テイカカズラ
   

中国は、大法螺を吹くことが特技である。2016年10月、SDR(特別引出権)への昇格時には、IMF(国際通貨基金)を抱き込んで、おいおい資本勘定の規制撤廃と自由変動相場制にすると約束した。今になっても実現せず、空手形のままだ。IMFも「共同正犯」である。当欄は、人民元のSDR化は時期尚早と反対論を打った。当然だが、誰も聞く人はいなかった。

 

GDP世界2位の国家が、資本勘定自由化も自由変動相場制にも移行できないのは、本質的に経済構造が脆弱な結果だ。中国は実体的に、GDP2位の力量を伴っていないことを示している。無理に無理を重ね、延びきった経済である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月11日付)は、「人民元の国際化 データから見る厳しい現実 」と題する記事を掲載した。 

 

中国人民元の影響力は拡大していると言われてきた。人民元はいずれ、世界の基軸通貨としてドルの地位を脅かす存在になるか、最低でも、複数の基軸通貨が存在する新たなシステムの到来を告げると言われてきた。しかし、実際の国際的取引での人民元の利用に関するデータや、過去10年の極めて遅々とした進展状況からは、厳しい現実が見えてくる。

 

(1)「国際決済銀行銀行(BIS)が今週公表したデータは、人民元の国際的役割について悲観的な印象を与える新たな一例となった。世界最大の貿易国としての中国の規模に比して、人民元の影響力は極めて期待外れの状況にある。人民元の外為取引の総額は、中国の貿易総額の約14倍になっている。この倍率はユーロ、円、ドルに比べて小さい。ユーロの同倍率は約40倍となっている。ユーロ圏の貿易の多くがユーロ圏内で行われているにもかかわらずだ。円は160倍、ドルは273倍だ」

 

世界最大貿易国の中国は、人民元の外為取引が貿易総額の14倍と少なく驚きである。これは、中国輸出の半分が外資系企業によるので、外資系企業の通貨で決済していると見られる。円は貿易総額の160倍。ドルは273倍と人民元と格が違うことを見せつけている。これが、国際社会における「実力番付」であろう。

 

(2)「国際通貨基金(IMF)が今年作成したデータによると、ドル建てで行われた貿易の比率で見ると、中国は他の全ての調査対象国を上回った。ブラジルやインドネシアといった新興国でさえ、より多様な通貨が貿易決済に使われている」

 

 

中国では、圧倒的にドル決済が多い。中国は、対米輸出が首位であるから当然の結果であろう。中国は、米国と経済的な結びつきがもっとも強いことを示している。米中貿易戦争が、中国にとって大きな負担であることを物語る。

 

(3)「人民元の熱狂的な信者たちは、まだ影響力は小さいものの、大きくなりつつあると主張するかもしれない。しかし、データはそれについても裏付けをほとんど示していない。人民元のオフショア取引は20164月から20194月の間に25.3%増加した。金額は大きいものの、伸び律はインドルピー、ブラジルレアル、韓国ウォン、ロシアルーブルを下回っている

 

人民元のオフショア取引(外―外)は、2016年4月~19年4月の間で25.3%増に過ぎなかった。この増加率は、ルピー・レアル・ウォン・ルーブルなどを下回った。中国政府が、オフショア取引を抑制してオンショア取引(内―内)への影響を防ぐという意図に他ならない。こうやって人民元相場の投機による急落を回避しているのだ。毎日、薄氷を踏む思いで日々を過ごしているに違いない。

 

(4)「人民元の国際化に関する話は当初こそ熱狂的に報じられたが、その後の続報が少ないため、順調に前進しているかのような印象を受ける。しかし、現実には、多くの取り組みが縮小したり、計画倒れになったりしている。国際的に利用される通貨の強さは、保有者がその通貨で何をできるかにかかっている。人民元の場合、資本勘定は総じて閉鎖的で、資産市場は「超」がつくほど投機的であり、他の通貨と比べて魅力的とは言えない。 そうした状況に変化がないのであれば、人民元の国際的役割をめぐる論議は、絵空事ばかりで実際の進展を伴わない内容と心得ておくべきだ。国際金融での新たな役割に関する人民元の発表があるとしても、話半分で聞いておくべきだろう」

 

中国は、外貨準備高3兆ドル保有に国威をかけている。経済的な意味はゼロだが、発展途上国に対して、「こけおどし」の意味を持たせている。中国が経済的に豊かであるかを見せつける「ショーウインドー」的な役割を担わせているのだ。そのために、資本勘定に規制をかけて自由な移動を抑えている。こう見ると、人民元は「木偶坊」になっていることが分かる。