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中国共産党の重要会議である、第19期中央委員会第4回全体会議(全中4会)は10月末に終わった。「中国の特色ある社会主義制度の維持・改善と、国家統治システムと能力の現代化に関する決定」を採択し、閉会した。部外者には、何を決めたのかよくわからないが、習氏の政治思想を全党で学ぶことが公式文書の最初に登場することで方向性が滲んでいる。実は、ここに仕掛けがあった。

 

習氏が、独特の政治哲学を持っていると聞いたことはない。だが、「習思想」に名を借りて、党員に中国共産党を支持し、結束するという誓いを立てさせるのであろう。毛沢東時代は、「毛語録」が絶対的な価値を持っていた。現代は、スマホ時代である。活字よりもアプリを使えば簡単に共産党思想を学べさせる便利な時代になった。

 

実は、スマホで得られる「思想アップリ」には、とんでもない「バックドア」がつけられていると言う。アプリをダウンロードすれば、それが「いもずる式」に通話相手先の情報まで北京に集まっているという恐るべき指摘が登場した。

 

4中全会決定の主なポイントは、次のようなものだ。

 

.習氏の政治思想で全党を武装

.習氏の思想を学ぶキャンペーンを正式な制度に

.ビッグデータやAIを活用して管理する行政制度を構築

.ハイテク産業を構築する挙国体制を構築

.国有企業などをより強くする

 

これら項目を読めば、中国共産党が結束させるという「危機感」の表明である。国民生活を豊かにするとかいう身近なテーマは絶無。ただ、党と国民をがんじがらめに支配する「管理」しかないことに気付くはずだ。これを裏付ける記事が登場した。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月15日付)は、「中国、アプリ通じ国内外のデータ収集強化」と題する記事を掲載した。

 

中国は国内や世界で大量のデータを収集するため、一見すると無害なモバイルアプリや翻訳サービスを利用している。オーストラリアとドイツの研究者が発表した報告書で明らかになった。

欧米の政策当局者は、第5世代移動通信システム(5G)やサイバー監視に関する中国の技術的進歩に注目している。だが新たな研究によると、中国は大量のデータ収集活動を一段と広げ、翻訳など無害に見える技術も取り込んでいる。

 

(1)「ドイツのサイバーセキュリティー会社Cure53が、10月12日に発表した報告書によると、デジタル版「毛沢東語録」にリンクされた中国のプロパガンダアプリには1億人以上が登録しており、中国共産党がひそかにユーザーの位置情報や通話、連絡先リストを入手する手段となっている可能性がある。この報告書は米ラジオ・フリー・アジアが支援するオープン・テクノロジー・ファンドの委託で作成された。一方、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の調査によれば、ビッグデータや人工知能(AI)を専門とする無名の中国国営企業は、中国の安全保障機構向けに、ソーシャルメディアや従来型メディアなどの情報源から、1日当たり65カ国語の計5兆ワード相当を取り込むことが可能だ。ASPIは豪政府や欧米の防衛企業が支援している。両報告書の執筆者らは、中国が政治目的で膨大なデータの活用を高度化させていることが浮き彫りになったとしている」

 

デジタル版「毛沢東語録」にリンクされた中国のプロパガンダアプリは、1億人以上が登録しているという。ここには、「バックドア」がつけられており、本人だけでなく連絡先までの情報が集められている。まさに、中国共産党は居ながらにして1億人以上の動静とその連絡先の情報を入手している。秘密警察そのものだ。また、ソーシャルメディアや従来型メディアなどの情報源から1日当たり65カ国語の計5兆ワード相当を取り込むことが可能なソフトを動かせるという。中国は、世界覇権のためか自己防衛のためか、ガードを固めている。

 

(2)「10月14日発表されたオーストラリアの報告書は、中国企業の中訳語通(GTCOM)が収集データを基に軍事情報など安全保障関連の情報をまとめた可能性が極めて強いと指摘。データは「共産党政権が世論を形成するツールを開発する助け」になり得たとしている。GTCOMの親会社に当たるチャイナ・トランスレーションとチャイナ・パブリッシング・グループは、共産党中央宣伝部の直接の監督下にある。GTCOMはシドニーやウィーンをはじめ欧米都市で大学と提携関係を結んでいる」

 

中国企業の中訳語通(GTCOM)は、シドニーやウィーンをはじめ欧米都市で大学と提携関係を結んでいる。一見、研究機関を装っているが、収集したデータから軍事情報など安全保障関連の情報をまとめた可能性が極めて強いと指摘している。中国共産党が、身近なところまで手を伸して、自由世界へ軍事挑戦している実態に目を向けるべきだろう。米中は、冷戦時代に入っている。これは、紛れもない事実だ。