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前法相のチョ・グク氏を巡るスキャンダルは、消しがたい文政権への不信を生んでいる。チョ氏は、もともと豊かな家庭の出身である。その娘も、両親による不当な手段で医学部というエリートコースに難なく進んだ。その実態が明らかにされるとともに、貧しい家庭出身の若者には、救いがたい絶望感を与えただけでなく、文政権への支持率を急落させている。

 

文在寅大統領は、「口舌の徒」である。口では実に立派なことを立て板に水のごとく語る。だが、残念ながら実績を伴わないのだ。それは、弁護士稼業の性とでも言うべきだろう。弁護士は、相手の弱点を突いて勝訴するのが仕事である。政治家は実績を伴って初めて、有権者の評価に耐えられるもの。文氏は所詮、弁護士意識のままであって、大統領の意識にまで高まっていないのだ。

 

『ロイター』(11月27日付)は、「文政権下で広がる格差、韓国『泥スプーン組』の絶望」と題する記事を掲載した。

 

ファン・ヒョンドンさんは、自身が通うソウル市内の大学キャンパスに近い6.6平方メートルの小部屋で暮らしている。浴室とキッチンは共同、米飯だけは無料で食べられる。家賃は月35万ウォン(302ドル)だ。こうした「コシウォン(考試院)」と呼ばれる施設に並ぶ貧相な部屋は、以前はもっぱら、公務員試験のため一時的に缶詰め状態で勉強をしようという、あまり裕福でない学生が利用する場所だった。だが昨今は、ファンさんのような貧しい若者の恒久的な住まいになる例が増えている。ファンさんは「泥スプーン」組の1人を自称する。「泥スプーン」とは、社会的な成功をほぼ諦めた低所得世帯の出身者を指す言葉だ。

 

(1)「低所得世帯の出身者を意味する「泥スプーン」組と、裕福な家庭の子息を示す「金スプーン」(注:銀スプーン)組という言葉はよく知られているが、ここ数年、急速に政治的な場面で口にされるようになり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持を押し下げる要因になっている。文在寅氏は、社会的・経済的公正を公約に掲げ、2017年に大統領の座に就いた。だが、5年の任期も半ばになろうというのに、格差拡大という重荷を背負わされた韓国の若者に対して、ほとんど成果を示せないままだ。文政権になって以来、逆に所得格差は拡大している。公式統計によれば、最上位層と最下位層の所得格差は、文大統領就任前の4.9倍から5.5倍に上昇した

 

最上位層と最下位層の所得格差が、文大統領就任前の4.9倍から5.5倍に上昇した現実はなぜ起こったのか。最低賃金の大幅引上げで、財閥系企業の労組員の賃金は上昇した。反面で、自営業中心に「最賃失業」とも呼ぶべき被害が出た。最賃を支払えない零細企業は、従業員を解雇したからだ。最低賃金の大幅引上げが、生産性上昇率を上回った結果である。

 

最賃引上幅をもっと小幅に抑えていたならば、こういう悲劇は起こらなかった。経済に疎い文政権の弱点が曝け出されている。むろん、事前の反対論も強かった。IMFやOECDまでが警告を発していた。それらをすべて無視した点で、単なる無知ではなく「確信犯」であった。文大統領の責任はきわめて重いのだ。

 

(2)「メディア論を研究する大学3年のファンさんによれば、「泥スプーン」組には自分を含め、以前であれば懸命に努力すれば何とかなると考えがあった。しかし、曺国(チョ・グク)前法相をめぐる汚職疑惑が彼らの怒りに火をつけた。曺前法相と大学教授である彼の妻は、2015年、自分の娘を医学部に入学させるために自らの地位を利用したとして告発された。このスキャンダルは文政権発足以来最大となる抗議行動を数次にわたって引き起こしたが、生活に苦しむ多くの若者にとっては、裕福な家庭の出身者が両親の地位と資産の助けを借り、さらに優位に立つという実態を暴露する結果となった」

 

文大統領は、チョ・グク氏を法相に任命する前に、多くの疑惑に包まれている事実を知っていた。それにもかかわらず、任命を強行した責任も問われている。それは、チョ氏の行為を「是」として受入れていたことだ。文大統領がこれまで、機会平等、公正な競争、正義について語ってきた。自らが、それを裏切ったのだ。正義観の強い若者が、文氏に絶望したのは当然であろう。

 

(3)「やはり「コシウォン」の小部屋で暮らす26歳のキム・ジェフンさんは、「スタートラインが違うという点について文句を言うことはできない」と話す。「だが、不正なやり方で支援を得ている人がいるというのは腹が立つ。私が働かなければいけないときに勉強している人がいるのは構わない。私が怒っているのは、彼らが不正な手助けを得ているからだ」。キムさんのような低所得層の有権者の「文政権離れ」は、過去に類を見ないペースで進んでいる。韓国ギャラップが行った世論調査では、19~29歳の有権者による文政権支持率は、2017年6月の90%から今年10月には44%まで急落した。低所得層と見なされる有権者のあいだでの支持率は、2017年半ば以降、44ポイント低下している」

 

文氏が大統領選で勝利を得たのは、低所得層である若者の正義観がもたらす支持であった。今や、その支持が白紙撤回された事実は、来春の総選挙の結果に表れるだろう。韓国では、中道派(無党派)の動きで選挙結果が左右される特色を持っている。チョ・グク事件は、大きな影響を及ぼすであろう。