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中国はこれまで、対米通商協議で強気を装ってきたが、ついにそれも限界に達した。米国が追加関税の引上をしないことを前提に、農産物輸入増と金融サービス解放を行い、ひとまず米国の要求を受入れることになった。先に、中国国営メディア・新華社が「誠実に合意に向けた努力をする」と白旗を掲げていたが、現実に「第一段階合意」にこぎ着けた。

 

『ブルームバーグ』(10月12日付)は、「トランプ大統領、米中の部分合意を発表ー貿易協定第一段階」と題する記事を掲載した。

 

(1)「トランプ米大統領は11日、米中が貿易戦争の休戦につながる合意の「第一段階」に達したと発表した。合意の一環として、中国は一部の農産物に関して譲歩したという。トランプ氏がホワイトハウスで記者団に話したところによれば、合意はまだ文書化されておらず、それには3週間から5週間を要する見通し。部分合意は一部の短期的な問題を解決する可能性がある一方、難しい問題は残る。米政府が貿易戦争で目指すのは、知的財産の侵害や強制的な技術移転、国内産業の助成に対する不満の解決が中心となっている。ムニューシン米財務長官は第一段階の合意には金融サービス企業に対する市場開放が含まれると述べた」

 

米中通商協議が始まって1年余、中国経済の打撃が大きく米国へ「休戦」を求めた形だ。農産物輸入も金融市場開放も、中国がこれまで言及しながら棚上げしてきた問題ばかりだ。米国がそれを承知で、中国提案を受入れたのは、世界経済の変調がある。肝心の米国内経済に黒点が現れてきた以上、「休戦」に同意したのであろう。そういう米国の不満は、次の報道によく現れている。

 

『ロイター』(10月10日付)は、「米中、通商協議で部分合意、農産物や為替など 対中関税見送り」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米大統領は11日、米中が「第1段階」の通商合意に達したと発表し、前日から2日間の日程で行われていた両国の閣僚級通商協議が部分合意に達したことを明らかにした。

今回の「第1段階」では中国による米農産品の大規模購入のほか、一部の知的財産権、為替、金融サービスの問題などについて合意。さらに米国は15日に予定していた対中制裁関税引き上げを見送る。

 

(2)「トランプ大統領は中国の劉鶴副首相との会談後、両国が基本合意し、貿易戦争の終結に近づいていると言明。今回の合意の文書化には最長5週間の時間を要する見通しで、チリで11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で中国の習近平国家主席と署名する可能性があると述べた。今回の合意は両国にとって素晴らしいとし、とりわけ為替問題を巡る合意は多大な恩恵をもたらすとの認識を示した」

 

第一段階で合意した中で、為替問題が入っている。これは人民元相場の透明性を狙ったもので、資本自由化や変動相場制を視野に入れたのか不明である。仮に、ここまで踏込んだとすれば、中国経済は「全面降伏」を意味する。

 

(3)「一部の知的財産権や技術移転を巡る問題については進展があったものの、「第2段階」でさらに踏み込む必要があるとした第1段階の合意に署名後、第2段階の交渉を開始し、その後「第3段階」の合意が続く可能性があると述べた。劉副首相は、米中経済関係の良好化に向け大きな進展があったと評価し、今後も取り組みを継続すると述べた」。

 

知的財産権や技術移転問題は、「第二段階」での交渉になるという。米国は、中国の「反古」を警戒して、合意できたもから成文化して調印するという手堅い戦術に変っている。一括合意方式は、また中国の心変わりで「白紙」にされるリスクを避けるものだろう。

 

(4)「ムニューシン米財務長官は、金融サービスについてはほぼ全面的な合意を得られたほか、為替相場の透明性向上についても合意したと語った。中国に対する為替操作国の認定を撤回するかどうかについては、今後精査するとした。また、今回の合意内容が文書化されるまで「米国は署名しない」とも述べた。ムニューシン長官は、15日に予定されていた対中関税引き上げの延期を確認したものの、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、12月に発動される予定の対中関税については何ら決定されていないと述べた。ライトハイザー代表はまた、今回の合意では中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の問題には触れていないことを明らかにした」

 

このパラグラフを読めば、中国が小出しで米国へ全面譲歩していることが分る。何段階かに分けて合意する目的は、中国国内の事情であろう。こういう結末になるならば、1年余関税戦争をして何も得られず最悪結果に終わった。改めて、習氏を含む民族派の見通しの拙さが問われる。

 

残りは「中国製造2025」の補助金問題である。「今回の合意で中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の問題には触れていないことを明らかにした」となれば、技術禁輸が継続される。中国は、撤廃を狙ってきたこの問題が不発に終わった。その代償は大きい。米国が中国に対し断固、世界覇権を許すがごとき言動をしない点で、中国は米国に完敗だ。中国が、自国の実力も弁えず調子に乗りすぎた。