米国は、中国の資金調達窓口である香港に、大きな壁をつくる法的な根拠を握った。米議会上院が19日、香港での人権尊重や民主主義を支援する「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。この法律によれば、中国が香港に高度な自治を認める「一国二制度」が機能しているかどうか。米政府に毎年の検証を義務付けるもの。人権が冒されていれば、米国が香港に認めた特恵条項(貿易、関税、航空、金融面などでの協力)をはく奪することができる。トランプ大統領の署名を待って発効する。
中国にとっては、「魔の法律」である。香港が国際金融都市として発展している裏には、米国の特恵があるからこそ可能であった。その特恵が消えれば、中国も大きな痛手を受ける。
中国外務省の馬朝旭外務次官は20日、米上院が19日に「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決したことを受け、在中国米大使館の幹部を呼び「強烈な抗議」をしたことを明らかにした。「法案の成立を止めるように強く求める」と主張した。成立時には報復措置を取り「一切の悪い結果はすべて米国が負うことになる」と強調した。馬氏は「法案は公然と香港に介入し、中国の内政に干渉している。国際法違反だ」と指摘した。「中国政府の国家主権と安全を守る決意は断固たるものだ」とも述べた。以上、『日本経済新聞 電子版』(11月20日付)が報じた。
中国は、「中国の内政に干渉している。国際法違反だ」としているが、米国の与えている特恵条項の前提が消えれば、特恵条項を廃止するのは当然だ。中国の理屈は通らない。韓国が、日本から「ホワイト国除外」されて抗議しているのと同じ誤りである。
香港の金融関係の特恵が消えれば、最大の影響は金融面に現れる。IPO(新規公開株)において、オンショア市場(内―内の取引)とオフショア市場(外―外の取引)では、香港のオフショア市場で、中国企業が79.9%(1997~2019年9月まで)を占めた。上海のオンショア市場は、中国企業が60.2%(同)である。以上のデータは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月23日付)による。
上記の結果は、中国本土の企業は1997年以降、香港市場での株式発行で3350億ドル(約36兆3500億円)を調達しており、本土で発行するより幅広く株主を集めていることを示している。本土で調達できる資本の金額は大幅に増えてきた。ただ、香港ドルは米ドルに連動しているうえ、香港には資本規制がないため、香港市場への上場は外国企業の買収や国外投資に向けた国際決済通貨の入手につながり得る。同じ目的で上海市場への上場を利用するのは、ずっと困難だろうと見られている。
中国企業にとっては、上海市場での新規株式公開よりも、香港市場のほうがはるかに有利と言える。この有利な条件が、「香港人権・民主主義法」で取り上げられれば、中国に痛手であることは言うまでもない。
『日本経済新聞 電子版』(11月20日付)は、「人権法案、発動なら香港経済に打撃 拠点見直し加速か」と題する記事を掲載した。
(1)「米議会が可決した香港人権・民主主義法案は、香港に高度の自治を認める「一国二制度」が機能していないと米政府が判断すれば、貿易やビザなどの特別扱いをやめる内容だ。人権侵害に関与した当局者の財産を凍結したりできる。香港には1300社超の米企業が拠点を置き、米中の結節点として機能してきた。香港経済だけでなく米企業にも影響が及ぶ劇薬である。米国は香港の中国返還後も、中国本土とは異なる地域として香港を経済的に優遇してきた。香港原産品には対中制裁関税が適用されず、米国のビザも中国本土の居住者に比べ取得しやすい。人権法案はこうした優遇を続ける前提として、米政府に香港の政治状況の検証を義務付けるのが柱だ」
香港は、中国本土の居住者よりも米国ビザが取りやすいなど、中国本土よりも優遇されてきた。今回の香港人権・民主主義法が大統領のサインで発効すれば、香港はすぐに米国の調査対象になる。その結果、「クロ」と判定されれば、香港住民も中国企業も損害を被る。
(2)「香港には米国の投資銀行や貿易会社など1344社が拠点を置き、そのうち278社は中国やアジアの地域統括本部と位置づける。米中の貿易摩擦が激しさを増すなかでも、香港では米銀が中国企業の株式上場を支援するなど、米中のビジネス上の交わりは深い。米国が人権法案を発動すれば「香港は名実ともに中国本土の都市と同じになった」と受け止められ、外資系の拠点見直しが相次ぐ可能性がある。香港に拠点を置く調査会社ギャブカルは法案について「国際金融センターとしての香港に打撃となり得る」と指摘した」
下線を引いた部分は、香港に進出している米企業にもマイナスを与える。「国際金融センターとしての香港に打撃となり得る」という指摘の通りであろう。東京都知事の小池氏は、東京を国際金融都市にする案を打ち上げている。東京は、「第二の香港国際金融市場」に成長できる機会が巡って来たと言える。
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