a0960_006618_m
   


新興国は、いつでも大誤算を演じる。日本が、一時的でも米国に勝てると見て始めた太平洋戦争は、開戦7ヶ月後のミッドウエー海戦の大敗北から連戦連敗の憂き目にあった。最後は、原子爆弾2発の投下によって惨めな戦が終わった。

 

中国は、米国と2018年夏に貿易戦争を始めた。勝てると見ての戦いであったが、無残な敗退で米国の要求をほぼ入れた「第1段階合意」を結ぶ。1月15日に署名する。中国が、最も屈辱条項とすべきは、米中合意が誠実に履行されているかチェックする項目が含まれていることだ。これこそ、日本がミズーリ号米戦艦で署名した「敗戦受託」と同じである。

 

現在の中国経済は、信用危機のまっただ中にある。不動産バブル崩壊に伴う不良債権の累増により、信用創造機能は大きく制約されている。マネーサプライ(M2)は、名目GDP成長率並という極度の資金逼迫状態に追い込まれている。

 

「土地本位制」で高騰する地価上昇に任せ、資金供給してきた咎めが一気に噴出しているのである。日本がバブル経済で酔っていた当時の再現であった。このことから、中国経済の未来は、ほぼ推測が可能である。つまり、中国経済の「再興」はあり得ないということだ。中国が、今回の米中貿易戦争「休戦」に当り、米国の要求を飲まざるを得なかった背景は、すべてここにある。中国が、米国に勝てると錯覚して「応戦」した米中貿易戦争の当時の舞台裏を見ておきたい。

 


『ロイター』(2018年8月8日付)は、「中国トランプ貿易戦争に勝てる理由」と題するコラムを掲載した。

 

(1)「トランプ米大統領が中国との貿易戦争に勝つことを期待できない理由を知りたければ、ネット通販大手アマゾンの中国版とも言えるアリババ・グループ・ホールディングを見れば事足りる。筆者は先月、アリババの最高戦略責任者で、中国のビジネス・金融界最高の知性の1人とされる曽鳴氏と2度突っ込んだ話をする機会を得た。曽氏が明確に指摘したのは、中国にはもはや、米国を本当に必要としている分野はほとんどないということだった。米国製品は必要ないし、米国のアイデアはさらに必要ない。挫折をしても、中国は自分の力で立ち直れることを証明している」

 

私は、このコラムがいかに間違えているか、これまで複数回ブログで取り上げてきた。結論は、すでに出ているが、下線部分に新興国の傲慢さが滲み出ている。「中国にはもはや、米国を本当に必要としている分野はほとんどないということだった。米国製品は必要ないし、米国のアイデアはさらに必要ない」とは、よくぞここまで盲目的な発言をしたものと驚く。

 

これは、アリババの最高戦略責任者の発言だけでない。多くの中国人が傲慢発言をしていた。日本の若手将校が「打倒米英」と絶叫して、開戦要求して軍部の上層部を突き上げていた状況と変らないのだ。これが、新興国共通の奢りである。盲目になって前が見えないのだ。

 

(2)「トランプ政権は、最初から負けるよう計算された競争を、あるいは戦争を、実行するために最善を尽くしているようにみえる。中国株式市場の方が米国株式市場よりも打撃を受けているが、トランプ氏は、米国の方がより長く痛みに耐えることができ、締め付けを強めれば中国政府が交渉に応じると考えているようにみえる。だがそれは、中国人の考え方や、1年前よりも弱含んでいるとはいえ依然として米国の2倍近いペースで拡大している中国経済の底堅さに対する理解を欠いた考えだ。そして、事の重大さやメカニズムをあまり理解していない人間が、待ち受ける大混乱に突入するとき、どこまで事態が悪化しうるかについて考えを巡らせた形跡もない

 

このコラムの筆者は、米紙『ニューヨーク・タイムズ』や米『CBSテレビ』の元特派員である。私は、このコラムを読んだとき、筆者の略歴を見て驚いたのである。これだけの経験を積んだ記者が、中国情報に惑わされたのだ。中国経済がバブルであることの認識が100%欠如していたことの哀れな記事となった。

 

下線部分は、中国経済が完全に「バブル軌道」を暴走していることを掴めなかったことを証明している。日本経済は、「いずれ米国を抜く」と大真面目に考えるエコノミストが存在した。このパラグラフでの主張も、日本で誤診をしたエコノミストと同じである。

 

冷静に米中の経済構造を分析すれば、中国有利などという結論が出るはずがない。米国は世界の覇権国である。世界一の市場の深さ、ドルの基軸通貨、世界一の技術イノベーション国。中国が勝てる相手ではない。そういう基礎分析をすれば、アリババの最高戦略責任者の発言を鵜呑みにすることもなかっただろう。汚名を残してしまった記事である。