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香港は、中国との「一国二制度」を取り入れたばかりに、自由と民主主義を奪われそうな事態に直面して苦悩している。この苦境を眺めている台湾の蔡総統は、中国の提案している「一国二制度」に、反対する姿勢を鮮明にしている。来春の台湾総統選では当初、蔡氏は不利とされてきた。だが、香港の混乱からにわかに状況が変わり、蔡氏有利という観測が強まって来た。

 

この裏には、米国のテコ入れがある。中国が、台湾の孤立を狙い、南太平洋諸国で台湾と断交させていることが引き金になっている。米国が「台湾防衛」に全力を挙げる体制をとったことが、中国との間で新たな紛争の種になるであろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「台湾の蔡総統、香港の一国二制度は失敗、中国を批判」と題する記事を掲載した。

 

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は10日、双十節(建国記念日に相当)の式典で演説し、「香港は(中国が返還後も高度な自治を認めるとした)一国二制度が失敗し、秩序を失っている」と中国を批判した。台湾は、一国二制度の受け入れを拒否すると強調した。中国の圧力で外交関係を相次ぎ失っていることについては、米国や日本などと連携して対抗する方針を示した。

 

(1)「蔡氏は演説で、民主派と警察の対立が激化し混乱する香港問題について触れたうえで、「中国は一国二制度の『台湾版』を掲げ、我々を不断に脅かしている」と警戒感をあらわにした。香港で適用されている「一国二制度」はもともと、中国が台湾を統一するために考えた制度。同制度が適用されながらも中国が香港への支配力を年々強めるのを見て、台湾でも警戒感が強まっている。蔡氏は、この制度を受け入れれば「(台湾の)生存空間は失われる。拒否は、政党などを超えた台湾の最大のコンセンサスだ」と強調した」

 

習近平国家主席は、在任中に台湾を「一国二制度」に引入れる戦略を練ってきた。国民党政権時に中台関係は緊密化したが、民進党の蔡氏が政権に就くや、中国との間に距離を置いている。「台湾独立宣言」こそしないが、一国二制度を否定する形で、米国との関係強化に全力を挙げている。これが、中台関係悪化の背景である。

 

(2)「台湾は9月、中国の圧力で南太平洋のソロモン諸島、キリバスとの外交関係を相次ぎ失い、台湾を外交承認するのは15カ国まで減った。蔡氏は「中国は権威主義と民族主義、経済力を結集して台頭し、自由と民主主義という世界の価値と秩序に挑戦している」と指摘した。中国は台湾の外交関係を奪うと同時に、地域での軍事・経済的な影響力を拡張する狙いだとの考えも示唆した」

 

中国の狙いは、無血で台湾を解放し太平洋で米軍と互角に戦う体制を整えることにある。これを見抜いている米国が、易々とそれを許すはずがない。台湾の自由と民主主義の防衛のため、台湾に最新鋭の米国製武器の売却を認めるなど、全面的な支援体制を敷いている。もはや「中国一国論」は空論化している。

 

(3)「蔡氏は、「インド太平洋地域の最前線に位置する台湾は、民主的価値を守る第一防衛線だ」と強調した。米国は東・南シナ海での中国の台頭を抑え込むため、日豪など域内国家と連携する「インド太平洋戦略」を推進し、台湾を「信頼できるパートナー」と位置づける。蔡氏はこの戦略に貢献することで中国に対抗する姿勢を鮮明にした」

 

日米豪印による「インド太平洋戦略」では、台湾が重要な基地になる。台湾が、東シナ海や南シナ海での中国海軍の膨張抑止に大きな役割を果たすことが期待されている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月7日付)は、「中国の台湾いじめ、対抗する米上院」と題する記事を掲載した。

 

中国は南太平洋で修正主義を続け、一帯の国々をいじめたり買収したりして台湾との外交関係を断絶させようとしている。9月には、台湾の数少ない同盟国だったソロモン諸島とキリバスが台湾と断交し、中国政府についた。

 

(4)「米国の議員らは注目している。上院外交委員会は2週間前、台湾を防衛する「台北法」法案を上院本会議に上程することを全員一致で決定した。同法案の狙いは台湾を孤立させないことだ。米国が台湾と自由貿易協定を結ぶことや、台湾がより多くの国際機関に加盟すること(これに対する中国の妨害は激しさを増している)を目指している。また同法案は米国務長官に対し、外国政府に台湾との関係を強めるよう働きかけるよう指示し、台湾との関係を弱める国への経済・軍事支援を控えるよう促すことになる」

 

米上院外交委員会は、9月下旬に「台北法」法案を上院本会議に上程することを全員一致で決定した。これまでの「中国一国論」から外れて、台湾防衛を明確にするもの。中国は、内政干渉として強い反応を示すであろうが、米国は意に介していない。中国の軍事的膨張主義を防ぐには当然のコストという割り切り方だ。

 

(5)「なぜ米国が、マーシャル諸島のような遠く離れた小国に影響を及ぼすために財政・外交資本を費やすべきなのか。答えは、中国を向こうに回し、忠実な民主主義の盟友である台湾を支援することが米国の国益にかなうからだ。中国は台湾を外交面で窮地に追い込み、香港の自治への対応と同様、最終的にその主権を侵害しようとしている」

 

中国、ここまで海外領土拡張守護をとらなければ、米国が台湾防衛に立ち上がることもなかったであろう。性急な中国の膨張主義が招いた結果である。