)完全な協議決裂、(3)「報復しつつ協議する」という状態の継続、という3つの展開があり得ると指摘。「われわれは良い結果を出せるよう努力するつもりだが、それを無理強いすることはない」と微信(ウィーチャット)の公式アカウントに投稿した」

 

本来なら、中国は通商協議再開直前に、米国による「エンティティー・リスト」発表に対して抗議する局面であろう。通商協議をキャンセルしてもおかしくないのだ。中国は、米国の腹の中を読んで、素知らぬ顔をして通商協議に臨もうというのかも知れない。タヌキとキツネの化かし合い局面だ。