テイカカズラ
   

2020年のGDPは、2010年比で倍増目標達成時期に当っている。それには、2019~20年に6.1%以上の成長率が必要とされている。計画達成に拘る中国が、来年の経済成長率をどの程度に設定するか。季節的に注目される時期を迎えている。

 

今年の経済成長率目標は6.0~6.5%であった。幅を持たせたのは、不動産バブル崩壊で政策運営に自信が持てなかった証拠である。米中貿易戦争も加わり、厳しい経済運営を余儀なくされた。来年についても、事情は何ら変っていない。経済成長率目標は下げざるを得ず、米国の投資銀行ゴールドマン・サックスは、「6%前後」と予測している。

 

『ブルームバーグ』(12月9日付)は、「中国、2020年の成長率目標は6%前後に引き下げへ-ゴールドマン」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国は2020年の国内総生産(GDP)成長率目標を「6%前後」に引き下げる公算が大きく、これによって政策担当者は10年間で所得を倍増させる計画を維持しつつ成長鈍化に対応する余地が生まれる。ゴールドマン・サックス・グループが予想した」

 

習氏としては、2020年のGDPを2010年比で倍増させて、自らの権威を高めたかったはずだ。ただ、これまでの9年間は、不動産バブルを引き起こしてまでGDPを押し上げる、無理に無理を重ねてきた。その無理が祟って、空前絶後の不動産バブルを引き起こし、家計まで過剰債務に陥るという危機的な状況に立ち至っている。この責任は、すべて習近平氏に帰すだけに、これ以上の無理を断念したのだろう。当然のことである。

 

ゴールドマン・サックスは、来年の経済成長率目標を「6%前後」という微妙な線に抑えたのは、習近平氏が妄念を捨てきれず、6%以上の高い成長率に拘るという「万一」を想定しているのかも知れない。それは、中国経済の「自殺」を意味するが、暴君とはそういう破天荒なことをさせる「権力」を保つ現実に立っているのだ。

 

(2)「中国共産党は今月の年次中央経済工作会議で、来年の成長率目標を今年の6〜6.5%から引き下げる見通しだと、宋宇氏らエコノミストが6日公表されたリポートで指摘した。  曖昧な「前後」という言い回しを使うことで、6%を下回る成長率も目標の範囲内として許容されることになると宋氏らは指摘する。同会議で設定された経済目標は、3月の全国人民代表大会(全人代)で正式に承認されるまで、通常は公表されない」

 

12月中旬の「経済工作会議」で、来年の経済成長率目標を決めるが、発表は来年3月である。世評でも、「6%前後」説が飛び交っている。実質的には「5%台」が有力であろう。もはや、インフラ投資に依存する以外、GDPを押し上げる原動力はなくなっている。ただ、資金調達は債務によるもので、中国経済は最終的な「行き詰まり」過程に落込んでいる。本来であれば、米国と貿易戦争など行える体力はなかった。それにも関わらず習氏は、民族派の無鉄砲な戦略に乗って、現在の苦境を招いた。

 

(2)「中国の成長率は今年の7-9月(第3四半期)に約30年ぶりの低水準となる6%に低下。弱い内需と厳しい外的情勢を背景に、1012月は6%を割り込むと見込まれている。ゴールドマンはまた、中国が来年インフレ上昇に対してより寛容になり、上限を現在の3%から4%に引き上げる可能性が高いとの見方も示した」

 

今年の7~9月期のGDPは、前年比6.0%成長に止まった。10~12月期は、6%割れになったと見られている。この延長で考えれば、来年のGDPが「6%割れ」が確実な情勢である。それでも、体裁を整えるべく「6%前後」と化粧するのだろう。

 

肝心の中国当局は、来年のGDPについてどう見ているのか。

 

『人民網』(12月7日付)は、「中共中央政治局が会議で2020年の経済活動を分析・検討」と題する記事を掲載した。

 

(3)「現在および今後しばらくの間に、中国経済が安定の中で好転し、長期的に好転するという基本傾向に変わりはない我々は弁証的思考で情勢の発展と化を見ることを堅持し、必勝の自信を強め、外部の圧力を改革深化と開放拡大の強大な原動力に転換するように心がけ、自身の事をしっかりと行うことにエネルギーを集中させていく」

 

下線部分に本音が隠れている。「中国経済が安定の中で好転し、長期的に好転する」としているが一見、何を言っているのかわかりにくい。だが、次のような解釈が可能だ。短期的には底割れを防ぎ、長期的に回復させるというのであろう。しかし、単なる言葉の綾であり、具体策がゼロである。正直に言えば、対策はないのだ。

 

「我々は弁証的思考で情勢の発展と化を見ることを堅持」と言っている。これも訳の分からない「呪文」である。弁証法的な思考とは、「正反合」の論理展開である。正→反→合とは、正の矛楯である反は、統合して合になるというもの。これは、忠実な市場機構の論理を展開すれば実現可能である。中国のように、市場機構を無視した経済機構では実現不可能である。よって、「弁証法による経済矛楯の解決はできない」運命である。習近平氏は、弁証法による「矛楯解決」が自然発生的に実現すると誤解している。この誤解が、空前絶後の過剰債務を生んだ、最大の理由であろう。