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中国は、南シナ海領有を主張して強硬策を取っている。だが、国際司法の場では見事に「敗訴」した。この判決を無視して居座り、着々と既成事実をつくって「自国領有」にする戦術を進めている。これに反発するASEAN(東南アジア諸国連合)が、立ち上がって抗議姿勢を強めている。

 

中国は無謀にも、南シナ海のほぼ全域に対して領有権を主張している。一方目下、対立しているベトナムに加え、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾も同じ海域に領有権を主張し、中国と対立している。フィリピンの提訴によって2016年、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、中国の主張に法的根拠がないと裁定を下している。中国政府はこれを受け入れず、紛争は未解決のまま。前記諸国が、中国へ対抗姿勢を強める理由だ。米国もこれを応援するなど、国際問題化している。

 

『日本経済新聞 電子版』(11月4日付)は、「ASEAN、中国の分断工作に反発、南シナ海問題で」と題する記事を掲載した。

 

東南アジア諸国連合(ASEAN)が南シナ海の領有権問題を巡って、中国への反発を強めている。中国はASEAN各国の分断工作を仕掛けるが、3日まで開かれたASEAN関連首脳会議ではマレーシアなどから反発する声が相次いだ。ASEANや日米中の各国が参加する東アジア首脳会議の議長声明では、南シナ海問題に関して例年よりも強い懸念を示す表現を盛り込む案が浮上している。

 

(1)「マレーシアのサイフディン外相は2日にバンコクで開かれたASEAN関連会合で、(中国政府に所属する中国公船を管理する)中国海警局の存在を非常に懸念している」と強調した。中国は今夏以降、領有権問題で「反中国」の立場を鮮明にするベトナムと他のASEAN参加国を分断する戦略を進めてきた。習近平(シー・ジンピン)国家主席は8月に訪中したフィリピンのドゥテルテ大統領と会談し、南シナ海での石油・天然ガスの共同開発の推進を提案。経済協力をテコに同国を取り込む姿勢をみせていた」

 

中国は、対立しているベトナムを孤立させるべく、フィリピンのドゥテルテ大統領を取り込む動きを見せた。ASEANの分断工作に出たのだ。これが、ASEAN側を強く刺激した。フィリピンは、もともと南シナ海領有で中国を仲裁裁判所へ提訴した国だ。そのフィリピンを抱き込む工作は大胆すぎた。フィリピンを舐めていたのだ。

 

フィリピンのドゥテルテ大統領は、先に筋肉の収縮する難病にかかっていることを公表した。フィリピンの歴史を汚す行動を取れるはずがない。中国の誘いを振り切って、大義に生きることを鮮明にした。

 

(2)「ドゥテルテ氏は2日夜のASEAN首脳会議で「南シナ海の航行の自由がASEANにとっての優先事項だ」と明言した。3日の中国・ASEAN首脳会議でも李克強(リー・クォーチャン)首相を前に「南シナ海での軍事的な活動を控えるべきだ」と発言し、中国への反発をあらわにした。2日時点の東アジア首脳会議の議長声明案では、南シナ海問題について「継続的な軍事化に重大な懸念を表明する」との記述が盛り込まれている。南シナ海問題で強い表現を求めるベトナムに、ASEANの複数の国が同調したためとみられ、10月時点の「幾つかの懸念に留意する」から表現が強まった」

 

ドゥテルテ氏はこれまで、中国に対して融和姿勢で臨み、中国から経済援助を引きだす戦術をとってきた。結果は、すべて中国の「空手形」に終わっている。中国が、経済支援すると言っても形ばかり。フィリピン国内には、中国批判が渦巻いていた。こういう国内事情に従えば、フィリピンは、他のASEANと同じ強硬姿勢を取るほかなかったと見られる。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月4日付)は、「南シナ海で中越対立、『そっちこそ出ていけ』」と題する記事を掲載した。

 

ベトナムは今年数カ月にわたり、同国沖の南シナ海で中国の石油・ガス調査船の動きを監視してきた。これを受け、中国側に対し、ベトナムの排他的経済水域から出ていくよう要求した。

 

(3)「ベトナム政府当局者によると、中国からの回答はこうだ。「ベトナムこそ掘削をやめるべきだ」。この海域では5月に掘削リグ「Hakuryu-5」がロシアの国営石油企業 ロスネフチ との契約に基づいて操業を開始していた。ロスネフチはベトナムから認可を受けた海洋鉱区を運営している。(中越の)海上でのにらみ合いは3カ月以上続いた。その間、中国、ベトナム双方の法執行船は互いを尾行し合ったり、複数の中国沿岸警備隊の船舶がベトナムの船舶めがけて放水砲を噴射したりした。10月下旬、前出の掘削リグが任務を終え、同海域を離れると、中国の調査船も去った」

 

中国沿岸警備隊の船舶は、ベトナムの排他的経済水域に入り込み、ベトナム側からの委託掘削リグを行なう企業船舶に妨害工作を行なう不法行為を働いてきた。仲裁裁判所から敗訴の裁定を受けた中国が、こういう違法行為を堂々と行なってきたのだ。許しがたい振る舞いである。ASEANが危機感を以て中国へ対抗姿勢を取ったのは当然である。

 

(4)「ASEAN各国が中国への反発を強めるのは、中国が南シナ海での活動をますます活発化しているためだ。中国の海洋調査船は7月上旬から3カ月以上にわたり断続的にベトナムの排他的経済水域(EEZ)で調査活動を実施した。マレーシアの近海でも中国政府に所属する中国公船が頻繁に現れるようになり国内の懸念が強まっている。サイフディン氏は「南シナ海問題はASEANが一つのグループとして議論すべきだ」と主張し、中国の切り崩し工作をけん制する」

 

中国は、現在の国力を過信している。こうして、周辺国を「反中国」側に向かわせ、中国に味方する国を減らしている。日本が、旧満州へ出兵し傀儡政権をつくって受けた中国の「痛み」を忘れた行動である。歴史を反芻すべきなのだ。

 

(5)「貿易戦争で中国との対立を深める米国も南シナ海での中国の活動に懸念を抱いており、ASEAN各国への外交的な働きかけを強めた可能性がある。ペンス米副大統領は1024日の演説で南シナ海問題を巡り「この1年間で中国の行動は隣国に対しさらに挑発的になってきた」と危機感を示していた」

 

米国が、中国に対して一段と警戒する原因を、中国自らがつくっている。愚かなことだ。将来、アジア版「NATO」(北大西洋条約機構)ができて、中国包囲網が完成する。中国は自ら、そこへ飛び込んでいく哀れな姿に見える。