a0960_006602_m
   


中国は、米国議会の人権法案の連続目標となっている。これまでの中国は、米国が通商問題に焦点を合せていたのでゆとりがあった。ところが「人権の総本家」である米国が、人権という人類の普遍価値擁護の旗印で中国を揺さぶっている。中国は、あれこれ弁明しているが、いずれも我田引水で説得力ゼロ。一段と窮地に立たされている。

 

『ロイター』(12月5日付)は、「ウイグル人権法案、中国が香港問題以上に反発する理由」と題する記事を掲載した。

 

中国政府は、トランプ米大統領が先月署名して成立した香港人権・民主主義法に怒りを表明した。しかし、米下院が3日可決したウイグル人権法案は、もっと露骨に中国政府を締め付ける内容となっており、中国がさまざまな報復措置を本格的に講じて米中貿易合意に向けた取り組みが台無しになる恐れがある

 

(1)「ウイグル人権法案は、新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族を弾圧する当局者に制裁を科すことなどを求めている。米議会関係者や中国専門家の話では、特に中国政府は、個人の監視に使われる顔認証や音声認識の技術や製品の輸出を禁じる条項に神経をとがらせているという。中国政府は、法案で共産党政治局員が初めて制裁対象に加えられた点にも気分を害するだろうが、禁輸などの商業的な措置の方が中国共産党指導部の利益に実質的打撃を与える効果が大きいと複数の専門家は話す」

 

下線を引いた部分は、中国共産党の腐敗ぶりを象徴した話だ。ウイグル人権法では、監視カメラの非人道性が問われている。この監視カメラ会社に多く投資しているのが、共産党幹部や家族たちとされている。それだけに、ウイグル人権法案が米議会上院で可決・成立すると、中国側での抵抗が激しくなり、騒ぎが大きくなるだろう、という観測である。

 

それにしても、監視カメラの非人道性を利益の道具に使っている共産党幹部のモラルが問われる。儲かる話には、必ず共産党幹部がにじり寄ってくる。「ウジ虫」のような存在に見えるのだ。

 

ウイグル人権法案が、香港人権法よりも打撃が大きいというのは、完全な錯覚である。香港人権法が作動すれば、中国企業の香港市場(オフショア)の利用が制限されて、中国企業の資金調達が抑制される点で、致命的な打撃を与えられる。香港人権法は、マクロ経済の打撃、ウイグル族人権法案は、個人レベルの懐が満たされないという程度の話だ。両法案は、比較すべき次元が異なる。

 

(2)「米上下両院の主要メンバーとトランプ政権はかねてから、中国が国連の推定で少なくとも100万人のウイグル族を拘束していることについて、人権と宗教の自由に対する重大な侵害だと警告を発してきた。一方で中国は、そうした非難は不当だと突っぱねている。ある中国政府筋はロイターに、中国とすれば香港人権法はまだ我慢できるものの、ウイグル人権法案は「やり過ぎ」で、トランプ氏が最優先課題とする米中間の「第1段階」の貿易合意への道筋が損なわれかねないとの見方を示した

 

下線は中国政府筋が、完全に香港人権法の保つ「マクロ経済的な影響力」を理解できない、ことを証明している。米中貿易戦争も、この程度の認識で応戦した結果、もはや身動きできない状態へ追い込まれている。香港人権法も同じこと。気付いたら、完全に米国の術中にはまっていることに気付くだろう。彼らには「マクロ経済知識」が欠如している証拠だ。

 

(3)「米議会関係者の1人も、ワシントンにいる中国政府に近い人物から最近、香港人権法よりもウイグル人権法案の方が反感を持たれる理由が山ほどあると言われたことを明らかにした。なぜならウイグル人権法案には、もうけを生み出すセキュリティー関連技術の厳格な禁輸や、資産凍結の脅し、これに関連しての中国当局者へのビザ発給禁止が盛り込まれているからだ。カリフォルニア大学で中国・太平洋関係を研究するビクター・シン准教授は、中国において大衆監視は巨大ビジネスになっており、法案が可決されると多くの関連ハイテク企業が痛手を受ける可能性があると指摘した」

 

人権弾圧の監視カメラ産業が、巨大なビジネスとなって共産党幹部の家族に利益のチャンスを与えているという。人間が、人間を食い物にしており極限の「欲望産業化」している。こういう不条理が盛んな国家に永続性があるだろうか。一種の「奴隷売買商人」と同じ振る舞いである。道義上から言っても、破綻するビジネスである。

 

(4)「中国は2017年に、国内治安維持で約1兆2400億元(1760億ドル)を支出。政府支出総額の6.1%に相当し、国防費を上回った。監視技術向けを含めた国内治安関係予算は、新疆ウイグル自治区や北京などの地域で倍増している。これらのハイテク企業への出資者には共産党幹部の親族が入っており、法案が通れば金銭的な打撃を受けてもおかしくないと述べ、「法案が彼らの収益を直撃するからこそ、中国がより強く反発している」と説明する。また同氏は、法案が成立すれば、中国企業は米国からの技術調達能力が損なわれ、製品開発に悪影響が及ぶと予想する」

 

「太子党」とか「紅二代」という言葉が今も生きているのは、共産党革命で功績のあった遺族には、特別の利益供与がされている証拠だ。その彼らは今、監視カメラで利益を懐に入れているという。人権弾圧に貢献したカメラ会社で利益を上げるのは、「人間に巣食うダニ」のような存在とも言えよう。