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今年のノーベル化学賞受賞3氏の中に、日本でリチウムイオン電池を開発した吉野彰博士が栄誉に輝いた。EV(電気自動車)の核は、リチウムイオン電池である。今後のEV発展のカギは、このリチウムイオン電池の能力拡大とコストダウンが握っている。このほかに「全固体電池」の実用化への期待もかかっている。

 

EV時代は、明日にも出現するという見方がある一方で、これを否定する見解もある。電池の研究開発が、それだけ困難を極めていることを示唆しているのだ。

 

実のところ、EV革命がいつ起きるかは、どれほど賢明な経営者にも分からないという。2025年かもしれないし、2050年かもしれない。いまのところ市場を支配しているのは安いガソリンで走る大型トラックやスポーツタイプ多目的車(SUV)への需要だ。うなるエンジン音とガソリンスタンドの利便性の方が、「EVに移行しなければ世界が溶ける」と警告する規制当局者や環境問題の専門家に勝利を収めている。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月9日付)が報じたもの。

 

中国は、明日にでもEV時代が来ると期待していた組である。中国企業により最速で、世界の自動車業界を支配する野望をちらつかせてきたが、ついにそれを諦めたようである。EV購入者への補助金を、今年6月に打ち切ったからである。この補助金打切りと同時に、EV販売は急落している。中国にEVが育つ需要がまだないことを証明した。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月9日付)は、中国のEV推進、補助金の削減で前途多難」と題する記事を掲載した。

 

中国政府は多くの電気自動車(EV)を走らせたいが、もはや資金を投じる気はないようだ。自動車メーカーが負担を肩代わりすることになりそうだ。

 

(1)「中国のEV販売台数は、購入補助金が削減された6月以降、急激に落ち込んだ。7月~10月の「新エネルギー車」(プラグイン・ハイブリッド車を含む)の販売台数は前年同期に比べて28%減少した。恐らくは補助金削減の前に多くの人が購入を済ませ、それが現在の低迷を増幅させている。だがこれほど大幅な落ち込みは、政府がかなりの費用を負担しない限り、新技術への需要が盛り上がらないことを示す。補助金がなければ、同等の仕様を持つ従来型自動車に比べ、EVの価格は依然として高い」

 

7月~10月の「新エネルギー車」(プラグイン・ハイブリッド車を含む)の販売台数は、前年同期に比べて28%も減少した。消費者が、補助金のつかないEVに魅力を感じない証拠である。EVは、環境には優しいが、マイカーとして保つべき魅力(走行距離・受電時間)が足りないことが理由である。

 

(2)「上海や北京といった中国で最も裕福な都市には、高級EVの購入者がいるだろう。1つにはそれらが(台数制限を目的とする)ナンバープレート割り当ての対象外だからだ。だが自動車販売の低迷に歯止めをかけたい中国当局は、エンジン車に対する制限を緩和し始めている。深圳と広州は6月にナンバープレート発給枠を最大50%引き上げた。他の都市もこれに続くと思われる。補助金削減にさほど反応しないと思われるタクシーや配車サービス会社、政府公用車が、残る需要の大部分を占める可能性がある。公式データはないが、一部の自動車メーカーはこれらがEV販売台数の70%前後を占めると話している。EVが個人の購入者を引きつけるにはまだ長い道のりがある

 

中国当局は、自動車産業へのテコ入れ策として、エンジン車へのナンバープレート発給枠拡大に動いている。これまでのEV優先策の修正である。EV販売の70%は、補助金削減にさほど反応しないタクシー、配車サービス会社、政府公用車が占めていたと見られる。EV需要の主体は、個人でなく前記の層であったのだ。これを考えると、当面のEV需要は一巡している可能性が高い。

 

(3)「それにもかかわらず、中国政府はEV業界を今後も後押しするようだ。今週公表された15カ年開発計画の草案によると、同国は2025年までに新車販売の4台に1台をEVにする考えだ。これは2年前に示されたロードマップより一段と高く、達成困難になりかねない目標だ。現在、EVは市場全体のおよそ5%を占めるにすぎない。恐らく政府がこの目標を達成するために販売補助金を復活させることはないだろう」

 

現状のEV需要の停滞にもかかわらず、中国政府は2025年までのEVロードマップを発表する。補助金が復活しないとすれば、販売計画だけが上滑りする、実効の伴わないものになろう。計画経済の欠陥である。

 

(4)「いま政府が目指すのは単なる台数よりも質の向上だ。市場が縮小した現在、補助金の負担は数年前より増すはずだ。むしろ充電ステーション増設といったインフラ整備に政府は資金を投じるだろう。時間はかかっても、そのほうがEV普及を進めるのに賢明な方法だと思われる。中国のEV市場はなめらかなスタートを切った。だが投資家はこの先ひどい揺れを経験することになりそうだ」

 

中国は、EV補助金をつけても効果がなければ、充電施設の拡大などのインフラ投資が必要になろう。日本では、このインフラ投資も同時に進めている。今後のEV狂騒曲は鎮まると見られる。