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米国は、「香港人権法」を発効させ、「一国二制度」が条約通りに運用されているかをチェックすることになった。中国による香港の人権弾圧を阻止する目的だ。違反していれば、米国が香港に与えた特権(関税、ビザなど)を剥奪するというもの。中国は、内政干渉として反発し、「報復」すると息巻いていた。

 

その報復策が、中国外務省から発表された。「形式的」という結果に終わった。米韓の香港寄港禁止とNGO制裁という「小ぶり」である。事前報道では、今回の「香港人権法」に関わった人物のビザを発給しない。また、米企業の中国本土からの追放などが上がっていた。だが、蓋を開けたら「小粒」で驚くほかない。米国からのさらなる報復を恐れたに違いない。

 

中国が、この程度の「報復」に止まったのは、中国経済の破綻が進んでいるからだ。もはや、崩れる寸前の中国経済である。信用機構は、厳戒体制である。ドル建て債券のデフォルトさえ起こっており、米国のご機嫌を損じてはならない局面だ。中国企業について、米国市場での上場禁止論も出ている。ともかく、米国の神経に障ることを極力控えるという状態だ。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月2日付)は、「米軍の香港寄港を当面禁止、中国外務省」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国外務省の華春瑩報道局長は2日の記者会見で、米国で「香港人権・民主主義法」が成立した報復措置として、米軍の艦船が香港に寄港するのを当面禁止すると発表した。米国の非政府組織(NGO)を制裁対象とする方針も明らかにした。追加措置をちらつかせて米国をけん制した。混乱が続く香港情勢への「米国の関与」を国内に印象づける思惑もありそうだ。華氏は「香港人権・民主主義法は国際法に違反しており、中国への重大な内政干渉だ」と強調した。米軍の艦船や航空機が整備などで香港に立ち寄る際に必要な手続きを停止することにした。「情勢に応じてさらに必要な行動をとる」とも述べた」

 

香港人権法は、中国にとってはきわめて深刻な法律である。中国は「内政干渉」というが、民衆弾圧の挙に出れば、それによって中国自身が「香港人権法」で間接的な損害を被るシステムになった。つまり、米国が与えた「香港特権」を剥奪されるのだ。こうなると、中国は事実上、「一国二制度」を法規通りに運用せざるを得ない。

 

(2)「香港への艦船などの立ち寄りの可否はそのときの米中関係を表しやすいとされる。

米海軍が南シナ海で哨戒活動を実施していた20164月には米国の空母などが香港への入港手続きを拒まれた。チベットや台湾問題を巡り米中の対立が起きていた07年も米空母の入港手続きが拒否された。対照的に1811月には米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」が香港に寄港した。同年12月の米中首脳会談を控え、中国側に貿易協議を巡る摩擦が高まるのを回避する思惑があったとの見方がある」

 

香港への米艦寄港禁止は、一時的措置とされている。ただ、『ロイター』は、「米軍の立ち寄り申請の受け付けを無期限で停止した」としている。日経の報道と食違いがある。

 

(3)「当面香港への入港ができなくなっても米海軍の行動に大きな影響がでる可能性は小さい。過去の入港拒否では中国側が発表しなかったケースが多かったが、今回は香港への立ち寄り禁止を内外に宣言したのが特徴だ。米国をけん制する政治的メッセージを出す狙いがあったとみられる」

 

寄港禁止が一時的とすれば、影響は少ない。ロイター報道のように「無期限」とすれば、米国がさらに反発して、圧力を加える可能性が出るだろう。

 

(4)「中国共産党の習近平指導部は同法の成立後、米国に猛反発していた。香港区議会選で民主派が圧勝した香港情勢に米国が関与していると印象づけ、国内の結束を促す狙いもありそうだ。一方で、報復措置は「当面の間」とした。華氏は「いつまで香港への立ち寄りを停止するかは米国の実際の行動を見てからだ」と述べた。トランプ米政権は同法を成立させたものの、同法に基づく制裁の発動などには踏み込んでいない。米中貿易協議の先行きも不透明感が漂っている。米国の出方を見極め「交渉材料」にしようとしている可能性がある」

 

トランプ大統領は、香港人権法に署名した。実施は、大統領特権に基づくと含みを持たせている。中国もこれに応えて抑制的な対応に止めている側面があろう。

 

(5)「華氏は米国の全米民主主義基金(NED)や米人権団体フリーダムハウス、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチの名前を挙げて「(香港の抗議活動を)さまざまな手段で支持した」と主張。制裁対象にしたと述べたが具体的な内容には踏み込まなかった」


国際NGOを制裁対象にしたが、具体的な内容に踏込んでいない。国際NGOは、もちろん民間組織である。その役割においては、「準政府的」な存在である。それだけに、中国政府は制裁を躊躇している面もあろう。